96/97 report 017

1996/97 Mars Observation Reports -- #017--

1997年八月後半・九月前半 (16 August〜15 September)の火星面觀測


『火星通信』同人・南 政 次 (Mn)
♂・・・・・・・・火星は夕方薄明中に掴まえないと釣瓶落としに低くなってしまう状況であ る。然し、視直徑は未だ堪えられる大きさである。今回は16Augから15Spt1997迄の觀 測を扱うが、視直徑は16Augで6.0秒角、15Sptで5.5秒角であった。火星の季節はこの 間、165゚Lsから181゚Lsに進捗し、北半球の秋分となっている。中央緯度φは22゚N から15゚Nに落ちてきている。位相角ιは39゚から36゚へ戻っている。
 火星は天秤座にあり、視赤緯は南緯12度から南緯18度へと落ちている。 薄明觀測に遅刻したり、薄雲が二十分彷徨いたりすると致命的である。

♂・・・・・・・・觀測者名簿は英文の部にある。終盤ながら今回は、日本から伊舎堂弘(Id)、 岩崎徹(Iw)、南政次(Mn)、村上昌己(Mn)、中島孝(Nj)の各氏の報告があり、ドイツから 二件の追加報告があった。


日本から

♂・・・・・・・・わが国からは八月中旬ω=140゚W邊りが見えており、期間末は東回りにω= 250゚W邊りまで觀察可能であった。ただ、天候は觀測地によって一様でない(のがよい)。 また藤澤・福井の觀測開始と、那覇の観測終了の間には未だ二時間くらいの幅がある。

 16Augは福井でMnω=133゚W(9:40GMT)、Njω=138゚W -:ソリス・ラクスの影が見え、 南端が明るい。タルシスは時間と共に明白。北極地域は白味のみ。

 17Aug:福井のMnはω=123゚W から、ニロケラスの殘滓が見えクサンテが明亮。 南端も明るい。藤澤のMk氏はω=128゚Wで、夕端と南端の明るさ指摘。

 18Augは福井でMnω=113゚W -、ソリス・ラクスの殘滓が見え、 ニロケラスの延長がクサンテ-タルシスの下部を斜めに走る。北極域は明らかに白い。

 21Aug:福井は稍遅れてω=086゚W(9:50GMT)から、ソリス・ラクスが濃く明確で、 歿直前のマレ・アキダリウムが見えマレオティス・ラクスへの暗帯が見える。 北極域は鈍いが白い。ω=096゚Wでは南端に明部が出てきた。Iw氏はω=101゚W(10:50GMT) で觀測。ソリス・ラクス認める。北極域はぼんやり明るいが北極冠の輝きは判らない。 午後端明るい。

 22AugのIw氏ω=091゚W:ソリス・ラクス邊り暗い。北極冠の輝き不明。

 23AugのIw氏ω=081゚W:北極域のぼんやり領域は稍大きい。マレ・アキダリウムが残る。 テムペは明るくない。

 24Aug:9:20GMT(ω=050゚W)にMk氏が目盛環で導入し觀測、 マレ・アキダリウムの翳りが分かる他、北極域は青白い。 福井はω=052゚W(9:30GMT)から:シヌス・メリディアニとマルガリティフェル・シヌスが見え、 南端からノアキスに掛けて明るい。マレ・アキダリウムは濃い。テムペは明るくない。 北極域は白く明亮。ω=062゚W:マレ・エリュトゥラエウムやアウロラエ・シヌスが濃い。 午後端(テュミアマタ)明るい。朝方タルシスは靄。

 25Aug:Iw氏ω=062゚W(10:50GMT)で觀測、マレ・アキダリウムとリムの間が白く明るい。 アルギュレも白く明るい。北極域はぼんやり明るい。朝方タルシスほんのりと明るい。

 26Augは空の状態悪く、Mnω=047゚W、Iw氏ω=052゚Wの觀測:北極域白く、 午後端も明るい。

 27Aug:福井ではMnω=023゚W(9:30GMT)、Njω=028゚W -、但しシーイング悪し。 午後端は大きく明るい(Y48)。南端アルギュレも明白(O59)。北極域は朝方が靄。 マレ・アキダリウム見ゆ。

 28Aug:Nj氏ω=018゚W -、シヌス・メリディアニ濃く、アルギュレ明るい。 北極域白っぽい。

 30Aug:Mnω=354゚W(9:30GMT) -、北極冠白く、南端ではアルギュレ(more)からノアキス(less) に掛けて明るい。午後端は明るい。クリュセには朝霧。Iw氏ω=013゚W(10:50GMT)、 アルギュレの方が北極域より明るい。北極域の朝方に靄。シヌス・メリディアニは明確だが、 マレ・アキダリウムは未だ惚け氣味。Id氏ω=021゚W(11: 20GMT)だが、暗色模様が特定できない。午後端明るい。北極冠は捉えられるようで、 “しっかりした大きさ”と判断している。

