1999/1/31
全国社会人大会 決勝
サントリー VS トヨタ自動車

サントリーVSトヨタ自動車
2712前半2128
2TRY2
1GOAL1
0PG3
0DG0
15後半7
2TRY1
1GOAL1
1PG0
0DG0


長谷川(中央大)FW木村(大体大)
坂田(法政大大)金城(大体大)
中村(同志社大)高橋(大体大)
エニス(BC大)椎村(龍谷大)
大久保(法政大)バシャロ(ナドロガ高)
ハッチンソン(ヨーク大)菅原(拓殖大)
清宮(早 大)石井(三好高)
早野(帝京大)ハービー(オタゴ大)
永友(明治大)HB大原(大体大)
伊藤(明治大)広瀬(京産大)
福田(明治大)TB仙波(関東学大)
ウルイナヤウ(MA工科大)朽木(日体大)
青柳(早稲田大)勝野(日体大)
尾関(日体大)オト(大東大)
吉田(専修大)FB曽我部(立命大)




感想
まだ一月というのに、陽射しは春を思わせる暖かさ。陽気に誘われて、観客も多少増えるのでは?と思いましたが、国立競技場はかなり空席が目立ち、社会人大会の決勝にしてはやや寂しい雰囲気でした。

結果はトヨタが一点差で勝利を治め、12年ぶりの優勝に輝きました。ただ、東芝との準決勝を見た感じでは、(トヨタが圧勝するかも・・・)というのが試合前の正直な気持ちで、開始4分、サントリーバックスの甘いディフェンスを突いて、トヨタCTB勝野選手がトライを奪ったときには、一層その思いを強くしたのですが・・・。

15分にサントリーバックス陣のパスミスで、逆にトヨタバックスのディフェンスがずれ、トライを奪われましたが、その後はSO広瀬選手がPGを決めて着実に加点。
32分にロックのバシャロ選手がラフプレーでシンビン。1人少ない時間帯に、サントリーはトヨタ陣22m付近でのスクラムから、SO伊藤選手が素速く右サイドに回り込み、FB吉田選手にパス。吉田選手がスピードでトヨタバックスを振り切り、右隅にトライ。前半は、『21-12』でトヨタリードで折り返し。

ところがひどかったのがトヨタのセットプレー。ロック、プロップ、フッカーとポジションを渡り歩いてきた金城選手だけに致し方ないのかもしれませんが、それにしてもお粗末すぎます。そんなに下手ならば、別のプレーヤをスローワーとして育てれば良いだけのこと。私のとったデータでは、トヨタのマイボールラインアウトは、前後半合わせて計9回ありましたが、そのうちキープできたのは僅か3回。最近のラグビーでは考えられないほどの散々な数字です。

スクラムも、ジャパンのメンバーで構成されたサントリー第一列の強力な押しの前に崩壊。ラインアウト、スクラムともにマイボールを度々奪われたことで、フォワードもペースがつかめなくなり、攻め込んでの反則が目立つようになりました。全体としてみれば、東芝戦を100とすると今日の出来は70点くらいではなかったでしょうか。

もちろん、毎試合毎試合100%のプレーをするのは至難の業でしょうが、今日のトヨタには、日本のラグビーにディフェンス面からの新しいテーゼを創り上げてくれるような試合を期待していただけに、少し残念な気持ちです。闘志がやや空回りしたのでしょうか?

本来ならセットプレーであれだけ完敗すれば、トヨタが敗れてもおかしくない試合でしたが、そこにサントリーがつけ込めなかったのも結局ミスのせい。要所でパスミスやノックオンを犯してしまいました。(もっともそのパスミスがトライに結びついたのは皮肉ですが)
後半30分過ぎ、互いにチャンスを迎えながら、ともにスローフォワードでみすみすふいにしたのにもがっかり。
社会人決勝という、ある意味日本最高峰のプレーを見せるべき試合だけに、物足りなさが残りました。

コイントスに勝ったはずのトヨタが何故青山通り側の陣地を取ったのかも不思議でした。今の時期、三時を過ぎれば一気に陽は傾き、後半になると、スコアボード側はハイパントを上げられた場合、逆光で非常に見づらいのはわかりきったこと。優勝に対する執念ということを考えれば、こういった細かなことまで考慮に入れるべきで、大原主将に聞いてみたい気がします。
もっとも、これらの戯言は、トヨタの東芝戦での戦いぶりがあまりに素晴らしかったために、私の期待が高くなりすぎただけのことなのかもしれません。

ターンオーバーを演出する激しいタックルは健在でしたし、東芝戦ほどではないにしても、最後までフォワードも良く走っていたと思います。

それにしてもこれだけの大舞台。
昨年のように外国(夏を迎えている南半球以外)のトップレフェリーを呼ぶわけにはいかないのでしょうか?
(ラグビー協会も日本経済未曾有の大不況のお陰で財政難なのかもしれません。でも、詳しい事情はわかりませんが、昨年横浜で行われた早稲田対オックスフォードの試合にはあのエド・モリソン氏を招聘しているのですから)
というのも前半のバシャロ選手のシンビン。あれはどう考えても重過ぎる気がします。

