ASTEL良いとこ悪いとこ

PHSの仕組み

DDI−Pが2年前に起こした2日間の停止はどうして起きたのですか?
 PHS2社が開業したのが'95/07でした。'95/08の都内におけるDDI-Pの2日間の停止は、PHSの不安定さと、理想と現実のギャップを象徴する出来事として発生しました。発生した原因は、電波の空きが無くなり、制御用チャンネルを確保する事が出来ず、(言い換えれば端末と使える状態にする通信が行えず)システムダウンに陥ったわけです。一番の原因は電波が思った以上に飛んで、想定していなかったセル(詳しくは次の規格を読んで下さい)にまで電波が届いてしまったために起きたわけです。ここでDDI−Pは電波の出力調整と、近くのCSと行っていた精度の高い同期を広範囲なCSと行えうように対策を考え、2日間の停止で電波の空きを確保したわけです。
 出力を絞ることによって同じ電波をさらに近くのエリアで利用できるようになるので、電波の空きが出来るのは分かると思いますが、なぜ同期を取ると電波の空きが増えるのでしょうか?これは、PHSが1つの電波を時分割で利用しているためです。(詳しくは規格の方を読んで下さい)同期を取る事によって、CS1は1つの電波の1スロットと4スロットしか利用していなかった場合、CS2が同じ電波の2スロットと3スルットを利用する事が出来るようになるからです。同時に1つのCSで3人が話をする事はまれですから、この同期を取る方法は電波の有効利用と言う点では非常に有効です。DDI−PはCS開発の際にこの機能を盛り込んでいた事は、非常に素晴らしい事だと思います。
 では、他2社とも同期を取っているかですが、取っていません。「それじゃまた空きチャンネルがなくなりシステム停止が考えられるじゃないか」と思われますが、実は20mWCSと500mWCSでは利用できる電波が違うんです。私もつい最近知ったのですが、この事実が無い限り、DDI−Pの空きチャンネル確保の為の同期とりの努力は、無駄になるわけですよね。
 既に2年が経過してもシステム停止にならない所を見ると、この同期はリモートで定期的に微修正しているのでしょうから、その手間とコストも大変でしょう。DDI−Pの努力が伺えます。でもあれから一度も停止の事故を起こしていない所は素晴らしい事ですよね。
PHSの電波の規格はどうなっているんですか?
 PHSは1.9GHZ帯という極めて波長の短い電波を利用して、展開されています。電波は波長が短いほど、回り込みが得意で、障害物などは関係なく届く性質があり、長波と呼ばれる、AMラジオよりも長い波長の電波は船舶無線などに利用され、中継なしに世界中に電波が届く性質があります。ちなみに電波は波長が長くなるほど、性質が音に近づき、波長が短くなるほど光に近づくと言われています。また、短波はのように上空にある電離層と呼ばれる部分で(なにも金網とかがあるわけではなく、電波を反射しやすい物質が浮遊している部分が上空にあるのです)反射され、世界中に届く電波も存在します。
 さて、電波は短波からFMに使われている電波は、テレビのVHF,UHFと続き、ポケベル、アナログ携帯などの周波数をはるかに越えた周波数帯を利用しています。性質的には光により近づきますので、ビル後ろへの回り込みなどは期待できないほどの性質になっています。
 そのためにPHSはビルや木などを挟むとその後方には電波は極めて届きにくく、利用の有無は見通しが非常に重要になってきます。もっとも前にビルがあってもビルの後ろが真っ暗にならない様に、ある程度PHSの電波も拡散し、ビルの後ろ側に突き抜けるだけではなく届きます。
 しかしながら、PHSの電波の強度は、CS(アンテナ)側が最大500mW、端末側が10mWと規定されています。ちょうど端末側は子供が使うようなトランシーバ程度の電波強さだと思ってもらえれば間違いありません。ですから見通しが良ければ最大で500m程度、無ければ20m程度しか届かない訳です。これは、10mWの端末を同士を考えた場合の数値で、CS側は受信回路の増幅率も良いですし、アンテナも大きく利得も大きいので、受信部が貧弱な端末に向けては、電波を強くして送り、端末からの電波は強力に受けて通信を成立させるわけです。
 懸命な方なら前の説明で、日なたと日陰の明るさの違いから、ビルかげなどではどんなに増幅しようとも端末側の電波の届く範囲が限定されると思いますよね。そこは多数のCSを設置し、ビルかげにならないCSを利用して通信を継続するような仕組みにしているんです。これをセルラー方式と言います。1つのCSが受け持つエリアをセルと呼び、それを複数重ねあわせる事で、上記ビルかげの問題をクリアーしているんです。
 本来は携帯の小から大セルに対して極小セルを特徴とするPHSは、大都市近郊部での利用が前提であることは否めません。もっともその大都市で、規約違反はしていないとは言え、PHSの限界である500mWCSを都内の駅前に4つも設置するような無責任なエリア展開を行っているキャリアもあります。上記説明の穴埋めを行うためのCS設置は当然としても、ビジー対策(同一場所での利用者が多く、1つのCSで3人までしか使えないPHSは、同じエリアにセルを多数重ねる事で、多くの人が利用できるようにするのです。これをビジー対策によるCS設置と呼びます)として、高出力を打った場合、電波の届く範囲は高出力ほど遠くまで届きますから、セル同士の重なり合いは、より広範に及びます。よってビジー対策のために高出力を設置すると、現在利用できる電波をすぐ、使い果たしてしまうわけです。すでに都心では、高出力の設置は限界に来ている事は、2年前のDDI−Pの事故で分かっています。DDI−Pは高度な同期を自社CS間で取る事によって、時分割スロット(1つの電波を1秒のさらに50分の1程度の間隔で、使う人を分けるようにしています。PHSは規格で4分割されており、最大で4人が 話せるわけですが、CSが端末と同期を取ったりするのに、1スロット使用しますので、最大が3人となります。但し、ASTELの多回線対応CSの場合には、CSの制御スロットは1つで済みますので、2つめの電波は最大で4人が使う事になります。)を最大限有効に使えるようにしたため、DDI−Pはかろうじて、空きスロットを確保できて運用が成り立っています。他2社がもしも山手線の内側に、穴埋め対策として、もしも高出力CSを設置した場合には、同期の取れていないCSが存在する事になり、2年前の悪夢と同じようにDDI−Pはほぼ全滅してしまうでしょう。言い換えれば、都心では他2社は高出力CSは事実上設置が出来ないのです。これが健全な状態と言えるでしょうか?
 もっともDDI−Pも最近はビジー対策として積極的に500mWCSの子供的な接続方法で20mWCSを設置しており、評価されるべきだと思います。でもすでに設置した500mWCSをはずす事は無いわけであり、厳しい言い方かも知れませんが、DDI-Pは都心で、500mWも設置し、20mWも設置しているのに、他2社は都心に高出力は設置できないわけです。いくらトップシェアとは言え、本当に問題がないのでしょうか?