Russian Rengefinder-Lens Experience.

 

ふとしたことで、ロシアカメラの多彩性に惹かれ、色々と楽しんできました。

やがて標準レンズだけでも手許に数本集り

これらは一体どう描写の違いが出るのだろうと思った時に

自分なりのテストをしなくてはいけないと思いました。

そこでキエフ用標準レンズ、また一部にはライカマウントレンズも加えて

極く簡単なテストもどきを行いました。

これはその画像を元に、私見で構成されたテスト結果です


 

  少しでも正確を期するため、撮影後のスキャンは自らは行わず、PHOTO-CDに落とした上で使用した。

  またページ用画像もRGB・ガンマカーブは動かさず、シリーズごとに共通の明るさ・コントラストの調整で作業し

  なるべく元画像の差がでるように留意した

   以下、レンズ名をクリックすると、個別画像が表示されます


1.

Jupiter-3 50mm F1.5

コンタックス・キエフマウント

1950年 KMZ

2.

Sonnar 50mm F1.5

コンタックス・キエフマウント

戦時中?

3.

Jupiter-8 50mm f2.0

コンタックス・キエフマウント

1951年 KMZ

4.

Jupiter-8M 50mm f2.0

コンタックス・キエフマウント

1961年 ARSENAL

5.

Helios-103 53mm f1.8

コンタックス・キエフマウント

1984年 ARSENAL

6.

Induster-50 50mm f3.5

ライカスクリューマウント

1968年 LZOS 沈胴

7.

Induster-50 50mm f3.5

ライカスクリューマウント

1977年 KMZ 黒鏡銅・後期タイプ

8.

Jupiter-8 50mm f2.0

ライカスクリューマウント

1970年頃 KMZ 白鏡銅・回転ヘリコイド



 1. カラーチャート

 

コダック・マクベス 二種類のカラーチャートを撮影した。

使用フィルムはフジRDP |||、光源はCOMETのスタジオ用大型ストロボ 1500W 2灯 を使い

ホワイトアンブレラで回したごく普通の反射原稿撮影ライティングである

↑のチャート画像をクリックすると全体一覧画像が表示されます

結果はご覧の通り、各レンズによってまちまちな色再現となった。

キエフ用レンズの場合は、年代が下るに連れカラーバランスが整っていく印象を受ける。

50年製Jupiter-3は、かなり温調にカブり、Y味の強い上がりとなった

このレンズは補足テストとして、色温度変換フィルターならびにCCフィルターによる補正を試みたが

カラーチャートの再現という点においては、満足する結果は得られなかった。

(補足なのだが、Jupiter-3すべてがこの個体のように透過色が強いY味なのではない
 透過色に色つきの少ない個体も沢山存在する。今回のテスト個体が「非常にY味が濃いもの」
 のサンプルとしてご覧いただきたい)

 

ライカマウントのInduster2本はJupiter系とは違う色再現を示した

グレーのヌケが良く、一般のロシアレンズでは多くY味がかかる傾向に反し

後期のIndusterではむしろ青過ぎるような色再現であった

ゾナーはグレーバランスは良好だが、色乗り=彩度の点で少し薄いような印象を受ける

総合的にみると、Jupiter-8M・Helios-103の2本がまずまずだと言える

この2本では彩度の高さから考えると、やはり一番新しいHeliosがカラー撮影には一番適しているだろう

以外だったのが、沈胴Industerでヌケも良くグレーバランスの面からもなかなかいい色のレンズだと思う

 


 

 2. レンズの透過色

店でレンズを選ぶ場合、試写前ではその色再現の実力まではわからない

ただ、レンズを透かして白色の紙片などを観察した場合には、明らかに透過色の着色がわかることが多い

標準光源のビュアーの上に置いたレンズを、俯瞰で撮影してみたのが下の画像である


↑の全体画像をクリックすると各レンズ別画像が表示されます

様々な透過色の違いが判ると思う、ここでの着色はカラーチャートでの色カブリと密接な関係にある

多分に当たり前だが、透過色に色カブリが判る個体はフィルム原稿にもその色偏向が如実に現れる

ただ、白い壁などが画面の面積で大きく占めるという場合にはすぐに気がつくと思うが

普段の風景撮影などでどこまでこれが影響するかと言えば疑問である

一般の人が、プリントもしくはポジを見た段階でまず気になるのは

色カブリではなくて色のヌケ・彩度の方にあるのではないかと私見する

ましてやオートプリントではどうだろうか?(最近ではかなり向上したらしいが)


   以下の実写撮影では、可能な場所では極力三脚を使用し 
  フィルムはカラーは FUJI RDP III・モノクロはKodak TCN を使用した  

 

 3. 展開する風景 -遠景の細部描写-

カメラを三脚で固定し、レンズの距離環は無限遠に合わせ遠景の細部描写を見た

各レンズ別の画像は中心付近のあずまやとその後の鉄塔付近の拡大画像である

絞り値はF8.0 特に鉄塔とそれに付随する電線を見ていただくと明らかだが

その解像感においては、少しく違いが出た。

 

 

↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

Induster-50 2本は遠景においては細部描写に線が太く、おおまかなところが見られた

遠景向きのレンズではないのだろうか?

