平成8年9月26日
厚生省病原性大腸菌O−157対策本部
(1)7月16日時点における堺市全域の学童の有症者数は、6,178名、受診者数4,698名、入院者数497名であった。
(2)中地区では、13校すべてで有症者及び入院者が発生し、平均発症率は18.3%(学校別では最小4.3%、最大29.3%)であった。
(3)南地区では、1校を除き21校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は、27.0%(学校別では最小0%、最大36.5%)であった。
(4)北地区では16校中9校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は10.6%(学校別では最小0%、最大36.7%)であった。
(5)東地区では9校中5校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は12.7%(学校別では最小0%、最大30.8%)であった。
(6)堺地区では入院者なく、17校中5校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.2%(学校別では最小0%、最大0.9%)であった。
(7)西地区でも入院者はなく、14校中7校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.5%(学校別では最小0%、最大2.0%)であった。
(8)以上の発生状況について、地区内のほとんどの学校で有症者及び入院者が発生している中地区及び南地区、有症者及び入院者の発生校及び非発生校が混在する北地区及び東地区、他の地区に比較して有症者が少なく、入院者もない堺地区及び西地区についてまとめると、以下のとおりである。
中・南地区 | 北・東地区 | 堺・西地区 | |
---|---|---|---|
地区全学童数 | 19,648名 | 12,850名 | 15,145名 |
有症者数 | 4,655名 | 1,471名 | 52名 |
有症者割合 | 23.7% | 11.4% | 0.3% |
入院者数 | 351名 | 146名 | 0名 |
ア 中・南地区及び北・東地区の症状は、堺・西地区の症状と比較すると頻回の下痢及び血便の発生が顕著であった。
イ 中・南地区、北・東地区両地区とも初発は7月10日ごろ、発生ピークは、7月12日であった。
ウ 堺・西地区の発生ピークは明らかでなく、散発的な傾向を示した。
ア 有症者の欠席数は、1日平均、中・南地区で110人、北・東地区で32人であり、欠席した人数が比較的少ない日は、中・南地区では9日(18名)、10日(35名)であり、北・東地区では8日(11名)、10日(18名)であった。
イ 中・南地区の9日の欠席者18名について、食中毒調査票により個別に症状等を確認すると、中地区の6名の欠席者はいずれも発症日が9日以前であり、南地区の欠席者12名の内訳は、健康者が5名、実際は出席していたとした者が2名発症日が9日以前の者が4名、発熱のみの者が1名であった。
ウ 北・東地区の8日の欠席者11名について、食中毒調査票により個別に症状等を確認すると、北地区の3名の欠席者の内訳は健康者が1名、発症日が8日の者が1名、実際は出席していた者が1名であった。
東地区の8名の欠席者の内訳は健康者が1名、発症日が8日の者が1名、発症日が不明の腹痛の者が1名、他の5名は12日以降に発症しており、その内訳は水様便1回/日の者が1名、水様便3回/日の者が1名、腹痛下痢の者が1名、嘔吐発熱の者が1名、症状不明の者が1名であった。
なお、このうち、医療機関で受診した者は水様便3回/日の者1名のみであった。
エ また、一部の学校において校外学習等の学校行事のために学校給食を喫食する機会がなかった日は、6日土曜日及び7日日曜日を除くと、中・南地区では1日から7日までの5日間、北・東地区で8日以外の7日間である。
したがって、中・南地区で全校で給食が行われているのは8日、9日及び10日、北・東地区では8日であった。
イ また、いずれの地区においても入院者の下痢便の性状は血便、水様便が多く、有症者の性状の分布と異なっていた。
ウ 入院者のなかで下痢の回数が12回/日以上であったのは、中・南地区では、44.6%、北・東地区では39.5%であった。
ア 中・南地区においては、9日のみ欠食者数が0名であった。
イ 北・東地区においては、8日のみ欠食者数が0名であった。
ウ 入院者の一部が校外学習に参加して給食を喫食していない日は、中・南地区においては、1日、2日、3日、4日及び5日であり、北・東地区においては1日2日、3日、4日、5日及び9日であった。
イ 献立は、3カ所とも異なる場合、2カ所が同じ場合、3カ所ともが同じ場合があった。
ウ 堺市の給食は自校調理方式をとっており、食材は堺市学校給食協会が登録業者(納入業者)に発注していた。
エ 登録業者は購入した食材を堺地区の運送業者に学校ごとに小分けして搬入し、当該運送業者が各学校に搬送していた。
