インフルエンザ Q&A

平成14年度版
(平成14年11月 改訂版)

国立感染症研究所感染症情報センター
厚生労働省健康局結核感染症課
日本医師会感染症危機管理対策室


[簡単に理解したい方のために]

Q .1: インフルエンザと普通のかぜはどう違うのですか?
Q. 2: インフルエンザにはどんな種類がありますか?
Q. 3: インフルエンザにかかるとどんな症状が出るのですか?
Q. 4: インフルエンザにかかったらどうすればよいのですか?
Q. 5: インフルエンザにかからないためにはどうすればよいのですか?
Q. 6: インフルエンザの予防接種は効果がありますか?
Q. 7: インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?
Q. 8: インフルエンザの予防接種が1回でもよいのはどのような場合でしょうか?
Q. 9: 乳幼児や高齢者はどんなことに気をつければよいのですか?
Q.10: インフルエンザの予防接種の費用はどうなるのですか?
Q.11: インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるのですか?
Q.12: 新型インフルエンザが現れるとどうなるのでしょうか?


[より詳しく知りたい方のために]

インフルエンザ総論、ウイルス
Q. 1: インフルエンザはかぜとどう違うのですか?
Q. 2: インフルエンザの流行の歴史について教えてください
Q. 3: インフルエンザウイルスについて教えてください。
Q. 4: インフルエンザウイルスのH、Nの番号は何を表しているのですか?
Q. 5: インフルエンザウイルスの変異について教えてください。
Q. 6: インフルエンザにかからないためにはどうすればいいですか?

臨床症状一般・診断治療
Q. 7: インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。
Q. 8: 合併症について教えてください。
Q. 9: インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。
Q.10: インフルエンザにはどんな治療法がありますか?
Q.11: インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?

予防接種
Q.12: インフルエンザの予防接種はいつごろ受けると効果的でしょうか?
Q.13: インフルエンザの予防接種は効果がありますか?
Q.14: インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?
Q.15: 昨年インフルエンザの予防接種を受けたのですが今年も受けた方がよいでしょうか?
Q.16: 特に予防接種を受けた方がよいのはどのような人でしょうか?
Q.17: インフルエンザの予防接種を受けることが好ましくないのはどんな場合ですか?
Q.18: 妊婦はインフルエンザの予防接種を受けることができるでしょうか?
Q.19: インフルエンザワクチンはどのようにつくられているのですか?
Q.20: 卵アレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?
Q.21: インフルエンザの予防接種をしたときの副反応にはどんなものがありますか?
Q.22: インフルエンザの予防接種の費用はどうなるのですか?
Q.23: インフルエンザワクチンで健康被害が発生した場合は、どのような対応はなされるのですか?

インフルエンザの流行
Q.24: 今年流行するインフルエンザはどの株ですか?
Q.25: 今、私の住む地域ではやっているインフルエンザはどの株ですか?
Q.26: どのくらいの人がインフルエンザにかかっていますか?
Q.27: インフルエンザ流行のピークはいつですか?
Q.28: インフルエンザは外国でもはやっていますか?

予防接種法改正関係
Q.29: 今回の予防接種法の改正でインフルエンザの予防接種はどのようになるのですか。受けやすくなるのですか?
Q.30: 予防接種は誰でも受けられるのですか?
Q.31: 今年65歳になるのですが、いつから予防接種法定期予防接種の対象となるのでしょうか。
Q.32: 私は50歳で、予防接種法の対象外なのですが、インフルエンザの予防接種を受けることができるのでしょうか。
Q.33: 予防接種法に基づく接種対象になると、必ず予防接種は受けなければならないのですか。
Q.34: 予防接種を受けたいのですが、いくらかかるのでしょうか。
Q.35: 住民票と異なるところに長期滞在しているのですが、現在地で予防接種を受けることはできますか。
Q.36: 痴呆の方にも予防接種を受けさせることはできますか。


[簡単に理解したい方のために]

Q .1:インフルエンザと普通のかぜはどう違うのですか?

 普通のかぜとインフルエンザを混同してはいませんか。普通のかぜの症状は、のどの痛み、鼻汁、くしゃみや咳(せき)などが中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはほとんどありません。
 一方、インフルエンザの場合は38〜39℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く、あわせて普通のかぜと同様の、のどの痛み、鼻汁などの症状も見られます。さらに、気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんなどを併発し、重症化することがあるのもインフルエンザの特徴で、特に乳幼児や高齢者では死に至ることもあります。また、インフルエンザは、基本的に流行性疾患であり、一旦流行が始まると、短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。下の図は、厚生労働省発表の人口動態統計にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡として届けられたものですが、さらに、インフルエンザが流行すると、死亡数が、特に高齢者においてふだんより高くなるという現象(超過死亡と言います)がみられる点でも大きな違いが見られます。

図.インフルエンザによる死亡者数

図.インフルエンザによる死亡者数

資料:厚生労働省「人口動態統計」

Q. 2:インフルエンザにはどんな種類がありますか?

 抗原性の違いから、インフルエンザウイルスはA型、B型、C型に分類されます。また、A型はさらにウイルスの表面の抗原性の違いにより亜型に分類されます。いわゆるA/ソ連型、A/香港型というのは、この亜型のことです。インフルエンザの発症が防げるかどうかは、それぞれの人のからだがそれぞれのウイルスの種類に対して、防御のための抗体を持っているかどうかが鍵(かぎ)を握ります。現在、ヒトの世界で広く流行しているのは、A/ソ連型ウイルス(H1N1亜型)、A/香港型ウイルス(H3N2亜型)、B型ウイルスの3種類です。

