堺市学童集団下痢症の原因究明について

(調査結果まとめ)

平成8年9月26日
厚生省病原性大腸菌O−157対策本部


T はじめに

 堺市の学童集団下痢症の原因究明については、発生以来、堺市、大阪府及び厚生省の協力の下で調査を行ってきたところであり、8月7日に公表した中間報告において特定の生産施設の貝割れ大根について、「原因食材としての可能性も否定できないと思料される」としたところであるが、中間報告後、さらに他の集団事例の調査結果及び実験結果等を踏まえ、各方面の専門家の意見も聞いて調査結果をとりまとめた。
 なお、病原性大腸菌O−157(以下「O−157」という。)感染事例の調査に当たっては、発症菌量が少なく、潜伏期間も長いこと等からO−157の食材及び環境からの検出には困難を伴うとされているが、特定の食材等からO−157が検出されない場合においても客観的に明らかな事実を調査、分析することによって原因食材を推定することは可能であり、予防の見地からその必要がある。

II 経緯

 堺市学童集団下痢症対策本部によれば、平成8年7月12日夜半より堺市の学童の間に下痢、血便等を主症状とする多数の有症者が発生したと報告があり、7月14日には有症者26名の検便のうち、13検体からO−157が発見され、7月23日には10才の女児が、8月16日には、12才の女児が溶血性尿毒症症候群により死亡した。
 9月25日現在、受診者の概数(累計)は学童6,309名、教職員92名、二次感染と思われる者(累計)160名、合計6,561名で、このうち入院者はピーク時の7月18日の493名が8名(重症者1名)となっている。
 また、8月9日以降、新たな発生事例はない。

III 各種調査結果の概要

1 地区別、学校別の発生状況の調査

 堺市学童集団下痢症対策本部によると、7月16日までに報告された受診者及び入院者は学童及び教職員に限られており、堺市教育委員会資料(7月16日時点における学校での調査集計)によると学童及び教職員の有症者、受診者及び入院者の発生状況は次のとおりであった。

(1)7月16日時点における堺市全域の学童の有症者数は、6,178名、受診者数4,698名、入院者数497名であった。

(2)中地区では、13校すべてで有症者及び入院者が発生し、平均発症率は18.3%(学校別では最小4.3%、最大29.3%)であった。

(3)南地区では、1校を除き21校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は、27.0%(学校別では最小0%、最大36.5%)であった。

(4)北地区では16校中9校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は10.6%(学校別では最小0%、最大36.7%)であった。

(5)東地区では9校中5校で有症者及び入院者が発生し、平均発症率は12.7%(学校別では最小0%、最大30.8%)であった。

(6)堺地区では入院者なく、17校中5校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.2%(学校別では最小0%、最大0.9%)であった。

(7)西地区でも入院者はなく、14校中7校で有症者が発生しているものの、平均発症率は0.5%(学校別では最小0%、最大2.0%)であった。

(8)以上の発生状況について、地区内のほとんどの学校で有症者及び入院者が発生している中地区及び南地区、有症者及び入院者の発生校及び非発生校が混在する北地区及び東地区、他の地区に比較して有症者が少なく、入院者もない堺地区及び西地区についてまとめると、以下のとおりである。

中・南地区北・東地区堺・西地区
地区全学童数19,648名12,850名15,145名
有症者数4,655名1,471名52名
有症者割合23.7%11.4%0.3%
入院者数351名146名0名
※ 学童数は、平成8年5月1日現在の数値。

2 有症者に関する調査

 食中毒調査票及び出席簿よる有症者の調査結果は次のとおりであった。
(1)学童の地区別の症状及び発症日調査
 堺市の学童を対象とした食中毒調査票による地区別の有症者の調査結果は次のとりであった。
 なお、食中毒調査票の集計における有症者とは、入院者を除き、調査対象期間となっている7月1日から調査時点(7月22日から27日)までに腹痛、下痢、発熱、嘔気、嘔吐等の症状を有した者であり、医療機関の診断を受けていない者も含まれている。

 中・南地区及び北・東地区の症状は、堺・西地区の症状と比較すると頻回の下痢及び血便の発生が顕著であった。

 中・南地区、北・東地区両地区とも初発は7月10日ごろ、発生ピークは、7月12日であった。

 堺・西地区の発生ピークは明らかでなく、散発的な傾向を示した。

(2)教職員の地区別の症状、発症日調査
 教職員を対象とした食中毒調査票による有症者の調査結果によると、堺市全体で92名の有症者が発生していたが、堺・西地区では発生がなく、中・南地区及び北・東地区ではほとんどが12日から15日の間に発生していた。
 また、中・南地区及び北・東地区のいずれおいても、下痢、嘔吐の回数が学童より少なく、症状は学童に比較して全般に軽いものであった。

(3)有症者の学校別の出欠状況調査
 原因食品の喫食日は有症者の多くが出席している日と考えられるため、堺市教育委員会から提供があった学校の出席簿の写しに基づき、「1地区別、学校別の発生状況の調査」において、7月16日現在で有症者が50人以上発生した学校のうち有症者の多発した中・南地区(27校)及び北・東地区(12校)における7月1日から10日までの間の有症者の出欠状況を調査した結果は以下のとおりであった。
 なお、堺・西地区については、有症者が50名以上発生した小学校はなかった。

