病原性大腸菌関連保健指導要領


                               事務連絡
                          平成8年8月12日

各都道府県衛生主管部(局)
    保健指導所管課長 殿

                        厚生省健康政策局計画課
                              保健指導官

    保健所における病原性大腸菌関連保健指導の強化について

 標記については平成8年7月30日付事務連絡により、「保健所における
病原性大腸菌関連保健指導要領」にて、保健婦による保健指導の強化をお願い
したところですが、今般、腸管出血性大腸菌感染症について適用される伝染病
予防法の規定等を定める省令(平成8年厚生省令第47号)が施行されたこと
に伴い、本指導要領の一部を別紙のとおり改正いたしましたので、改正箇所に
ついて留意の上、健康相談、健康教育、訪問指導等の保健指導にあたられます
ようお願いいたします。



       保健所における病原性大腸菌関連保健指導要領

T 病原性大腸菌O‐157とは

 1 病原性大腸菌O−157とは

  病原性大腸菌O−157は、大腸菌のうちでも毒性の強いベロ毒素を出すの
 が特徴である。一部の家畜の腸内に存在する菌で、感染経略は、本菌を保有す
 る家畜あるいは患者の糞便中の本菌によって汚染された食品や水(井戸水等)、
 または食品の不衛生な取り扱いなどによる経口感染である。
  この菌は、普通の食中毒の菌と同様熱に弱く、加熱(75℃で1分間以上)
 及び消毒剤(種類を問わない)により容易に死滅する。
 病原性大腸菌O−157の感染力について法定伝染病である赤痢菌と比較す
 ると、O−157では、感染が成立するのに必要な菌数が100個以下、赤痢
 菌では10〜100個といわれており、この点では赤痢菌と同等であるといえ
 る。

 2 症状について

  O−157に感染しても、健常な成人では、無症状であったり、下痢症状が
 出現しても数日で自然治癒することがほとんどである。しかし、乳幼児、小児
 や基礎疾患を有する高齢者の方では、重症に至る場合もある。
  O−157による食中毒は、感染後4〜8日の潜伏期間の後、症状が現われ
 る。
  症状は、はじめは腹痛や水様性の下痢であるが、下痢は後に血性となること
 もある。まれに、溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症することがある。
  症状消失後、15日程度経過すれば溶血性尿毒症症候群の発生の危険性は、
 ほぼ無くなるといわれている。

U 健康相談・健康教育

 1 初期症状の有察の確認

  保健所の窓口や電話などの問い合わせの際には、必ず初期症状の有無を確認
 し、有症状である場合は医療機関を紹介する。
  また、健康相談のうえ、必要に応じて保健所で行っている検便についても周
 知する。
  初期症状としては、@水様性の下痢、A腹痛、B発熱等があげられる。

 2 予防対策

  病原性大腸菌(O−157)の感染源は、それに汚染された食品、水、器物、
 手指及び患者の糞便である。
  早期に診断、適切な治療を受けることが重症化や二次感染を防ぐことになる
 ので、有症状時はすみやかに医療機関を紹介する。また十分な睡眠を取り暴飲
 暴食を控える筆により体調を整えるように指導する。
  また、住民が無用な不安・偏見等にとらわれたり、患者等の人権が損なわれ
 ることのないように、正しい知識の啓発普及を行う。あわせて、患者等のプラ
 イバシーの保護についても万全の注意を払う。
 予防対策としては、以下のことに注意する。

  1)手指の清潔
   ・流水で石鹸を使い手洗いの励行をする。
   ・食事の前には必ず手洗いを十分に行う。
   ・乳幼児の調乳やおむつ交換時は、汚染の機会になるので手洗いは十分に
    行う。
   ・調理、配膳の前には、こまめに手洗いを行う。

  2)排便後の注意
   ・トイレの後は流水の元で手洗いを十分に行う。また使用後の蛇口のとっ
    手は洗浄し清潔にする。
   ・排便後の後始末は十分な紙を用いて行う。

