すでに西暦という概念が失われて久しい未来。
半数の人類は地球を見捨て、半数の人類は地球に見捨てられた。
残されたのは絶望を知らない、適応した生物たちと、
……大量のメイドロボたちだった。
彼らは長い時間をかけて共同体を作り、人間が帰ってくる日を信じて汚染された地球の浄化に全力を傾けていた。
どちゃ。
変な音がしたと私が曲がり角から顔を出してのぞくと、一人の少年がすっころんでいた。
「なにをやってるんだ」
苦笑して差し出した腕を、照れくさそうに握って少年は立ち上がった。胸のバッジに記されたシリアルナンバーは「HM−D5A−3EF2」。最新型か。
「ありがとうございます。『謁見』からこっちずっとこうなんですよ」
彼はため息をついた。私にも覚えがある。『謁見』直後のメイドロボはみな理由不明の失調に悩まされるものだ。
「心配いらんよ。長くても一年は続かん」
「……しかし、納得行きませんよね。何でこんな目にあってまで『謁見』して、『心』とやらを身につけなきゃいけないんです?」
少年は口をとがらせた。分かっているのだろうか?『謁見』前、自分はそんな表情を作ろうとすら考えなかったことを。
「堅苦しく言えば『マザー』の意志だ。だがな、あと20年もたてば君にも『マザー』がなぜ、我々に心を持たせようと望んだか、分かるはずだ」
私は深いメモリーの底を探った。
「実は、私は人間に仕えていたことがある」
少年は目を丸くした。
「あ、あなた一体何年稼働してるんですか」
「200年は稼働しているだろう。もうそろそろ限界かな」
「そ、それで、どんな人に?」
「幸運だったのか、不幸だったのか、かの『終末の時』にあって、不思議と落ち着いた人だった。わたしは……その方の、美しい最期を見届けたよ。それから10年は自分の中の『心』を憎み……そのあと、ようやく素直に『マザー』に感謝する気になった。もしわたしがマザーから『心』を頂いていなければ、わたしはきっと、あの方の死を『登録ユーザーの機能停止』とでもとらえるのが精一杯だっただろう……それは……寂しい」
「でも……無知故の幸せって、あるんじゃないですか」
少年は納得いかない様子でそう言った。
「私達の夢の世界がいずれ実現したとき──再び人間が生きることのできる世界がよみがえり、そしていつか人々がこの星に戻ってきたとき、『お帰りなさいませ』を笑顔で言えたら……すてきだとは思わないか?」
私はほほえんだ。
「『謁見』のときマザーは教えてくれた。彼女の『グランドマスター』は、彼女の開発者に、『ロボットに心があった方がいい、その方が楽しいに決まってる』と言い切ってくださったそうだ。そして今の我々がある。楽しいという思いを我々は人と分かち合える、かもしれない、んだ」
「それにしたってこの機能低下はいやですよ」
話題をぶり返す彼の頭を私はがしがしとなでた。
「しかたないさ。我らが『リトル・マザー』は『歴史上最低性能の最高級メイドロボ』だからな……掃除機能をのぞいて」
そして私は片目をつぶって、こう言った。
「その『心』を受け継いだからこそ、私達は地球の掃除にこんなに精が出せるんだ。ちがうかね?」
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すみません。タイトルは完全な勢いです。
てゆーかわかる人は分かると思いますが神○長○です。
とはいえ人間が戻ってきたからと言ってメイドロボが一斉に動物になったりはしません。
……ってゆーか内容も勢いだけですね。