なお、牛乳、パン、卵、委託米飯については、登録業者が直接学校に搬入していた(委託米飯についてはパンの搬入ルートによる。)。
オ 運送業者から学校の調理施設まで食材を搬送する際の冷蔵、冷却システムはなく、調理施設においても検食用の冷蔵庫及び牛乳用の冷蔵庫のみが設置されていた。
また、食材の運送業者及び調理施設への受け入れ時における衛生状態の点検等の検収は行われておらず、学校給食協会は登録業者に対して衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出も求めていなかった。
なお、教育委員会及び学校給食協会は、6月26日に食肉に係るO−157の検査を実施したほか、夏期においては他の食中毒菌の検査を実施していた。
(イ)食肉は凍結前に予め細切されて納入されており、別に設けられた下処理室で解凍を行っていた。
(ウ)調理従事者の業務交代の際は手指の洗浄、消毒を行っているとのことであった。
(エ)手洗いはトイレ、下処理室、調理室に設置されており、石けん、爪ブラシ、消毒液が備えられていた。
(オ)まな板は加熱調理用及び非加熱調理用に分けられていた。
ウ 堺市初等教育研究会栄養部会が作成した「調理の手引き」では食材の取り扱いについては詳細に記載があるものの、調理従事者の手指の洗浄消毒については、学級毎に小分けする配缶の部分に記載があるのみであり、個別の調理過程における記載はなかった。
エ 研修については、新規採用者を対象に年1度、また調理従事者全員を対象として年1度実施されており、その際、食中毒防止の基本事項について周知を図っていた。
オ なお、今年度については、教育長から6月6日、13日、19日及び28日付けで市立小・養護学校長あて衛生管理の徹底について通知されていた。
ア 健康者と有症者の比較
2. カイ2乗検定においては、ほとんどの献立において危険率5%以下で有意差が認められた。
2. カイ2乗検定においては、1日、8日、9日及び10日(すまし汁のみ)の献立において危険率5%以下で有意差が認められた。
2. カイ2乗検定においては、いずれの献立においても有意差は認められなかった。
2. カイ2乗検定においては、1日のカレーライス及び牛乳、4日の五目冷めん、9日の牛乳及び冷やしうどんにおいて危険率5%以下で有意差が認められた。
2. カイ2乗検定においては、1日の牛乳及び肉じゃがにおいて危険率5%以下で有意差が認められた。
イ 水道工事については7月初旬に大規模な断水を伴うものはなかった。
ウ 受水槽の設置校72校すべて、水道水中にO−157は検出されなかった。
また、直接給水20校のうち検査を実施した7校については、蛇口における残留塩素濃度は基準値以上であった。
(2)堺地区及び西地区は有症者数が他の4地区に比べて極端に少なく、下痢の性状、回数等の症状のパターンもこれらの地区と異っており、西地区の1名を除いては16日までにO−157感染者は発見されておらず、他の4地区とは様相を異にしている(この学童1名は、7月16日発症、17日血便、19日検便陽性であり、同小学校から他に発生がないことから二次感染を含む散発事例と考えられる。)。
堺・西地区については、O−157陽性者はこの学童1名であること、かつ、通常時においても年間を通じて学童の1〜2%程度は何らかの症状を示しているとのこと(堺市教育委員会)等から、堺地区(有症者15名(0.1%、1校当たり0.88名))、西地区(有症者37名(0.3%、1校当たり2.6名))は、今回の集団下痢症の発生範囲に含めることは適当でないと考えられる。
(3)今回の集団下痢症の発生範囲と考えられる堺地区及び西地区以外の地域でも学校別の有症者及び入院者の発生がない南地区の1校、北地区の7校、東地区の4校は非発生校として取り扱うこととした。
このほか、北地区の大泉小学校においては、有症者2名(0.5%)であり、また、入院者は発生していないことから、(2)と同様の理由で本校も非発生校として取り扱うこととした。
なお、7月17日以降に学童及び教職員以外の給食を喫食していない有症者160名が発表されているが、これらの者は二次感染を含む当時大阪府で多発していた散発事例の可能性がある。
イ 北・東地区においては7月8日以外の日に校外学習を実施しており、校外学習に参加した学童も発症し、入院者もいることから、これらの日の給食が原因である可能性は低い。
また、入院者の7月1日から10日までの欠席状況を確認すると、入院者の全員が出席した日は、北・東地区においては8日である。また、有症者を対象として、同期間の欠席状況を確認しても、8日が欠席者が最も少なく、これらの欠席者については発症日、症状等からO−157感染者である可能性は低い。したがって、北・東地区においては8日が原因食の喫食日である可能性が極めて高い。
中・南地区 | 北・東地区 | |
---|---|---|
1日 | カレーライス 牛乳 サラダ 福神漬 | コッペパン 牛乳 肉じゃが 酢の物 大豆バター |
4日 | ミニコッペパン 牛乳 五目冷めん すいか ミックスナッツ | うずまきパン 牛乳 フライドポテト イカリングフライ うずら豆のミネストローネ |