 有症者の欠席数は、1日平均、中・南地区で110人、北・東地区で32人であり、欠席した人数が比較的少ない日は、中・南地区では9日(18名)、10日(35名)であり、北・東地区では8日(11名)、10日(18名)であった。

 中・南地区の9日の欠席者18名について、食中毒調査票により個別に症状等を確認すると、中地区の6名の欠席者はいずれも発症日が9日以前であり、南地区の欠席者12名の内訳は、健康者が5名、実際は出席していたとした者が2名発症日が9日以前の者が4名、発熱のみの者が1名であった。

 北・東地区の8日の欠席者11名について、食中毒調査票により個別に症状等を確認すると、北地区の3名の欠席者の内訳は健康者が1名、発症日が8日の者が1名、実際は出席していた者が1名であった。
 東地区の8名の欠席者の内訳は健康者が1名、発症日が8日の者が1名、発症日が不明の腹痛の者が1名、他の5名は12日以降に発症しており、その内訳は水様便1回/日の者が1名、水様便3回/日の者が1名、腹痛下痢の者が1名、嘔吐発熱の者が1名、症状不明の者が1名であった。
 なお、このうち、医療機関で受診した者は水様便3回/日の者1名のみであった。

 また、一部の学校において校外学習等の学校行事のために学校給食を喫食する機会がなかった日は、6日土曜日及び7日日曜日を除くと、中・南地区では1日から7日までの5日間、北・東地区で8日以外の7日間である。
 したがって、中・南地区で全校で給食が行われているのは8日、9日及び10日、北・東地区では8日であった。

3 入院者に関する調査

 入院者が発生した中・南地区及び北・東地区の食中毒調査票による調査結果は次のとおりであった。
 なお、堺・西地区では7月16日までに入院者はなかった。
(1)入院者の地区別の症状調査
 入院者の主な症状は、いずれの地区でも同様の傾向を示しており、おおむね下痢、腹痛、発熱、嘔気、嘔吐の順であった。

 また、いずれの地区においても入院者の下痢便の性状は血便、水様便が多く、有症者の性状の分布と異なっていた。

 入院者のなかで下痢の回数が12回/日以上であったのは、中・南地区では、44.6%、北・東地区では39.5%であった。

(2)入院者の発症日分布
 入院者の発生ピークは、有症者の発生ピークと類似しており、中・南地区で12日、北・東地区で11日であった。
 中・南地区での発症日分布は12日をピークに対称に近いが、北・東地区の発症日分布は右に裾を引いており、立ち上がりが急であった。
 また、両者の平均の差は0.60日であった。

(3)入院者の欠食状況の調査
 入院者のほぼ全員がO−157感染者とすると、原因食品の喫食日には入院者のほぼ全員が給食を喫食していると考えられるため、食中毒調査票に基づき、7月1日から10日までの間の入院者の給食の欠食状況を調査した結果は以下のとおりであった。

 中・南地区においては、9日のみ欠食者数が0名であった。

 北・東地区においては、8日のみ欠食者数が0名であった。

 入院者の一部が校外学習に参加して給食を喫食していない日は、中・南地区においては、1日、2日、3日、4日及び5日であり、北・東地区においては1日2日、3日、4日、5日及び9日であった。

4 給食に関する調査

 堺市教育委員会、堺市学校給食協会及び調理従事者からの聞き取り等の調査結果は次のとおりであった。
(1)献立の内容の調査
 学校給食協会から本年6月及び7月分の給食献立に関する資料の提出をうけた。

(2)給食システム・輸送状況の調査
 堺市では市内を堺地区、西地区、北地区、東地区、中地区、南地区の6地区に分割し、堺と西、北と東、中と南の地区では共通の献立で給食を提供していた。

 献立は、3カ所とも異なる場合、2カ所が同じ場合、3カ所ともが同じ場合があった。

 堺市の給食は自校調理方式をとっており、食材は堺市学校給食協会が登録業者(納入業者)に発注していた。

 登録業者は購入した食材を堺地区の運送業者に学校ごとに小分けして搬入し、当該運送業者が各学校に搬送していた。
 なお、牛乳、パン、卵、委託米飯については、登録業者が直接学校に搬入していた(委託米飯についてはパンの搬入ルートによる。)。

 運送業者から学校の調理施設まで食材を搬送する際の冷蔵、冷却システムはなく、調理施設においても検食用の冷蔵庫及び牛乳用の冷蔵庫のみが設置されていた。
 また、食材の運送業者及び調理施設への受け入れ時における衛生状態の点検等の検収は行われておらず、学校給食協会は登録業者に対して衛生管理のための定期的な自主検査結果の提出も求めていなかった。
 なお、教育委員会及び学校給食協会は、6月26日に食肉に係るO−157の検査を実施したほか、夏期においては他の食中毒菌の検査を実施していた。

(3)調理状況
 発生校8校、非発生校5校を対象として行った調理状況の調査は以下のとおりであった。
(ア)7月1日から10日までの調理状況について調理従事者から聞き取り調査を行った結果、調理はほぼマニュアルどおりの方法で調理が行われていた。

