平成11年10月8日
1.作成の趣旨
公衆衛生審議会の意見書において、結核院内感染防止対策の重要性が指摘されており、院内感染防止ガイドラインの策定が求められていました。
そこで、厚生科学研究の新興再興感染症研究事業積極的疫学調査緊急研究班(主任研究者
森
亨結核研究所長)が、日本医師会感染症危機管理対策室、結核予防会及び日本結核病学会の協力を受け、今般、「結核院内(施設内)感染予防の手引き」として策定したものです。
2.内容のポイント
(1)結核の感染・発病と院内感染の現状
・我が国における結核院内感染の現状と増加の要因
(2)医療機関等における結核予防対策の基本的考え方
・患者の早期発見
・患者発生時の対応
・職員の健康管理
・院内感染対策委員会
・構造設備と環境面での対策
・器物の消毒
・感染性患者の搬送にかかる感染防止
(3)医療機関等における予防対策の実施
(参考)
その他付録として、結核症の診断手順、結核に関する諸手続と公費負担申請、院内(施設内)感染の場合における保健所の対応、用語解説、参考文献等を掲載
阿彦忠之 | 山形県村山保健所 所長 |
石川信克 | 結核予防会結核研究所 副所長 |
稲垣智一 | 東京都南多摩保健所 保健サービス課長 |
犬塚君雄 | 豊田市保健所 所長 |
加藤誠也 | 札幌市保健福祉局 保健指導担当課長 |
川辺芳子 | 国立療養所東京病院 呼吸器科医長 |
國田松博 | 北海道帯広保健所 保健予防課長 |
小池麒一郎 | 日本医師会常任理事 |
櫻井秀也 | 日本医師会常任理事 |
宍戸眞司 | 国立療養所松江病院 第1呼吸器科医長 |
豊田 誠 | 高知市保健所 健康づくり担当主幹 |
中島由槻 | 結核予防会複十字病院 診療部長 |
二宮 清 | 国立療養所福岡東病院 診療部長 |
原 英記 | 国立療養所近畿中央病院 内科医長 |
前田秀雄 | 東京都渋谷区保健所 予防課長 |
森 亨 | 結核予防会結核研究所 所長 |
山下武子 | 結核予防会結核研究所 研修部長 |
山田統正 | 日本医師会常任理事 |
吉山 崇 | 結核予防会結核研究所 疫学研究部疫学科長 |
厚生省は、本年6月30日に公衆衛生審議会から提出された「21世紀に向けての結核対策(意見)」に基づき、7月26日に結核対策に関係する医療関係団体等にお集まりいただいた結核対策連絡協議会を開催し、その席上で宮下厚生大臣から「結核緊急事態宣言」を発表いたしました。その背景として、平成9年の統計において、結核の年間新規発生患者数が38年ぶりに、同罹患率が43年ぶりに増加に転じたこと、行政関係者や医療関係者をはじめとして国民が結核を過去の病気であると錯覚しがちであったこと、多剤耐性結核の出現、高齢者における結核患者の増加していることと合わせて、医療機関や施設における結核集団感染が増加していることが挙げられます。結核集団感染の定義(同一の感染源から20人以上の結核感染者、発病者1人は感染者6名とみなす)に合致したものは、都道府県を経由して厚生省に報告されますが、医療機関における結核院内集団感染の報告数だけでも年間10件を越える状況であり、結核の院内感染対策は結核対策全体の中でも緊急性、重要性が極めて高い課題となっています。また、公衆衛生審議会の意見書においても、結核院内感染防止対策の重要性が指摘されており、院内感染防止ガイドラインの策定を求められていました。
このような状況のもと、厚生省では、厚生科学研究新興再興感染症研究事業において、結核予防会結核研究所の森所長を主任研究者とし、全国の結核対策に携わっておられる専門家の方々を分担研究者又は研究協力者とする積極的結核疫学調査緊急研究班を設置いたしました。今般、同研究班の精力的な作業と関係者の御協力によって、ここに結核院内感染予防の手引きが策定されましたことは、時宜を得たことであります。