  3)食品等の衛生的な取り扱い
  (1)食材の十分な洗浄、加熱
   ・食材については流水等で十分に洗う。
   ・調理する時は、十分に加熱(食品の中心温度を75℃、1分以上)をする。
   ・調理した食品は速やかに食べること。なお食品を保存する場合は、冷蔵
    庫に入れ低温で保存する。また、冷蔵庫を過信しない。
  (2)調理器具の清潔
   ・包丁、まな板、布巾はその都度洗剤でしっかり洗い、必要に応じて熱湯
    をかけて消毒する。漂白剤には塩素が含まれており、殺菌力があるの、有
    効である。
     まな板は天気のよいときは、日光に当て日光消毒するとよい。
   ・生肉が触れたまな板、包丁、食器等は熱湯等で十分消毒し、手も洗う。
  (3)手指に傷がある場合は、手袋を使用し調理をする。
  (4)井戸水や受水槽の衛生管理に注意する。

  4)入浴等の注意
   ・浴槽は毎日洗い清潔にし、浴槽の水は毎日交換する。
   ・浴槽につかる前に、虹門部や陰部を十分に洗い流す。
   ・お風呂から出るときはシャワーで体全体を洗い流すことが望ましい。

  5)その他
   プールは適正に管理され、有効な塩素濃度が保たれている場合は安全で
  あると考えてよい。

V 訪問指導
 −家族に患者・保菌者がいる場合の対応−

 家族に患者及び保菌者がいる場合の対応には、これまでの一般的な注意事項に
加え、以下の事項についても指導する。

 1 手指の消毒

 ・患者等の世話を行う前後に手指の消毒をし、ゴム手袋を使用する。
 ・患者等の便等の汚物が手指、衣類に付着しないように注意する。

 2 手指の清潔

 ・調理・配膳前に、こまめに、時間をかけ、手洗いをする。
 ・トイレの後の手洗いを十分に行う。

 3 蛇口のとっ手等の清潔

  患者等の用便後はトイレのとっ手、ドアのノブ、水道の蛇口のとっ手等、
 患者等が触れた可能性のある部分を逆性石鹸又は消毒用アルコールで消毒す
 る(患者等の便の処理をした者も同様)。

 4 汚物のついた衣類・寝具リネン類の洗濯

 ・汚物の付着したものは、薬剤あるいは煮沸で消毒をする。
 ・汚物の付着した洗濯物は他の洗濯物と分けて洗濯し、天日で十分に乾燥さ
  せる。

 5 入浴等の注意

  患者等はできるだけ浴槽につからずに、シャワー又はかけ湯を使う。

 6 就業制限あたっての留意事項

  腸管出血性大腸菌感染症に係る就業制限は、人権尊重の観点から、直接に
 食品に接する業務でかつ、他に感染させる可能性が高いものに限定されてい
 るので、適用範囲がいたずらに拡大することのないように留意して対応する。
  また、同じ職場内であっても、直接食品に接触する以外の業務に従事する
 ことは差し支えなく、病原体検査の結果、陰性が確認された者については、
 就業制限の必要はないことにも留意する。

 7 健康相談及び健康診断の周知

  感染のおそれのために健康に不安がある者に対しては、保健所において、
 健康相談を受けられること及び健康診断により検便を受けられることを広く
 周知する。



 詳細は以下の通知等を参照のこと。

 『腸管出血性大腸菌感染症の指定伝染病への指定及び「腸管出血性大腸
  菌感染症について適用される伝染病予防法の規定を定める省令」の施
  行について』
 (平成8年8月6日付 健医発第940号 保健医療局長通知)

 「腸管出血性大腸菌感染症防疫対策について」
 (平成8年8月6日付 健医感発第82号 保健医療局エイズ結核感染
  症課長、衛食第209号 生活衛生局食品保健課長通知)

 「腸管出血性大腸菌感染症に係る2次感染予防の徹底について」
 (平成8年7月23日付 健政計第28号 健康政策局計画課長、健医
  感発第75号 保健医療局エイズ結核感染症課長、衛食第197号 
  生活衛生局食品保健課長通知)

 「腸管出血性大腸菌感染症に係る2次感染予防の徹底について」の一部
  改正について
 (平成8年8月12日付 健政計第35号 健康政策局計画課長、健医
  感発第87号 保健医療局エイズ結核感染症課長、衛食第218号 
  生活衛生局食品保健課長通知)

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NOV. 14, 1996