(イ)食肉は凍結前に予め細切されて納入されており、別に設けられた下処理室で解凍を行っていた。

(ウ)調理従事者の業務交代の際は手指の洗浄、消毒を行っているとのことであった。

(エ)手洗いはトイレ、下処理室、調理室に設置されており、石けん、爪ブラシ、消毒液が備えられていた。

(オ)まな板は加熱調理用及び非加熱調理用に分けられていた。

 調理従事者は382名であり、うち269名が調理師免許を取得していた。

 堺市初等教育研究会栄養部会が作成した「調理の手引き」では食材の取り扱いについては詳細に記載があるものの、調理従事者の手指の洗浄消毒については、学級毎に小分けする配缶の部分に記載があるのみであり、個別の調理過程における記載はなかった。

 研修については、新規採用者を対象に年1度、また調理従事者全員を対象として年1度実施されており、その際、食中毒防止の基本事項について周知を図っていた。

 なお、今年度については、教育長から6月6日、13日、19日及び28日付けで市立小・養護学校長あて衛生管理の徹底について通知されていた。

5 喫食状況に関する調査

 食中毒調査票の集計結果は次のとおりであった。
(1)地区別喫食状況
 中・南地区、北・東地区及び堺・西地区の各地区の学童の食中毒調査票集計に基づく献立ごとの欠食率及びカイ2乗検定(χ2検定)の結果を健康者と有症者及び健康者と入院者(堺・西地区を除く。)で比較した結果は次のとおりであった。

 健康者と有症者の比較

(ア)中・南地区
1. 有症者の欠食率が低い献立は9日の冷やしうどん(1.6%、102名)牛乳(2.0%、127名)及びウインナーソテー(2.6%、164名)であった。

2. カイ2乗検定においては、ほとんどの献立において危険率5%以下で有意差が認められた。

(イ)北・東地区
1. 有症者の欠食率が低い献立は9日のカレーシチュー(2.0%、34名)8日の牛乳(2.6%、47名)及び8日のはるさめスープ(2.8%、50名)であった。

2. カイ2乗検定においては、1日、8日、9日及び10日(すまし汁のみ)の献立において危険率5%以下で有意差が認められた。

(ウ)堺・西地区
1. 有症者の欠食率が特に低い献立は認められなかった。

2. カイ2乗検定においては、いずれの献立においても有意差は認められなかった。

 健康者と入院者の比較
(ア)中・南地区
1. 入院者の欠食率が低い献立は9日の牛乳(0.7%、2名)及び冷やしうどん(1.3%、4名)並びに8日の牛乳(2.0%、6名)だった。

2. カイ2乗検定においては、1日のカレーライス及び牛乳、4日の五目冷めん、9日の牛乳及び冷やしうどんにおいて危険率5%以下で有意差が認められた。

(イ)北・東地区
1. 入院者の欠食率が低い献立は8日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢あえ(いずれも0%、0名)だった。

2. カイ2乗検定においては、1日の牛乳及び肉じゃがにおいて危険率5%以下で有意差が認められた。

【注】カイ2乗検定とは、各メニュー毎に喫食した人と喫食していない人の発症率を比較し、両者の発症率に統計学的な有意差が認められるか否かを推定する検定方法であり、危険率は観測された差が偶然起こる確率(この場合、原因食材であるという仮説が間違いである確率)のことであり、通常、危険率が5%以下ならば統計学的に有意な差であるとされている。

(2)給食試食者の発症日、症状、喫食の状況
 7月4日に南地区の原山台小学校及び福泉中央小学校において、7月4日及び5日に北地区の百舌鳥小学校及び大泉小学校において保護者の給食の試食会が行われ200名が喫食したが、原山台及び百舌鳥の両校において7月4日から21日までの間に有症者が9名発生したが、その9名の検便結果を確認したところ、O−157は陰性だった。
 なお、福泉中央小学校及び大泉小学校においては、有症者の発生はなかった。

6 O−157の検索

 堺市の学校給食の7月1日から10日までの間の献立に係る食肉、野菜等を中心とした関係施設の食材等について、8月28日までの間に1,626検体を検査したがO−157は検出されなかった。
(1)検食検査
 各小学校に保存されていた7月8日から12日までの間の検食190食、うどん枝豆等の単品23検体、7月10日から12日までの間の牛乳13検体について検査を行った結果、O−157は検出されなかった。
(2)食材検査
 7月1日から10日までの間の学校給食の献立において用いられた食材について流通経路を堺市学校給食協会、関係営業者から聴き取って、伝票確認等により調査し、7月14日以降、市内分655検体及び市外分295検体について検査を行ったが、O−157は検出されなかった。
(3)施設等検査
 学校給食施設、食肉処理施設等の調理器具、使用水、排水等について市内分275検体及び市外分401検体について検査を行ったが、O−157は検出されなかった。
(4)食品取扱い者検便検査
 調理従事者の検便検査の結果は総数382名のうち9名がO−157陽性であった。

7 関連事項

(1)水道、受水槽関係
 堺市は大阪府営水道から30万トン/日の供給を受けており、枚方市の村野浄水場から市外の美陵(みささぎ)ポンプ場を経由して泉北浄水場(80%)、江原配水場及び浅香山浄水場(20%)を経由して給水されている。

 水道工事については7月初旬に大規模な断水を伴うものはなかった。

 受水槽の設置校72校すべて、水道水中にO−157は検出されなかった。
 また、直接給水20校のうち検査を実施した7校については、蛇口における残留塩素濃度は基準値以上であった。

