AIDS 年表


【1994年】

2月(財)労働問題リサーチセンターの「職場におけるエイズ教育のあり方研究会」が報告。
東証1部・2部上場の全企業を対象に調査を行ったところ、97.3%の企業がHIV感染者・HIV患者に関連した職場問題に遭遇したことがない。しかし、エイズ問題を企業内の正式な会議で取り上げたことのある企業が41.5%、なんらかのエイズ対策を実施している企業が36.8%、エイズ教育啓発活動が必要と思う企業が85.0%であった。
日本
3月労働省は労働分野におけるエイズ問題検討委員会を発足。職場におけるエイズ教育のあり方、血液検査についての検討、雇用管理に関する検討を行う。日本
熊本大学医学部附属病院の遺伝子治療臨床研究審査会は第二内科高月 清教授ほかの申請していたHIV感染者に対する遺伝子治療の臨床応用計画を承認。
文部・厚生、両省に計画を申請し承認が得られ次第、実施の予定。
日本
文部省は、教師用指導資料「エイズに関する指導の手引」英語版を作成し、都道府県・市町村教育委員会へ配布(17,000部)日本
5月厚生省エイズサーベイランス委員会が3月、4月の2ヶ月間に届出のあった患者13名、感染者57名について報告した。
4月末現在の累積患者数は、患者713名(うち外国人91名)、感染者3,022名(うち外国人719人)。
凝固因子製剤によるものと今回の報告の中の6名の死亡とをあわせると、過去の累積死亡報告総数は389名となった。
日本
6月HIV感染中にリンパ球を凍結保存し発病直前に自己輸血して発病を押さえる治療法を、日本・オーストラリアのグループが3年前から共同研究(エイズ予防財団海外委託研究費)していたが感染者本人と全く同タイプの一卵性双子のリンパ球で「代用」した臨床試験で発病を6ヶ月以上食い止めるのに成功した。
効果を確かめたのは大阪大・微物病研究所(栗村敬教授)とオーストラリアのニューサウスウェールス大医学部(ジョン・ドワイヤー教授)のグループ。
日本
7月WHOはHIVに感染後発症した患者数の最新推計は世界中で約400万人に達し、昨年同期(250万人)に比べ60%増と発表。地域別では、サハラ砂漠以内のアフリカ地域が250万人以上。アジア地域では東南アジアを中心に患者数がこの1年間で3万人から25万人と8倍に増えた。
今世紀末には、全世界のHIV感染者数は3,000万人〜4,000万人に達するであろうと予測した。
海外
日本看護協会の調査:各都道府県の公立から個人病院まで940施設の看護責任者にアンケート調査、回答のあった835施設のうち、エイズ外来患者を受け入れた経験のある145施設(17.4%)、入院患者を受け入れた149施設(17.8%)について、本人への告知「している」が70%、「していない」が20.8%であった。日本
国内HIV感染者の妊娠例が1987年〜1994年7月まで60例。うち34例が出産している。(東京都立大塚病院宮澤 豊産婦人科医長の調査)
都立大塚病院の妊娠10例、出産6例。この6例の場合胎児への感染はゼロ。出産例の多くは妊娠後期に感染が判明し、中絶を希望してもできないケースであった。
日本
8月第10回国際エイズ会議/国際STD会議が同会議組織委員会及び(財)エイズ予防財団主催のもとで8月7日〜12日の間、パシフィコ横浜(横浜国際平和会議場)において開催された。
会議のスローガン:
 The Global Challeng of AIDS : Together for the future
 地球規模でエイズに挑む −未来のために力をあわせて−
・参加国  :143ヶ国
・参加者  :12,623人
・研究発表 :3,296題(うちポスター発表 2,713題)
・展示ブース:174団体等249ブース
 内訳 公的機関 27団体 58ブース
    NGO  97団体 97ブース
    企業   50企業 94ブース
・マスコミの活発な報道
2,000名を超えるプレス関係者が、国際会議の情報を各国・各地へリアルタイムで伝えた。PWAやボランティアに関わる報道がエイズを身近な問題とし、患者や感染者の立場への理解を深めた。