8日 | コッペパン 牛乳 関東煮 きゅうりの中華漬 ミニトマト | 黒糖パン 牛乳 とり肉とレタスの甘酢あえ はるさめスープ |
9日 | ミニコッペパン 牛乳 冷しうどん ウインナーソテー | うずまきパン 牛乳 カレーシチュー スイカのデザート |
献立 | 冷やしうどん | とり肉とレタスの甘酢和え |
---|---|---|
食材 | 干しうどん 鶏卵 塩 油 焼きかまぼこ にんじん きゅうり 貝割れ大根 砂糖 ほんみりん 醤油 削り節 だし昆布 もみのり |
冷皮びきかしわ しょうゆ 料理酒 小麦粉 片栗粉 油 白ねぎ 土しょうが 酢 砂糖 ゴマ油 レタス 貝割れ大根 |
(1)中・南地区の9日の献立はパン、牛乳、冷やしうどん及びウインナーソテーであり、冷やしうどんに含まれていた非加熱食材は、焼きかまぼこ、きゅうり、貝割れ大根であった。
(2)北・東地区の8日の献立はパン、牛乳、とり肉とレタスの甘酢あえ及びはるさめスープであり、とり肉とレタスの甘酢和えに含まれていた非加熱食材はレタス及び貝割れ大根であった。
(3)したがって、牛乳のほか、最も疑われる献立に含まれていた共通の非加熱食材は貝割れ大根となる。牛乳については、当該乳処理施設に立ち入って確認した殺菌記録によれば殺菌処理がされていることが確認されていること、複数の施設から納入され、発生校、非発生校の分布と納入元の分布が合致しないことから、原因食材とは考え難い。
(4)貝割れ大根については、同一生産施設で生産されたものが8日、9日及び10日に納入されていることが確認された。
その内訳は、北・東地区の8日の給食には5日及び7日に出荷されたもの、中・南地区の9日の給食には8日及び9日に出荷されたもの、中・南地区の10日の給食には9日及び10日に出荷されたものが使用されていた。
また、7月1日から11日までの堺市の学校給食には、のべ7回にわたって貝割れ大根が使用されていた。このうち、8日、9日及び10日以外については、3日の堺・西地区、11日の中・南地区、北・東地区及び堺・西地区の献立に使用されているが、これらの日及び地区に使用された貝割れ大根は7日、8日及び10日のものとは異なる生産施設から出荷されたものであった。
(ア)貝割れ大根のパックのスタート時のO−157付着菌数は、貝割れ大根1gあたり1.1個から750個の範囲で検出された。
(イ)5時間後の貝割れ大根のパックのO−157菌数は、1.1個〜14,000個以上の範囲で検出された。
(ウ)5時間後の貝割れ大根のパックのO−157付着菌数は、スタート時に比較し高い傾向にあった。
(エ)一部の貝割れ大根のパックにおいて、O−157が増殖した可能性も否定できない。
以上の結果から、O−157に汚染された貝割れ大根が温度管理をされずに長時間放置された場合、食品衛生上の問題が発生する可能性があると考えられる。
イ 調理状況結果を分析すると、北・東地区の8日の献立がとり肉とレタスの甘酢和えであり、とり肉の唐揚げ、加熱したたれ、レタス及び貝割れ大根を和える調理工程において、とり肉の唐揚げ及びたれの放冷時間並びにこれらと貝割れ大根及びレタスと和える順番が各校ごとに異なっていた。唐揚げ又は加熱したたれを加熱後間もなく貝割れ大根と和えた学校においては、余熱によりO−157が減少し、このような調理方法の違いが北・東地区の発生校の分布及び発症者率に影響している可能性がある。
なお、中・南地区の9日の献立は、冷やしうどんであり、ゆでためんは水道水で冷却していることから調理による影響は考えにくい。
大阪府 (大阪市及び 堺市を除く。) | 大阪市 | 合計 | |||
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O−157検出者計 | 98( 9/12) | 59(47/51) | 157(56/63) | ||
貝割れ大根喫食者計 | 26( 3/ 3) | 21(20/20) | 47(23/23) | ||
当該生産施設関係 | 7( 1/ 1) | 12(12/12) | 19(13/13) | ||
病院、保育所 | − | 12(12/12) | 12(12/12) | ||
他の生産施設関係 | 5( 1/ 1) | 0( 0/ 0) | 5( 1/ 1) | ||
施設の特定不可能 | 14( 1/ 1) | 9( 8/ 8) | 23( 9/ 9) | ||
貝割れ大根非喫食者計 | 38( 4/ 7) | 38(27/31) | 96(32/32) | ||
不明者計 | 20( 1/ 1) | ||||
調査不能計 | 14( 1/ 1) | 0( 0/ 0) | 14( 1/ 1) |
2 今後、当該食材について、農林水産省における生産過程を通じた衛生対策の検討結果を踏まえつつ、適宜、食品監視を行い、再発の防止を図るとともに、今回明らかとなった給食システムにおける食材管理等の問題点について、文部省との協力の下、適切な対応を行うことが必要と考えられる。
2 本調査の実施及び結果のとりまとめに当たって、多大の御協力をいただいた地方公共団体及び試験研究機関の関係者並びに学識経験者に対して深く感謝する次第である。