(2)気象調査
 7月1日から10日までの大阪堺地区の気象は最高気温30.8℃(7月3日)平均最高気温27.6℃、最低気温18.3℃(7月7日)、平均最低気温20.6℃であり、雨量は7日に32ミリメートル及び8日に31ミリメートルであった。

W 発生の原因について

発生の原因に係る分析については、有症者を7月1日から聞き取り調査の終了時点  まで(7月22日から27日まで)において腹痛、下痢、発熱、嘔気、嘔吐等の  O−157以外の食中毒、急性胃腸炎でもおこる症状を有した者、すなわち、  O−157感染者以外の者を含んでいる者としたため、入院者の調査結果を中心に分  析した。

1 発生の時期及び範囲

(1)堺市学童集団下痢症対策本部によれば、7月12日夜半より多数の学童の下痢等の有症者が医療機関で受診したとされているが、入院者の発症日調査結果をみると7月9日以前の発症者が2名いるものの、明確な有症者の増加は10日以降であり発生のピークは北・東地区で11日、中・南地区ではそれより半日程度遅く、12日である。

(2)堺地区及び西地区は有症者数が他の4地区に比べて極端に少なく、下痢の性状、回数等の症状のパターンもこれらの地区と異っており、西地区の1名を除いては16日までにO−157感染者は発見されておらず、他の4地区とは様相を異にしている(この学童1名は、7月16日発症、17日血便、19日検便陽性であり、同小学校から他に発生がないことから二次感染を含む散発事例と考えられる。)。
 堺・西地区については、O−157陽性者はこの学童1名であること、かつ、通常時においても年間を通じて学童の1〜2%程度は何らかの症状を示しているとのこと(堺市教育委員会)等から、堺地区(有症者15名(0.1%、1校当たり0.88名))、西地区(有症者37名(0.3%、1校当たり2.6名))は、今回の集団下痢症の発生範囲に含めることは適当でないと考えられる。

(3)今回の集団下痢症の発生範囲と考えられる堺地区及び西地区以外の地域でも学校別の有症者及び入院者の発生がない南地区の1校、北地区の7校、東地区の4校は非発生校として取り扱うこととした。
 このほか、北地区の大泉小学校においては、有症者2名(0.5%)であり、また、入院者は発生していないことから、(2)と同様の理由で本校も非発生校として取り扱うこととした。
 なお、7月17日以降に学童及び教職員以外の給食を喫食していない有症者160名が発表されているが、これらの者は二次感染を含む当時大阪府で多発していた散発事例の可能性がある。

2 発生原因の推定

 今回の集団下痢症は、堺市の3分の2の地域において発生し、有症者の多くが学童であったことが確認されているが、直接の原因については、発生の態様から、水道、学校給食が疑われる。
 しかし、水道については、府営水道が府下の他市と同様に市の全域に供給されていること、受水槽の設置の有無にかかわらず発生校が分布していること、7月初旬に大規模な水道工事が行われていないこと、残留塩素濃度の調査結果に問題がないこと等から原因とは考え難い。
 一方、有症者、受診者及び入院者の発生状況、発症日が中・南地区、北・東地区、堺・西地区とそれぞれ学校給食が共通の献立となっている地域ごとに特徴があることから、学校給食に起因する食中毒と考えられる。
 加えて中・南地区と北・東地区の食中毒の原因については、両地区の有症者の検便から検出されているO−157のDNAパターンから、感染源が同じである可能性が高い。

3 原因献立の推定

(1)入院者の出欠状況からの原因食喫食日の推定
 中・南地区においては7月1日から8日に校外学習を実施しており、校外学習に参加した学童にも入院者がいることから、これらの日の給食が原因である可能性は低い。
 また、入院者の7月1日から10日までの欠席状況を確認すると、入院者の全員が出席した日は、中・南地区においては9日である。また、有症者を対象として、同期間の欠席状況を確認しても、9日の欠席者数が最も少なく、これらの欠席者については、発症日、症状等からO−157感染者である可能性は低い。したがって、中・南地区においては9日が原因食を喫食した日である可能性が極めて高い。

 北・東地区においては7月8日以外の日に校外学習を実施しており、校外学習に参加した学童も発症し、入院者もいることから、これらの日の給食が原因である可能性は低い。
 また、入院者の7月1日から10日までの欠席状況を確認すると、入院者の全員が出席した日は、北・東地区においては8日である。また、有症者を対象として、同期間の欠席状況を確認しても、8日が欠席者が最も少なく、これらの欠席者については発症日、症状等からO−157感染者である可能性は低い。したがって、北・東地区においては8日が原因食の喫食日である可能性が極めて高い。

(2)喫食調査からの原因献立の推定
 健康者と入院者の比較からは中・南地区では、8日及び9日の牛乳並びに9日の冷やしうどんのほか、1日の牛乳及びカレーライス及び4日の五目冷めんが疑われた。
 また、北・東地区では、8日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和えは入院者全員が喫食していることからこれらが強く疑われた。
 なお、健康者と有症者の比較からも、中・南地区での入院者との比較と同様に、9日の冷やしうどん及び牛乳が疑われたが、北・東地区では入院者との比較からとは異なり、8日の牛乳及びはるさめスープ並びに9日のカレーシチューが疑われた。