この中で一番描写が細緻なのはHeliosだった。遠景の梢まで解像しているあたりは見事なものである。ヌケも好ましい

次にはJupiter-3が続くが、やはりカラーではその色再現性の面で大分損をしている

Jupiter-8系ではライカマウントのものと8Mがほぼ同じくらいの良好な描写を示し、Kiev-Jupiter-8は少し劣る結果になった

ゾナーは精密描写という点ではそこそこだったが、解像していないところでもそのボケ方は端正な感じを受けた

 


 

 4. 斜光による室内 -暗部描写とハイライト部-

同じく三脚固定の上、仕立屋の室内を撮影した。絞り値はF8.0

鉄瓶付近のハイライト部・後の木の壁・手前の縫い物机の描写に差が見られる

 

↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

こういう暗部となると、少しの絞りの違いが大きな差となって現れる

今回の試写で苦労させられたのが、同じF値にあわせてもレンズによってその明るさが違うということだった

特に顕著だったのがHeliosで、同じ絞りでも1/3ぐらい明るいポジが得られた

ただ、これが絞り値の誤差なのか、レンズの透過光量の差なのかは判らない

製造年代が新しくなるに連れ、明るくなっていくような印象を受けた

T値ということでで考えなければならない問題なのだろう

 


 5. 半逆光の近景 -低めのコントラスト-

一般に撮影することの多いような軽いスナップであるが

顕著なコントラストの無い、むしろ平板な被写体であるので

逆に古いレンズでは難しい条件かも知れない。絞り値はF5.6

    

↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

カラーバランスの悪いレンズは、特にシャドー部で顕著になる

その点Heliosはその点一番クリアな写りであった

細緻な感じからいうとJupiter-3と8が良であったが

色+描写のバランスから言うとJupiter-8がここでは良い結果を示した

後のボケ具合もみんな違うのでこれも面白い

この中ではJupiter-8Mが一番平凡な感じを受けるが

これはこれで万能ということであろう

平凡な癖が少ないレンズよいものは安心して使えるということに近い

ゾナーは多分に合焦が甘いが、これは撮影者の責に因るところである

 


 

 6. 近景を活かした描写 -暗部の締まりとボケ-

電燈と日除けの下の暗部、その後の都電のボケを見た。絞り値はF5.6

これも普段シャッターを押す機会が多いような被写体である

確かに描写の違いなどは散見するが、ここではその違いは撮影者の好みで別れることだろう

個別画像は全体を表示したので、見る方なりの評価を示していただきたい

      

  ↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

奥の都電付近のボケの違いが面白い。ゾナーが一番特徴のあるボケ方であろう


 7. 電燈光下の室内 -光源のボケ-

暗い店内の撮影で、背景に現れる光源がどう崩れるかを見た

絞り値はF2.0

 

  ↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

こういう比較も少ないだろうから(余り意味がない、と同義語なのだろう)敢えて撮影してみた

ゾナーが一番芯があるボケ方をする。それでいてハロの中のトーンは柔らかい

Jupiter-8 2本は少しうるさいかとも思う

いちばんふわりと柔らかくボケるのがJupiter-3、これはこれでとても美しい

ボケ方などは100%個人の好みにゆだねられるファクターだが

あえていえばこういうJupiter-3やゾナーなどのレンズは面白い

現在のレンズはもっとコントラストが出てしまうからである

HeliosはゾナーとJupiter-3の中間の様な印象を受ける

 


 8. 逆光の近景 -フレアと周辺のボケ-

ほぼ逆光。近景およそ1m強付近の枝を撮影した。非常に苛酷な条件ではあるが

ボケ味の違いはさらにわかりやすい画像になったと思う。絞り値はF2.0 1/2

 

↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

この5本のレンズはそれぞれ開放F値が1.5-2.0とレンジファインダーの大口径レンズに当たるものである

それならば開放近くで使い、遠近の距離感・空気感を活かして撮影する場合も多いと思う

その意味で、このテストも意味がないものとは思わない

しかもこの場合、直射光ではないにせよ正逆光に近いライトなのでフレア・ハロの問題も出てくると思う

ゾナーは一番その影響を受けてしまった

製造年代が新しいものの方がこれらの影響が少なくコントラストの高い描写が得られた

これは木立の中なので背景にはかなり木々の枝が写っているのだが、そのハロ・ボケの差はかなり面白かった

良い・悪いの問題ではないので、画像をご覧の上で味わっていただきたい

 


