96/97 report 005

1996/97 Mars Observation Reports

-- #005 -- 16 Dec 1996 - 15 Jan 1997


─ OAA MARS SECTION ─ 南 政 次 ─
♂・・・・・・・・今回まで月一回の報告であるから、既に五ヶ月過ぎたことになる。17 Dec 23h GMTには西矩になったから、略(ホボ)今接近の1/4が過ぎたと言えよう。観測時間 も夜半から薄明まで可能で、明け方には望遠鏡は西に傾く。この一ヶ月16 Dec 1996 から15 Jan 1997迄に火星の視直径は7.1秒角から9.1秒に伸びた。季節は 052゚ Lsから065゚ Lsまで進んだ。前接近の衝は058゚ Ls邊りであった から、當時のピークに相當する。HST(1995)の秀逸な例の三像は063゚ Lsに撮ら れており、状況の比較が出來る。中央緯度は今回25゚ Nからやや降りてきて 24゚ Nになった。二月中旬22.6゚ Nまで降りる。位相角ιは減少し 36゚ から33゚ となった。

♂・・・・・・今回 (16Dec1996〜15Jan1997)は天候が回復して多くの観測を次のように拝受した。


    ADACHI, Makoto 安 達  誠 (Ad)  大津 Otsu, Japan 
          5 Drawings  (30 Dec; 13 Jan)  360×31cm speculum
                                                                           
    AKUTSU, Tomio 阿久津 富夫 (Ak)  栃木・烏山 Karasuyama, Tochigi, Japan            
          13 CCD Images  (20, 30 Dec; 7, 9, 12, 13, 15 Jan) 32cm speculum, Lynxx PC
                                                                           
    ASADA, Hideto 淺田 秀人 (Aa)  京都 Kyoto, Japan                                                         
           6 CCD Images  (20, 30, 31 Dec; 10, 13 Jan)  f/37×31cm speculum, Mutoh CV-04
                                                                           
    HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk)  箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan                                    
         11 Drawings  (20, 23, 24, 29, 30 Dec; 4, 8, 9 Jan) 360×16cm speculum 
                                                                            
    ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan
         19 Drawings  (16, 21, 23, 〜25, 27, 29, 31 Dec; 8, 12 Jan)  530×31cm speculum
                                                                          
    IWASAKI, Tohru 岩 崎  徹 (Iw) 佐賀・諸富 Morodomi, Saga, Japan                             
         14 Drawings  (10, 〜12, 14, 15 Jan)  400×21cm   speculum
                                                                           
    MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn) 福井/大津+ Fukui/Otsu+, Japan                             
        101 Drawings  (23, 24, 26,〜31 Dec; 4, 6, 11, 12, 13+,〜15+ Jan) 
                           340, 400, 480×20cm refractor*/ 320, 400×20cm speculum+

    MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk)  藤澤 Fujisawa, Japan
           40 Drawings  (16, 21,〜24, 26, 30, 31 Dec; 4, 8, 10,〜13, 15 Jan)  370×15cm spec

    NAKAJIMA, Takashi 中 島  孝 (Nj)  福井 Fukui, Japan
          29 Drawings  (23, 24, 28,〜31 Dec; 4, 11 Jan)  340, 400×20cm refractor*

    NARITA, Hiroshi 成 田  廣 (Nr)  川崎 Kawasaki, Japan
          36 Drawings  (16, 17, 20, 21, 24, 27, 〜31 Dec; 3, 4, 6, 〜13 Jan) 400×20cm refr

     SCHMUDE, Richard W, Jr リチャード・シュムード (RSc) ジョージア GA, USA
           1 Drawing  (20 Dec)  250×51cm speculum