中・南地区北・東地区
1日カレーライス
牛乳
サラダ
福神漬
コッペパン
牛乳
肉じゃが
酢の物
大豆バター
4日ミニコッペパン
牛乳
五目冷めん
すいか
ミックスナッツ
うずまきパン
牛乳
フライドポテト
イカリングフライ
うずら豆のミネストローネ
8日コッペパン
牛乳
関東煮
きゅうりの中華漬
ミニトマト
黒糖パン
牛乳
とり肉とレタスの甘酢あえ
はるさめスープ
9日ミニコッペパン
牛乳
冷しうどん
ウインナーソテー
うずまきパン
牛乳
カレーシチュー
スイカのデザート

(3)(1)及び(2)の入院者の調査結果に着目して、欠席状況及び喫食状況の調査結果から検討すると最も疑われる献立は、中・南地区では9日の牛乳及び冷やしうどん、北・東地区では8日の牛乳及びとり肉とレタスの甘酢和えである。

4 汚染の可能性

(1)食材の生産・加工・流通過程
 食肉及び生野菜(湯通し、水洗い等の処理で喫食する野菜)について、市外も含め、関係施設に立ち入り、関係食材の検査を行ったが、O−157は検出されていない。
 また、学校給食協会が納入業者から衛生管理に係る自主検査結果の提出を求めておらず、検収もしていなかったので食材の衛生状態は確認できなかった。
(2)食材の搬送等
 運送業者から学校へ搬送する業者の所有する食材運搬車からはO−157は検出されていない。また、運送業者から学校調理施設までの流通経路では、給食提供までの間、牛乳を除き食品の冷蔵、冷凍設備がないため、O−157がその間にも増殖している可能性が高い。
(3)調理過程
 調理過程については、いずれの施設においても食材の取扱いに大きな問題は確認されず、食肉類は他の食材とは別に処理が行われており、発生各校で同時に調理施設において食肉類から他の食材が汚染される可能性は低いと考えられる。
 また、加熱調理については調査対象全校において、調理マニュアルで加熱が指示されているものについては、加熱が実施されており、調理の過程における加熱処理の不備の可能性は低いと考えられる。
 なお、調理従事者の検便検査において9名(8校)の保菌者が発見されたが、自校調理方式にもかかわらず発生校が広範囲に分布していること、調理従事者も給食を食しているため原因となった給食から感染している可能性があること、保菌者が在職している学校以外でも発生していることを考慮すれば調理従事者による汚染が本件の直接の原因とは考えられない。
 いずれにしても自校調理方式にもかかわらず発生校が広範囲に分布していることも考慮すると、発生各校の調理施設内に原因があるとは考えにくい。

5 原因食材の検討

 以上のことから最も疑わしい8日の北・東地区、9日の中・南地区の牛乳以外の献立食材は次のとおりである。

献立冷やしうどんとり肉とレタスの甘酢和え
食材 干しうどん
鶏卵


焼きかまぼこ
にんじん
きゅうり
貝割れ大根
砂糖
ほんみりん
醤油
削り節
だし昆布
もみのり
冷皮びきかしわ
しょうゆ
料理酒
小麦粉
片栗粉

白ねぎ
土しょうが

砂糖
ゴマ油
レタス
貝割れ大根

(1)中・南地区の9日の献立はパン、牛乳、冷やしうどん及びウインナーソテーであり、冷やしうどんに含まれていた非加熱食材は、焼きかまぼこ、きゅうり、貝割れ大根であった。

(2)北・東地区の8日の献立はパン、牛乳、とり肉とレタスの甘酢あえ及びはるさめスープであり、とり肉とレタスの甘酢和えに含まれていた非加熱食材はレタス及び貝割れ大根であった。

(3)したがって、牛乳のほか、最も疑われる献立に含まれていた共通の非加熱食材は貝割れ大根となる。牛乳については、当該乳処理施設に立ち入って確認した殺菌記録によれば殺菌処理がされていることが確認されていること、複数の施設から納入され、発生校、非発生校の分布と納入元の分布が合致しないことから、原因食材とは考え難い。

(4)貝割れ大根については、同一生産施設で生産されたものが8日、9日及び10日に納入されていることが確認された。
 その内訳は、北・東地区の8日の給食には5日及び7日に出荷されたもの、中・南地区の9日の給食には8日及び9日に出荷されたもの、中・南地区の10日の給食には9日及び10日に出荷されたものが使用されていた。
 また、7月1日から11日までの堺市の学校給食には、のべ7回にわたって貝割れ大根が使用されていた。このうち、8日、9日及び10日以外については、3日の堺・西地区、11日の中・南地区、北・東地区及び堺・西地区の献立に使用されているが、これらの日及び地区に使用された貝割れ大根は7日、8日及び10日のものとは異なる生産施設から出荷されたものであった。