Q. 3:インフルエンザにかかるとどんな症状が出るのですか?

 突然の高熱、悪寒を症状とした発症が典型的です。鼻汁、鼻づまり、くしゃみ、せき、のどの痛みなどといった普通のかぜでもみられる症状のほかに、関節痛、筋肉痛等も加わります。気管支炎や肺炎、小児では中耳炎、熱性けいれんなどを合併することもまれではありません。
 また、高齢者や呼吸器・心臓などに慢性の疾患を持つ人は、重症化することが多いので十分注意する必要があります。近年、小児ことに、幼児がインフルエンザにかかると、まれに急性脳症を併発して死亡するといった問題も指摘されています。

Q. 4:インフルエンザにかかったらどうすればよいのですか?

・ 単なるかぜだと軽く考えずに、早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
・ 安静にして、休養をとりましょう。特に睡眠を十分にとることが大切です。
・ 空気が乾燥するとインフルエンザにかかりやすくなりますので、部屋の湿度を保ちましょう。
・ 水分を十分に補給しましょう。お茶、ジュース、スープなど飲みたいもので結構です。

 早めに治療することは、自分のからだを守るだけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。
 インフルエンザウイルス治療薬としての抗ウイルス薬が使用できるようになりました。また、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなりますが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎などの合併症に対する治療として抗生物質が使用されます。これらの薬の効果については、インフルエンザの症状が出はじめてからの時間や体の状態により異なります。使用する、しないは医師の判断となりますので十分に医師に相談することが重要です。
なお、いわゆる「かぜ薬」と言われるものは、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわらげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。

Q. 5:インフルエンザにかからないためにはどうすればよいのですか?

 予防の基本は、流行前に予防接種を受けることで、これは欧米では一般的な方法になりつつあります。また、罹患した場合に重症化する可能性の高い人には、重症化防止の方法としても有効です。インフルエンザは、インフルエンザにかかった患者の咳(せき)などで空気中に拡散されたウイルスを鼻腔や気管など気道に吸入することによって感染します。インフルエンザが流行してきたら、人混みは避けましょう。特に高齢者や慢性疾患を持っている人や、疲れていたり、睡眠不足の人は、人混みや繁華街への外出を控えましょう。罹患したとき重症化する可能性が高くなります。
 空気が乾燥すると、インフルエンザに罹患しやすくなります。外出時にはマスクを利用したり、室内では加湿器などを使って適度な湿度を保ちましょう。常日ごろからバランスよく栄養をとることも大切です。帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せておすすめします。

Q. 6:インフルエンザの予防接種は効果がありますか?

 予防接種を受けないでインフルエンザにかかった人の70%から80%の人は、インフルエンザの予防接種を受けていれば、インフルエンザにかからずにすむか、かかっても症状が軽くてすむという有効性が証明されています。特に高齢者の場合は、インフルエンザによる入院・死亡を減らすことが証明されています。
 WHOが推奨した株を基本にして我が国の流行状況などから予測して作られた我が国のインフルエンザワクチンは、この約10年間、予測と流行したウイルス株はほぼ一致しており、有効なワクチンが作られています。

Q. 7:インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?

 現在、日本で行われているインフルエンザの予防接種に使用するインフルエンザHAワクチンについては、平成12年4月に中央薬事審議会において最近の研究成果を踏まえ、接種回数の見直しにつき審議が行われました。その結果に基づき、平成12年7月から薬事法上の用法・用量が以下のように変更されました。

 
 およそ1〜4週間の間隔をおいて0.5mlずつ2回皮下に注射する。ただし、6歳から13歳未満のものには0.3ml、1歳から6歳未満のものには0.2ml、1歳未満のものには0.1mlずつ注射する。
 0.5mlを皮下に、1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回注射する。ただし、6歳から13歳未満のものには、0.3ml、1歳から6歳未満のものには0.2ml、1歳未満のものには0.1mlずつ2回注射する。

Q. 8:インフルエンザの予防接種が1回でもよいのはどのような場合でしょうか?

 65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも十分効果があるとする研究結果が得られており(次章 Q.16を参照して下さい)、1回接種でよいと考えられます。
 13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザの予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫による十分な効果が得られる方もあると考えられます。接種回数が1回か2回かの最終的判断は、接種する医師の判断によりますので、接種の際にはこれまでのインフルエンザにかかったことのあるなし、ワクチン接種のあるなしとその時期、そして現在の体調などを担当医師に十分伝え、相談して下さい。

Q. 9:乳幼児や高齢者はどんなことに気をつければよいのですか?

 乳幼児、ことに幼児でのインフルエンザの合併症で気を付けなければならないものとして、急性脳症の発症の問題が指摘されています。その徴候として水分をとったあとすぐに吐いてしまい元気がない、意識がはっきりせずうとうとしている、けいれんを起こすなどがあります。この様な症状がみられるときなどにはすぐに医療機関に相談して下さい。
 高齢者は流行前に予防接種を受けましょう。これはインフルエンザ予防の基本となります。また、インフルエンザが流行しているときは、人混みへの外出は避けましょう。特に、疲れている時や睡眠不足の時に無理に外出するのは避けましょう。
 また、同居している人、世話をしている人も予防接種を行うなどの対策をとって、ウイルスを持ち込まないようにすることをお勧めします。

Q.10:インフルエンザの予防接種の費用はどうなるのですか?

 65歳以上の方及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方などは、予防接種法による定期の予防接種の対象となります(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、市町村にお尋ね下さい)。詳しくはQ&A(より詳しく知りたい方のために)の予防接種法改正関係をご覧下さい。
 また、そのほかの方の接種は、従来どおりの任意接種で、費用も全額自己負担となります。

Q.11:インフルエンザワクチンで著しい健康被害が発生した場合は、どのような対応がなされるのですか?

 予防接種法による定期接種の場合、予防接種と健康被害に因果関係があると認定された場合は、予防接種法による被害救済の対象となります。詳しくはQ&A(より詳しく知りたい方のために)の予防接種法改正関係をご覧下さい。
 また、予防接種法の定期接種によらない任意接種によって健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。詳細な内容は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。

Q.12:新型インフルエンザが現れるとどうなるのでしょうか?

