96/97 report 007

1996/97 Mars Observation Reports -- #007--

1997年二月前半(1 Feb〜15 Feb)の火星面觀測


─ 南 政 次 ─(東亜天文学会火星課)
♂・・・・・・・・火星の視直径は1 Febには10.6秒角であったが、15 Febには12.0秒角にまで 伸び、愈々佳境に入ってきた。季節は072゚Lsから078゚Ls間で進んだ。位相角は 29゚から22゚に落ちて、円くなってきている。中央緯度は殆ど変わらず23゚Nであ った。火星は6 Febに留となった。従って火星の出が一段早くなり、夜半前に観測可能 である。

ADACHI, Makoto  安   達      誠    (Ad)      大津  Otsu, Japan 
   2 Drawings   (9  Feb) 360x 31cm speculum
AKUTSU, Tomio 阿久津 富夫 (Ak) 栃木・烏山 Karasuyama, Tochigi, Japan 6 CCD Images (6, 8, 14 Feb) f/66, 32cm speculum, Lynxx PC
ASADA, Hideto 淺田 秀人 (Aa) 京都 Kyoto, Japan 8 CCD Images (8, 9, 10 12, 13, 14 Feb) f/37, 31cm speculum, Mutoh CV-04
FALSARELLA, Nelson ネルソン・ファルサレッラ (NFl) ブラジル Brasil 6 Drawings (5, 6, 7, 8, 9, 10 Feb) 260x 20cm speculum
HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk) 箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan 11 Drawing (6, 7, 8, 8, 9, 13, 14 Feb) 340x 16cm speculum
ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan 2 Drawings (9 Feb) 530x 31cm speculum
IWASAKI, Tohru 岩 崎 徹 (Iw) 佐賀・諸富 Morodomi, Saga, Japan 16 Drawings (2, 7, 8, 9, 13 Feb) 400x 21cm speculum
LEHMAN, David J デイヴィド・レーマン (DLm) カリフォルニア CA, USA 3 Drawings (8, 9 Nov; 15 Feb) 250,290,300x 25cm speculum
MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn) 福井 Fukui, Japan 49 Drawings (5, 7, 8, 9, 10, 14 Feb) 400,480x 20cm refractor*
MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk) 藤澤/福井+ Fujisawa/Fukui+, Japan 28 Drawings (4, 8+, 9+, 13, 14 Feb) 370x 15cm speculum / 400,480x 20cm refractor*+
NAKAJIMA, Takashi 中 島 孝 (Nj) 福井 Fukui, Japan 22 Drawings (5, 7, 9, 10 14 Feb) 400x 20cm refractor*
NAKANO, Yuhkichi 中野 雄吉 (Nn) 大分 Oh-ita, Japan 2 Drawings (8 Feb) 420x 20cm speculum
NARITA, Hiroshi 成 田 廣 (Nr) 川崎 Kawasaki, Japan 14 Drawings (31 Jan; 4, 6, 8, 12, 13, 14 Feb) 400x 20cm refractor
NISHITA, Noriaki 西田 昭徳 (Ns) 福井 Fukui, Japan 3 CCD Images (8, 9 Feb) 20cm refractor* , Mutoh CV-04
SCHMUDE, Richard W, Jr リチャード・シュムード (RSc) ジョージア GA, USA 2 Drawings (26 Jan; 1 Feb) 170, 300x 15cm speculum
SIEGEL, Elisabeth エリサベト・シーゲル (ESg) デンマーク Malling, Danmark 1 Drawing (1/2 Feb) 270x 20cm Schmidt-Cassegrain
TEICHERT, Gerard ジェラール・タイシェルト (GTc) フランス Hattstatt, France 2 Drawings (6, 7, 8, 10 Feb) 170, 300x 15cm speculum
WARELL, Johan ヨハン・ヴァレッル (JWr) ウップサラ Upsala, Sweden 6 Drawings (20 Dec; 3, 19, 24, 31 Jan; 1 Feb) 330,200x 16cm refr, 290x 45cm spec *福井市自然史博物館天文臺
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二月8、9、10日は、新年号No183で予告したように、OAAの集中合同観測日 であった。連休であるから、それぞれ随意に參加されて、今までに報告を受けたとこ ろでは、必ずしも全國天候に恵まれたわけではないが、國内分だけで、スケッチ・ CCD像は98點に及んだ。潜在的にOAA火星課の実力を示す。然し、内容は好くない。こ ういう機会にそれぞれの方法の拙さや勉強不足が出てしまうのであろう。この點につ いては幾らか具体的に後で触れる。
福井は幸いに三夜とも略快晴に恵まれた。8、9日はMk氏が武者修行で在福し、彼自 身も観測三昧で、そこそこのシーイングの20cm屈折の火星像を満喫したと思う。Ns氏 もCCDで両日參加し、初成果を挙げた。10日は更に気流に恵まれ、Nj氏とMnが四十分 観測を敢行した。Id氏やHg氏の沖縄は連休中天気が不好であったようで、残念であっ た。他にLtE参照。

