98/99 Mars CMO Note (1)

1998/99 Mars CMO Note
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from CMO #225


-- 朝方、淺葱色のシュルティス・マイヨル --

 ◆シュルティス・マイヨルの暗色が蒼色系であることはよく知られたことで、特に朝夕には綺麗に淺葱色に見えることが多い。
 ◆昔、大阪の電氣科學館のショウーウィンドーに佐伯恆夫氏のカラースケッチが展示されていて、それには蒼いシュルティス・マイヨルが美事に描かれていたのを憶えている。多分、1950年代のスケッチであったと思うが、佐伯氏の1967年の衝直後24Apr(120゚Ls、ι=7゚)のω=242゚Wのスケッチにもsky blueというコメントがある。文字通り“空色”であろう。この年佐伯氏は寡作であったが、1963年には、9Feb(049゚Ls)ω=240゚Wや15Feb(051゚Ls)ω=241゚Wなどで、grayish blueとかbluish green等の記述が何度か見られる。
 ◆いま調べがつかないが、筆者(Mn)も小接近の頃舊いノンコーティングの15cm屈折で鮮やかな淺葱色の朝方のシュルティス・マイヨルを眺めた經験があり、これは印象深く腦裏に殘っている。機會がある毎にCMOの皆さんには注意するよう呼びかけているが、透明度はある程度必要で、口徑が大きい方が有利なことは言うまでもない。
 ◆蒼いシュルティス・マイヨルについては、アントニアディの記述に依れば、1838年のセッキ師に遡る様だが、最近でもBlue Syrtis Cloudなどと稱えられる。後者については、好く解らない。雲が青いのか、シュルティス・マイヨルが蒼いのか、ときにはシュルティス・マイヨルだけが青いヘボ火星圖が美國で現れる。

 ◆然し、シュルティス・マイヨルが淺葱色に綺麗に見えるのは、例えば朝方なら朝方に限られるのであって、朝霧の存在を無視できない事は言うまでもない。その點をどのように考えるか、その道筋を示して、今年の觀測を參照する。

 ◆その前に、光の分散・屈折について、確認しておく。よく知られているように、白色光はプリズムを通過すると分散する。波長の長い赤色系の光と、波長の短い蒼色の光では屈折率が違っているからである。これは是非覚えて置いて欲しいが、青色光は好く曲げられるのである。長波長の光は障害物を比較的越えられるが、障害物と同程度のスケールの短波長光は散亂され易いのである(間違った解説圖がときどきあるので、注意する)。

 ◆ここでは霧による透過光ではなく、反射光に注目する。模式的に衝の頃の主な反射光の光路を、覆う霧と共に圖1の様に圖示すると判るが、模様SがS1からS2、S3と動くに連れて、覆う雲で反射されてこちらに向かう光の角度α1、α2、α3が淺くなっている。模様Sの反射率によって、強さは異なるが、模様の波長の選擇をしている譯である。この場合、S1の方がより短波長を見ていることになる。更に霧は中に入るほど薄くなるだろうから、S1よりS3の方が透過光が強いであろう。

In fig 1, 2 and 3, the planet is observed from the bottom and the mist surface is dotted.

fig 1 is for the case of opposition,
and the case in fig 2 is before opposition and the Sun light comes from the lhs,
while the case in fig 3 is after opposition and the Sun light is from the rhs.

 ◆同様の考えで、衝前と衝後に、同じ「火星地方時」に於いて、どのように色合いが異なり得るかを見てみる。圖2は衝前、圖3は衝後である。Sはどちらとも夜明けから同じ時刻に取ってある。Sが光を拾う角度が違う爲に、散亂されてわれわれの眼に届くときの主な光の波長が異なる。この模式圖を比較すると、衝前の方が波長が短い。從って、衝後より比較的に蒼い方にずれる筈である。

 ◆衝前、視直徑13.8秒角で、朝方のシュルティス・マイヨルが我々の方に現れたのは三月末から四月に掛けてであった。比較が微妙だから、筆者(Mn)の觀測だけに限るが、例えば、31Mar(ι=19゚)にはω=215゚Wでシュルティス・マイヨルが朝端に現れる。ω=224゚Wでは霧の下にquite light-blue、ω=234゚Wでも然り、ω=244゚Wでもstill bluish、ω=253゚Wでdark blueとなっている。1Apr、3Apr、4Aprも似たような結果である。既に27Marにはω=250゚Wでblue-greenishというコメントがある。いまι=20゚として、ω=235゚Wを採れば、シュルティス・マイヨルの火星時は9:40am程である。
 一方、衝後ι=10゚を採って、9:40amを見ると、ω=265゚W邊りになる。6May(ι=10゚)のω=265゚WのMnの觀測に依れば、シュルティス・マイヨルは既に堂々としていて、色の記述すらない。遡るとω=255゚Wではblue-greenish dark、ω=245゚Wでdensely blue, ω=235゚Wではwhitish blueである。更にω=225゚Wではfaintで矢張りwhitish blueである。ω=216゚Wでも缺があるにも拘わらず、シュルティス・マイヨルは見え始めている。5May、7May、8May、9Mayも同様な觀測である。
 ◆以上の比較は、ω=235゚Wでは衝前にはlight-blueだが、衝後にはwhite-blueになっていることも示している。これは、後者は火星時では可成り早く、朝方で、寧ろ霧を透過している光が多くなっていることを示すであろう。
 ◆1Mayには既にω=239゚Wで、思っていた以上にシュルティス・マイヨルが濃いことの記述がある。
 ◆六月には12June(ι=34゚)邊りで再び衝後の朝方のシュルティス・マイヨルが觀測されたが、この頃は天候の所爲もあるが、蒼いシュルティス・マイヨルは最早見られなかった。同日ω=251゚Wでもシュルティス・マイヨルは極めて濃く見えていた。15July(ι=42゚)にはω=257゚Wで、未だシュルティス・マイヨルは完全に夜が明けていないのだが、既に可成りの濃度を示していた。後半の觀測についてはId氏等も同じ様な結果を出している。

 ◆シュルティス・マイヨルは朝霧の存在によってその淺葱色を變化させるが、それは透過によるよりも散亂によること、衝後の方がより朝方が見えるにも拘わらず、衝前の方がより鮮明な淺葱色が捉えられやすい、ということを説明し、觀測と照合した。尚、原理については、五月の福井の懇談會で解説したことである。

( Mn / 南 )