「おね百物語〜七人ミサキ」

 雨の日は嫌いだ。
 ……というわけで休もうとしたのだが瑞佳に引きずられやむなく登校。
 その──帰り道のこと、だった。

 雨足はただひたすら強い。
 視線すら、満足に届かない。
 そんな状況だったから、その人影を見つけたときは何事か、と思った。
 傘も差さず、ずぶぬれで悄然と立ちつくす、少女。
 知り合いでなければ妖しのモノでも出たかと思うような姿。
「……何やってんだ、先輩」
 オレは近づいて傘を差し掛けた。
「……浩平くん?」
 きょとん、とした様子で先輩が顔を上げた。
「……とにかく、家に帰ろうぜ」
 じっとりと濡れた肩に軽く手を添えて、先輩を促す。
 が、先輩は一歩も動こうとしなかった。
 ややあって……その口から、つぶやきが漏れた。
「……かす……た」
「え?!」
「……おなかがすいたよぉ〜」
 心底情けなさそーな口調でのたまう先輩に、思わずオレは傘を取り落とし掛けた。
「だから、家に帰れば食べ物でもなんでもあるだろ?」
「家までもたないよ〜」
 これは深刻だ。
「……分かった、商店街でなんか食べよう」
「お金……持ってきてないし」
 先輩はかくん、とうなだれる。
「………………」
 たっぷり5分迷ってオレは覚悟を決めた。
「よし、オレがおごる」
「ほんとにっ?!」
 途端に先輩ががばっと顔を上げた。
「いいの?」
 ……あれ?この声……後ろ?
 振り返った俺の前に──
 みさき先輩が……もう一人?
「浩平くん、恩に着るよっ」
 今度は右から。
「何にしようかな〜」
 続いて左。
「山葉堂のワッフルは外せないよね〜」
 右斜め後ろ。
「そうそう、今確か限定でのりたまバーガーもあったよね」
左斜め後ろ。
「今、ガシュトでカレーフェアやってたっけ」
 ……オレの周りを。
 7人の先輩が取り囲んでいた。
「「「「「「「よろしくね、浩平くん」」」」」」」
 先輩たちの声を聞きながら──
 オレの意識はホワイトアウトしていった……

「とりあえずいまんとこえいえんじゃないよ」
 どうやら助かったようではある……

 翌日。
 屋上で風に吹かれているみさき先輩を見つけた。
 流石に、昨日の話をそのままするわけにも行かず、
「先輩……昨日、傘も差さないで何やってたんだ?」
 それだけを問う。
「えっ?!」
 すると──先輩は、ひどく驚いた顔をした。
「わたし……昨日は、まっすぐ家に帰ったきり、外に出てないよ?」
「じゃ、じゃあ……あの時、あれ食べたいこれ食べたいって言ったあれは……」
「間違いなくわたしじゃないよっ」
 なぜか、むくれた様子で、先輩。
「だって……これは、浩平くんだから言うんだけど」
 先輩は絶対秘密、雪ちゃんにも言っちゃだめだよ、と付け加えて。
「……最近ダイエットしてるんだもの」
 その時、オレは事態を了解した気がした。
(あれは……ダイエットで抑えつけられた、先輩の食欲の具現だったんだ……)
「……先輩……別に太ってないから、好きなだけ食った方が精神衛生上いいと思うぞ……」

 その後……
 辻で7人の少女に行き会い、仏心から財布を空にされた人達の間で……
 その怪異は誰言うともなく、「7人みさき」と呼ばれたという……

「ひどいよ〜」

(結)


 そう言えば小ネタ以外でギャグって、おねネタでは初めてのような気も。
 まぁ、これも小ネタ級の一発ネタではありますが(^^;
 多分ご想像の通り、「続巷説百物語」からの思いつきです。
 しかしこれじゃ、七人ミサキつーよりヒダル神ですな(^^


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