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0) この半月、日本からはエリュシウム中心で、初旬はシュルティス・マ イヨルの夜明けまで、月半ばにはタルシスの夕暮れからというところであった。

1) エリュシウムの南中は多くの観測者によって捉えられている。エリュシウムやケ ブレニアは明るさを稍増しているようで、掴みやすい。福井では5 Feb (074゚Ls)に南 中を捉え、エリュシウムの西部が帯状に明るいことを見ている (Mn: ω=213゚W)。 ケブレニアも東西に長い明帯である。但し、未だ白雲の活躍は低く、SMITH-SMITHの 意味ではVAではない (CMO #134 p1251 参照)。Iw氏も8 Feb ω=208゚Wでエリュシウムは 通常の明るさとしている (但しIw氏はケブレニアを見逃している)。明部の全体的構図 を筆者はハート型と称しているが、双葉型と言ってもよく、その一方の葉肢はエリュ シウム、他方はケブレニアとなって、際立つ。この光景はMk氏が8 Feb (076゚Ls) ω= 237゚Wや9 Feb ω=223゚W等で正しく捉えている。ケブレニアはプロポンティスTと Uの間にも潜り込む。Mk氏は8 Feb ω=169゚W等で描き出している (藤澤でも13 Feb ω=167゚Wで確認)。

2) プロポンティスTは例えばMk氏は9 Feb ω=169゚Wで濃い暗斑状に描き出して いるが、今回はプレグラからアザニアに掛けて、暗部が強く、プロポンティスTは必ず しも孤立しているという風ではなかった。Iw氏も戸惑っているようであり、Hk氏など には混乱を齎らしているが、元々勉強不足である。プレグラの風景は福井で9 Feb (076゚Ls) ω=174゚Wで好いシーイングのもとで觀察できた (Mn):プレグラは可成 りの濃度で、プロポンティスTより西にエリュシウムの方に幅廣く強く張り出し、前 方はアザニアがケルベルスの方に矢張り可成りの濃度で続いている。この邊りは濃い 茶系統の色をしている。ケルベルスも一時のwashed outではなく好く目立つ。

3) アルバはややシーズンを過ぎたらしいが、オリュムプス・モンスは最盛期でVA の季節であった。Mk氏は8 Feb (076゚Ls)には ω=159゚W、 169゚Wでタルシスと分離 して、オリュムプス・モンスを検出しているが、9 Febの上記 ω=174゚Wではまるで真 っ白な綿毛がボールになって浮かんでいるように、しかも常時見えた。10 Feb (076゚Ls)には更にシーイングが向上し、観測開始の15:10GMT ω=145゚Wから確認 でき、Nj氏とMnが交互に夕端に没するまで追跡できた。 ω=204゚Wで欠け際に來て ると判断した (位相角=25゚)。オリュムプス・モンスより前方には暗帯を挟んでタル シスが欠け際で際立つ。Iw氏は13 Feb ω=153゚W、163゚Wでオリュムプス・モンス をクッキリ見ている。タルシスより印象深いようである。アルバは福井で10 Feb (076゚Ls) ω=165゚W等で明確に丸く確認できたが、地肌の色が出ていて目立たな い。尚、CCDではAa氏の13 Feb (078゚Ls) ω=157゚WのR光でオリュムプス・モンスと ともにアルバが明確である。14 FebにはAk氏の連作があり、 ω=115゚Wではタルシス とともにテムペ、アルバが分離されている(特にInt光)。オリュムプス・モンスも朝 方だが ω=119゚WのB光には幽かにでているようである。全体の構図は唐那・派克 (DPk)氏の1 Febの像 (Internet)が好く強調している。B光での現れ方は、既に# 134p1253の図3の左図にある通りであって、眼視の諸氏はもう一度勉強されたい。Ak 氏のB光はこの構図に近い。