                          *福井市自然史博物館天文臺 Fukui City Observatory

♂・・・・・・・16DecにMk氏はLCM=330゚ W(16:40GMT)でマレ・アキダリウムの朝方を、 Id氏はLCM=043゚ W (21:40GMT)でマレ・アキダリウムのお昼を観測(オピールは 明るくない)していて、15Janにはマレ・アキダリウムの夕方が見えていたから、この 一ヶ月で矢張り火星面のほぼ全面を観測したことになる。20Dec(054゚ Ls)には Hk氏がLCM=355゚ Wで観測。北極冠が純白で、丸味を帯びる。21Dec (054゚ Ls)にはMk氏がLCM=314゚ Wからで、夕端のシュルティス・マイヨル とシヌス・サバエウスを把え、四拾分毎にLCM=333゚ Wまで追っている。テュミ アマタ、クリュセの朝霧が顕著である。Id氏の同日LCM=341゚ Wでもクリュセ霧 は強い。Id氏はシヌス・サバエウス、シヌス・メリディアニは完璧に捉える(前者が やや淡い)。23Dec(055゚ Ls)のId氏はLCM=320゚ W、329゚ Wでシュルテ ィス・マイヨルの夕方の端くれからシヌス・サバエウスを見ているが、Mk氏は時間 的に早く、LCM=285゚ Wでシュルティス・マイヨルは南中である。23、24Dec (056゚ Ls)の福井はNj氏とMnの協同観測で、矢張りシュルティス・マイヨルが中 心である。然し、南中時のシュルティス・マイヨルには特別興趣はない。矢張りシュ ルティス・マイヨルが夕方に來てシヌス・サバエウスが現れるところ(23Decから 27Dec迄のId氏の聨續観測は好例)とか、シュルティス・マイヨルの朝方の観測が肝腎 である。シュルティス・マイヨルの朝端から現れるところは福井では27Decから31Dec (059゚ Ls)まで聨日觀察出來た(他に4Jan)。LCM=230゚ Wでは赤フィルター 無しでも確認出來るが、これまでの紀録によると衝前にはLCM=215゚ W〜 220゚ Wで眼に入って來るから次回試みられたい。特に、この時季の朝方のシュ ルティス・マイヨルは淡い淺葱色で、時間的な變化を辿ると好い。一、二月迄は午前 の領域が狭いが(#181p1936の図参照)、衝から衝後は午前の部分が大きく、真に朝の シュルティス・マイヨルが観測されるから留意されたい。今回シュルティス・マイヨ ルだけでなく、南半球の海は青色系統で、ウトピアの濃いチョコレート色と好対照を なしていた。この淡いシュルティス・マイヨルをカラーフィルターで濃く眺めるとい うのは愚の骨頂である。この點で、RedによるCCD像は肉眼に負けるのである。Mk氏は 朝方のシュルティス・マイヨルを何度か狙っていて、30DecLCM=246゚ W、 31DecLCM=246゚ Wで朝霧から出たシュルティス・マイヨルを見ているが、色彩ま では判断できなかったようだ。Id氏は29DecLCM=246゚ W、31DecにはLCM= 239゚ Wでシュルティス・マイヨルを描いているが、ノートには霞が掛かってい るとしている(色彩記述はない)。Hk氏は29DecにLCM=260゚ Wで、30DecにLCM= 254゚ Wで観測しているが稍遅い。Ad氏は30DecにLCM=244゚ W から三回シュ ルティス・マイヨルを見ている。
年末エリュシウムが観測範囲に入ってきたが、然程の明るさはなく、Id氏、Mk氏、 Nj氏及びMnの観測に大差がない。ただ、Mnが29Dec(058゚ Ls)LCM=214゚ Wで 淡い明帯を見たほか、Id氏が31DecLCM=217゚ Wでやや明るく感じている程度であ る。但し、後半11Jan(063゚ Ls)以降朝方でプロポンティスTが分離される中で その西に(リムヘーズも交えて)可成りの明るさを見せた(Nj氏、Mn: Hk氏は既に8、 9Janで同じ様な観測をしている)。他にケブレニアも常態であったが、29Dec (058゚ Ls)の福井の観測ではケブレニア西部にLCM=204゚ Wから四拾分毎十 度毎のチェックで明斑がチラチラと観測され、LCM=272゚ Wでは夕端で可成りの 光斑になった。O56でも明瞭で、色は非白色系であった。然し、翌30Dec、更に31Dec の福井での観測では既に常態に戻った。一方Id氏の29Decの観測ではLCM=246゚ W でケブレニアは明るくない(寧ろエリュシウムが出ている)とし、LCM=275゚ Wで も記述がない。App Diamは7.9秒角で未だ難しい小ささである。30DecにはAk氏がCCD でLCM=230゚ W、246゚ W、267゚ W、274゚ W(後二者はR光)でケブ レニアを撮像しているが、常態であろう。エリュシウムがやや出ている。ここで言う ケブレニアはエリュシウムの北側だけでなく、アエテリアの北側を指しているが、こ の邊りはこれからの留心地域である。アエテリアの暗斑はこの期間福井(數度)だけで なく、Id氏(29Dec)、Ak氏(30Dec)、Aa氏(31Dec)、Mk氏(31Dec)によって捉えられて いる。ノドゥス・アルキオニウスも屡々見える。
一月に入って暫く天候が整わなかったが、10Jan期待のIw氏が観測態勢に入った頃 から再び安定し始めた。懸案のアルバは、Mk氏は今回、10JanLCM=140゚ W(Mk- 043D)でアルバに白味を感じた他は、殆どアルバ観測が揮わなかった由であるが、 11Jan(063゚ Ls)にはIw氏がLCM=106゚ Wでシーイングに恵まれ、正中のアル バを丸く捉え、そのほかオリュムプス・モンスも観ている。12Jan(063゚ Ls)に はアルバは"おとなしい"とし、LCM=116゚ Wでも掴めていない。福井では11Janに 稍良の視相になり、LCM=123゚ W邊りではアルバは明帯の中に見えていたが、LCM =143゚ Wでは夕端近くになって、こぢんまりした明斑として観測された。同時に オリュムプス・モンスも瞥見出來た。夕端のタルシスは北側の方が厚みがある。タル シスとアルバの間から西南に暗帯がカーブして伸びている。これは1967年や1982年等 でのお馴染みの光景であって、これから視直徑が大きくなると更に明確になるので留 意されたい。アルバは當日LCM=152゚ Wでも残っていた。Id氏は同じタルシス、 アルバ、オリュムプス・モンスの三位一體を、暗帯と共に12JanLCM=128゚ Wで既 に正確に捉えている。LCM=119゚ Wではアルバ周邊は帯状である。尚、Id氏はタ ルシスにはカンドルの明るさも加味されていると考えている。Iw氏も12JanLCM= 096゚ Wでカンドル(+オピル)が明るいと紀録している。