 [ 福井では11:20GMTには火星は既に觀測不可だが、この日は11:30GMTころ木星の大赤斑が南中して、 べらぼうに明るい二つの永續白斑が赤斑の眞上に丁度並んで鎮座して見事であった。 十二日後の同時刻にはずれて、形悪くなってしまった。]

 31Aug:Iw氏ω=003゚W、南端が北端よりも明るい。

 01Spt:Mk氏ω=332゚W(9:30GMT)、シュルティス・マイヨルの翳りが見え、 ヘッラスも少し出ているか。北極域は稍大きく感じる。Id氏ω=351゚W(10:40GMT)の觀測、 シヌス・メリディアニ明確だが、稍淡いか。シュルティス・マイヨルは濃く見え、 リビュア雲明るい。クリュセ朝霧。北極冠は明瞭ではないが、未だ充分に明るいと判断。 Iw氏ω=354゚W(10:50GMT)、透明度が好く、北極域が明るい。南端の明部はアルギュレ寄り。 シュルティス・マイヨルははっきりと残っている。

 02Spt:Mnω=322゚W(9:20GMT)など、夕方のシュルティス・マイヨルは非常に鮮やかだが、 シヌス・サバエウスは稍惚けている(但しシヌス・メリディアニは明確)。 ヘッラスは午後端で少々明るい程度。ω=332゚Wではリビュア雲に明度は負ける。Iw氏 ω=344゚W、北極域は白く明るい。ヘッラスが未だ残っている。シヌス・メリディアニは朝方で淡い。

 [ この日足羽山の天文臺では30℃であった。以後、藤澤(Mk)、福井(Nj)、 大津(Mn)ともに天候が優れず、ヘッラスの觀測はこの時期重要であったが、 その南中の觀測が叶わなかった。救いは7Spt、8Spt等でId氏、Iw氏の觀測があることである。]

 07Spt:Id氏ω=293゚W、シュルティス・マイヨルは南中だが、ヘッラスは朝方で (ι=37゚)、マレ・セルペンティスにかけて稍黄色っぽく明るいとあるから、然程明るくはないようである。177゚Lsでそろそろ末期か。十月の觀測を期待したい。午後縁は明るくリビュアにかけて稍黄色い。ノドゥス・アルキュオニウスは確認されない。 ウトピアはぼんやり。北極域は青白い。

 08Spt:Iw氏ω=285゚W、北極冠域より、ヘッラス(白色)の明度の方が強い。ウトピアが認められない。

 09Spt:Id氏ω=276゚Wではヘッラスは明るいが、濁っているようである。午後端北側は明帯。

 10Spt:福井ではMnω=244゚W(9:20GMT)、Njω=249゚W -- 、ヘッラスは未だであるが、南端(エリダニア)は可成り明るく、北極域の白さに比べて黄色味がある。ウトピアはマレ・キムメリウムに比べて可成り淡いが明確。北極域の朝方は靄っている。 午後端は明るい。10:40GMT迄が精一杯。Id氏はω=266゚W(10:50GMT)で觀測(δは5.5秒角となり、スケッチ円は直徑2.5cmに落ちる):シュルティス・マイヨルは極朝方、南端は明るい。

 11Spt:福井ではMnω=234゚W(9:20GMT)、244゚W、Njω=249゚W等。南端は相変わらず明るい(白色系)。マレ・キムメリウムの午後は可成り濃い。ウトピアは翳っていてその朝方は靄。午後縁は明るい。Mk氏 ω=239゚W(9:40GMT)で矢張り南端(朝方)に明部を觀測。北極域明るく、午後端も北半球側が明亮。

 12Spt:Mnω=224゚W(9:20GMT) -、南端は明るいが鈍い。北極域は小さく圓く白い。 シュルティス・マイヨルに先行する朝靄が見える。Iw氏ω=236゚W(10:10GMT)、 南端に白い明るさ。エリュシウム不明。Id氏ω=247゚W及びω=256゚W(11:30GMT): 颱風19號前の好シーイングで、ヘスペリアがクッキリと切れる。マレ・キムメリウム午後端で濃い。 南端(エリダニア)は明るいが、黄色味系としている。 シュルティス・マイヨルに先行する霞は次第に濃くなっているようだが、 シュルティス・マイヨルは觀測終了時でも明確ではないようである。エリュシウムは認められない。 北極冠は不明確だが、“しっかりと明るく捉えられる”。季節は180゚Lsとなった。