 9. 逆光の遠景 -遠景とその空気感-

木立とその背景の空の描写である。絞り値はF8.0

これも細部、木々の解像においては差が見られるがこれを指摘するのは、あまりに本末転倒だろう

ここでそれを語るのは、どんどん写真という意味合いから離れていくような気がする

(単にカメラ+レンズの蒐集という、機械・光学的趣味ならば違うのだろうが)

全体画像を表示するので、各画像のあらわす雰囲気を感じて欲しい

特に、Jupiter-3のかなりY味の強い画像に注目していただきたい

 

↑の全体画像をクリックすると各レンズ画像が表示されます

これに関しては講評はありません、これらの細かな違いを見るより

全体を見て、なにか自分なりの好きこのみを感じて頂ければ幸いです


 

 == 総括 ==

まだまだもっと撮影してみたかったが、テストのため・比較のためだけに写真を撮るということに疑問を感じ

作者の非力さとも相まって、ここまでといたします

これで、年来の疑問は解けたのかというとそうではありませんでした。レンズの奥深さを痛感します

その中で私見ながら少しだけ自分なりに理解しかけたことを記しましょう

Industerはシャープなレンズだと思って使っていたのですが

それは近景・中景であって、遠景は途端に線が太くなる

Kiev-Jupiter-8も、近・中景では抜群なシャープさを示したが、遠景では力を発揮しなかった

得意分野というものが存在しているのだろう

Jupiter-8とJupiter-8Mはやはりその出自からも言える通り、ほぼ似たような描写であること

色再現ではやはり新しいJupiter-8Mのほうが優ったが

今回の個体では古いJupiter-8の方がシャープさでは非常に上でした

しかし万能性、デイリーに使えるレンズとしてはJupiter-8Mのほうが使いやすいでしょう

ゾナーとJupiter-3の関連も今回特に興味がありましたが、私なりにはかなり違いを感じました

設計などは同じものかも知れませんが、ゾナーの癖の無い描写はどこかドイツの上品さを感じさせ

クリアな写りというものを感じました

Jupiter-3の方は、もっと古いレンズがシャープさを増して出てきたような

アンバランスな面白さを感じました

近景から遠景に至るまでの描写は破綻なく大したものです。また、このレンズの一番面白いところは

合焦面はかなりシャープな像を結ぶが、背面のボケの大きさ・柔らかさは他のどのレンズも凌ぐことです

また、HeliosについてはこれまでJupiter-8の発展型(チューンナップ)というおぼろげな認識があったのですが

撮影の結果、むしろJupiter-3の発展型(デチューン)だということを深く信じるようになりました

描写もJupiter-3の方にかなり近いと思います。また色再現では古いJupiter-3・8より遥かに優ります

やはりJupiter-3・HELIOS-103とJupiter-8系とでは違うタイプのレンズだと思います

(HELIOS-103はゾナータイプではなく、ガウスタイプかも知れません=未検証) 

現今のレンズに近い描写を得たいのならばHelios-103は貴重な位置を占めるだろう

(これが安価で流通していること自体、不思議な存在である)

レンズの癖(或いは欠点)、というものをあえて意識して使う。これは思った以上に難しいことで

それには、人からの伝聞・風説や、本の記事からではない、自分の撮影の上での発見による

撮影者なりの自己の機材に対する理解と解釈が、必ず必要だと思うのですが

そういうものがあれば、Jupiter-3系などは一層楽しく使えるでしょう

ただ、作例を作る場合のほかは、レンズの特徴だけを強調するだけの撮影・作画は不毛だとも思います

Jupiter-8系は安心して使えるという点でももっと使われていいものです

ひどい癖がないというのは良いレンズの証です

特にJupiter-8Mはカラーバランスも比較的良好で楽しいレンズです

Industerはテッサー譲りの描写とヌケの良さは感じました

(レンズ構成枚数の少なさによる利点か)

ただ、カラーバランスはJupiter系よりも新しい今のレンズに近いと思います

このレンズテストもどきは、もとより優劣をつけるためのものではなく

レンズによる違いというものを、自分なりに実際の比較画像によって見てみたかったために行ったものです

これらはレンズ個別の結果であり、同じレンズでもその年代などの違いでまた別の結果が現れるでしょう

さらにそのレンズ個体の精度・状態の差があれば、大きな違いのファクターとなるでしょう

ただ、ここではレンズの種類による傾向のような点はいささかでも指摘できたらと思います


このレンズテストは2001年に私が製作したものです

ですがその当時まだこのKIEV-NOTEサイトは立ち上げていませんでしたので

Old Soviet Camera Guide さんのサイトに寄稿させていただきました

しかし寄稿先サイトの休止により、ひさしぶりに自サイトのためにいくつかの訂正と推敲を加え

ここに再掲させていただきました

無断引用は禁じさせていただきます