6 特定の生産施設の貝割れ大根のO−157汚染の可能性の検討

(1)特定の生産施設の調査
 7月8日に北・東地区へ、9日及び10日に中・南地区へ貝割れ大根を出荷した生産施設に関して、施設内の汚染源を確認するため、大阪府が施設内の井戸水、排水、種子、種子の培養液、貝割れ大根等について7月24日に14検体、8月8日に従事者の検便を加え64検体、合計78検体について検査を行ったが、O−157は検出されなかった。
 また、当該生産施設外の周辺の環境からの汚染の有無の可能性を確認するため、河川水、水路水等について、8月12日に56検体、13日に2検体、14日に3検体、15日に21検体、16日に3検体のほか、河川流域の飼養牛の糞便117検体、畜産農家等の畜舎排水12検体、合計214検体についても検査を行ったがO−157は検出されなかった。
 このため、調査時点においては、施設内の汚染の事実の確認及び施設外からの汚染経路の推定はできなかった。
(2)貝割れ大根の種子の検査
 貝割れ大根がO−157に汚染されていたと仮定した場合、その汚染源については、生産施設及びその周辺環境以外に考えられるものとして、種子が疑われるため種子について調査を行った。
 当該貝割れ大根生産施設において7月上旬に使用された種子は、昨年北米で生産され、今年1月に輸入され、当該施設に6月下旬に納入されたものであった。
 当該施設で7月上旬に使用された種子と同時に輸入された同一の生産農場の種子2件及び同時に輸入された生産農場の異なる種子5件について検査を行ったが、O−157は検出されなかった。
 また、同じ頃に北米から輸入された他の生産農場の種子についても検査を行ったが、6件中1件から大腸菌は検出されたものの、全検体からO−157は検出されなかった。
 このように当該生産施設に関連した種子のO−157汚染は確認できなかった。
(3)貝割れ大根のO−157汚染メカニズム及び保管条件の影響の検討
ア 貝割れ大根のO−157汚染メカニズムの検討
 貝割れ大根について、生産過程においてO−157に汚染されるメカニズムに係る実験を3機関(国立衛生試験所、国立予防衛生研究所、女子栄養大学)で行った。
 市販の貝割れ大根のパックの底に穴を開け、根部及びスポンジ部分を4種類の濃度のO−157菌液(104、105、106、107/ml)と対照無菌水に室温又は5℃で18時間浸した。
 実験にあたっては、各濃度の菌液ごとに10パック使用し、1パックを6区画して6検体とし、1区画でも検出したパックを陽性とした。
 その結果、当該貝割れ大根の上部5cmにおいていずれの濃度のO−157菌液のパックからもO−157が検出された。また、室温の場合は、スポンジに浸した菌液の菌数は5℃に比較して10倍から100倍程度増加していた。
 以上のように貝割れ大根の汚染のメカニズムについては、根部にO−157菌液が接触することにより、上部に汚染が拡大することが3カ所の試験機関において確認され、栽培水が汚染されていれば、O−157に汚染される可能性が確認された。
イ 貝割れ大根の保管条件の影響の検討
 貝割れ大根にO−157を付着させ、30℃に3時間及び5時間保存し、以下の結果を得た。

(ア)貝割れ大根のパックのスタート時のO−157付着菌数は、貝割れ大根1gあたり1.1個から750個の範囲で検出された。

(イ)5時間後の貝割れ大根のパックのO−157菌数は、1.1個〜14,000個以上の範囲で検出された。

(ウ)5時間後の貝割れ大根のパックのO−157付着菌数は、スタート時に比較し高い傾向にあった。

(エ)一部の貝割れ大根のパックにおいて、O−157が増殖した可能性も否定できない。

 以上の結果から、O−157に汚染された貝割れ大根が温度管理をされずに長時間放置された場合、食品衛生上の問題が発生する可能性があると考えられる。

7 中・南地区及び北・東地区の発生差等の原因の検討

 今回の集団下痢症においては、中・南地区については1校を除き、全校が発生校となっていたのに対し、北・東地区では25校中14校が発生校となっていたこと、北・東地区の発生校である金岡南小学校で調理したとり肉とレタスの甘酢和えの配送先の大泉小学校は非発生校となっていたこと等の特徴がみられていた。
 これらの原因を分析すると次のとおりである。
(1)中・南地区及び北・東地区の発生差の検討
 北・東地区で8日に喫食された貝割れ大根は特定の生産施設から5日及び7日に出荷されたものであり、5日出荷分は卸業者の冷蔵庫で保管され、7日夜に出荷されたものとともに同一納入業者から8日に早朝に運送業者に納入された。
 堺市の学校給食に納入された5日出荷分と7日出荷分の構成比は調査不能であるが、後述の関連事例に関係した貝割れ大根の出荷日が7日であることを勘案すると、5日の出荷分の貝割れ大根がO−157に汚染していなかったとすれば、北・東地区に発生校と非発生校が混在する原因のひとつと考えることができる。

 調理状況結果を分析すると、北・東地区の8日の献立がとり肉とレタスの甘酢和えであり、とり肉の唐揚げ、加熱したたれ、レタス及び貝割れ大根を和える調理工程において、とり肉の唐揚げ及びたれの放冷時間並びにこれらと貝割れ大根及びレタスと和える順番が各校ごとに異なっていた。唐揚げ又は加熱したたれを加熱後間もなく貝割れ大根と和えた学校においては、余熱によりO−157が減少し、このような調理方法の違いが北・東地区の発生校の分布及び発症者率に影響している可能性がある。
 なお、中・南地区の9日の献立は、冷やしうどんであり、ゆでためんは水道水で冷却していることから調理による影響は考えにくい。