本指針の内容は、一般の医療機関を主たる対象とした上で、さらに結核病院、精神病院、施設等での対応について必要最小限の事項が記載されています。我が国の医療機関や各種施設の方々が本手引きを参考とされ、各々の立場で結核院内(施設内)感染予防対策を進められることを期待しております。また、本手引きを作成された同研究班の方々、日本医師会感染症危機管理対策室、結核予防会及び日本結核病学会の御尽力・御協力に対して厚く御礼を申し上げます。
最後に、我が国の結核問題に立ち向かっていくためには、厚生省を初めとする行政関係者も従前の対策を見直しつつ、新たな気持ちで結核対策の強化を進めていく必要があると考えております。今後、引き続いて「保健所における結核対策強化の手引き−積極的疫学調査を中心に−」を策定・公表する予定であり、保健所を初めとする行政関係者と医療関係者が密接な連携のもと、予防と医療の両面があいまった総合的な結核対策の強化に取り組んでまいりたいと考えております。医療関係者の方々におかれましても御理解と御協力をお願いいたします。
平成11年10月8日
1.結核の感染・発病
2.患者の早期発見
3.患者発生時の対応
4.職員の健康管理
7.器物の消毒
4.矯正施設での対応
7.通所施設での対応
1.結核症の診断手順
2.結核に関する諸手続と公費負担申請
3.院内(施設内)感染の場合における保健所の対応
4.用語解説
5.参考文献
(1)結核の感染
(2)結核の発病
表1.結核の感染と発病のポイント |
・結核の感染は飛沫核感染(空気感染ともいう) ・咳の激しい喀痰塗抹検査陽性患者に特に注意 ・結核に感染した者の中でBCG未接種者の場合、発病頻度は約10% ・BCG既接種者が感染した場合、発病は5ヶ月以降が多い |
表2.わが国における結核院内感染増加の要因 |
・高齢者を中心に塗抹陽性結核患者数の発生件数が増加した。 ・若い医療従事者の大半が結核未感染である。 ・結核診断が遅れる場合がある。(患者の受診の遅れと医師の診断の遅れ) ・施設の構造や設備が感染防止に不適切で、しかも密閉された空間が多くなった。 ・気管支内視鏡検査、気管内挿管や気管切開、ネブライザーなど咳を誘発する処置が増加した。 |
表3.結核院内感染対策の基本的な5要素 |
・結核菌の除去…早期発見、一般患者等との分離、化学療法 ・結核菌の密度の低下…換気、紫外線照射、患者のマスク ・吸入結核菌数の減少…職員のマスク(N95) ・発病の予防…BCG接種、化学予防 ・発病の早期発見…定期検診、有症状時の受診 |
表4.患者の早期発見のポイント |
・咳が続く患者等の結核菌検査の実施 ・医療機関の実状に応じた優先診察制度の検討 ・結核発病の高危険群の患者への結核を念頭においての診療 (とくに喀痰塗抹結核菌検査) |
(1)基本的流れ
図1.入院患者から結核菌陽性患者が発生した場合の対応策の流れ
表5.患者発生時の対応のポイント |
・院内感染対策委員会に報告する。 ・患者の排菌状況を踏まえて、その入院先を決定する。 ・保健所に発生届けを2日以内に提出し、臨時の健康診断(定期外検診)について保健所と協議する。 ・職員、他の患者への感染の可能性及び院内の感染源について検討する。 ・定期外検診を実施し、その後1〜2年間程度の追跡体制を敷く。 (特に初発患者と接触のあった他の患者や退院後の患者、若年の患者など、発病リスクの大きい患者などについては、保健所と連携し、追跡を確実に行う。) |
(2)患者の転院の要否
(3)職員などの定期外検診
(1)採用時のツ反
(2)採用時のBCG接種
(3)定期健康診断と日常の健康管理
(4)職員の感染防止
表6.職員の健康管理のポイント |
・採用時のツ反(特に39歳以下)は二段階法で ・ツ反陰性者に対するBCG接種(特に感染リスクの大きい場合) ・定期健康診断の確実な受診 ・普段の健康管理(特に長引く咳に注意) ・必要な場合にN95型マスクの着用 |
