朝起きたらそこら中赤い線だらけだった。
「ってなんだよこれ？！」
そろ〜っと眼鏡を外してみる。……念のため確かめてみたが、「死」の線とは違った。
てか、そもそもこの屋敷内でこんな赤い線が走り回っていたら元凶は一人。
「秋葉っ！！！！」
下手に檻髪に引っかからないようにおっかなびっくり着替えて外に出る。
そう言えば時計見てきてないけど……こんな非常事態で登校もなにもあったもんじゃないし。
そろそろと１階に降りてみると、秋葉は居間でじっとしていた。
「あら、おはようございます、兄さん」
……髪の毛真っ赤にしながら平然と挨拶するか、まいしすたー。
「おはよう、っていうか、朝から何の騒ぎ？」
「これですか？」
秋葉はそう言って、ふーむ、と片眉をひそめてみせた。
「どうも、侵入者がいるようなんです」
「──侵入者？」
「ええ、それも複数。そんなわけで、屋敷中に檻髪を張らせて頂きました。いずれ残らず退治しますから、兄さんは安心して学校へ行ってください」
「退治って……警察呼んだ方がいいんじゃないのか？」
そう言うと秋葉は呆れたように息をつき、
「ここは遠野の本邸ですよ？そんな恥ずかしい真似ができますか」
恥ずかしいとか言ってる場合かマイ妹。
「それに、この気配は物の怪の類のそれですから。兄さんに負担を掛けるわけにもいきませんし、ここは私の出番です」
余裕の笑みなど浮かべて言ってみせる秋葉。
「それで、兄さんには申し訳なかったのですが、翡翠は自室に待機させてます。琥珀にもそうするよう言ったんですが、朝食の支度だけはさせてくれというので……まあ、食堂は隣室ですから、あえてとがめませんでしたけど」
そう言って秋葉は視線で、俺に食堂へ行くように促した。
異論もないので食堂へ行くと、いつものように琥珀さんが朝食の用意をしてくれている。
「おはよう、琥珀さん」
「おはようございます、志貴さん」
と言いながら、そそくさと扉を閉めに掛かる。
「……琥珀さん？」
と、琥珀さんが振り返って口元に人差し指を当てた。音こそ出さないが、いわゆる「しーっ」のポーズ。
(どーしたんですか？)
と唇だけ動かして尋ねる。すると、琥珀さんはどこからかハンディサイズのホワイトボードを取り出した。
かきかき (実は) けしけし
かきかき (もんできんとなんですよ) けしけし
かきかき (この騒動の原因) けしけし
……またかよおい。
かきかき (ほんとは警備用に作ったものなんですが) けしけし
かきかき (秋葉さまには逆に侵入者扱いされてしまいまして) けしけし
かきかき (あはっ) けしけし
わざわざ笑い声まで書かなくていいです琥珀さん。
(で、なんとかなるの？これ)
かきかき (えーとですね) けしけし
PDAのような例のコントローラを持ち出してぽちぽち。
かきかき (今、目標を秋葉さまにセットしましたので) けしけし
慌てて声を上げそうになった自分の口を塞ぐ。
(なに考えてるんですかっ！！)
かきかき (大丈夫、秋葉さまなら余裕で勝てますって) けしけし
(そーゆー問題じゃなくてっ！！)
かきかき (あ、集まってきましたよ) けしけし
そう書いて、琥珀さんはそろーっと居間への扉を開けた。
くいくい、と手招きするのにつられて、一緒に居間を覗き込む。
と、天井の隅からととと、と都合４つ、「マッチョな小人」といった風情のモノが落ちてきた。
かと思うと、そいつらは一斉に空中へ飛び上がり──
(……なにやってんですか、あれ)
液状になって一体化したかと思うと床にべちゃっ、と落ちてごぼごぼと不気味に泡立っている。
かきかき (合体融合はやっぱりお約束として外せませんし♪) けしけし
たのしんでる、困ってるふりして絶対楽しんでるよ、このひと。
程なく、不気味なスライム状のモノの中から、マスクを被ったレスラーのようなモノが立ち現れた。
かきかき (と、目標を補足すると融合して戦うわけなんです) けしけし
一方──対峙する秋葉は、動じた様子もなく優雅な笑みなんか浮かべちゃったり。
「うっほぉぉぉぉ！！」
何だか間抜けなお叫びを上げて、レスラーのような「もんできんと」が秋葉に襲いかかろうとする。
──したのだが、あっという間に勝負は付いた。
秋葉の檻髪が神速でもんできんとを絡め取り、その生命力を瞬時に吸い尽くす。
「──下等な物の怪風情が遠野の長に手を上げるなど、笑止の極み」
にやりと笑みを浮かべたままそんなことを呟く秋葉の横顔がちょっぴり怖かった。
「で、遠野、今日の遅刻の理由は何よ？」
「すまん、有彦、もう少し休ませてくれ……」
見ていただけなのに一日分の気力を使い果たした気がする俺だった。
う、昼飯食えるかな……あの合体えぐかったしなぁ……
(続いちゃったら大変)
[[本日のもんできんと]]
屋敷内警備もんできんと
結果 : 秋(秋葉による瞬殺・以降同じ)