(2)発生校で調理された献立を喫食した他の学校において発生が見られなかった原因の検討
 金岡南小学校の調理施設においては、調理施設が工事中である大泉小学校の給食も調理していたが、大泉小学校では有症者が発生せず、金岡南小学校では有症者が発生した。
 金岡南小学校では唐揚げを先に調理するとともに、二校分のたれを調理して、大泉小学校分については、先に配送するため、たれを調理した15〜20分後に貝割れ大根及びレタスを加え、唐揚げを和えていた。
 このため、貝割れ大根がO−157に汚染していたとしても、たれの温度により殺菌されていた可能性がある。
 一方、自校分については、約80分後、たれが冷めたのち、貝割れ大根及びレタス、唐揚げを和えたため、O−157は殺菌されなかった可能性がある。
(3)晴美台東小学校が中・南地区で唯一の非発生校である原因の検討
 調理状況調査において判明した発生校及び非発生校の以下の事項を実験室で再現し、O−157の汚染量に関する検討を行った。
 中・南地区の唯一の非発生校においては、調理状況調査の際、貝割れ大根を調理後3時間水道水に浸漬していたとのことであった。
 これらの調理過程を再現して貝割れ大根を3時間水道水に浸漬したものと室温で放置したものについて、生菌数を比較したところ、3時間室温放置していたものでは、1.5×10**7/g、水道水に浸漬したもので1.5×10**6/gであった。
 水道水による生菌数の減少効果がO−157の最小発症菌量のレベルにおいても生じるとすれば非発生の理由のひとつと考えられる。
(4)中・南地区の入院者が9日の冷やしうどんを喫食せずに発症した理由の検討
 中・南地区の入院者のうち、9日の冷やしうどんを喫食していない4人が9日及び10日に出荷された特定の生産施設の貝割れ大根が使用されていた10日のとり肉とレタスの甘酢和えを喫食していたか否かを調査したところ、喫食した者2名、甘酢和えのレタスを喫食した者1名、不明1名であった。

X 関連事例の調査結果

 堺市の学童集団下痢症の発生と同時期に発生した大阪府下の老人ホームのO−157食中毒事例では、7月9日の昼食の献立で堺市の事例と同じ特定の生産施設から出荷された貝割れ大根が喫食されていたことが判明し、その後、大阪市内及び京都市内の集団給食施設において同時期に発生したO−157感染事例(京都市内の事業所の1事例、大阪市内の病院と保育所の2事例)においても、当該生産施設から出荷された貝割れ大根が使用されていたことが判明したため、これらの事例について担当する地方自治体からの現時点における情報を収集するとともに有症者から検出されたO−157のDN Aパターンを分析した。
 また、これらの食中毒調査と並行して、7月10日から20日までの間の大阪府内で発生した散発事例についても貝割れ大根の喫食状況及び有症者から検出されたO−157のDNAパターンを分析した。

1 集団発生事例の調査状況

(1)大阪府下の老人ホーム
 7月15日に有症者の発生の通報があり、7月6日から7月24日までの有症者は98名(うち入院者14名)、33名(有症者は12名)からO−157が検出された。
 調理の過程及びその後の取扱いの調査において、直接の原因と考えられる問題点は確認できなかった。
 7月4日から14日までの献立についての喫食調査の結果から、統計学的に解析を行ったが、特定の献立を原因食とする結果を得ることができなかった。
 7月15日から18日までの間に発症者数のピークが存在するので、O−157の一般的な潜伏期間が4〜8日であることから、7月7日から14日までの間の食事を中心として調査を行った。
 検食及び流通経路調査において確認した関係食材等の検査においては、O−157は検出されなかった。
 調理従事者の検便検査結果については20名中5名が陽性であったが、給食を喫食しているため、感染源と特定することはできなかった。
 一方、O−157の陽性者33名の喫食調査によると、共通食は7月9日に老人ホームの調理場で調理された昼食(ビーフカレー、貝割れ菜サラダ、らっきょう漬)のみであった。
 なお、この貝割れ菜サラダに使用された貝割れ大根は堺市の事例と同一の生産施設から、7月7日に出荷されたもの(堺市の学校給食では、北・東地区で喫食された。)であった。
 また、本事例の有症者から検出されたO−157のDNAパターンは、堺市の小学校の有症者から検出されたO−157のDNAパターンと一致した。