(1)院内感染対策委員会の設置
表7.院内感染対策委員会の役割 |
・院内感染リスクの評価 ・院内感染対策指針の作成、運用 ・職員教育 ・構造設備と環境面の対策の立案、実施 ・院内感染対策の総合評価 ・その他 |
(2)院内感染リスクの評価
表8.院内感染リスクの評価ポイント |
・前年1〜3年間に診断された結核患者数(塗抹又は培養陽性、職員を含む) ・診断された結核患者の受診から診断までの過程の分析(受診回数、日数等) |
(3)院内感染対策指針の作成・運用
表9.院内感染対策指針に盛り込むべきポイント |
・外来、病棟における結核疑い例の選別方法の勧告 ・医療機関の実状に応じた優先診察制度導入 ・結核と診断された者又は疑いのある者への対応方法 ・他疾患で入院中の者で結核合併が発見された場合の対応方法 ・細菌検査室、気管支鏡検査室、病理解剖室等での注意事項 ・その他 |
(4)職員教育
表10.結核に関する職員教育のポイント |
・結核の疫学と基本的予防方法 ・結核感染の起こり方(飛沫核感染) ・感染源としての危険度の大小(感染危険度指数) ・感染と発病(発病までの期間、発病率) ・検査法とその結果の解釈(ツ反、抗酸菌検査等) ・感染防止方法(マスクの意義) ・BCGの発病防止効果 ・感染防止マスクの着用訓練 |
表11.構造設備、環境面での対策のポイント |
・感染性結核患者の収容区域の空気が他の区域に流出しないように ・換気は十分に(7〜12回/時間) ・気管支内視鏡検査、採痰等を行う部屋も空気の流出に注意が必要 ・紫外線照射装置は基本的には有効だが、補助的手段である |
結核菌に汚染された可能性のある診療器具等の感染防止上の扱いは以下のように行う。
表12.医療機関等における基本的な結核予防対策のまとめ |
・結核担当者を加えた院内感染対策委員会の設置 ・院内感染リスクの評価 (過去1年間の結核患者診断数、受診から診断までの分析) ・院内感染対策指針の作成、運用 ・医療機関等の実状に応じた優先診察制度導入の検討 ・結核の予防、感染対策、診断、治療等についての職員教育 ・結核患者を収容できる個室の確保 ・必要な場合のN95型マスクの着用 ・職員の定期健康診断受診の励行 ・患者発生時の定期外健康診断の実施 |
ここでは診断のついていない、あるいは治療されていない結核患者からの感染を防止することが最大の課題である。診療科や区域に応じて、以下のような体制の整備が重要である。
(1)一般外来
(2)一般病床
(3)高齢者、結核易発病者の多い病棟
(4)小児科関連施設での対応
(5)内視鏡検査・呼吸管理等の実施区域
(6)細菌検査室
(7)採痰室
(8)病理検査室(解剖室)
表13.病理検査室における留意事項 |
・N95型マスクを着用する ・空調の気流は解剖台の上から下へ流れるように設計する ・肺など摘出臓器は切開する前にホルマリンで十分に固定・滅菌する ・電動鋸には覆いをかけて広範な飛沫の飛散を防ぐ ・薄切切片の作成は感染防止用装置を用いることが望ましい |
表14.結核病床を有しない一般医療機関での留意ポイント |
・一般外来における結核が疑われる患者の早期把握と対応 ・一般病床において結核患者がでた場合の的確な対応 ・高齢者等の結核易発病群に対する注意 ・気管支内視鏡検査室、細菌検査室、採痰室、病理検査室(剖検室)での結核を想定した対応 |
(1)結核病床(棟)での対応の基本的考え方
(2)確実な治療と多剤耐性結核の発生防止
(3)病室・病棟、検査室の運営
(4)職員の感染防止と患者指導
表15.結核病床(棟)での具体的対応のポイント |
