98/99 Mars CMO Note (5)

1998/99 Mars CMO Note
- 05 -
from CMO #229


-- 1999年五月上旬のウトピア朝雲 --

 ◇1999年五月の上旬、聨休中は天候不順であったが、5日(134゚Ls)から聨續觀測が再開され、丁度ウトピアがこちら側に向いて來ており、朝霧ないし朝雲がウトピアを侵して顕著な氣象現象を起こしているのが見られた。このことについては #218 (25 May 1999) p2513, 2514 (英文はp2519)に報告している。その際、Mnの觀測から概略圖を作ったが、今回これを補充し、比嘉保信(Hg)氏や森田行雄(Mo)氏の畫像を補足する。

 この現象は幸い6Mayに稼働したHSTに依って捕捉され、後日Internetに掲載された。HSTは11:28GMT(ω=203゚W)から12:22GMT(ω=217゚W)まで撮像している。その内、225nmの像と631nmの像、および三色を合成したものをここに掲げる。菫外光では、ウトピアに白雲が濃く現れているのに對し、赤色では雲は殆ど見えず、ウトピアの西への尾が濃く出ている。
 ◇この日、我が方ではNj氏の10:00GMT(ω=182゚W)の觀測から始まっているから、HSTの時間を完全に含んでいる譯である。當時の我々の主な觀測のリストを文末に添附する。季節は134゚Lsから138゚Ls迄の範囲である。

◇この現象は、朝霧の單なる活動ではなく、日ごと消長を變えていたことや、特に内部に入った時に、バックの暗色模様を幾らか變形させることなどで注目を浴びた。例えば6Mayの場合、『天文年鑑』2000年版の口絵(p8)の圖4に見られるような場合があった。然し、ここの比較圖で分かるように、同じω邊りでも、日が變わると様子が違っている。

◇朝雲の様子を少し詳しく見ると、5Mayにはω=187゚Wでウトピアの西端が面に入ってくる邊りで、その先にややdullな朝霧が見られ、ω=197゚Wではthickになるのであるが、7Mayにはω=188゚Wでは未だホンのちょっぴり、ω=195゚Wでもまだ發達していない状態なので、この兩日でも違っている。ところが11Mayになるとウトピアに限定した朝霧もω=148゚W邊りから見られ、ω=177゚Wでは小さく非常に明るくなり、ω=187゚Wではthickで非常に明るいのである。12Mayでもω=168゚Wで既に顕著である。


On 11 May 1999 By MINAMI at LCM=177°W (left) and LCM=187°W (right)

 ◇ところで、ウトピアの先端はΩ=278゚W邊りであって、このとき位相角はι=10゚であったから、ウトピア先端が朝を迎えるのはω=200゚W邊りである。ω=190゚W邊りは丁度先端の東が朝である。

 ◇從って、もう一つ鍵になる角度はω=205゚W邊りで、この角度は5Mayから觀測範囲に含まれ、5Mayでも6Mayでも既に朝雲の塊が見えている。7Mayではやや弱いが、13Mayまで殆ど變わらない。この點は、森田(Mo)氏の畫像によく捉えられている。特に12Mayの像は優れている。Mo氏の像から判断してω=205゚W邊りで輝度を高めている様である。

◇朝霧は縁に喰っ附いていたり、そこで暈やけたり、朝全體の朝霧に含まれたりするのであるが、6Mayはやや珍しい動きがあって、朝霧が東西に細く棚引いて内部に入って來た爲、先述のように、ウトピアの西の尾が濃く見えていた譯であるが、これは7Mayには淡く、8Mayには少し現れ、9Mayには全く見えていない (ほど然程明るくもない雲が圓く覆っている)。12Mayには最早範囲でない。

◇尚、四月の終わりから最接近の1Mayに掛けて、問題の領域は我々からは未だ火星高度が充分でなく稍不鮮明だが、7May(135゚Ls)などω=225゚W邊りで見られた輝度の強い朝霧の塊は、1May (132゚Ls)には目立っていない。Mnはω=228゚Wから觀測、Ak氏にはω=235゚Wの像があり、朝霧は出ていない。從って、上に分析したような霧の顕著な消長は、1May以後今回リストに挙げた範囲で起こったと考えることも出來る。
 尤も、グローバルにはそれ以前、以後の海外の觀測を調べなければならないだろう。系統的な追求はないが、パーカー(DPk)氏の四月下旬の觀測(#217に報告)には顕著な朝霧は見られていないことに注意する。
例えば、角度としては次のような例がある。

20 Apr (127゚Ls) ω=224゚W、240゚W
21 Apr          ω=218゚W、228゚W、241゚W、253゚W
22 Apr          ω=222゚W、226゚W、229゚W
24 Apr          ω=187゚W、192゚W、197゚W、211゚W、220゚W
27 Apr (130゚Ls) ω=156゚W、162゚W、170゚W、179゚W
 これらの角度は、我々が五月に入って出會った角度であるが、然し、DPk氏のこれらの畫像 (どれも優れている) には朝雲の塊などは冩っていない。 (for example; 24 Apr)
 從って、134゚Ls以降著しくなり、また日毎千變萬化し、ウトピアの濃淡も變化したとみて好いであろう。

 ◇最後に、リストの讀み方についてだが、こうした中期間に亙る動向は、日毎火星の低いときから始める (そして、低くなるまで續ける) など、出來るだけ長いスパンで追っかける事が肝心だということである。幅の廣い方が、例えば、可成り前の觀測を可成り後の觀測と比較することが可能なのである。當然、假え、四十分置きであろうと、二三回の觀測では比較にならない、ということである。

 (南)