研究発表等の主なもの
(1)遺伝子治療に関する研究
 a.患者のCD8陽性リンパ球を取り出し、HIVを認識、攻撃する作用があるものを入れて試験管内で増殖させ、患者に戻す試験研究。
 b.患者のリンパ球にウイルス遺伝子を切断するリボザイムの遺伝子を入れ、大量に培養してから体内に戻す治療法に関する研究。
(2)長期生存者(未発症者)の免疫機能等の研究
 a.長期生存者(未発症者)は細胞性・液体性免疫反応が特に強いと考えられること。
 b.感染後12年以上経過する未発症者の新たなウイルス産生の抑制にCD8陽性リンパ球が分泌する物質の因子が関与していると考えられること。
(3)新治療薬(HIV増殖防止薬)の投与に関する研究
 a.プロテアーゼ阻害剤「サキナビル」とAZT、DDCの併用投与に関する研究が注目。
 b.「KN1272」に関する研究が注目。
(4)結核と重複感染者の増加と対策
 a.世界の結核とHIVとの重複感染者は560万人と推計(HIV感染者の約三分の一)され、アジア、アフリカでは今後大きな問題になるとWHOが報告。
 b.HIV感染者の結核発病率は、HIV非感染者の約30倍高いとされ結核発病者のエイズの進行も早い。
 c.途上国での結核の治療は、費用対策効果が大きくHIV感染者の延命にもなる。
(5)母子感染防止のための治療に関する研究
 −HIV感染した妊婦を対象に出産前後新生児へのAZTの投与に関する研究−  a.投与しないグループの母子感染率は25.5%
 b.投与したグループの母子感染率は8.3%であり、予防効果が認められた。
 c.しかし、AZTは途上国にとっては高価であること。また、副作用が不明なことの指摘もあった。
(6)女性とエイズ問題等に関する討議
 a.レイプや暴力で感染した事例及び夫から感染したが、差別を恐れて家族にも言えないでいる日本人女性の事例紹介と女性の連帯を求める発言があった
 b.女性感染者を対象にした研究の遅れから感染の発見が遅れたことや正しい知識の普及が遅れたことから中絶した女性の事例等あらゆる面で女性がハンディを背負っている状況についての発言があった。
 c.日本人女性とタイのビーチボーイとの性交渉の行動を「イエローキャブ」と発表したことに対する日本人女性からの抗議があったこと。
 d.コンドームを相手に付けさせる女性の権利の確立を求める等、弱い立場にいる女性の権利についての発言があった。
(7)売(買)春とエイズ
 a.タイに買春ツアーで来た日本人はコンドームを使用したがらないため、性産業で働くタイ女性は、健康が守れない状況にあること。
 b.性産業労働省(CSW)としての経験をもつ人が予防や啓発活動に参加していることの発言。
(8)アジアのHIV感染の急増
 a.WHOエイズ対策本部長の警鐘。
 b.インド医師会長の発言。(エイズ教育にとって、多言語、多宗教が最大の障害)

次回第11回国際エイズ会議は、1996年7月7日〜12日にかけて、カナダのバンクーバーで開催されることとなった。
統一スローガンは「ひとつの世界、ひとつの希望」
海外
文部省は、都道府県・指定都市の教員、学校保健担当者を対象にエイズ教育中央研修会を開催。
国際エイズ会議の趣旨を踏まえて、エイズ教育公開シンポジウムを開催。
日本
9月労働省は労働分野におけるエイズ問題検討委員会の報告書を発表。
HIVに感染していることそれ自体は解雇の理由とならないこと等、10項目のガイドラインに盛り込まれるべき事項を発表した。
日本
11月文部省は、中学生用教材「エイズを正しく理解しよう」全国の中学校へ配布(170万部)。
高校生用教材「AIDS−正しい理解のために」を新高校1年生全員に配布(180万部)。
社会教育指導者用手引「エイズに関する学習の進め方」を作成し、全国の社会教育関係機関に配布(63,000部)。
日本