・一般の医療機関での対応策の実施 ・菌陽性の新入院患者を初め2週間程度収容する部屋の確保 ・多剤耐性結核の患者を収容する部屋の確保 ・菌陽性の患者を収容する病室の扉を閉めておくこと ・菌陽性の患者が部屋からでるときはガーゼマスクの着用 ・菌陽性の患者の部屋に職員が入る場合にはN95型マスクの着用 ・採痰室、気管支内視鏡検査、剖検室等の空調の整備 |
(1)精神病院での対応の基本的考え方
表16.精神病院での結核集団感染の特徴 |
・患者が感染源の場合が多い 結核既感染の高齢者が、長期入院患者が多い ・患者発見が遅れることが多い 患者が症状を訴えない 病棟等が閉鎖されていることが多い 患者が1カ所に集まっていることが多い 胸部X線撮影の読影に慣れた医師が少ない ・対応が難しいことが多い 中高年者のためにツ反の解釈が困難 化学予防の実施も困難な場合がある |
(2)患者の早期発見
(3)組織的取り組み
(4)職員の健康管理
(5)保健所との連携
表17.精神病院における結核院内感染対策のポイント |
・入院時に胸部X線検査を行い、異常(所見)の有無を記録しておくことが重要 (39歳までの患者ではツ反も実施しておくことが望ましい) ・年1回は胸部X線検査を実施することが重要 ・看護職員等は、患者の咳に注意し、咳が続く場合は胸部X検査の実施 ・換気回数は多いほど良い ・結核患者が発生した場合は保健所と密接な連携が不可欠 |
矯正施設(監獄、少年院、婦人補導院)は、行動の制限を伴う集団生活を営む場として、健康管理の上で結核の発生に関して特別の注意を払う必要がある。
(1)患者の早期発見
(2)患者発見時の対応
(3)保健所との連携
表18.矯正施設における結核施設内感染防止のポイント |
・被収容者の状況に応じて、入所時に胸部X線検査を行い、異常(所見)の有無を記録しておくことが重要(39歳までの入所者ではツ反も実施することが望ましい) ・年1回は胸部X線検査を実施することが不可欠 ・職員等は、患者の咳に注意し、咳が続く場合は胸部X検査の実施 ・換気回数は多いほど良い ・結核患者が発生した場合は保健所と密接な連携が不可欠 |
高齢者の入所施設は、高い罹患率をもつ年齢階層の人々が集団生活を営む場として、健康管理の上で結核の発生に関して特別の注意を払う必要がある。
(1)患者の早期発見
(3)職員の健康管理
(4)保健所との連携
表19.高齢者入居施設における結核施設内感染防止のポイント |
・入所時に胸部X線検査を行い、異常(所見)の有無を記録しておくことが重要 ・年1回は胸部X線検査を実施することが不可欠(法定外は重要) ・職員等は、患者の咳に注意し、咳が続く場合は胸部X検査の実施 ・換気回数は多いほど良い ・結核患者が発生した場合は保健所と密接な連携が不可欠 |
その他の入所施設においても、集団生活を営む場として健康管理の上で、結核の発生に注意を払う必要があり、高齢者入所施設での対応を参考にされたい。
結核予防法第4条に定められた施設(表20)の場合には、施設の長が定期の健康診断を実施することとなっており、患者発生時には保健所と十分な連携をとり、指示に従って対応を行う。
表20.施設の長が定期の健康診断を行う施設(結核予防法第4条関連) | |
(1)矯正施設(監獄・少年院・婦人補導院) (2)社会福祉事業法第2条第2項第1号及び第2号の2から第5号の施設
|
7.通所施設での対応 通所施設、特に高齢者や障害者の関連施設では、利用者が結核に罹患することが決してまれではない。施設では日頃から利用者の健康状態に関する情報を把握するように努めることが重要である。例えば、通所開始時または年1回、必ず健康診断書または最近の定期検診結果を求める、咳痰が2週間以上続くときは必ず嘱託医の診察と胸部X線撮影を受ける、などが考えられる。
(1)問診 (2)喀痰検査
