シンガポールにおける感染症対策


Communicable Disease Center, Ministry of Health
Quarantine and Epidemiology Department, Ministry of Environment

シンガポールにおける感染症対策

  1. 感染症の現状及び感染症対策の機構について
     シンガポールは、国を挙げて衛生状態の維持向上に努めており、東南アジア諸国の中では、感染症の罹患率は低い。
     問題となっている感染症は、デング熱、マラリア、エイズ等である。
     シンガポールにおいては、保健省と環境省が感染症対策を担当している。
     環境省は、「感染症に関する法令」(Infectious Diseases ACT)の下に総合的な施策を担当しており、保健省はシンポガール唯一の伝染病病院(TAN TOCK SENG Hospital)を併設する伝染病センター(Communicable Disease Center:CDC)を中心にエイズを含む性感染症対策を担当している。

  2. 関係法令
     感染症対策に関する法令は、「感染症に関する法令」(Infectious Disease ACT)に一元化されており、検疫に関する規定も包括化されている。
     また、検疫の対象となる感染症はIHR(International Health Regulation)に準拠し、コレラ、ペスト、黄熱である。 (法律の中では”Dangerous Diseases”として整理されている。)

  3. シンガポールにおける感染症対策について
    1. 届出制度
      法に基づき上記疾病についての届出制度があり、患者数が把握されている。その概要は次のとおりである。
      1. 対象疾病 →別紙参照
      2. 届出先
        1. エイズ (後天性免疫不全症候群(AIDS)、HIV感染症(抗HIV抗体陽性))
          性感染症 (軟性下疳、淋病、非淋病性尿道炎、非活動性梅毒、活動性梅毒、先天性梅毒、非特異性性器潰瘍)
          抗酸菌感染症 (ハンセン病(レプラ)、結核)については、
          CDC(保健省所管)
        2. その他の感染症については、
          Quarantine and Epidemiological Department(環境省所管)
      3. 届出義務を負う者の範囲
         医師等に加え、検査機関の職員や一般国民(Any person who is aware of who suspects that any other person is suffering or has died from or is a carrier of an infectious disease shall forthwith give notice in the prescribed form to the Director.)も対象となっていること等が特徴である。
    2. 情報収集制度
      1. 規定上政府には、”survey”と”investigation”の2つの権限が与えられている。(7条)
      2. surveysについて
        1. ”The Director may from time to time undertake epidemiological surveys of people, animals or vectors in order to determine the existence,prevalence or incidence of any infectious diseases。’’
        2. 制度運用
           "surveys"は、強力な届出制度を背景に、国内での伝染病発生状況を把握するために役立っている。また、サーベイランスにより把握された情報は、月報(Epidemiological News Bulletin)によりシンガポールのすべての医師(約3000名)及び諸外国に送付されている。なお、性感染症については、患者のイニシャルを届ければ足りることになっているが、AIDS/HIVについては、氏名を届けることになっている。
      3. investigationについて
        1. surveysにより得た情報をもとに感染源特定のための調査を行い、2次感染を断ち切るための適切な対応をとることとしている。
        2. investigation(調査)のための調査について次の規定などにみられるように広範な権限が与えられている。
          ”In investigating any diseases the Director may require -
          1. any person to furnish him as soon as practicable with such information as he may require for the purpose of the investigation and
          2. any person to submit to such medical examination as he thinks fit.
    3. 対人規制
      1. Isolation(隔離)
         法文上、届出の対象となる感染症のすべてについて、患者を隔離し得るように規定されている。しかし、運用上、Dangerous infectious diseases以外の伝染病については、患者の隔離は行われていない。届出のあった患者については、必要に応じて公費負担で入院治療が行われている。もっとも、シンガポールには感染症専門病院が1つしかないため、届出の対象となる患者は、実質集中管理されている。
      2. Surveillance(健康監視)
         これは、surveysとは、異なる意味で用いられている、隔離をせずに患者の状態を監視する手法のことである。

  4. 検疫について
     検疫制度はIHRに準拠して実施されている。 (検疫対象疾病はコレラ、ペスト、黄熱であるが、必要に応じて他の疾病についても検疫が実施されている。)
     届出制度(サーベイランス制度)がきっちりしているため、国内防疫で十分対処できると考えている。
     検疫は通常無線検疫により実施している。監船による検疫は、ランダムに選択して実施している(当国は1日に200隻の船舶が寄港するため、すべての船舶で実施することは困難であるとのこと)。
     検疫の実施上、南米及びアフリカからの黄熱の流入には気を付けている。
     海外において、outbreakが発生した際には、港に調査官(inspectors)を派遣し、検疫体制を強化し、発生地点からの渡航者の健康管理に注意している。なお、inspectorsは、全国に500人いるが、必ずしも医師がinspectorsになっているわけではない。



別紙

届け出感染症一覧

  1. 水痘
  2. コレラ
  3. デング熱
  4. デング出血熱
  5. ジフテリア
  6. 脳炎
  7. ウイルス性肝炎
  8. マラリア
  9. 麻疹(はしか)
  10. 流行性耳下腺炎(おたふく風邪、ムンプス)
  11. ペスト
  12. ポリオ
  13. 風疹
  14. チフス
  15. パラチフス
  16. 黄熱
  17. 後天性免疫不全症候群(AIDS)
  18. HIV感染症(抗HIV抗体陽性)
  19. 軟性下疳
  20. 淋病
  21. 非淋病性尿道炎
  22. 非活動性梅毒
  23. 活動性梅毒
  24. 先天性梅毒
  25. 非特異的性器潰瘍
  26. ハンセン病(レプラ)
  27. 結核
  28. その他

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FEB. 28, 1998