 インフルエンザの流行の歴史をみると、かつてのスペインかぜ(A/H1N1亜型)が現れたときは、大規模な流行と甚大な数の死者を出しました。新型インフルエンザが流行した場合、これに対して免疫を持っている人はいませんし、また事前に接種された予防接種の効果は乏しいので、かなりの数の罹患者と死亡者がでることが予想され、アメリカでは8〜20万人の死者がでると予測されています。わが国では3〜4万人の死者が出ることが懸念されます。
 1997年、香港で新型インフルエンザ(A/H5N1亜型)ウイルスによる患者の発生が報告されました。入院加療を受けた18症例中6例が肺炎の合併などにより死亡しました。このウイルスはヒトからヒトに感染したものではなく、恐らく感染しているニワトリからヒトに感染したものと考えられます。香港政府は1997年12月末、140万羽のニワトリを殺処分しましたが、幸いにして1997年12月以降は新たなヒトでの確認例は報告されていません。
 しかし、このままH5N1ウイルスがヒトの前から姿を消してしまうのか、あるいは再び勢いを盛り返して流行するかは予断を許さず、さらにまたどのようなメカニズムでトリのウイルスが直接ヒトへ感染を起こしたのか、解明が必要です。またこうした経路以外の感染の可能性なども十分に予想されます。なお、ヒトへの感染は確認されませんでしたが、2001年5月に香港で、H5N1ウイルスが原因と考えられるニワトリの大量死があり、大量のニワトリの殺処分が行われました。


[より詳しく知りたい方のために]

●インフルエンザ総論、ウイルス

Q. 1:インフルエンザはかぜとどう違うのですか?

 普通のかぜとインフルエンザは症状に多少の類似性があるものの疾病としては全く違うものです。普通のかぜはライノウイルスやコロナウイルス等の感染によって起こります。症状としては、のどが痛む、鼻がむずむずする、水のような鼻汁が出る、くしゃみや咳が出るなどが中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはあまりありません。一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスによるもので、38〜39℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身症状が強く、あわせて普通のかぜと同様の、のどの痛み、鼻汁などの症状も見られます。さらに、気管支炎、肺炎などを併発し、重症化することがあるのもインフルエンザの特徴です。また、インフルエンザは、基本的に流行性疾患であり、一旦流行が始まると、短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。下の図は、厚生労働省発表の人口動態統計にある死因別の死亡統計上、インフルエンザによる死亡として届けられたものですが、さらに、インフルエンザが流行すると、死亡数が、特に高齢者において、ふだんより高くなるという現象が認められる(超過死亡といいます)点も大きな違いです。

図.インフルエンザによる死亡者数

図.インフルエンザによる死亡者数

資料:厚生省「人口動態統計」


 ちなみに、よく似た名前を持つ、ヘモフィルス・インフルエンザ菌という細菌がありますが、これは以前インフルエンザの原因と間違われたためについた名称で、インフルエンザの原因ではなく、別の病気の原因となります。

Q. 2:インフルエンザの流行の歴史について教えてください。

 インフルエンザの流行は歴史的にも古くから記載されていますが、科学的に立証されているのは1900年ごろからで、数回の世界的大流行が知られています。中でも、1918年に始まった「スペインかぜ(A/H1N1亜型)」は被害の甚大さできわだっています。当時、インフルエンザによる死亡者数は全世界で2,000万人とも4,000万人ともいわれ、日本でも約40万人の犠牲者が出たと推定されています。その後、1957年にはアジアかぜ(A/H2N2亜型)が、1968年には香港かぜ(A/H3N2亜型)が世界的な大流行を起こしています。次いで1977年にはA/ソ連型(H1N1亜型)が加わり、現在はA型であるH1N1亜型(一般にA/ソ連型と呼ばれます)とH3N2亜型(一般にA/香港型と呼ばれます)、及びB型の3種類が世界中で共通した流行型になっています。

Q. 3:インフルエンザウイルスについて教えてください。

 インフルエンザウイルスは直径1万分の1ミリ(100nm)の大きさの多形性のウイルスです。ウイルスは細菌やカビなどの微生物と異なり、生きた細胞の中でのみ増えることができるため、インフルエンザウイルスは空気中や土壌中など細胞の外側では増えることができません。ヒトに感染した場合は、鼻腔や咽頭粘膜の表面の上皮細胞に結合・細胞侵入し、その中で増殖します。
 インフルエンザウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、A型では、HAには15の亜型が、NAには9つの亜型があります。これらは様々な組み合わせをして、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布していますので、A型インフルエンザウイルスは人獣共通感染症としてとらえられています。そして最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスのいわゆる「運び屋」として注目を浴びています。A型は数年から数十年単位で流行が見られますが、突然別の亜型にとって代わることがあります。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異といいます。HAとNAは、同一の亜型内でわずかな抗原性をさらに変化させるため、A型インフルエンザウイルスは巧みにヒトの免疫機構から逃れ、流行し続けます。これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異といいます。連続抗原変異によるウイルスの抗原性の変化が強くなれば、A型インフルエンザ感染を以前に受け免疫がある人であっても、再び別のA型インフルエンザの感染を受けることになります。その抗原性に差があるほど、発症したときの症状も強くなります。
 なお1997年には、香港でトリ型のインフルエンザA/H5N1亜型が初めてヒトから分離され、新型インフルエンザウイルスの出現の可能性として世界中の注目を浴びましたが、幸いにも人から人への感染はなく、その後A/H5N1ウイルスのヒトでの感染は見出されていません。しかしすでにA/香港型(H3N2)が30年、 A/ソ連型(H1N1)が20年連続している状況は、いつ新型に置き換わってもおかしくない状況で、警戒が必要です。
 また、B型もヒトに感染し、A型と同様に流行を起こします。C型もヒトに感染しますが、大きな流行は起こさないとされています。

