病原性大腸菌O−157に関する
厚生科学研究の概要


〇細菌性食中毒の発症菌量等に関する研究(昭和59年度)

阪崎 利一(国立予防衛生研究所)

散発性下痢症例(本邦)
家族内発症2名。うち1名は典型的な溶血性尿毒症性症候群を併発
散発例1名。

泌尿器科系の報告のさかのぼり調査

 溶血性尿毒症性症候群の小流行が1977年愛媛、1978年群馬、1980年に北海道、1984年に香川でみられており、それらのほどんどが出血性腸炎を前駆症としているところから、大腸菌感染症であったことが疑われる。
 感染源はいすれも不明だが、海外の報告例から畜産食品又はそれからの汚染を考慮するべきであろう。症状の激しさと危険性から今後の詳細な調査・研究が必要。


〇細菌性食中毒防止に関する調査研究(昭和63年度〜平成3年度)

浅川 豊(東海大学短期大学部)

1 腸炎起因菌の食品中における動態等に関する調査研究
(1)食品、井戸水及び培地における病原大腸菌の生存、増殖態度
 色々な物質に、病原大腸菌を接種し、その増殖態度を調べた。
(ア)培地(BHIブイヨン)では、 30℃から 35Cでよく増殖し、10℃では、3日以上を要した。
最低発育pH 4.5(25℃) 5.0(15℃)
(イ)食肉(鶏肉、ひき肉)における増殖
20〜25℃短時間でよく増殖
15℃よく増殖
4〜5℃増殖せず、安定して生存
−20℃増殖せず、安定して生存
(ウ)油揚げ冷凍ミンチ鶏肉
 中心温度−15℃に操った冷凍ミンチ鶏肉を170℃の油で4分揚げ、あらかじめ冷凍ミンチ肉に投入した大腸菌の消長を検討。
 外観上中心まで加熱された様に見える食品も、菌の死滅温度に達していないことが判明。
(エ)液卵
 卵黄中の増殖はきわめて旺盛だが、卵白中の増殖はほとんど見られず、時間の経過と共に減少した(25℃)。
 保存温度としては、5℃では増殖せず、20℃では、長期間安定して生存した。
(オ)生カキ、キャベツ、卵焼き、サラタ
生カキキャベツひき肉卵俵きサラダ
5℃長期間生存長期間生存長期間生存長期間生存長期間生存
15℃急激な増殖増殖増殖増殖長期間生存
25℃急激な増殖急激な増殖急激な増殖・腐敗急激な増殖長期間生存
・カット野菜は低温流通の対策が望まれる。
・サラダに増殖が認められないのは、pHが低いためと考えられる。
(カ)下痢性大腸菌の井戸水中の動態
 O−157の井戸水中の生存、消長について検討し、低温、共存細菌、食塩濃度(生理的食塩水レベル)で生存期間が延長することがわかった。
(2)腸炎起病性大腸菌の食品中における生存と増殖
(ア)病原大腸菌の実態調査
 東京都では21年間に106例、静岡県では、11年間に28例の発生が確認された。原因食品は特定できない場合が多いが、解明された事例では、東京都は水系感染が多く、井戸水の汚染が注目された。
 川崎市において、11年間で12000件の健康者について検査し、59件に病原性大腸菌を検出した。
(イ)市販食肉中における本菌の分布状況
 検出率は低いが、牛肉、鶏肉、煮物から病原性大腸菌を検出した。
(ウ)河川水中における腸炎起病性大腸菌の汚染状況調査
 多摩川の河川水20件を検査したところ、2件より病原大腸菌(O‐111、O‐165)が発見されたが、VERO毒素産生性大腸菌は検出されなかった。
(エ)ラテックス凝集反応を広用したVT検査法の開発
 VT1及びVT1抗毒素特異免疫グロブリンを感作したラテックスを用いて、Vero毒素を簡易に検出でき、食中毒検査や疫学調査に利用できる検査法を開発した。
まとめ

〇腸管出血性大腸菌の疫学的、臨床医学的研究(平成2年度)

竹田 美文(京都大学医学部)
1 腸管出血性大腸菌の我が国における分布状況
 地方衛生研究所に分離、保存してた病原大腸菌株を予研に送り、腸管出血性大腸菌の分布状況を調査。
 VT産生菌は、大阪府、奈良県、静岡県、東京都、神奈川県、島根県及ひ川崎市の7地方衛生研究所で分離された。
2 腸管出血性大腸菌の疫学的、臨床医学的研究
 全国の小児病院3776施設に対して、はがきによるアンケート調査を実施。臨床面から分布状況を調査。入院2339例、外釆4147例の報告を受けた。
 溶血性尿毒症症候群では、24.2%は細菌検査を行っておらず、検査が行われた症例でも58.3%がいかなる菌も陰性であった。
3 腸管出血性大腸菌による出血性大腸炎の臨床像、鑑別診断、治療法、予防についてガイドラインを提案
4 HUSの診断・治療のガイドラインを提案
5 Vero毒素の構造と生物活性、Vero毒素の作用機構、Vero毒素のレセプター等について文献調査を実施。

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NOV. 14, 1996