がある。いずれの方法であっても、唾液などでない、良好な喀痰が採取されなければ結核菌の検出は不可能であり、患者にはこのことを十分説明することが重要である。検痰は早朝採取を含めて3日連続して行うことが望まれる。 (3)胸部X線検査
(4)ツベルクリン反応
医療機関又は施設内における結核予防は、保健所の業務として今後重要性を増していくと考えられる。その対応は基本的には厚生省保健医療局疾病対策課結核・感染症対策室長通知(平成4年12月18日健医感発第68号)別紙「結核定期外健康診断ガイドライン」に記述されているとおりである。ここでは医療機関、施設という特殊な状況に関して、必要な点を補足する。 (1)発生予防 保健所は管内の結核発生動向調査にあたって、医療機関・施設等での患者発生について注意深く動向を把握する必要がある。これは発生届、保健婦の面接、他保健所からの連絡、関連機関からの連絡などから収集された情報に基づいて判断する必要がある。またこのような情報や連絡が十分得られるよう、保健所は常日頃から関係機関等と十分な意志疎通や問題の重要性についての啓発を行っておくべきである。 (2)発生時の対応 医療従事者(ひろく関係者を含む)あるいは受診中の患者が結核と判明した場合には、保健所は関連の情報を収集し(上記「結核定期外健康診断ガイドライン」の様式による)、これによる医療機関・施設内の感染曝露の危険性について検討を行う。その結果、その危険性があると考えられる場合には、当該医療機関等と定期外検診の実施を含めた必要な措置について協議する。本来、定期外検診は保健所が実施すべきものであるから、当該施設に措置を安易に委ねるべきではない。当該施設が自発的に健康診断等の措置を行う場合であっても、その内容は法に基づく定期外検診の方法に適合するものでなければならず、その結果に基づく事後措置については保健所が責任を持って施設に対して指導を行う。 (3)訪問活動に従事する職員の予防 保健所その他の公的施設の内外で結核患者に対して面接や指導を行う保健・医療・福祉等の職員は、職務上結核感染に曝露される可能性がある。これらの職員に対しては健康診断をはじめ、第2部、第3部で記載した医療機関職員に準じた結核感染対策のための考慮がなされるべきである。また特に、保健婦等が治療開始後間もない時期の塗抹陽性患者に面接などを行う際にはN95型マスクを着用することが望ましい。 (4)関連保健所間の連絡 病院、施設等における結核患者の発生届け出が患者の戸籍上の居住地の所轄保健所に提出されることが多い。この場合、この保健所は病院、施設等での患者発生であることが判明し次第、それら病院、施設等の所在地域所轄保健所に連絡し、当該保健所での対応を円滑に進められるよう協力する必要がある。
ガフキー号数 結核菌塗抹検査において結核菌が検出された場合、その検体に含まれている菌の量を、顕微鏡の1視野(拡大500倍)あたりに検出される菌の個数に応じて段階分けする基準。最も少ない場合をガフキー1号、最も多い場合をガフキー10号とし、中間を2号〜9号に分ける。結核菌の検査で「塗抹陽性」とはガフキー1号以上のことを指す。肺結核患者が喀痰の検査で塗抹陽性を示す場合が他に感染を及ぼすという意味で最も重要なケースである。 集団感染(定義) 厚生省が定めた「結核定期外検診ガイドライン」では以下のように定義されている。「同一の感染源が2家族以上にまたがり、20人以上に感染させた場合をいう。ただし発病者1人は6人が感染を受けた者として感染者数を計算する。」たとえば、1人の患者の接触者の中から2人の結核患者が発生し、他に10人が化学予防を指示されたような場合は、感染者総数は2(患者数)×6+10(未発病の感染者数)=22となり、この定義に当てはまる集団感染となる。 DOTS 患者の規則的な受療(服薬等)を確保し、確実な治癒と耐性菌出現の予防のために行う治療・患者治療の方法。つまり患者にまとまった量の抗結核薬を投薬することなく、毎日患者に対して医療職員の監督下で服薬させ(少なくとも最初の2ヶ月間)、その機会に必要な助言や指導を行う。もともとDirectly