Q. 4:インフルエンザウイルスのH、Nの番号は何を表しているのですか?

 A型やB型のインフルエンザウイルスの表面からは、H蛋白(赤血球凝集素)、N蛋白(ノイラミニダーゼ)という2種類の蛋白がウニの棘のように突き出ています。これら2つの蛋白はスパイク蛋白と呼ばれ、ウイルスの感染に重要な働きをしています。ヒトがあるインフルエンザウイルスに対して免疫を持っていても、異なるスパイク蛋白をもつウイルスに対してはその免疫が効かず感染してしまいます。A/ソ連型(H1N1)インフルエンザにかかったあとA/香港型(H3N2)にかかったり、A型インフルエンザにかかったあとB型にかかったりすることがあるのはこのためです。
 A型インフルエンザウイルスは、H、N蛋白とも複数の種類があり、その組合せで更に亜型に分類されます。例えば、香港型といわれるウイルスはH蛋白が3、N蛋白が2という番号の組合せでH3N2となりますし、ソ連型はH1N1です。H1、H2、H3はヒトの間で感染が起こり、流行株となりえます。B型インフルエンザウイルスではそれぞれ1種類で、H, Nの組合せによる分類は行われません。

Q. 5:インフルエンザウイルスの変異について教えてください。

 インフルエンザウイルスは、A・B・Cの3型に分けられていますが、このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型です。これらの表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、A型ウイルスのHAには15のサブタイプが、NAには9つのサブタイプがあります。
 HAとNAは、同じサブタイプの中でもわずかな変化が常に見られます。A香港型のインフルエンザウイルス(HAとNAの特徴からこれをH3N2と表します)でも、その年によってシドニー株類似ウイルスといわれるものであったり、パナマ株類似ウイルスといわれたりするもので、これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異といいます。車のマイナーモデルチェンジのようなもので、目先が少々変わるので、感染を受けた場合、今までの免疫で防げる場合もあれば、防げない場合もあります。したがってヒトは毎年のようにA型インフルエンザの感染を受けることもあります。そしてその変化が大きいほど感染しやすく、発症した時の症状も強くなります。
 A型はマイナーチェンジを続けながら数年から数10年単位で流行が続きますが、突然大きくその姿を変えて別のサブタイプに取って代わることがあります。フルモデルチェンジで、新型インフルエンザウイルスの登場です。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異といいます。1918年に始まったスペイン型(H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型(H2N2)に代わり、流行は11年続きました。その後1968年には香港型(H3N2) が現われ、ついで1977年ソ連型(H1N1)が加わりました。現在はA型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で共通した流行株となっていますが、これまでのインフルエンザの変化の歴史を見れば、いつ新型インフルエンザが登場してもおかしくない状況にあるといえます。新型インフルエンザが現れれば、これに免疫を持っているヒトはいないため、多くのヒトがインフルエンザにかかり、またその合併症による被害が甚大であろうことが予測され、世界的に対策が進められているところです。
 また、2001/2002シーズンには、イギリス、イスラエル、エジプトなどで新しい亜型のA/H1N2ウイルスの分離の報告があり、本邦においても2002年の2月に同様の型のウイルスが分離されました。このウイルスによる臨床症状は従来のインフルエンザと特に相違はなく、また2001/2002シーズンのワクチン株であるA/New Caledonia/20/99株のウイルスに類似の抗原性を示し、本ワクチンが依然有効であることが示唆されております。

Q. 6:インフルエンザにかからないためにはどうすればいいですか?

 予防の基本は、流行前に予防接種を受けることで、これは欧米では一般的な方法になりつつあります。また、罹患した場合に重症化する可能性の高い人には、重症化防止の方法としても有効です。インフルエンザは、インフルエンザにかかった患者の咳などで空気中に拡散されたウイルスを鼻腔や気管など気道に吸入することによって感染します。インフルエンザが流行してきたら、人混みは避けましょう。特に高齢者や慢性疾患を持っている人や、疲れていたり、睡眠不足の人は、人混みや繁華街への外出を控えましょう。罹患したとき重症化する可能性が高くなります。
 空気が乾燥すると、インフルエンザに罹患しやすくなります。室内では加湿器などを使って適度な湿度を保ちましょう。常日ごろからバランスよく栄養をとることも大切です。外出時のマスクの利用や帰宅時のうがい、手洗いは、かぜの予防と併せておすすめします。


●臨床症状一般・診断治療

Q. 7:インフルエンザの症状と診断方法について教えてください。

 症状については、突然の38〜39℃を超える発熱と上気道炎症状、そして全身倦怠感等の全身症状が出現することが特徴的です。流行期(我が国では例年11月〜3月)にこれらの症状のあった場合はインフルエンザの可能性が高いと考えられます。B型よりもA型のほうが症状は強い場合が多く、潜伏期は1日から5日(平均3日間)とされています。通常、症状は約1週間で軽快することがほとんどですが、肺炎などを合併する場合もあり、注意が必要です。感染直後にインフルエンザウイルス抗原を検出するための迅速診断キットがあり、ベッドサイドや外来でも診断が可能です。咽頭などからウイルスが分離されたり、血液検査で抗体価の上昇が認められれば診断が確定されます。

Q. 8:合併症について教えてください。

 抵抗力の弱い高齢者・乳幼児、気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全(免疫抑制剤による免疫低下も含む)などの方は、インフルエンザにかかると合併症を併発する場合があります。高齢者では細菌の二次感染による肺炎、気管支炎、慢性気管支炎の増悪が起こりえます。また、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんが起こりえます。その他の合併症としては、ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎、心筋炎、アスピリンとの関連が指摘されているライ症候群などが挙げられます。合併症の状況によっては入院を要したり、死亡する例もあり注意を要します。近年我が国では、小児において年間100〜200例の、インフルエンザに関連したと考えられる急性脳症の存在が明らかとなり、現在病態の解明が進められています。

