エボラ出血熱(ザイールでの発生)


米国疾病対策センター(CDC)より
平成7年5月12日

<疾患の概略>
 エボラウイルス感染後発病までの潜伏期間は平均約一週間である。この疾患は突発性の発熱と頭痛によって特徴づけられる。稽留熱、筋痛、関節痛に続き嘔吐、下痢、腹痛が出現する。発病一週間後には短期間の麻疹様紅斑も見られる。感染者は出血傾向を示し重篤な臓器不全をきたす可能性がある。伝染は通常血液、分泌液、精液、臓器との個人的濃厚接触によりおこるが、それ以外の場合の感染リスクは低いと考えられている。潜伏期の感染者が感染源となることは少ないと考えられている。ザイールへの渡航者も通常状態では罹患することは少ない。しかしリスクを減らすためにも渡航者は感染地域への渡航は控えるべきである。
<ウイルス性出血熱について>
 ウイルス性出血熱の原因となるウイルスには異なる4種類(フィロウイルス、アレナウイルス、フラビウイルス、ブンヤウイルス)が存在する。通常宿主は齧歯類や節足動物であるがエボラウイルスのように自然宿主が不明なものもある。ウイルスによっては患者は重篤な呼吸困難や重度の出血、腎障害、ショックにいたる場合もある。ウイルス性出血熱には比較的軽症のものから死にいたるものまで存在する。
<エボラウイルスとは>
 エボラウイルスはフィロウイルスとして知られるRNAウイルスの一種である。電子顕微鏡で数千倍まで拡大するとエボナウイルスは長い繊維状、糸状の形態を示す。エボラウイルスは1976年に発見され、ウイルスが発見された村の近くを流れていたザイール川の支流の川の名前をとって名付けられた。
<エボラ出血熱について>
 近年までエボラ出血熱の流行は3回しか発生していない。初めの二回はザイールとスーダン西部で1976年に生じた。これらは大きな流行で550人以上の患者と340人以上の死者が出た。3回目の流行はスーダンで34人の患者と22人の死者を出した。これらの流行では大部分の患者は発展途上国内の医療設備の十分でない病院内で発生しており、十分な医薬品はなく注射針等も再利用していた。こうした状況が大流行を助長したと思われる。十分な医薬品があり、医療機器の利用も可能で、また検疫機能が働いていれば大流行は直ちに制圧されたものと思われる。
 エボラウイルスの発生源、自然界における宿主はまだ不明である。
<今回の流行から得られた知見>
 今回のエボラウイルスの流行はザイールのキクウイットが発生中心であった。(キクウイットはザイールの首都キンシャサの東400kmに位置する人口40万人の都市である。流行は1995年4月10日に外科手術を受けた患者から始まったものと思われる。外科チームのメンバーは当時ウイルス性出血熱に似た症候を示し始めていた。ベルギーの内科医によってエボラ出血熱と疑われザイール政府に報告がなされた。ザイールの衛生当局の要請によりCDC、WHO、ベルギー、フランス、南アフリカの医療チームがザイールでの調査と流行制御のため共同で活動を行っている。
<エボラ出血熱の症候>
 エボラ出血熱の症状は感染後4〜16日後にみられ始める。初期症状は発熱、悪寒、頭痛、筋痛、食欲不振等である。病気が進行するにつれ、嘔吐、下痢、腹部痛等が起こる。血液は凝固しにくくなり、注射部位からは出血が続き、消化器、皮膚、臓器でも出血傾向が起こる。
<伝播様式>
 エボラウイルスは重症な患者との濃厚な個人的接触により広がる。以前の流行では感染者を看護する医療従事者や家族に人から人への伝染は起こった。ウイルスの伝染は皮下注射の注射器からも起こった。ザイールやスーダンの様な発展途上国では注射針を複数の患者に使用するなどヘルスケアシステムは未発達である。
 エボラウイルスは性的接触でも人から人へ広がる。不顕性感染者との濃厚な個人的接触で感染が起こることは稀である。エボラウイルス感染症から回復した人からの感染拡大の危険性は少ない。しかしそうした人達も回復後しばらくは生殖器からの分泌液中にウイルスは存在するかもしれず、性的接触によりウイルスが広がる可能性はある。
<診断>
 エボラ出血熱の診断はエボラ抗原、抗体、遺伝子の同定、またはウイルス片の同定である。
<衛生当局の対応について>
 これまでのエボラ出血熱の流行は限定されていた。マスク、ガウン、グローブ着用を義務づけた病室への患者の収容、注射器注射針の消毒、医療廃棄物や死体の適切な処理等が行われたからである。
<患者隔離>
 病院職員は「バリア技術」により、病原体との接触を断つべきである。その技術とは以下の様なものである。
 1)医師・看護婦は患者と接するときはマスク、ガウン、ゴーグルを着用する。
 2)患者への面会は制限する。
 3)ディスポーザブル品は部屋から取り除き焼却する。
 4)再利用品は使用前に消毒する。
 5)ウイルスは消毒により容易に死滅するため硬い表面は清掃を行うこと。
<アメリカ国民への危険性>
 アメリカに住む人が感染の危険があるのはザイールでエボラウイルスに感染した人と個人的に濃厚な接触をもった場合のみである。ザイールを離れた人からの感染報告はない。ザイール政府は感染地域では検疫を行い感染地域からの人の動きを制限している。
<CDCの役割>
 CDCは3人の医学者を調査目的でザイールへと派遣した。活動内容としては流行制御と新規患者の出現防止のための助言と援助、臨床診断のための標本収集、感染者と接触をもった人の発見等がある。またザイールの病院スタッフに病気拡大を制限するための教育を行っている。
 CDCはまた今回の流行と新興感染症に対する潜在的な不安に対して教育を行う役割もある。

エボラ出血熱の概要

米国疾病対策センター(CDC)より
1995年5月

発生率
 不明。
 過去二回大きな流行が発生した。これらはスーダンとザイールで数百人に及ぶ患者を出した。続いて小さな流行が1979年スーダンで発生した。ザイールでもズーダンでも死亡率は高かった。単発発生が1994年象牙海岸であり、そして今回1995年のザイールでの爆発的流行に至っている。
臨床経過
 死亡率は50〜80%。回復は遷延し、生命をとりとめた場合の経過については研究不十分である。
対策費用
 不明。
 死亡率が高く、伝染方式が未解決のため疾患及びウイルスを一般の人々から隔離するために高額の費用が必要である。
伝染様式
 消毒不十分な注射器注射針の再利用により病院内で伝染する。高濃度のウイルスを含む血液や分泌液との接触でも感染する。
危険群
 国際旅行者、感染症部門をもつ病院のスタッフ。
サベイランス
 疾患に不明な点も多く熱帯病発生地域からの帰国者の調査、輸入猿の検疫等が必要である。
最近の趨勢
 スーダンとザイールの流行ウイルスと関連のあるウイルスがフィリピンの霊長類施設から輸入された Macaca fascicularisで見つかっている。1995年にザイールで流行したウイルスは1976年にザイールで流行したものと遺伝学的に類似性があるが、これまでのところ、ヒトへの病原性は知られていない。
課題
 疾患の早期診断のために診断器具を準備することと、疾患の環境学的調査を行う必要がある。またウイルスの宿主の同定も必要である。ウイルスの出現地域での疾患発生率も調べる必要がある。
優先研究
 診断方法の改良、感染宿主及び自然伝染サイクルの同定等。

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AUG. 30, 1997