Observed Treatment, Short Course
の略語で途上国で始められたものであるが、米国のような国でもいい成績を挙げ、結核治療の基本的な戦略となっている。日本の入院での治療はこれを代替すると考えられるが、外来治療においても必要なケースには積極的に適用することが求められている。 ツベルクリン反応の二段階試験 BCG接種後のツベルクリンアレルギーは時間とともに減弱する。その時にツ反検査を行うと(T1)、これが刺激となってアレルギーは再び強くなる。したがってその後再度ツ反を行うと(T2)、その反応はかなり強くなる(T2>T1)。これはブースター現象(あるいは回復効果)と呼ばれる。医療従事者に採用時にツ反を1回だけ行い(T1)、その後患者接触時に定期外検診でツ反を行うと(T2)、感染を受けていなくても上と同じ原理でT2>T1となり、感染によって反応が強くなったのと紛らわしくなる。そこで採用時にツ反を2度(T1、T2)を行っておき、ブースター現象を起こさせておき、その後の検査成績はT1、T2の成績と比較をすることによって解釈することが合理的である。このための連続の検査方式を二段階ツ反検査法と呼ぶ。なおT1とT2の間は1〜3週間とする。 感染危険度指数 発生した患者が感染源としてどの程度危険性があるかを評価する簡易な目安として、「定期外健康診断ガイドライン」で用いられているものである。つまり患者のガフキー号数(最低3回繰り返して検査したものの最大の値とする)に患者が発病後診断までの「呼吸器症状の持続期間(月単位)」を掛け合わせた値。例えば3ヶ月咳を訴えてきた患者が診断時の菌所見がガフキー5号であれば、3(月)×5(号)=15となる。この値によって感染源を10以上(最重要)、9.9〜0.1(重要)、0(その他)と段階分けし、その段階に応じた接触者への対応が規定されている。「最重要」では集団感染となることが多いことが観察されており、したがって感染源として最も厳しい対応が接触者には必要となる。 非定型抗酸菌症 結核菌は抗酸菌と呼ばれる菌の種類の一つであるが、この種類の菌の中には、環境中にその他多くの菌があることが知られている。これらの菌の大多数は病原性はないが、いくつかの菌種は条件がそろうと病気を起こすことが知られている。その条件とは患者の細胞免疫が非常に下がった場合、結核の遺残病巣や気管支拡張症のような肺の局所に抵抗性の弱い部位がある場合などである。日本では結核が治ったあと後遺症のようにこれらの菌による病気が進展してくることが多い。一方近年は先に結核がなく、塵肺や気管支拡張症などにこの菌による病変が合併することも多くなった。治療法は菌の種類によって異なるが、抗結核薬のいくつかのある程度まで有効であるが、結核のような目覚ましい効果は期待できない。 定期外健康診断 結核予防法では患者の早期発見のための健康診断が定められているが、実施時期を定めて一般の集団に行う「定期健康診断」のほかに、特定の集団に対して臨時に行う「定期外健康診断」を規定している。これは結核予防法第5条によって、「(1)結核に感染し、または公衆に結核伝染される恐れがある業務に従事する者、(2)結核蔓延のおそれがある場所または地域において、業務に従事し、または学校教育を受ける者、(3)結核蔓延の恐れがある場所または地域に居住していた者、(4)結核患者と同居する者または同居していた者」に対して、都道府県知事(政令市の市長)が行うことができるとしているものである。このなかで(1)は業態者検診、(2)〜(4)は家族検診または接触者検診として行われており、今後の結核対策においてますます重要になるものと考えられる。