Q.9:インフルエンザに罹ったときの発熱に使う解熱剤について教えてください。

 解熱剤には、インフルエンザに罹っているときは使用を避けなければならないものがあります。例えば、アスピリンなどのサリチル酸系解熱鎮痛薬は、15歳未満のインフルエンザの患者さんへ投与しないことになっています。

(サリチル酸系解熱剤関連リンク)
医薬品・医療用具等安全性情報No.151「ライ症候群とサリチル酸系製剤の使用について」
 http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI151d.html#9
医薬品・医療用具等安全性情報No.167「サリチル酸系製剤の小児に対するより慎重な使用について」
 http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI167d.html#11

 また、ジクロフェナクナトリウム、メフェナム酸という成分を使った解熱剤についても、15歳未満のインフルエンザの患者さんへ投与しないことになっています。

(ジクロフェナクナトリウム関連リンク)
厚生労働省発表資料「小児のライ症候群等に関するジクロフェナクナトリウムの使用上の注意の改訂について」(平成13年5月30日)
 http://www.pharmasys.gr.jp/happyou/PMDSI_010530_2.pdf
医薬品・医療用具等安全性情報No.163「インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウム製剤の使用について」
 http://www.pharmasys.gr.jp/iyaku_anzen/PMDSI163d.html#16

 メフェナム酸という成分を使った解熱剤については、厚生労働省が主催した会議における小児科の医師、インフルエンザ脳炎・脳症の研究者などの意見の一致に基づいて、アスピリン、ジクロフェナクナトリウムと同様に15歳未満の小児のインフルエンザに伴う発熱に対して投与しないことになっています。

(メフェナム酸関連リンク)
厚生労働省発表資料「インフルエンザによる発熱に対して使用する解熱剤について」(平成13年5月30日)
 http://www.pharmasys.gr.jp/happyou/PMDSI_010530_1.pdf
厚生労働省医薬品情報提供システム
使用上の注意改訂情報(平成13年6月15日)
 http://www.pharmasys.gr.jp/kaitei/kaitei20010615.html#1

 医療機関で処方された薬は、医師が患者さんの状態を診察して、その状態に合ったものを必要な量お渡しするものです。したがって別の人に処方された薬はもちろん、当人であっても別の受診時に処方されて使い残したものを使用することは避けるべきです。
 別の疾患にかかったときに医療機関で処方された解熱剤の使用、特に家庭に残っているものをやむを得ず使用するにあたっては、処方した医師やかかりつけの医師によく相談して下さい。なお、薬局・薬店で購入できる市販のかぜ薬はかぜの諸症状を緩和するもので、インフルエンザに対する効果は認められていません。インフルエンザと思われる症状が現れたときはすみやかに医療機関を受診して下さい。
 また、市販の解熱鎮痛薬の一部にはアスピリンなどのサリチル酸系の解熱鎮痛成分を含んだものがあり、大人用としてのみ使用が認められています(15歳未満の子供向けには認められていません!)。医療機関を受診するまで差しあたっての処置として使用する際も、使用上の注意をよく読んで正しく使うようにして下さい。

Q.10:インフルエンザにはどんな治療法がありますか?

 早めに治療し、体を休めることは、自分のからだを守るだけでなく、他の人にインフルエンザをうつさないという意味でも大変重要なことです。一般的に言えることは、以下のようなことです。

・ かぜだと考えずに、早めに医療機関を受診して治療を受けましょう。
・ 安静にして、休養をとりましょう。特に睡眠を十分にとることが大切です。
・ 空気が乾燥するとインフルエンザにかかりやすくなりますので、部屋の湿度を保ちましょう。
・ 水分を十分に補給しましょう。お茶、ジュース、スープなど飲みたいもので結構です。

 インフルエンザに対する特異的な治療として、1998年11月から抗インフルエンザウイルス治療薬が使用できるようになりました。また、インフルエンザにかかったことにより、他の細菌にも感染しやすくなりますが、このような細菌の混合感染による肺炎、気管支炎などの合併症に対する治療として抗生物質が使用されます。これらの薬の効果については、インフルエンザの症状が出はじめてからの時間や体の状態により異なりますので、使用する、しないは医師の判断となります。なお、いわゆるかぜ薬は、発熱や鼻汁、鼻づまりなどの症状をやわらげることはできますが、インフルエンザウイルスや細菌に直接効くものではありません。

Q.11:インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?

 我が国では1970年代からパーキンソン病の治療薬として用いられてきた塩酸アマンタジンが、平成10年11月A型インフルエンザ用の抗ウイルス剤として認可されました(しかし、A型のみにしか効果はありません)。米国では重症化のおそれがあるとされるグループやワクチンの接種が出来ない者、医療従事者へのワクチン接種を補う予防薬としての位置付けが確立しています。しかしながら、我が国では抗ウイルス剤としての使用経験が少なく、また、アマンタジンを投与された患者の約30%でアマンタジン耐性のA型インフルエンザウイルスが出現するという報告もあることから注意が必要です。副作用としては、主として嘔気などの消化器症状やふらつき、不眠などの中枢神経症状が軽度ながら出現することがあると報告され、使用した場合の注意事項としては、車の運転を避けることなどが挙げられています。

 また、インフルエンザウイルスが細胞から細胞へ感染、伝播していくためにはウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼの作用が不可欠ですが、近年この作用をブロックすることによってインフルエンザウイルスの増殖を阻害する抗インフルエンザウイルス剤が開発されました。ノイラミニダーゼはA、B型に共通であることから、A型、B型インフルエンザ両方に効果があります。現在2種類の薬剤が使用可能であり、ザナミビルは平成11年12月より健康保険の適応となっている吸入薬です。これに加えて、平成13年2月より、経口薬であるリン酸オセルタミビルについても、治療が健康保険の適応となり、平成14年4月からは小児用のドライシロップも使用可能となっております。
 これらは発症後40〜48時間以内に服用しないと効果がないとされており、いずれも、医師の処方が必要な薬剤ですので、十分相談のうえ、処方をうけて下さい。


●予防接種

Q.12:インフルエンザの予防接種はいつごろ受けると効果的でしょうか?

