4.バトルロイヤル文化祭

「秋ですねぇ……」
 掃き集めた落ち葉の量に、琥珀はふと呟いた。
「秋……と言えば、確か志貴さんの学校の文化祭ももうすぐだとか……」
 ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぽーん。
「……うふふふふふふふ」


「どーしたんよ、急にブルったりして?」
「いや、その、なんか急に寒気が……」
 まさか神ならぬこの身で、琥珀さんが屋敷で何考えてるかなんて分かるはずもなく。


 文化祭当日。
 いつぞやの夢ほどには破天荒な状況ではないんだけど、
「……冗談で食い逃げ喫茶とか言ったら通っちゃううちのクラスって一体……」
 そう。喫茶店にお化け屋敷と典型的なネタが出たところで詰まってしまったクラス会議に、食い逃げ喫茶のネタを冗談で出してみたら大ウケしてしまい、こうして実現の運びに至ってしまったのだった。まる。
「こらこら、発案者がシケた面してどーすんだよっ!!」
 思いっきり有彦に背中を叩かれる。
「ふっふっふっ、今日は燃える!燃えるぜぇ!!」
 有彦が気勢を挙げるのに、おー、とか答えるウェイター連中。俺は荒事はまずいか、ということで裏方に回してもらっている。ちなみに店名はなぜか「ローキック」でなく「ハイブロウ」に決まった。
 そして──
 開店から1時間程が経過した。
 現在の所、逃亡を企図する客5名、全員捕獲済み。優秀な戦績だが誇っていいのかどうか。
 と、そこへ、
「志貴さーん」
 聞き慣れた声に振り返ると、
「あれ、琥珀さん?」
「はい、せっかくお祭りなら見に行くくらい良いでしょうということで、秋葉さまに少しお休みを頂いて」
 クラスの男連中が沸き返っている。今時和装の女の子なんて珍しいし、その上美人と来てるんだから、無理もないか。
「おいおい遠野、誰よ?」
「うちの手伝いをしてもらってる琥珀さん。主に料理とか秋葉の世話をしてもらってるんだ」
 なるべく穏当なところを答えておく。
「するってえと毎日あの人の手料理食ってんのか?かー、羨ましいじゃねーかこの野郎!」
 また有彦に背中を叩かれてむせる。
 向こうの方ではウェイターがでれでれになって琥珀さんの注文を聞いていた。
「……あのー、ところでつかぬことをうかがいますけど……」
「はっ、はい、なんでせうかっ?」
「この喫茶店って、食い逃げしても捕まらなければOKって聞きましたけど、そうなんですか?」
「えーと、まぁ一応そうなってるんすけど、正直女性のお客さんにはお勧めしかねますねぇ」
 鼻の下なんか伸ばしながら対応するウェイター。何考えてるんだか。
「ふふふ……そこはそれ、もんちゃーん」
 ……もんちゃん……?
 不吉な言葉の響きに反射的に入り口へ振り向くと、
 びゅおんっ!!
 風切り音をたてて何かが教室に飛び込んできた。そのまま、琥珀さんの座った席の真横に着地する。
 ……どこからどう見てもこれ以上ない程「忍者」だった。身の丈、2メートル弱。
「皆さんのお相手はこのもんちゃんにしてもらいますので。あはっ」
 琥珀さんの笑顔に、しかし流石にウェイターは引きつっていた。
 ──名前からして、あれは明らかに「もんできんと」だ。頭痛い。
「遠野……琥珀さんって一体どういう人なんだ?」
 同様に引きまくった様子の有彦が尋ねてくる。
「……ああいう人なんだよ」
 どっと重い疲労を感じながらそう答えた。
 殺気……というより瘴気に近いどろりとした気を漂わす「もんできんと」に、流石のウェイター連中もかなりブルっている様子だ。
 そんな中琥珀さんは注文したケーキとお茶を美味しそうに平らげると、
「──では……もんちゃんっ」
 ぎらり、と目を光らせ、もんできんとは琥珀さんをひょいと抱え上げて教室出口へ跳躍した。
「ま、まてぇぇぇ〜〜」
 と声だけは出してみるものの、まったくのへっぴり腰でウェイター軍団がそれを追う。
 じきに、少し離れた辺りから壮絶な音と悲鳴が聞こえてくる。おそるおそる顔だけ出して覗くと、もんできんとは片手で琥珀さんを抱えたまま、ウェイター相手に千切っては投げ千切っては投げの大奮闘。
「ふっ……この俺を本気で熱くさせる奴が来たみてえだな」
 ぽきぽき指なんか鳴らして、そんな俺の横を有彦が通り過ぎて行く。
「うりゃぁぁぁぁ!!」
 有彦の渾身の一撃は……
「──ぁぁぁぁぁああっ?!」
 あっさりかわされて自爆してるし。すまん有彦、死して屍拾う者無しってのもルールだったよな。
 と、後ろから叫ぶ声。
「めいどびぃぃぃーーむっ!!」
 ぎょんっ。
 すぐ右横を真っ白な光の帯が駆け抜けた。
 どぉぉぉんっ!!
 ビームが直撃したらしいもんできんとがくずおれる。琥珀さんは他人の顔をしてそそくさと逃げだそうとしているが、
「──姉さん」
 くぐもった声で呼び止められ、ぎぎぎぃと音を立てて振り返る。
 そこにいたのは案の定強化服着用の翡翠だった。
「あー、ええと……駄目よ翡翠ちゃん、こんなところで冥土に逝くようなビームは……」
 冷や汗をだらだらと垂らしながら琥珀さんがたしなめる。
「食い逃げのような人倫にもとる行為よりは遙かにましだと思うけど」
 しれっと言ってのける翡翠。
「……そういうことじゃなくて……これ、手負いにすると暴走しちゃうんだけど……」
 ……冷や汗のかきどころはそこっすかっ?!
「ぎょぉぉぉおおおっ!!」
 妙な声を上げて復活するもんできんと。
「ど、どうすんのさ翡翠……」
「──心配には及びません、志貴様」
 翡翠はぐっ、と体勢を低くすると、
「メイドとまほぉぉぉぉくっ!!」
 翡翠の強化服右肩から脈絡無く斧が飛び出す。それを後ろ手にはしっ、と掴んで、
「ていっ」
 放たれた斧はもんできんとの眉間にさくっと突き刺さった。
「ああ、また冥土に逝くようなとこにトマホークを……」
 既に諦めきった表情で琥珀さんが呟いた。
「せっかく林檎の芯をちまちま貯めて作ったのに……」
 林檎の芯から忍者を作ろうという発想は一生理解できそうにないです琥珀さん。

 結局騒動の末、琥珀さんともんできんとは翡翠に回収されていったわけだが。
「遠野……屋敷の生活が大変だって言ってたの、今なら実感できる気がするぜ……」
 有彦はじめ、クラス中……いや、学校中に同情されてしまった俺だった。
 なんだかなぁ。

(続いちゃうんかねー)

[[本日のもんできんと]]

忍者もんできんと
結果 : 翡(翡翠による滅殺・以降同じ)


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