 今回もう一つ注目されたのは、クリュセの夕端での振る舞いである。前回の報告の ように(#182p1967)、8Dec(048゚ Ls)から13Dec(051゚ Ls)に掛けて夕端での クリュセに溜まる靄はLCM=060゚ W邊りで確固として来る様子が捉えられている のであるが、今回は13Jan(064゚ Ls)から15Jan(065゚ Ls)に掛けて、この靄 溜まりは寧ろLCM=080゚ W〜090゚ Wで最強になるという風に福井で観測され たことである。靄が十二月に比較して稍上空に移っている可能性がある。Iw氏も 14JanでLCM=088゚ Wで強く、その後弱まる。15JanにはMk氏のLCM=066゚ W〜 085゚ Wの観測があり、同じ傾向を指摘している。Ak氏にも12、15JanにCCDによ る連続観測があり、矢張りLCM=090゚ W台で夕靄は濃いようである。
尚、北極冠は福井の屈折では常に白く輝いて見えるが、Id氏は北極冠上の黄雲以來 かなり氣にしていて鈍く感じているようである。16Decでも鈍いと見ているが、24Dec 頃から輝きが増したように記述している。然し、定まらず、時には褐色がかって見て いるようである。ご自分で、鍍金の所爲か、とも二度ほど注意している。ただ、シュ ムード(RSc)も20Decで北極冠が、多分黄雲の所爲にして、橙白系としているので困る ところである。10JanのIw氏の初観測では印象深く、強く輝くとしている。尤も、こ の頃はId氏にも迷いはないようで、12Janでは明るいとしているが。視直徑のことも ありますしネ。
 [この項を仕上げた段階で、Aa氏の報告がのんびり普通便で届いた。迷惑するが、 體裁は整っていて、像はどれも秀逸である。20DecLCM=339゚ W、LCM= 356゚ Wで北極冠はR光で明確であり、十分明るそうである。30DecLCM= 263゚ Wの夕端も好く描写されている。10JanLCM=135゚ Wには朝方でプロポ ンティスTが分離し、オリュムプス・モンスが出ている。アルバは弱いがR光だけな のは惜しい。他にも注目する點もあるが、規約違反なのでここまで。Aa氏はCMOを読 まないので、暖簾に腕押しであるが。]

♂・・・・・・・・次回観測〆切は一月31日です。朔日には三國宛に速達でお送り下さるよう 心掛けて下さい。尤も、この寒波が長引けば裏日本に限らず観測減少となりそうです が、何れにしてもご一報下さい。Hk氏は表側に移って、晴天に恵まれるようだが、気 温は−10℃とあるから驚きである。対馬暖流に乗って熱帯魚ならぬ錆だらけのタン カーの端くれが漂着するような三國は、ここまでは降りない。どうぞ皆さん風邪にも 氣を付けてご自愛下さい。


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