4) 前述のように10 Febの福井は一段とシーイングが向上したのであるが、 ω= 194゚Wの観測時から、北極冠に異常を観ずるようになり、 ω=204゚Wで、北極冠の 朝方の1/4が明るさを落とし、その部分が黄土色に見えることに氣付いた。割れ目が あるという風には見えなかった。Nj氏が二十分後の観測で確認した。この黄土色に変 ずる様子は1986、1988年に南極冠の方で経験したことがあり、これはCMOの何処かに 書いてあるが、その部分の溶解が速いことを意味した。今回の場合、同じ現象か、或 いはダストか即断できないので、Mk氏の方から沖縄の観測を依頼し、その後この ω はヨーロッパに移ったので、16 Febにはヨーロッパ中心宛にMk氏がe-mail速報を出し た。北極冠の確認観測は餘程のシーイングでない限り難しいが、次回を期待したい。 これはNo183で紹介したような所謂亀裂とは関係ないように思う。後でAk氏とAa氏の CCDを調べたところでは、8 FebのA氏: ω=191゚W、Aa氏: ω=200゚WのR光でこれは 確認できるように思う。現在は北極冠はスッポリ何時も見えるわけであるから、 どの角度からもこの影響はでる筈である。

5) シュルティス・マイヨルは今回朝方が観測された。こうした模様の出現は自己 の観測の點検に使えるとともに重要な競合の観測対象でもある。CMOで何度も呼びか けているが、そういう點検を忘れている観測者が多い。筆者は ω=222゚W邊りを選 んでいたが、5 Feb、7 Feb、8 Feb,10 Febで何れもシュルティス・マイヨルの出現の検出 に成功している。Mk氏は8 Febに ω=227゚Wで、9 Febには ω=223゚Wで成功している。 Iw氏は唯一の機会8 Febに ω=217゚Wから横転を嫌って ω=237゚Wまで跳ばしている が、シュルティス・マイヨルの出現は横転像でも確認できるわけだから、挑戦してみ なければいけない。Hk氏も7 Febに機会を逸している。時間の配分の拙さである。15cm 級で ω=220゚Wまで可能だと思う。具体的に#128p1165に模式図がある。お忘れかと しか、言いようがない。Hk氏はウトピアの形も覚束かないのは一体どうなってしまっ たのでしょう。これではウトピアの三角の頂点が像内に入るところ等というのは捉え ようがないであろう。Iw氏も8 Febで ω=208゚Wで突然トンガリが現れるが、同じ轍 を9 Febにもやっていて ω=199゚Wではウトピアの痕跡すらない。これでは同じ ωに よる連続観測は意味がない (発展がない)。実際は9 Febの例で言うと、 ω=174゚Wで 朝方にトンガリは現れている。その他、アエテリアの暗斑が見え始める時機とか、ノ ドゥス・アルキュオニウスの引っかかるω等を各自挑戦して置かなければ、観測 技術は向上しないと思う。次回、次々回を期待したい。尚、衝後は勿論事情が変わる ので更に注意する (その代わり、真性の朝方の様子が判る)。

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* NFl氏は南半球だからスケッチは南北逆さまである。5 Feb (074゚Ls) ω= 070゚W邊りで夕方のクリュセの靄を記述している。B光でより強い由。10 Feb ω= 000゚W邊りで、北極冠内に東西方向の暗線を描いていて、二重になっているとして いる。シーイングは7.5/10。
* DLm氏の15 Febは ω=040゚W邊りで、朝縁にB光で明部があるが中央のクリュセは明 るくない。北極冠は小さいとのコメント。十一月の初観測は予期しなっかたらしいが、 シュルティス・マイヨル邊り。
* RSc氏の1 Febは ω=180゚W邊り。北極冠が鈍い白で対称でないとしている。
* ESgさんのスケッチは1/2 Feb ω=006゚W、マレ・アキダリウムが黒々。夕縁は青白 いが、朝縁の明部は黄色味で、多分地面が照らされているとしている。
* JWr氏の1 Feb ω=071゚Wは、31 Jan ω=056゚Wと共にIntによる朝霧を描いている が、タウマシアだけW25で見え、ヘルナンデスの29 Janの黄雲の追跡としている。然し、 クアッラ氏などのR像には出ていないことは前号 (No184) p1991で述べてある。

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次回観測〆切は28 Feb (GMT)である。翌土曜には速達で送付出來るようにご 準備下さい。次々回は15Mar (GMT)です。



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