「祐一さん、雪下ろしを手伝っていただけませんか?」
と秋子さんに頼まれて、俺は生まれて初めての雪下ろしに挑むことになった。
7年前は流石にお客さん扱いで、雪下ろしはしなかったのだ。
物置からがたごと、とシャベルを引っぱり出し、秋子さんと俺が一本ずつ持って……
そこで気付いた。
「名雪はどうしたんです?」
「あの子は先に屋根に上がってますよ」
あの寝ぼすけ大将が、珍しいことがあったものだ。
……明日は槍だな。猫かも知れない。
「日が高くなると半端に融けて凍ったりしますから、手早くいきましょう」
俺がぼーっとしている間に秋子さんはどんどん梯子を登って行く。慌ててその後を追った俺は、
「……」
「……どーするんです、これ」
秋子さんと「それ」を見て硬直する羽目になった。
「くー」
雪の上に大の字で幸せそうに寝ている名雪。寒くないのか?こいつは。
「お母さん。娘さんをこのまま落としていいですか?」
「ダメよ、従姉妹を粗末にしちゃ」
「……お約束どうもありがとうございました」
「いいえ。でも、まず名雪から降ろしてあげて下さいな」
「しょうがありませんね」
えっこらせ、と背中に……名雪を背負おうとして、
「お゛も゛い゛っ??!!」
俺は危うく足を滑らせかけた。
目一杯の厚着がたっぷりと水を吸っているのだ。重いに決まっている。
「うぬぬ、こんなもんこんなもんこんなもんっ」
一枚一枚名雪の上着をひっぺがす。
「くー……くちっ」
寝ながらくしゃみをする名雪。そらみろ、風邪引いたな。
「……さむい」
とりあえずセーターが出てきたところで手を止めて、改めて背中に……
「くぬっ、まだ重いっ」
「……ゆーいち、あっためて」
……なぬ?
背中から、とっても困った言葉が聞こえた気がするのだが……。
「祐一さん?」
秋子さんの呼びかけに、俺はなぜかコンマ一秒で振り返ってしまった。
「は、はい?」
秋子さんはにっこりと、
「式は挙げてやって下さいね。駆け落ちは却下ですから」
「……はい」
いつかはまぁばれると思ってはいたが……
「こんなんありか?」
「うにゅ……ゆーいちの……せなか……あったかいおー」
こいつ、寝てんのか起きてんのか……
きゅ、と条件反射でしがみついてくる名雪を支えてやりながら、俺はゆっくりと梯子を降りた。
結局昼過ぎまで掛かって雪下ろしは終わった。
「くちっ……ねぇ、祐一、お母さんにおめでとうって言われたんだけど……心当たりある?」
太平楽な病人に、
「とっとと風邪治せ」
俺はそれだけ言って、毛布をかけ直してやった。
「うん……」
目を閉じた名雪の髪を撫でてやりながら。
いずれ一秒で了承されそうな申し入れの言葉を、それでも俺は何度も何度も練り直すのだった。
(了)
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雪下ろしと名雪を引っかけて「名雪下ろし」ってだけの一発ネタが……
なんでこうなったんでしょうね(爆
名雪は寝ぼけてると自爆しますから……