食中毒を起こす細菌


  1. 下痢原性大腸菌(広義の病原性大腸菌) 由来
     下痢原性大腸菌(広義の病原性大腸菌)は、健康な人や動物の腸管内に存在する大腸菌のうち、病原性を有する菌をいいます。下痢原性大腸菌は次の4つに分けられます。
    1. 毒素原性大腸菌 :人の腸管内でコレラ菌と同様の毒素を作り、下痢を起こす。(潜伏期間:1〜3日)
    2. 組織侵入性大腸菌:赤痢に似た症状を起こすが、毒素は作らない。(潜伏期間:2〜3日)
    3. 狭義の病原性大腸菌:下痢、腹痛などの急性胃腸炎を起こす。(潜伏期間:2〜6日)
    4. 腸管出血性大腸菌:赤痢菌と同様の毒素を作り、激しい腹痛を伴う下痢や血便を起こす。時に腎臓障害(HUS)を起こすこともある。(潜伏期間:4〜9日)

    原因食品
     家畜、主に牛が感染していることの多く、牛肉が原因となることが普通ですが、それ以外にも、レタス、カイワレ等、あらゆる食品および水が原因となる可能性があります。また、小児の間では糞便に汚染された手指を介して伝播することがあります。
     大人が感染した場合には比較的軽い症状で済むことも多いのに対して、小児(特に10才以下)が感染した場合には、かなり重篤になります。このため、小学校、幼稚園、保育園といった幼小児の施設では、給食や飲料水による集団発生が問題となります。
     主な症状は、下痢、血便、激しい腹痛ですが、吐き気、暇吐の他、かぜに類似した悪寒や上気道症状などがみられることもあります。また、場合によって重篤な状態に陥ることもあります。潜伏期間が長く、食品からは細菌を検出し難いため、原因の特定が難しくなっています。

    予防方法
     本菌による予防のポイントは、食品の加熱調理を十分に行うこと、野菜の洗浄を十分に行うこと、加熱調理済食品の二次汚染を防ぐことです。さらに貯水タンクや井戸水などを使用している場合は、定期的に水質検査を実施して使用水の安全を確認するとともに、貯水タンクの清掃、点検を実施し、衛生管理に努めることが必要です。

  2. サルモネラ 由来
     サルモネラはもともと人畜共通疾患の原因菌なので、家畜、家禽の腸管に高率に保菌されています。また、鶏、豚、牛に限らず、トカゲやカメ等のペットも保菌していることがあります。
     サルモネラが付着した肉や卵を原材料として使用したときに、加熱調理が不十分でサルモネラが残存したり、調理済食品を汚染したりして、食中毒を引き起こします。また、サルモネラを保菌したねずみの糞や尿により、調理場や食品が汚染されることによって、食中毒をひき起こすこともあります。

    原因食品
     原因食品としては、うなぎ、レバー刺身、卵焼き、自家製マヨネーズ、ローストチキンなど、食肉や卵等の畜産食品が多く見られます。

    予防方法
     サルモネラによる事故を防ぐには、レバー刺身等、肉の生食は避け、調理の際は食品の中心部まで充分に火が通るよう加熱すること、まな板や包丁などの調理器具は、肉、野菜、魚、加熱済み食品など毎に、それぞれ専用のものを用いること、ねずみや衛生害虫等を駆除することなどが必要です。

  3. エルシニア 由来
     エルシニアは1972年の1月と7月に静岡県の小学校を中心に発熱を伴う腸炎が集団発生し、その原因菌として検出されたもので、1982年から食中毒起因菌として取り扱われるようになりました。
     発育至適温度は28℃前後ですが、1〜44℃でも増殖が可能で、特に低温生残性が強く、4〜5℃の低温でも徐々に増殖します。

    原因食品
     エルシニアは哺乳動物をはじめとして、鳥類、は虫類、淡水魚等多くの動物や水から検出されるため、人への感染はこれらの動物との接触、またはこの菌に汚染された肉、特に豚肉などの食品を介して感染するようです。

    予防方法
     低温でも生存するため、長期間冷蔵保存したり、冷蔵肉または冷凍肉の流通や取扱いの際には注意を要します。
     しかし、熱には弱いため、充分加熱することで危害を防止できます。

  4. 腸炎ビブリオ 由来
     腸炎ビブリオは海水中や海泥中に存在し、海水温度が20℃以上、最低気温が15℃以上になると海水中で大量に増殖し、魚介類に付着して陸上に運ばれます。
     したがって、この菌による食中毒事故は7月から9月の夏季に集中し、事故数は毎年1位、2位を争うほどです。

    原因食品
     原因となる食品は、魚介類の刺身やすし類が代表的ですが、野菜の一夜漬けが原因食品となるケースもあり、生の魚介類を調理した後の調理器具や手指等を介してこの菌に汚染されます。

