プロテアーゼ阻害剤(抗HIV薬)について

(vol.8 NO.10, AIDS CLINICAL CARE, OCTOBER 1996より)

"For Your Information" ご参考までに

【プロテアーゼ阻害剤に関する患者へのガイド】


  1. はじめに
  2.  プロテアーゼ阻害剤は、HIV治療の選択を倍加する刺激的で、新しいカテゴリーの薬です。現在、アメリカ合衆国で入手可能な3種類のプロテアーゼ阻害剤は、それぞれいろいろの点で異なっていますが、いずれも有効であると考えられています。
     服薬を怠ったり、"drug holidays"「薬を服用しない日」を設けることは勧められません。
     AZT、d4T、ddIのような以前からの薬と一緒に服用すると、これらのプロテア−ゼ阻害剤は最も有効に働きます。
     プロテアーゼ阻害剤は高価です。また、ある種の他の薬の作用を妨げるでしょう。  あなたがプロテアーゼ阻害剤を服用していれば、そのことを医師、看護婦等の保健医療従事者にすべて話すべきです。

  3. サキナビル Saquinavir (Invirase)
  4.  毎日8時間ごとに3カプセルを、食物とともに服用します。(1日に9カプセル)。
     Saquinavirは吐き気および下痢を引き起こすことがあります。しかし、普通は、ritonavirやindinavirよりも副作用は少ないものです。
     Saquinavirが、他のプロテアーゼ阻害剤に対するクロス・レジスタンス(交差耐性)の原因となる可能性は、他の薬剤よりも少ないでしょう。たとえ、後日、他の異なったプロテアーゼ阻害剤を服用することを決めたとしても、そのプロテア−ゼ阻害剤は、やはり良い抗HIV作用を示すでしょう。
     ある研究によれば、saquinavirはAIDSの進行を遅らせて、服用した患者の生涯を長くしました。saquinavirの抗HIV作用は、他のプロテアーゼ阻害剤よりも弱いことが問題ですが、新しいタイプのカプセルが開発されつつあり、この問題もまもなく解決されるでしょう。

  5. リトナビル Ritonavir (Norvir)
  6.  毎日、12時間ごと6カプセルを食物とともに服用します。(1日に12カプセル)。この薬には、液体のものもあります。いずれも、冷蔵庫の中に保存しなければなりません。
     Ritonavirは、血液中における抗HIV作用が大変良い薬です。ある研究では、AIDSの重症化を遅らせて、服用している患者の生涯を長くしました。
     この薬には、口、腕、脚の疼くような痛みに始まり、吐き気、下痢と続くような副作用があります。少ない服用量から始め、2週間以上かけて徐々に増加させることによって、副作用は小さくなるでしょう。時に、肝臓が炎症を起こし、ritonavirを止めなければならないことがあります。
     ritonavirを服用している患者は、rifabutin(Mycobutin)、alprazolam(Xanax)、meperidine(Demerol)、terfenadine(Seldane)などの薬を服用することはできません。また、避妊薬(ピル)の働きも弱めるでしょう。
     ritonavirは、1日$18の費用がかかり、最も高価なプロテア−ゼ阻害剤です

  7. インディナビル Indinavir (Crixivan)
  8.  毎日、8時間ごとに2カプセルを空腹時に服用します。(1日に6カプセル)
     服用前1時間と服用後2時間は、食事を控えなければなりません。ただし、低脂肪の軽食、例えば、ジャムだけを塗ったドライ・トースト(バターやマーガリンを塗らないトースト)、スキム・ミルク(脱脂乳)と砂糖に浸したコーンフレークなどは食べても構いません。
     Indinavirは、血液中で強い抗HIV作用を示します。しかし、この薬は新しいものなので、この薬が患者の生涯を長くするかどうかの報告は、まだ、ありません。
     この薬は、吐き気と金属の味覚を引き起こすことがありますが、副作用はritonavirより弱いものです。腎結石の危険は、毎日6杯の液体を少なくとも飲むことによって小さくすることが可能です。
     indinavirを飲んでいる人々が避けなければならない薬は、terfenadine(Seldane)、astemizole(Hisminal)、triazolam(Halcion)、midazolam(Versed)、cisapride(Propulsid)です。
     Rifabutinは、通常の半分の量であれば、服用することが可能です。
     Indinavirは、1日当たり約$12.00の費用がかかり、メール・オーダーによって、Stadtlanders Pharmacy(1-800-927-8888)から入手しなければなりません。