♂・・・・・・・・以上、今回は季節的に北極冠とヘッラス等の明部についての觀測が主題であったが、 北極冠は視直徑や高度の所爲で“輝き”が觀測されなかった。 これは來期の課題であるが、リマ・ボレアリスと同緯度の暗帯内の輝きが鈍っている所爲であろう。 尚、期間中、以下でも触れるように、サーヴェイヤーが途上20Aug(167゚Ls)に火星面を撮影しているが、 朝方の北極冠は見えている。カスマ・ボレアレの存在は明確で、オリュムピアや白いコロレフ (CMO#189p2076参照----#177p1872の圖に明白)火口は綺麗に冩っているので、晴れているとみてよい。 ただ本體殘滓の輝度は落ちているようである。 一方、ヘッラスであるが、重要な時期に天候が不順であったのは残念である。#134p1251の解説圖に依ると、 急激にB光での明るさを落とす時期である。ただ、今回前半アルギュレが觀測されたほか、 後半エリダニア邊りが相當に明るいことが確認されたことなどは収穫であった。


マーズ・グローバル・サヴェイヤーからの観察 

♂・・・・・・・・マーズ・グローバル・サヴェイヤー(MGS)は 20Aug(167゚Ls)に途上で撮像し、三像発表されている(以下CMO-Clicks参照)。

 先ず (ω=82゚W、φ=24゚N)の火星であるが、火星は朝方から見られていて半月状である。 多分、カメラは狭角で赤色光で撮られている。コントラストは好くないが、 アウロラエ・シヌスの邊りのディテールは素晴らしく、 例のワッレス・マリネリスの黄塵も残っているようである。 北極冠ではカスマ・ボレアレが見える。朝方にはアスクレアウス・モンスが黒斑點として見えているし、 ガンゲスの描写も肉眼に近い。
 次は(ω=217゚W、φ=24゚N)で撮られている。ケルベルスの邊りの翳りが肉眼に近く、 エリュシウムの明部は西に偏って見える。朝日によるエリュシウム・モンスの影が出ている。 北極冠では前述のようにオリュムピアが明確である。
 最後に、(ω=307゚W、φ=24゚N)で撮っている。シュルティス・マイヨルが印象深く、 ノドゥス・アルキュオニウスも明確、ウトピアの北奥深くが好く描写さている。 ヘッラスの方はB光がほしいところである。 然しキャプションには雲が南極からヘッラス盆地を満たすとある。


追加報告から

 CHs氏の觀測は3Marω=045゚Wでマレ・アキダリウムがラフに描かれているが、これでは觀測と言えない。

 HSt氏の觀測はANk氏からemailで送られてきたもので、Mk氏がdecodeの勞をとった:
 21Aprはω=333゚Wで、ヘッラス明るい。北極冠小さく(以下この觀測者の北極冠は小さすぎる)、 朝方に靄。
 24Aprω=314゚W、シュルティス・マイヨルが最も濃い模様だが、ウトピアも出ている。 北極冠の周りに霜?とある。
 25Aprω=282゚W(青)、ヘッラスが極冠みたいとある。朝方に明部。
 26Aprω=273゚W(青)、北極冠鈍く、ヘッラスの方に明るい斑点。アエテリア暗斑。
 01Mayω=221゚W(青と橙)、オリュムピアが出ているかも知れない。エリュシウムは見えているようだが覚束かない。
 10Mayω=141゚W(青)、中央に暗斑、マレオティス・ラクスか。
 13Mayω=110゚W(青)、EBCが見えるようだが、暗色模様は好く固定されない。
 15Mayω=082゚W、マレ・アキダリウムが夕方に横たわっている。テムペが明るい。
 19Mayω=049゚W(Int&青)マレ・アキダリウムが中央でたなびいてクリュセなどEBCか。
 24Mayω=002゚W(青など)、シヌス・メリディアニの配置など間違っている。
 30Mayω=306゚W(橙など)、再びシュルティス・マイヨル。ヘッラスは極冠のように明るいとしているが、北極冠の周りの描写は好くない。

♂・・・・・・・・森田行雄(Mo)氏からLtEのように久しぶりに聨絡があった。 依然多忙の由だがお元気のようで何よりであった。CCD觀測はDec1996からJly1997まで、 FDで130枚に像を納めているようである。添付いただいたCCD像の内、24Mar(095゚Ls)ω=116゚W や11Aprω=333゚W等は見事である。最後の撮像は21Jly(δ=6.7")だそうで、添付されたω=046゚W にはマレ・アキダリウムなどが明確である。『天界』に起艸予定の総合報告等はMo氏の報告が届いて拝見してからにしようと思う。


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