「バルバドの廃屋で見つかった手記」

編注 本文中において「私」と名乗る人物については、文中のダルクと言う名のほかに分かっていることはない。全般に破損が激しく、明らかにまとまったページが欠落している箇所も多々見受けられる。前半部においては比較的理性的な文章が続いているが、それが後半の狂気的な内容にどのようにつながっていったのか、推論の域を出ない。

 

 きょう、ぼくは12さいになりました。12さいになったので、おとうさんとおかあさんがおとなのはなしをしてくれました。ぼくの、ずっとずっとおじいちゃんは、おおむかしのくにの「しんかん」をしていたのだそうです。そして、そのずっとずっとおじいちゃんは、「わざわい」をさけるためにくにをそらへのぼらせたんだそうです。その「げんいん」が、「まほうのぎん」っていう、ふしぎなぎんで、それはエステリアのとってもふかいところにうまっているのだそうです。
 そのぎんをほりだしたら、また「わざわい」がおこるのだそうです。もしそうなったらたいへんだなあ。だって、ぼくにはエステリアをそらにうかべるなんて、きっとできないもん。

 

 父さんと母さんがしんけんな顔で話し合っていた。どうも、「まほうの銀」が出てきたらしい。でも、みんなはただの質のいい銀としか思ってないみたいだ。
 父さんと母さんは、みんなに警告するつもりらしい。……大丈夫だろうか。

 

 父さんが死んだ。母さんが死んだ。暴徒どもがよってたかって殺しやがった。俺には見ていることしか……できなかった!!畜生。畜生!ちくしょう!!チクショォォォォッ!!

 

(編注 この次の一文はあとから隙間に挿入されている)
私はどうかしていたのかもしれない。……今となってはだからどうなるものでもないが。

……思議な仮面だ。以前記したようにこれを付けるだけでありとあらゆる魔法の知識が自分のものになる。それだけではない。このごろ、どうも遙か古代のそれとおぼしい情景が時折脳裏を横切る。これは歴史の光景なのか?わたしは過去を見ているのか?

 

 ついに見つけた。あの忌々しい「魔法の銀」を真の魔法金属として利用する方法だ。イース。天空に逃れた愚か者たちの国。700年の時を経て、地上に残された我々は見事に同じ轍を踏んだ。ならば魔物も蘇るがよい。そして愚か者どもをこの地上から消し去れ。お前たちの愚行の報いには死と絶望こそふさわしい。

 

 

 イースだ。俺はイースへ行かねばならぬ。そしてイースを掌握しこの世界を手にするのだ。それこそがジークの望み。……ジークとは誰だ?俺か?いや、俺はダルクだ。いや、俺はジークであったろうか?セルセタ?太陽の仮面?俺は見たことがない、だが見ている!これは月の仮面──何故俺は知っているのだ?

 

 

 

 死に際の占い師の女の言葉が耳について離れぬ。
「ジーク=ファクト、過去の亡霊め、なぜその男をむしばむ……」
 愚か者。私はむしばまれてなどいない。
 ようやく分かってきた。あの仮面はただの知識を秘めた仮面などではない。私の遠い昔の先祖筋が遺した怨念の産物だったのだ。
 勃興期のロムン帝国に取り入りセルセタの古代文明をおのがものにせんとした奴。それもこれもイースのためだ。奴が本当に欲しかったのはイースなのだ。
 今では私も奴の気持ちが分かる。どうしてこれを忌々しいなどと思ったのだろう?美しいではないか……特に人の赤い血にまみれて鈍く輝くこの銀の、クレリアのきらめきよ。
 奴はこの月の仮面に己の怨念を封じて待っていたのだ。己の依り代たるべき人物……つまりこの私をだ。私の内にジークが融けて行く。私は昔のダルクではないやもしれん、だがそれがどうした?人は変わるのだ。私の場合そのきっかけが昔の魔導師が遺した仮面だったと言うだけのことだ。私は自ら望んでジークを受け入れた。
 家中捜したが目当ての「トバの章」は見あたらぬ。近頃ちょこまかとうるさい赤毛の剣士とかに先に渡したのか……まあいい。最悪「ファクトの章」は私自身が持っている。手下の魔物が奴を殺すことができれば奴の持っている残りの章は回収できるのだ。焦ることはない。
 偽りの平穏に眠る古代国家よ。もうすぐこの私がその眠りを覚ましにゆこうぞ。そして歴史に私の名を刻み込んでやるのだ。

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 えー、蛇足その1です。
 PC版「イース・エターナル」とPCE版「イースIV・The Dawn of Ys」を融合すべく書いた代物です。だってPCEでは「ジーク=ダルク」なんだもん(^^;あ、サラが生きてるとかいうのもあったっけ……。
 体裁とタイトルはクトゥルー神話から借りましたが、とてもあんな雰囲気には仕上がらないですね。つるかめつるかめ。


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