あの程度の行為は世界ではもはや常識。(もちろんスタンピングを正当化するという意味ではありません)蹴る方が悪いのではなく、ボールを出させないように寝込むプレーヤーが悪いのだから、足で掻き出されても文句はいえない、というのがグローバルスタンダード。もし国際試合であのプレーをシンビンにしたら、最後にはピッチに誰もいなくなってしまいます。熱くなりつつあったお互いのプレーヤーを戒める意味もあったかもしれませんが、それではスケープゴートにされたバシャロ選手がかわいそう。逆に後半のオト選手のハイタックルを流したのは合点がいきません。

せっかくのワールドカップイヤー。日本選手権には(もう決まっているのでしょうが)グローバルスタンダードをあらためて意識させるようなレフェリーの起用を望みたいと思います。

家でビデオを見ましたが、松尾選手と大八木選手の解説は、とても解説などといえた代物ではありません。松尾氏は、試合の流れに関係なく、単に自分の意見を蕩々と述べているに過ぎないし(時折「うーむ、なるほど」とこちらを唸らせるような発言もありますが、映像とマッチしているとは言い難いところがあります)、大八木選手の方は観客のように試合に見入って騒いでいるだけ。野球の解説者なども最近はひどいのばかりです(最初から最後まで聞いているとうんざりします)が、ラグビー解説者ももっと「喋りそのもの」を勉強した方が良いのではないでしょうか?

かつての名選手というだけで、視聴者に納得してもらえる時代はとうに過ぎ去りました。「名選手必ずしも名監督ならず」と同様、「名選手必ずしも名解説者ならず」というのも自明の理です。これではますますファン減少に拍車をかけてしまいます。

堀越氏、日比野氏、宿沢氏、或いは砂村氏などに続く、もっと論理的でゲームの流れに沿った解説の出来る人材を早急に発掘すべきだと思います。(吉田選手はなかなかイイセンいっています。やはり、まだまだ何かを学ぼうという姿勢のある選手は違います。)

さて、とりあえず(敢えてとりあえずという言葉を使いますが)トヨタが社会人日本一になりました。しかし、今年はこの後に、おそらく社会人4強によって争われるであろう『日本選手権』という名のサバイバルデスマッチが控えています。

昨年の東芝はまだ楽でした。とりあえず、一度馬体(?)を緩めても、高みの見物で、挑戦者の体力が疲弊するのを待ちながら、最後の決勝戦にだけ照準を合わせて、コンディションを作っていけば良かったのですから。ところが、今年は簡単に馬体(ウマと一緒にして御免なさい(^_^;))を緩めるというわけにはいきません。まだ3試合も残っているのです。

トヨタは、現在のコンディションを維持し、高いモチベーションを保ったまま、持ち味であるハードなディフェンスを3試合ともに続けなければなりません。これはかなり難しいことです。

そうなると早稲田大学との一回戦は、現在の社会人と学生の力量差を考えると、やや気の緩んだ大味な試合になる恐れもあります。逆に、そこで気を緩めた場合、その後の試合に変な影響を与えないだろうか?という不安も生まれます。(東日本社会人リーグで優勝を決めた三洋電機が、モチベーションの下がったNECとの最終戦に敗れたあたりから歯車が狂いだし、全国大会に入っても復活できなかったように・・・)。

おそらく二回戦には、関西リーグで死闘の末に引き分けた神戸製鋼が、手ぐすね引いて待ち構えています。そこを乗り越えても、決勝戦には、リベンジを期すサントリーか、三連覇を目指す東芝府中が敢然と立ちはだかるはずです。(社会人大会準決勝でトヨタに敗れた後、「今日は負けたが、日本選手権で優勝すれば三連覇には違いないはずだ」と語った向井監督の言葉がやけに不気味です)。

兎に角、一つでも負けてしまえば、12年振りの『社会人日本一』という栄光も、僅か一ヶ月足らずの天下に終わってしまいます。
果たして新方式の日本選手権は、例年通り『社会人大会の覇者』イコール『日本選手権の覇者』という結末を生み出すのか?それとも東芝、サントリー、或いは神戸製鋼が雪辱を期すことで、社会人大会と日本選手権の並立という問題点が露わになるのか?

折角の感激に水を差すようですが、トヨタにとってはとても勝利の美酒にゆっくりと浸るどころではない厳しいシーズンがまだまだ続きます。
東芝戦では圧倒的な強さを見せつけたトヨタが、二試合続けては同じパフォーマンスを演じきれなかったことで、、今年のシーズンは、「東日本リーグの覇者が全国社会人大会では4強にも残れず、社会人大会の優勝チームは日本選手権の決勝にも残らない」という『日本ラグビー群雄割拠大戦国時代』の幕開けを告げるシーズンになりそうな気がします。
(あっ、また言い切ってしまった・・・)

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