 インフルエンザに対するワクチンは、その効果が現れるまで約2週間程度かかり、約5ヶ月間その効果が持続することと、多少地域差はありますが、我が国のインフルエンザの流行は12月下旬から3月上旬が中心になりますので、12月中旬までに接種をすまされることをお勧めします。2回接種では、2回目は1回目から1〜4週間あけて接種しますので、1回目は早めに接種しましょう。

Q.13:インフルエンザの予防接種は効果がありますか?

 インフルエンザの予防接種で、インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し、健康被害を最小限にとどめることが期待されます。厚生科学研究費による研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究(主任研究者:神谷 齊(ひとし)(国立療養所三重病院))」の報告によると、65歳以上の高齢者について約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったとしています。また副反応については高齢者であっても重篤なものはなかったとしています。インフルエンザに対する治療法も実用化されましたが、感染前にワクチンで予防することがインフルエンザに対抗する最も有効な手段です。特に65歳以上の方や基礎疾患を有する方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)はインフルエンザが重症化しやすいので、かかりつけの医師とよく相談のうえ、接種を受けられることをお勧めします。なお、当然のことですが、インフルエンザの予防接種では他のかぜウイルスによる「かぜ」(かぜ症候群)を防止することはできません。

Q.14:インフルエンザの予防接種は何回受ければよいのでしょうか?

 現在、日本で行われているインフルエンザの予防接種に使用するインフルエンザHAワクチンについては、平成12年4月に中央薬事審議会において最近の研究成果を踏まえ、接種回数の見直しにつき審議が行われました。その結果に基づき、平成12年7月から薬事法上の用法・用量が以下のように変更されました。

 
 およそ1〜4週間の間隔をおいて0.5mlずつ2回皮下に注射する。ただし、6歳から13歳未満のものには0.3ml、1歳から6歳未満のものには0.2ml、1歳未満のものには0.1mlずつ注射する。
 0.5mlを皮下に、1回又はおよそ1〜4週間の間隔をおいて2回注射する。ただし、6歳から13歳未満のものには、0.3ml、1歳から6歳未満のものには0.2ml、1歳未満のものには0.1mlずつ2回注射する。


Q.15:昨年インフルエンザの予防接種を受けたのですが今年も受けたた方がよいでしょうか?

 毎年接種することをお勧めします。と言うのも、インフルエンザウイルスは毎年変化しながら流行するため、今年流行が予測されるウイルスにあったワクチンを接種しておくことが有効です。ワクチンが十分な効果を持続する期間が約5か月と短期間であることを考慮すれば、毎年インフルエンザが流行する前に接種を受け、免疫を高めておくことが必要です。
 また、シーズンごとに流行する株が異なることがあるため、ワクチンも毎年新しいものが作られています。昨(2001/2002)シーズン(A/New Caledonia/20/99 (H1N1)、A/Panama/2007/99(H3N2)、B/Johannesburg/5/99)と比べて、今(2002/2003)シーズンはA型2種類は同じですが、B型がB/山東/7/97に変わっています。

Q.16:特に予防接種を受けた方がよいのはどのような人でしょうか?

 第一に65歳以上の高齢者が挙げられます。また、乳幼児や基礎疾患を有する方(気管支喘息等の呼吸器疾患、慢性心不全、先天性心疾患等の循環器疾患、糖尿病、腎不全、免疫不全症(免疫抑制剤による免疫低下も含む)など)は、インフルエンザの重症化を防ぐためにワクチンによる予防が望ましいと考えられます。また、これらの方と接する機会が多い方も「インフルエンザをうつさない」との観点から予防しておく方が望ましいかと考えます。いずれの場合も、かかりつけの医師と相談のうえ、流行期に間に合うようワクチンを接種することをお勧めします。

Q.17:インフルエンザの予防接種を受けることが好ましくないのはどんな場合ですか?

 ワクチン接種には不適当と考えられる方は以下のように示されています。

<予防接種実施規則第6条による接種不適当者(抜粋)>

(1) 明らかな発熱*を呈している者
(2) 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
(3) 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によってアナフィラキシーショックを呈したことが明らかな者
(4) その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

 *:通常は、37.5℃を超える場合をいいます。

Q.18:妊婦はインフルエンザの予防接種を受けることができるでしょうか?

 インフルエンザワクチンは病原性をなくした不活化ワクチンであり、胎児に影響を与えるとは考えられていないので妊婦は接種不適当者には含まれません。しかし、妊婦又は妊娠している可能性の高い女性に対してインフルエンザワクチン接種をしたという国内での調査成績はまだ十分に集積されていないので、現段階では予防接種によって得る利益が不明の危険性を上回るという認識が得られた場合に接種を行う、ということが適切でしょう。
 米国の報告では、もし接種するなら妊娠のごく初期(妊娠13週前後まで)を除き、行うのが望ましいとされています。今のところ妊婦に接種した場合に生ずる特別な副反応の報告はありません。

Q.19:インフルエンザワクチンはどのようにつくられているのですか?

 インフルエンザワクチンに含まれるウイルス株はインフルエンザの流行状況を考え毎年決定されます。日本で使用されているワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを孵化鶏卵の尿膜腔内に接種して培養、増殖させ、漿尿液から遠心にて精製・濃縮したウイルスをエーテルで処理し、その副反応の原因と考えられる脂質成分の大部分を除去し、更にホルマリンで不活化(病原性をなくすこと)したHAワクチンです。
 ちなみに、インフルエンザワクチンは有精卵から作られるため、急な大量生産は出来ません。

Q.20:卵アレルギーのある人にインフルエンザの予防接種はできるでしょうか?