    予防方法
     腸炎ビブリオは海水と同じ塩分濃度でよく発育、増殖します。したがって、海産の魚介類を調理する前には真水(水道水)でよく洗います。
     また、腸炎ピブリオは一般の細菌と比べて、3倍から5倍の速さで増殖します。生鮮魚介類を保存する場合は、わずかな時間でも冷蔵(5℃以下)するように心がけます。
     さらに、二次汚染を防ぐために、魚介類の処理には必ず魚介類専用の調理器具を使用し、使用後はよく洗浄殺菌します。

  5. セレウス 由来
     セレウスは土壌、ほこり、水中など自然界に広範囲に分布する菌で、土にかかわりのある穀類、豆類、香辛料等から高率に検出されます。
     この菌は耐熱性の芽胞をつくりますが、酸素のない条件を好むウエルシュ菌などとは異なり、酸素のある条件でもよく繁殖します。
     食中毒はこの菌が産生する毒素によりひき起こされますが、セレウスの中には嘔吐毒を産生するものと下痢毒を産生するものがあります。食中毒として報告があるものはほとんどが嘔吐毒によるもので、この毒は熱に強いために食前に加熱しても残ってしまいます。

    原因食品および予防方法
     この菌は少量では発症することはないので、炊きあげたご飯や茹でたスバゲティーの放冷の際は細菌の汚染を防止するため開放せず、かつ速やかに温度を下げて、菌を増殖させないことが必要です。原因食は、チャーハン、スパゲティー、やきそば、オムライス等で、前日に一度炊いたものや茹でたものを翌日に使用したときに起こります。
     したがって、残りご飯等を用いてチャーハンを作るようなことは避けるようにします 。

  6. カンピロバクター 由来
     カンピロバクターは家畜、家禽または鳩等のペットの腸管内に存在し、特に鶏の保菌率が高いことから、鶏肉から検出されることが多くなっています。また豚肉や牛肉からも検出されます。また、野鳥、ペット類等の保菌動物の糞便由来からか、河川水や井戸水から検出されることもあります。

    原因食品
     鶏のささみ、バーベキュー、焼肉等、肉の生食や加熱不足によることが多くサラダや生水等も原因食となります。カンピロバクターは4℃以下の低温でもかなり長い間生存し、菌数が少量でも発病するため、注意が必要です。

    予防方法
     生肉を冷蔵庫で保存するときは容器に入れて、他の食品に接触して汚染しないようにします。また、生肉を調理するときは、充分に加熱します。
     この菌は乾燥に弱いため、作業に使用した調理器具等は熱湯で消毒した後、よく乾燥させます。
     ビルの受水槽はハトの糞などが入らない適切な構造のものとします。また、ペットなど動物を触った後は手を充分に洗浄し、糞は衛生的にきちんと始末しましょう。

  7. ウエルシュ菌 由来
     ウエルシュ菌は土壌細菌の一種ですが、海水等自然界にも広く分布し、人や動物の腸管にも高率に存在します。
     発育至適温度は43〜47℃で、50℃の高温でも発育するものがあります。  さらに、ウエルシュ菌は芽胞をつくるため、100℃、4時間以上の加熱でも死滅しないものがいます。
     本菌は嫌気性菌であるため、食品を大量に調理加熱して鍋の中が酸欠状態になった状態で、食品の温度が発育温度域にまで下がると、芽胞が発芽して、急激に増殖します。
     したがって、「加熱済のものは絶対安心」という常識はこの菌には当てはまりません。

    原因食品と予防方法
     「給食病」の異名のとおり大量に調理加熱されたカレー、シチュー、めんつゆなどが原因となります。特に前日またはそれ以前に調理されたものによる食中毒が多いことから、前日調理は避けること、また一度に大量の食品を調理加熱した場合は小分けして、急速に冷却(できれば10℃以下)することが予防策となります。

  8. 黄色ブドウ球菌 由来
     黄色ブドウ球菌は化膿した傷に限らず、おでき、水虫、にきび、喉や鼻の中、皮膚、毛髪等に常在しており、健康な人でも保菌しています。
     この菌は食品の中で増殖するときに毒素をつくり、この毒素が人に危害を及ぼします。毒素は耐熱性で100℃、30分の加熱条件でも分解されません。また、28〜30℃では数時間で産生されます。
     黄色ブドウ球菌の至適温度は32〜37℃ですが、7〜46℃でも増殖は可能です。また、酸素の有無にかかわらず、増殖可能で、多少塩分があっても毒素をつくります。しかし、この菌自体は熱に弱いので、充分に加熱調理すれば死滅します。

    原因食品
     手指などから食品を汚染する機会が多いため、あらゆる食品が原因食となる可能性がありますが、特に握り飯が多くを占め、その他弁当、和菓子、シュークリームなどが原因食品となります。

    予防方法
     食品を10℃以下で保存し、菌の増殖を抑えること、調理にあたってマスクや帽子を着用し、作業中はこまめに手指を洗浄殺菌すること、また手指などに化膿巣がある場合は食品に直接触ったり、調理をしないようにしましょう。


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NOV. 11, 1996