1.日本結核病学会予防委員会:結核の院内感染対策について.結核 73: 95-100,1998. 2.青木正和:結核の院内感染(改訂版).結核予防会 1999. 3.青木正和:院内感染防止ガイドライン.結核予防会 1998. 4.地方医務局長協議会:国立病院・療養所「結核院内感染防止のための指針」.1998. 5.(社)日本精神病院協会:院内結核感染防止対策ガイドライン.1999. 6.US Department of Health and Human Services, Public Health Service, Centers
for Disease Control and Prevention: Guidelines for Preventing the Transmission
of Mycobacterium tuberculosis in Health-Care Facilities. MMWR 43(RR-13): 1-132,
1994.(訳:吉川他:医療施設における結核菌感染 対策のためのガイドライン.資料と展望 13: 1-3, 1995.)
職員や利用者が結核を発病したことが判明した場合には、所轄の保健所に連絡し、保健所の指示のもとに適切な措置を行う。
(付録)
1.結核症の診断手順
等、様々なものが認められる。しかし、最も重要なポイントは、2週間以上続く咳(一時的中断があっても繰り返すものを含む)の場合は、まず第一に肺結核を疑う必要がある。また、原因不明の発熱が主症状の場合も結核を鑑別診断に含める必要がある。
・発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少
しかし、自覚症状が無く、健康診断で胸部X線検査の異常を指摘され、初めて肺結核と診断された症例も多いので注意が必要である。
・副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制剤による治療
・胃潰瘍などの消化管潰瘍や消化管手術歴
・塵肺
・慢性腎不全で透析中
・悪性腫瘍
・やせ型の体型
・大量喫煙
・HIV/AIDS感染症
○培養検査(固形培地および液体培地による方法がある)
○核酸増幅法(PCR法等)による検査法
2.結核に関する諸手続と公費負担申請
ツベルクリン反応が弱く出る場合
・結核感染直後(自然陽転まで3〜6週間)
・結核の極期(粟粒結核、重症結核等)
・HIV/AIDS感染症、麻疹、猩紅熱の罹患
・麻疹、ポリオ等の予防接種後
・副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗ガン剤等の投与中
・癌の末期や消耗性疾患、皮膚の反応の低下した老人
・極度の低栄養
・サルコイドーシス、ホジキン氏病など
・皮内注射手技の不適当(溶解後時間を経過したツ反液など)
3.院内(施設内)感染の場合における保健所の対応
また保健所はこの「手引き」の内容の実施状況などを含めて、管内医療機関等の院内感染予防体制について、様々な機会を通して状況を把握し、必要に応じて技術的支援を行う。
特に、結核予防法第4条に定められた施設の長が定期の健康診断を行う施設については、普段から、健康診断の実施状況や実施結果について報告を求め、定期的に健康診断綴りを点検するなど、定期の健康診断が適切に実施されるよう指導に努めなければならない。
また、その他の入所施設等についても、施設の関係病院や顧問医との連携を保ちつつ、上記の場合に準じて対応する。
さらに、結核集団感染対策としての定期外健康診断を行った場合には、「結核定期外健康診断ガイドライン」にもとづいて都道府県・政令市担当部局に報告する。同様に集団感染事例について都道府県・政令市担当部局は保健所長からの報告に基づいて厚生省に連絡することになっている。
4.用語解説
5.参考文献
2000年10月19日