「ねーねー志貴」
窓から入って来るなりアルクェイドが目を丸くして話しかけてきた。
「なんか珍しいものでも見たって顔だな」
「……志貴、ひょっとして読心術とか身につけた?」
眉をひそめるアルクェイド。てことは本当に珍しいもの、を見たということだろう。
しかし、現物を見たことはないにしても、博覧強記を地で行くこの真祖の姫が珍しいと思うものって……
と、アルクェイドが後ろ手に持っていたものをひょいと前に出して、
「これよこれ。志貴、知ってる?」
見た途端、俺のあごがかくん、とか音を立てて外れた。
見たことはない。けど、それが何であるのか、は分かる気がする。
それは紫色の丸っこい形をしたもので、短いながら手足らしいものがついており、球状の胴体前面一杯に顔があった。そのやけに「濃い」顔がうーうー唸りながら、手足をばたつかせている。
「一つ確認したいんだけど、それ、どこで見つけたんだ?」
「ん?志貴んちの庭だよ。あ、ひょっとして志貴のペット?」
「──んなわけあるかっつーの」
それが間違いなく「もんできんと」であろうと分かって、俺は地の底から響くような声で否定した。
「そっかー。じゃぁ一体なんなのかしらね、これ」
それは俺も知りたい。
……琥珀さんに聞いてみるか。
「琥珀さんなら知ってるかも。こういうの詳しそうだし」
と、一応そういうことにしておく。
「ふーん。じゃ、聞きにいこ」
勝手知ったる他人の家、とアルクェイドはドアを開けてすたすたと廊下に出て行った。ため息など落としつつ、俺はその後に続いた。
「……」
引きつってないで何か喋ってくださいよ琥珀さん。
「か、変わった動物ですねー」
おっしゃることはそれだけですか琥珀さん。
「……えぇと、実はこの家のペットなんですよー」
……そういうことにしてしまいますか琥珀さん。
「なーんだ、やっぱり志貴のペットだったんじゃない」
唇をとがらすアルクェイド。
「そ、それから、庭に放しておくと雑草を抜いてくれるんです」
それが主機能なんですね琥珀さん。
「た、ただですね、草地から10分以上離すと、性格が凶暴化するという問題が……」
「って、アルクェイド、それ見つけたのいつだ?」
「え?そーいえばもう10分くらいになるかな」
……Jesus。琥珀さんが引きつっていたのはそういうことだったか。
『く……』
野太い声が聞こえると同時に、琥珀さんが「あちゃー」という顔をするのを俺は見逃さなかった。
『草を、草をむしらせろぉぉぉぉ!!!!』
アルクェイドがぶら下げていたそいつが絶叫してアルクェイドの手から逃れたかと思うと、そこら中を駆け回り始めた。
「草をむしりたいんだったら、庭にもどればいいじゃない。何してるの、こいつ?」
呆れた様子でアルクェイドが評した。
「欲求不満でおかしくなってるんでしょうねー」
琥珀さんが他人の顔で困った振りをする。
「じゃ、とっつかまえて庭に放り出せばいいんだね?」
このままでは見るからに高級そうな調度の類が危険きわまりない。
「それが……」
琥珀さんはなぜかもじもじしながら、
「これ、心臓が弱くって、このままだと発作を起こしてあの世逝きに……」
「あらま、可哀想」
アルクェイドがさほど同情した様子もなく呟いた。
「……で、その際爆散するんですよー」
ちょっとまてぇぇぇ!!
部屋中を駆け回るそいつを見る。表情がなんだかすごくやばげ。
「じゃ、わたしが何とかしよっか?」
「……いや、やめといてくれ」
「ちぇー」
アルクェイドの声が妙に弾んでいるのに気付いて俺は素早く止めた。多分空想具現化でど派手にぶちかますつもりだ、こいつわ。
「じー」
なにげに琥珀さんが俺とテーブルの上を交互に見つめる。──テーブルの上にはお誂え向きに果物ナイフの入った籠。
「しょーがないな……」
ナイフを手にして、眼鏡を卓上に置く。……うわ、昼間だからアルクェイドまで線だらけ。正直長時間見たい光景じゃない。
走り回っているもんできんとに意識を集中して──
ナイフ一閃。
死の線を裂かれたもんできんとは爆散する間もなくその生命を停止する。
額の汗をぬぐってナイフを置き眼鏡をかけ直すと、ぱちぱちと2人分の拍手。
……遠野志貴、生まれてこの方、一番嬉しくない拍手だった気がする。
数日後。
「志貴ー、遊びに来たよー」
例によって窓からアルクェイド登場。
「おー」
投げやりな返事を返すと、
「志貴、これ又飼うことにしたの?」
後ろ手にしていたものをアルクェイドが見せる。
……復活してるし。それとも作り直したかな。
「……頼むから元のとこに置いてきてやってくれ」
(続くもんなら続いてみやがれ)
[[本日のもんできんと]]
ペット兼除草もんできんと
結果 : 貴(志貴による解体・以降同じ)