(2)京都市内の事業所
 7月18日に食中毒様の症状を有する者が発生した旨の通報があり、75名の検便の結果、5名からO−157が検出された。
 O−157が検出された5名の発症日が7月16日から18日までであること発症の第1のピークが17日、第2の小さなピークが20日から22日までの間にあることから、15日から22日までの間に発症した47名を本事例を調査する際の有症者とした。
 京都市で設けた原因解明プロジェクトチームの検討内容は次のとおりである。
当該事業所の従業員を
Aグループ:O−157陽性の発症者5名
Bグループ:7月15日から22日までの発症者47名
Cグループ:Bグループのうち、罹病期間に下痢が1日3回以上あった27名
の3グループとその他の従業員3,108名のグループに分けて、前者3グループを症例、後者を対照として疫学的な検討を行った。
 なお 、検討の対象とした食事は、
1.O−157の潜伏期間は幅広く見積もっても1日から8日と考えられること
2.O−157陽性の発症者のうち、最も早期の発症日は7月16日であること
3.7月15日からの発症者を食中毒例として取り扱っていること
から、7月8日から14日までの間の食事とした。
 この結果により、3つの症例群と対照群の間に有意差が認められた食事であって、かつ、症例群における喫食割合(食堂の利用割合)が特に高い7月11日と12日の昼の定食が最も疑わしいと考えられた。
 調理の過程及びその後の取扱い状況の調査の結果には、特に問題はなかった。
 調理従事者の検便、検食及び流通経路調査において確認された関係食材等の検査においては、現在までのところO−157は検出されていない。
 非加熱食材は、7月11日の昼の定食では貝割れ大根、マヨネーズ、7月12日の昼の定食では線キャベツ、カット人参、トマト、パセリ、かまぼこであった。
 なお、7月11日の昼の定食に使用された貝割れ大根には、堺市の事例と同一の生産施設から7月9日に出荷されたもの(堺市の学校給食では中・南地区で喫食された。)が含まれていた。
 また、本事例の有症者2名から検出されたO−157についてのDNAパターンを分析した結果、堺市の小学校の有症者から検出されたO−157のDNAパターンと一致した。

2 その他の関連事例の調査状況

(1)大阪府下の有症者の調査状況
 7月10日から20日までの間に、大阪府下においては老人ホームの事例以外にもO−157陽性の有症者(以下「O−157陽性者」という。)が157名発生しており、そのピークは7月15日である。
 これらの事例のうち、大阪市内の病院の事例及び保育所の事例は、発生が散発的で発症率も低いため、原因が給食であるとは断定し難い。
 なお、大阪市の病院及び保育所については、堺市の事例と同一の生産施設が7月8日に出荷した貝割れ大根が喫食されていた。
 これら157名の有症者から検出されたO−157のDNAパターンと堺市の学童の有症者から検出されたO−157のDNAパターンの一致状況は、以下のとおりだった。

大阪府
(大阪市及び
堺市を除く。)
大阪市合計
O−157検出者計 98( 9/12) 59(47/51)157(56/63)
貝割れ大根喫食者計 26( 3/ 3) 21(20/20) 47(23/23)
 当該生産施設関係  7( 1/ 1) 12(12/12) 19(13/13)
 病院、保育所 12(12/12) 12(12/12)
他の生産施設関係  5( 1/ 1)  0( 0/ 0)  5( 1/ 1)
施設の特定不可能 14( 1/ 1)  9( 8/ 8) 23( 9/ 9)
貝割れ大根非喫食者計 38( 4/ 7) 38(27/31) 96(32/32)
不明者計 20( 1/ 1)
調査不能計 14( 1/ 1)  0( 0/ 0) 14( 1/ 1)
人数(一致者数/DNA分析終了者数)

(2)堺市の事例の生産施設からの貝割れ大根の出荷状況
 当該生産施設では、7月1日から15日までの間に計24.6トンの貝割れ大根を24カ所の一次卸業者に出荷し、最終的に納入された販売施設は967か所(2府5県)あることが確認された。
 これらの販売施設のうち958施設について販売実績及び散発事例の調査を行ったところ、このうち10施設について13名のO−157陽性者が購入した施設であることが確認された。

Y 結論

 以上の調査結果においては、汚染源、汚染経路の特定はできなかったが、
1. 入院者が全員出席した日が中・南地区で9日、北・東地区で8日のみであること
2. 喫食調査の結果からも8日及び9日の両日の献立が疑われ、共通の非加熱食材が特定の生産施設の貝割れ大根のみであること
3. 実験により貝割れ大根の生産過程におけるO−157による汚染の可能性があること及び保管の過程における温度管理の不備により食品衛生上の問題が発生する可能性が示唆されたこと
4. 中・南地区及び北・東地区の有症者のO−157のDNAパターンが一致したこと
が判明し、さらに詳細な分析結果も含め総合的に判断すると、堺市学童集団下痢症の原因食材としては、特定の生産施設から7月7日、8日及び9日に出荷された貝割れ大根が最も可能性が高いと考えられる。
 なお、同時期に発生した集団事例において、7月7日及び9日に出荷された特定の生産施設の貝割れ大根が献立に含まれており、かつ、有症者から検出されたO−157のDNAパターンが堺市のものと一致した。

 今後、当該食材について、農林水産省における生産過程を通じた衛生対策の検討結果を踏まえつつ、適宜、食品監視を行い、再発の防止を図るとともに、今回明らかとなった給食システムにおける食材管理等の問題点について、文部省との協力の下、適切な対応を行うことが必要と考えられる。

VII おわりに

 堺市の学童集団下痢症の原因究明の結果からは、特定の生産施設から特定の日に出荷された貝割れ大根が原因食材として最も可能性が高いとしたものであり、特定の日以外に出荷されたもの及び他の生産施設から出荷されたものについて、安全性に問題があると指摘したものではない。
 現在、農林水産省において、貝割れ大根の生産施設について衛生管理の徹底の指導がされていることから、貝割れ大根の安全性は十分に確保されているものと考える。

 本調査の実施及び結果のとりまとめに当たって、多大の御協力をいただいた地方公共団体及び試験研究機関の関係者並びに学識経験者に対して深く感謝する次第である。


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Nov. 6, 1996