 この患者教育のための資料は、Boston's Brigham and Women's HospitalのAnne Elperin, RN, NPとBrigham and Women's HospitalとHarvard Pilgrim Health CareのPaul Sax, MDによって、AIDS Clinical Careのために用意されました。

【質問および回答】

Q. プロテアーゼ阻害剤を含む薬剤の併用により、血液中からHIVが検出されなくなると聞きました。これはHIV感染症が治癒したということですか。
A. 新しい併用療法は、血液中のHIVの量を減らすことに、とても効果があります。何人かの人々においては、この効果は1年以上継続していますが、この効果がどれだけ長く継続するかを予想することは時期尚早です。
 たとえ、我々が利用可能な血液テストによって、ウイルスを見つけられることができないとしても、ウイルスはリンパ節にまだ存在するでしょう。
 薬を止めた時には、HIVは再び血液中に現れるでしょう。
 HIVに感染した直後の何人かの人々は、強力な薬剤の併用により、実験的に治療されています。この早期の治療が治癒に繋がるかどうか分かりません。

Q. HIVに感染したすべての人は、プロテアーゼ阻害剤を服用すべきでしょうか。
A. これらの薬はとても新しく、これらの薬の最善の使用方法を研究している最中です。
 医者によって、それぞれ異なった意見があります。ある医師は、できる限り早くこれらの薬を使うことを望み、他の医師は、できる限り使うことを先送りすることを望みます。
 しかしながら、多くの医師は、次の場合には、プロテアーゼ阻害剤を、通常は以前からある薬と併用して、使うべきであるという点で意見が一致しています。
  1. カリニ肺炎(PCP)や口腔カンジダ症のような日和見感染症に冒された場合、
  2. CD4細胞の数が100未満である場合、
  3. ウイルス量(viral load)が従来からの薬剤による治療によっても、10,000個以上の水準に留まっている場合、

Q. プロテアーゼ阻害剤を飲み忘れた時には、その次に服用時に通常の2倍の量を飲むべきでしょうか。
A. 決して飲み忘れないでください。飲み忘れは、あなたの体内のHIVが薬剤耐性になる原因となります。そうなれば、もはやプロテア−ゼ阻害剤は、あなたを助けることができません。錠剤箱、アラーム付きの腕時計など、あなたに薬の服用を思い出させるために役に立つものを使ってください。
 たとえ、飲み忘れたとしても、次の服用量は2倍にせず、最初の予定どおりの量を服用してください。

Q. 私はプロテアーゼ阻害剤を始めて以来ずっと、激しい吐き気があります。私は、全量を服用することが困難です。どうしたら良いでしょうか。
A. 必要な量をすべて服用することは、とても重要です。あなたの医者は、吐き気を和らげるための方法を教えてくれることでしょう。吐き気を抑える薬も、しばしば有効です。
 ritonavirであれば、吐き気は、しばらくすれば、収まるでしょう。dinavirであれば、服用時に、少量の低脂肪の軽食を取ることを試してみてください。
 もしも、あなたが必要な量のすべてを服用することができないのであれば、不十分な量を服用するよりも、プロテアーゼ阻害剤を完全に止めた方がおそらく良いでしょう。

Q. 私が他の抗ウイルス薬を服用することができない場合には、プロテアーゼ阻害剤は単独でも有効なのでしょうか。
A. プロテアーゼ阻害剤は、他の薬と併用して服用された場合に最良の効果を示します。しかし、たとえ単独でも、プロテアーゼ阻害剤は、あなたの役に立つでしょう。
 従来の薬をプロテアーゼ阻害剤と併用する場合には、従来の薬の服用量は、以前よりも少ない量で済むかも知れません。

Q. プロテアーゼ阻害剤は、妊娠した女の人にも安全ですか。
A. プロテア−ゼ阻害剤の妊娠中の安全性は証明されていません。
 妊娠中にプロテアーゼ阻害剤を服用した女性の登録が行われており、彼女らの赤ん坊の健康が調べられつつあります。


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Nov. 6, 1996