輸血用血液製剤の安全性に関する報告書概要

血液問題検討会
平成7年6月


  1. はじめに
  2.  わが国における輸血用血液製剤の安全性の確保対策は、世界的にも高い水準にあるが、現在の科学技術の水準の下では、ウイルス等の感染や免疫反応等による副作用を、技術的に完全に排除することは困難である。その一方で、国民の輸血用血液製剤の安全性に対する意識は高まっており、適正使用と相接って輸血用血液製剤の安全性確保は、今日的課題となっている。
     本検討会では、以上の背景を踏まえながら輸血用血液製剤の安全性の確保に関する検討を鋭意行い、以下のような結論に達した。

  3. 輪血用血液製剤の安全性確保対策
    1. 献血者
      1. 献血者の啓発、理解
         献血者には、「受血者に安全な血液」の提供に関して、正しい理解と認識があるべきであり、受血者の安全を考えた「自信のある献血」の姿勢が必要となる。また、広く国民に対しても、輸血用血液製剤の安全性に関する啓発を図る必要がある。
         検査を目的とした献血は受血者の安全を脅かす恐れがあり、排除する必要がある。
         外国人等で、言語の障壁等のため問診による安全性の確認をなし得ない場合は、献血を受け入れない。
         献血者の同意に関しては、米国では、問診に対し事実を答えたことなどについて同意したことを署名により確認するという対応がとられており、参考にすべきである。

      2. 問診の実施
         問診が受血者への感染症伝播等の危険性排除に果たす役割は大きい。
         問診は感染直後から抗原または抗体が検出できるまでの感染の事実を検知できない期間(ウインドウピリオド)における実施可能な唯一の排除方法である。
         HIVに感染している可能性のある者を献血から排除すべく、個人のプライバシーに十分な配慮を払いつつ、具体的に踏み込んだ問診を行うことも止むを得ない。
         問診は、また、マススクリーニングが不可能な病原体による危険性の唯一の排除方法である。
         問診の全国一定の質の確保を図る目的から、その項目は全国で統一されたものにすべきである。また、問診項目個々について「はい」なのか「いいえ」なのかを問うことが、正確な回答に繋がる。
         輸血後に発生した感染症等の原因精査のため、問診の記録を一定期間保存しておく必要がある。

      3. 自己申告
         献血者に自己申告の趣旨及ぴ重要性を十分に説明し、その実効性を高めていく必要がある。

    2. 検査
      1. 検査項目
         わが国で実施されている検査項目は、現在の科学的知見及ぴ技術水準の下では適切なものであり、各国と比較してもほぽ同様の項目が網羅されている。

      2. 検査法
         わが国でなされている各検査法の感度、特異性や信頼性等は、現在の科学技術の水準の下では最善のものである。

      3. 過去の献血時の検査結果
         検査の検出限界を補うものとして、過去の献血時の検査結果の活用の有効性について、今後検討することが望ましい。

    3. 検査結果の通知
    4.  HIVに関しては、検査を目的とした者を排除する必要があるため、検査結果を通知しない方針であることを明言することが現状において最善の策である。HTLV−1に関しては、抗体陽性の者への通知のあり方について、本人の精神的苦痛に対する十分なカウンセリング等検討すべき点が残されており慎重に対応する必要がある。

  4. 警告表示
  5.  ウイルス等による感染症や免疫反応等による副作用の危険性について適切に表示する必要がある。予防措置等の対応をとり得る場合には、その内容を具体的に説示する。

  6. 個別の安全性確保対策(別紙参照)
  7.  個々の疾病の発生予防のための対応は、現在の科学及ぴ技術水準等を基本として、献血量の確保や費用負担も視野に入れつつ、多面的・多角的に検討していかねばならず、その中でいわば「最善の選択」を行っていく必要がある。

  8. 輪血に伴う疾病発生の把握及び情報管理
  9.  輪血用血液製剤による危害の拡大を防止するための必要な対策を講ずるべく、輸血時及ぴ輸血後の感染症等の発生を速やかに把握することが必要である。また、輸血に伴う感染症等は、たとえそれが既知のものであっても、その発生率は変動し得る。
     したがって、常時その発生状況を確認し、データを管理するシステムが必要である。
     これにより適切な対応を速やかに取り得るとともに、得られたデータに基づき中長期的な安全対策を策定し得る。

  10. 技術の進歩・普及、新たな疾病への対応
  11.  現行の安全対策は現時点における科学技術水準に鑑み、きわめて高いレベルにあるが、長期的には、より優れたスクリーニング技術の開発や未知の感染性因子の追求等の研究が必要である。
     また、輸血に伴う感染症や副作用の病状進行の阻止や治療法の研究も必要である。
     さらに、輸血による未知の感染症の伝播等の発生を確認し、適切な再発防止措置等を講じ得るよう、情報管理システムの一層の充実・強化が望まれる。

  12. おわりに
  13.  本報告において、技術的実現可能性等を勘案し、現時点でとり得る最善の安全性の確保のための対応を示したが、本報告め趣旨を踏まえた輸血用血液製剤のさらなる安全性の確保のため、科学技術の進歩に合わせた適切な対応が今後とも講じられていくべきである。


(別紙)


(参考)問診票

 質問事項
  1. 今日の体調はよろしいですか。
  2. この3日間に注射や服薬をしましたか。
  3. 今までに次の病気にかかったことがありますか。または現在かかっていますか。
    心臓病、肝臓病、マラリア、脳卒中、血液疾患、がん、けいれん、じん(腎)臓病、糖尿病、結核、ぜんそく、アレルギー疾患、乾癬、梅毒、その他(   )
  4. 次の病気にかかっていましたか。
    6カ月以内 − 伝染性単核球症
    3週間以内 − はしか(麻疹)、風疹、おたふくかぜ
  5. この1カ月間に
    発熱を伴う食中毒様の激しい下痢をしましたか。
    家族にA型肝炎やリンゴ病(伝染性紅斑)を発症した人はいますか。
  6. この1年間に予防接種を受けましたか。
  7. この1年間に海外旅行をしましたか。
     それはどこですか。(国、都市名     )
    海外に住んでいたことはありますか。
     それはどこですか。(国、都市名     )
  8. この1年間に次のいずれかに該当することがありましたか。
    1. ピアス、またはいれずみ(刺青)をした。
    2. 使用後の注射針を誤って自分に刺した。
    3. 肝炎ウイルス保有者(キャリア)と性的接触等親密な接触があった。
  9. 今までに輸血や臓器の移植を受けたことがありますか。
  10. B型やC型の肝炎ウイルス保有者(キャリア)と言われたことがありますか。
  11. 今までに人由来成長ホルモンの注射や脳外科手術を受けたことがありますか。
  12. この3日間に抜歯をしましたか。
  13. 女性の方
     現在妊娠中、または授乳中ですか。
     この6カ月間に出産、流産をしましたか。
  14. この1年間に次のいずれかに該当することがありましたか。
    1. 不特定の異性と性的接触をもった。
    2. 同性と性的接触をもった。
    3. 売(買)春行為をした。
    4. エイズ検査(HIV検査)で陽性と言われた。
    5. 麻薬・覚せい剤を注射した。
    6. @〜Dに該当する者と性的接触をもった。
  15. エイズ検査(HIV検査)を目的とした献血をお断りしています。その理由をご理解いただいていますか。

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Nov. 6, 1996