 卵アレルギーの程度にもよりますが、ほとんどの場合問題なくできます。ただ、ワクチンの製造過程においてインフルエンザウイルスの増殖に孵化鶏卵を用いるためにわずかながら卵由来の成分が残存します。これによる卵アレルギーの副作用がごくまれに起こり得ます。近年は高純度に精製されているのでほとんど問題となりませんが、重篤な卵アレルギーがある場合、例えば鶏卵を食べるとひどい蕁麻疹や発疹を生じたり口腔内がしびれる人に対しては、接種を避けるか、注意して接種する必要があります。卵成分によってアナフィラキシーショックを起こした事がある方は専門医にご相談ください。

Q.21:インフルエンザの予防接種をしたときの副反応にはどんなものがありますか?

 一般的に副反応は軽微です。接種局所の反応が主であり、発赤、腫脹、疼痛をきたすことがありますが2〜3日で消失します。発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などもまれに起こります。極めてまれですが、死亡例の届け出もあります。これまでの我が国での統計では、インフルエンザワクチンによる可能性があると認定された死亡事故は約2,500万接種あたり1件です。
 卵アレルギーの人には蕁麻疹、発疹、口腔のしびれ、アナフィラキシーショックなどが現れる可能性があります。また、ワクチンに安定剤として含まれていたゼラチンに対するアレルギー反応としてのアナフィラキシーが報告されていましたが、現在、ゼラチンを含まない製品へと改善が進んでいます。
 その他ギランバレー症候群、急性脳症、痙攣、紫斑などの報告がありますが、その関連については明らかな証拠は確認されていません。

Q.22:インフルエンザの予防接種の費用はどうなるのですか?

 65歳以上の方、及び60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方は、予防接種法による定期の予防接種の接種対象となりますので、詳しくはQ&Aの予防接種法改正関係をご覧下さい(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、市町村にお尋ね下さい)。
 また、そのほかの方の接種は、従来どおりの任意接種で、ご本人と医療機関との契約と言うこととなりますので、費用も全額自己負担となります。

Q.23:インフルエンザワクチンで健康被害が発生した場合は、どのような対応はなされるのですか?

 予防接種法による定期接種の場合、予防接種と健康被害の間に関係があると認定されると、予防接種法による被害救済の対象となります。詳しくは予防接種法改正関係をご覧下さい。
 また、予防接種法の定期接種によらない任意の接種によって健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法による被害救済の対象となります。健康被害の内容、程度等に応じて、薬事・食品衛生審議会(副作用被害判定部会)での審議を経た後、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。詳細な内容は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。


●インフルエンザの流行

Q.24:今年流行するインフルエンザはどの株ですか?

 最近は、2種類のA型インフルエンザとB型インフルエンザの3種類の型のウイルスが、同じシーズンの中で検出されています。1999/2000シーズンの流行の中心はA/H1N1(ソ連)型と、シドニー株のサブタイプが中心のA/H3N2(香港)型との混合でした。2000/2001シーズンはA/H1N1(ソ連)型と、これまでのワクチン株と異なる四川株が中心のインフルエンザBとの混合流行で、A/H3N2(香港)型は小規模でした。2001/2002シーズンは、A型ウイルスが2月初めに、A/H1N1(ソ連)型を中心としたA/H3N2(香港)型との混合の流行がみられ、ビクトリア株を中心としたB型がこれに少し遅れて、3月初めに流行のピークがみられました。このB型は、近年流行していた山形株系統のB型とは抗原性が異なるビクトリア株で、2000/2001シーズンにハワイで約10年ぶりに分離されたのを皮切りに、2001/2002シーズンは世界各地から報告されました。
 以上から、今年のワクチンは、A/H1N1(ソ連)型のニューカレドニア株、A/H3N2(香港)型のパナマ株(シドニー株に対応できる)、B型の山東株(ビクトリア株に対応できる)を混合したものです。流行や検出の現状は、地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。

○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
   http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

Q.25:今、私の住む地域ではやっているインフルエンザはどの株ですか?

 インフルエンザシーズンには、日本中からインフルエンザウイルスの情報が集められます。これらは患者の皆さんと全都道府県にあるインフルエンザ定点医療機関の協力によってウイルス検査のための検体が集められ、地方衛生研究所で検査されます。ピーク時には週1,000件以上検査され、その状況が逐次集められます。ウイルスの分離は時間がかかるので患者さんの発生数に遅れてそのデーターが集まってきますが、ウイルス検出の状況は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。

○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
   http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

○地方衛生研究所・保健所ホームページへのリンク:
   http://idsc.nih.go.jp/others/phc.html
参考:我が国のインフルエンザに関連する調査
1)感染症法に基づく定点医療機関からの報告数:小児科約3,000、内科約2,000、計5,000の全国のインフルエンザ定点医療機関から週単位で保健所に報告されている。
2)病原体定点からの流行株情報:定点医療機関の内約10%が病原体定点となり咽頭ぬぐい液などを採取し、地方衛生研究所で検査している。
3)インフルエンザ様患者発生数:保育所、幼稚園、小学校、中学校等におけるインフルエンザ様疾患が集団発生したことによる、休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を把握するために各施設から保健所に毎日報告される。この報告は各都道府県の感染症担当部局で週単位にまとめられ、全国の現状を知ることができる。

Q.26:どのくらいの人がインフルエンザにかかっていますか?

