「酒場にて」

 ……ほぅ。
 この煤けた町に似合わぬ小綺麗な身成じゃな。

 どうした。酒場に来たなら酒は飲むものだろう。

 ……これが水じゃと?そう思うなら一息に空けてみい。

 はははっ!!
 いやはや、お前さんほど盛大に引っかかった客は久しぶりじゃ。
 色が付いておらぬ故、水じゃと思うたのだろう?異国にはこういう酒もあるのじゃよ。
 ひひ、まだ笑いがおさまらぬわい。

 楽しませ賃じゃ、その一杯は儂が奢るよ。
 で、こんな潰れかけの町に、お前さんのような若い剣士が何しに来た?
 よもや、昔の噂に釣られてきたわけではあるまいな?

 なんじゃ、知らんのか?この町が昔何と呼ばれておったか……

 勘弁してくれ、古ぼけた話じゃ。語り草にもならんわい。

 ……ほお……面白い話だの。
 儂も噂には聞いたことがあるがな。
 しかし、もうラグナードの迷宮には人の手など入らぬようになって久しいぞ。
 第一、人の身で生きながらに地獄へ行こうなど正気の沙汰とは思えぬがな。

 ふむ。お前さんの親父どのが……。
 それで、戻ってきたのか?なんと。そういうのはな、お前さんよ、悪いが人間とは言わぬぞ。
 ああ言えばこう言いおる。人間ではなかった?ならお前さんはなんじゃ?化け物の子かえ?……母御と添う前に人に戻ったか。まあよい。で、地獄に何用あって来た?

 それは気の毒にの。じゃが、地獄に堕ちた以上は詮方あるまい。

 ……悪いことは言わん。止めい。それは狂気というものぞ。地獄の罪人を地上へ引きずり出してどうなるというのじゃ。

 母御がの……じゃがあえて言うぞ、とっととおうちへ帰れ、この青二才。
 儂は地獄にまで降りたことはないが、かつて人の手が加わっていた頃でさえ、あの迷宮は修羅の闇であったよ。ふん、風の剣だかなんだか知らぬが、そんな田舎剣法で生き残れる迷宮ではないわ。

 ……仕方あるまい。万が一にも無事還ってきたなら、この襤褸酒場の二階にでも泊まるが良かろう。それと……そのおもちゃの剣では迷宮に入って一分と保つまい。儂が昔使っておった業物を貸してやる。ちとくせがあるが、この程度使えぬようでは覚束ぬぞ。

なんじゃもう行くのか。気ぜわしい奴め。いいか、死ぬなら出来るだけ深いところで死んでこい!
 ……冗談の分からん奴だの。とっとと行け、この薄ら阿呆。

 

 ……
 そうか。
 あの外道にも、想う女もあり、愛し子もあり……
 姫。貴女様の命を絶った敵奴の息子に、儂は……貴女を守ると誓うた刀を貸してやりましたぞ。
 よろしゅう……ござりましたかの……?

(了)
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 うーん。酒場の主と客……分かります……よね?誰だか。
 私のプレイしたゲーム数が少ないのが一番の理由でしょうが、私は未だにこの、「闘神都市II」以上に深い感動を覚えるゲームに、出会ったことがありません。
 はて、こんなものでその思いを表し得たものやらどうやら。
 まずは、乾杯。


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