 インフルエンザは、平成11年4月に施行された感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の四類定点報告疾患であり、インフルエンザを報告する定点医療機関から、法に基づいた報告がされています。臨床診断に基づいて、1.突然の発症、2.38℃を越える発熱、3.上気道炎症状、4.全身倦怠感等の全身症状の、四つの規準を全て満たすインフルエンザ様疾患と、必ずしも臨床の規準は満たしていないけれど、ウイルスの分離や抗体価の検査で、インフルエンザと診断されたものについて報告されます。全国約5,000の定点から、2001/2002シーズン(11月〜4月)の間に、約66万人、定点当たり約140人の報告がありました。この報告数は、実際の患者数の一部分ですので定点からの報告を基に厚生労働省の研究班が、2000年の全国での罹患数を推計したところ、約959万人でした。このほか、全国の保育所、幼稚園、小学校、中学校等における休校数、学年・学級閉鎖施設数の状況を把握するための「インフルエンザ様疾患発生報告」があります。この10年ほどを見ると、多い年では約128万人(1997/1998シーズン)が報告されており、また2001/2002シーズンでは約34万人が報告されています。
 流行や検出の現状は地域の感染症情報センター、保健所や国立感染症研究所のホームページで知ることができます。

○国立感染症研究所感染症情報センターホームページ:
   http://idsc.nih.go.jp/index-j.html

Q.27:インフルエンザ流行のピークはいつですか?

 近年の流行のピークは、2月初め頃で、12月から患者数が増え始め、4月には終息することが多いようです。

Q.28:インフルエンザは外国でもはやっていますか?

 インフルエンザは世界中で流行していますが、温帯地方では冬に(南半球では7〜8月)、熱帯・亜熱帯地方では雨季を中心に流行が見られます。流行株は国によって若干の差はありますが、大きな差はありません。アメリカ合衆国では、毎年数百万人、人口の10〜20%が罹患すると推計されており、年間に約2万人もの死者が出ています(CDC)。世界の流行状況は、WHOが発行しているホームページ:http://oms2.b3e.jussieu.fr/flunet/ で知ることができます。


●予防接種法改正関係

Q.29:今回の予防接種法の改正でインフルエンザの予防接種はどのようになるのですか。受けやすくなるのですか。

 これまでの、インフルエンザの予防接種は任意接種であり、全額自己負担により受けることとなっていましたが、平成13年の予防接種法の改正により、インフルエンザは予防接種法による、定期接種の「二類疾病」となりました。「一類疾病」とは、発生及びまん延を予防することを目的として、予防接種法の定めるところにより予防接種を行う疾病で、「二類疾病」は、個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の防止に資することを目的として、予防接種法に定めるところにより予防接種を行う疾病です。

 これによりインフルエンザは、(1) 市町村長が予防接種機会を設けることとなったこと、(2) 対象者には積極的に通知がなされること、(3) 接種場所も通知されること、(4) 接種にあたって、一部公費負担が導入されることにより、全体として費用負担が減じること。(一部負担額は市町村によって異なります。)となりました。

 また、予防接種により障害などの健康被害が生じたと認定された場合には、予防接種法に定められた医療費や各種手当などの給付を受けられるようになります。具体的には、健康被害の内容、程度に応じて、市町村長が設けた予防接種健康被害調査委員会、厚生労働省の疾病障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会)での審議を経たあと、医療費、医療手当、障害年金、遺族年金、遺族一時金などが支給されます。支給額は医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法の規定に準じた額となります。
 詳しくは以下のアドレスの厚生労働省ホームページ政令掲載部分をご覧下さい。
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1b.html

Q.30:予防接種は誰でも受けられるのですか。

 誰でも受けられます。しかし、定期接種として、費用負担の軽減や、予防接種による健康被害の救済・保障が法的に認められた対象となるのは、65歳以上の方及び、60歳以上65歳未満の方で心臓やじん臓、呼吸器等に重い病気のある方や、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能が低下している方などです(60歳以上65歳未満の方で、対象となるかどうかわからない場合は、市町村にお尋ね下さい)。その他の方はこれまでどおり任意接種の形で、自らの意志に基づいて接種費用を自己で負担して受けることができます。

Q.31:今年65歳になるのですが、いつから予防接種法定期接種の対象になるのでしょうか。

 65歳の誕生日から、予防接種法定期接種による接種を受けることができます。

Q.32:私は50歳で、予防接種法定期接種の対象外なのですが、インフルエンザの予防接種を受けることができるのでしょうか。

 予防接種法定期接種の対象外の方は、これまでどおり自らの意志に基づいて任意に、接種費用を全額自己で負担して受けることができます。
 また、ワクチンが原因で予防接種により障害などの健康被害が生じた場合は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法による被害救済の対象となります。詳細な内容は、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(TEL:03-3506-9411)にご照会ください。

Q.33:予防接種法に基づく接種対象になると、必ず受けなければならないのですか。

 そんなことはありません。予防接種法によるインフルエンザの予防接種については、自らの意思で接種を受けるかどうかを判断していただきます。強制されることはありません。

Q.34:予防接種を受けたいのですが、いくらかかるのでしょうか。

 定期の予防接種の費用については、予防接種は疾病から被接種者自身を予防するという個人の受益の要素があることから、市町村の判断により経済的理由により負担できない方を除き、実費を徴収することができることとされています。
 具体的な額、実費を徴収されない方の詳細については、市町村によって異なりますので、お住まいの市町村にお問い合わせください。
 予防接種法定期接種の対象外の方は、これまでどおり、接種費用を自己で負担していただくことになります。

Q.35:住民票と異なるところに長期滞在しているのですが、現在地で予防接種を受けることはできますか。

 予防接種法による接種は、市町村が実施するため、住民票のある市町村が指定する医療機関などで受けていただくのが原則です。しかし、市町村によっては住民票と異なるところに滞在している方に便宜を図っていることもありますので、詳しくはお住まいの市町村にお問い合わせください。

Q36:痴呆の方にも予防接種を受けさせることはできますか。

 対象者の意思確認が困難な場合は、家族又はかかりつけ医の協力により対象者本人の意思確認をすることとし、接種希望であることが確認できた場合に接種を行うことができます。対象者の意思確認が最終的にできない場合は、予防接種法に基づいた接種を行うことはできません。


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2003年02月02日