平成14年5月13日
1.検討会の目的 |
急速に進展する高齢社会を豊かで活力に満ちたものとするためには、高齢者に対する医療の充実とともに老年医学及び老年社会学に関する研究基盤の整備が必要不可欠であり、かつ緊急の課題である。この点、欧米先進諸国においては体制が整備され着実に研究成果を挙げつつあるところが少なくない。
我が国においては1980年(昭和55年)、日本学術会議により高齢社会における老年病関連研究の基盤整備の重要性とその必要性についての勧告がなされ、また1987年(昭和62年)には昭和天皇御長寿御在位60年を記念して長寿科学研究組織検討会が設けられ、議論の後に長寿関連の医学及び社会学に関する研究基盤整備の提言がなされた。
その後、十余年を経た昨今、さらなる高齢化が進む中、1999年(平成11年)には21世紀を見据え、高齢社会における保健・福祉の総合的なあり方を踏まえた「ゴールドプラン21」が策定され、その中でも長寿医療に関する診療・研究体制の一環として国立高度専門医療センター整備の重要性について指摘されるなど、高齢社会における長寿医療への期待が益々高まるとともに、その重要性がより一層増大している状況である。
こうした一連の流れの中で、社会の変化や科学技術の著しい進展に応じ、我が国における長寿関連の理想的な研究・医療体制とはどのようなものかについて、改めて検討を加える必要が生じてきた。他方、近時、関係諸方面で熟成した考え方として、我が国にもこのような目的を持つ「ナショナルセンター」が必要であること、並びにそのためには、現存する国立機関を利用すべきことが大方の合意に達している。
これらの事情を踏まえ、2000年(平成12年)に策定された「メディカル・フロンティア戦略」を実際に生かすべく、老化機構や老年病発症機序の解明を目指す基礎及び臨床研究、高齢者に特有な疾病に関する包括的医療、看護・リハビリテーションなどの体制確立及び推進等を柱とした、「長寿医療に関する具体的方策」に関する検討を行うことを目的として本検討会が発足した。
2.検討課題および検討結果 |
(1)我が国における長寿医療
我が国は戦後、国民の平均寿命が急速に伸長し、今や世界の最長寿国とされている。このような傾向は世界の先進諸国に共通するもので、その主たる原因には、豊かな経済に基づく国民生活一般の向上、公衆衛生の大幅な改善や医療技術の目覚ましい進歩などが挙げられる。
今後の見通しとして日本では、諸外国を大幅に上回る速さで一層の高齢化が進むことが予測され、全人口に占める65歳以上の割合が2005年(平成17年)には19.6%に、さらに2025年(平成37年)には27.4%にまで増大すると推計されている。こうした来るべき超高齢化社会に対しては、迅速かつ適切な諸政策を講じる必要があることは当然で、既に、例えば介護保険制度の発足をはじめとする社会保障体制の整備が着々と進められている。
しかし我々にとっての究極の目標は、高齢社会においても高齢者の疾病や障害をできるだけ軽減し、自立を促進して、健やかに生活できる「長寿社会」を実現することである。そのため、従来から行われてきた老年学研究、一般的老人医療に加え、新しい長寿医療関連技術の開発や高齢者に特有な疾病に対する適切な医療の実践等、さらなる長寿医療の充実が必須であり、かつ急務である。
因みに長寿科学・医療とは、老化の機序の解明、高齢者特有の疾病の原因究明と予防・診断・治療、さらには高齢者の社会的・心理的問題の研究等、高齢者や長寿社会に関し、自然科学から人文科学に至るまでの幅広い分野を総合的・学際的に研究する学問並びにそれを応用した医療をいう。
(2)長寿医療に関する中心的機関(ナショナルセンター)の必要性
長寿医療の基本となる学問には、生物学、医学のみでなく社会学、精神心理学等も含めた総合的かつ高度な研究が必要である。米国では国立老化研究所(NIA)を中心とした全国的な研究体制が確立されており、また欧州においても、北欧、英独を中心に学際的な研究体制がヨーロッパ連合(EU)により整えられ国際共同研究が推進されつつある。それらの結果、長寿医療関連の科学諸分野には、すでに多くの顕著な成果が見られている。
我が国でも大学や地方自治体において、老年学講座や高齢者に特化した医療施設など、様々な長寿医療に関する研究・実践の場が設けられ、次第に充実をみている。しかしながら、それらの活動はややもすると機関間の壁に阻まれ、一定の限られた地域に留まり、必ずしも全国的な広がりとしての機能を十分に発揮しているとは言い難い。他方、民間における事業は専ら対処的な医療、介護に限られているのが現状である。
かくして、それら諸機関を国として総合的に支援し、真に実効ある成果を生み出すために、各機関間の壁を越えて総力を挙げ、欧米諸国に並ぶ研究組織体制を確立することが必要で、それには長寿医療に関する中核機能を担う施設の設立が必要不可欠である。
我が国には既にいくつかの「ナショナルセンター」が存在するが、例えば国立がんセンターが、研究所と病院の緊密な連携のもと、がんの研究・医療について大きな役割を果たしつつあることは、専門家を含む多くの人々の認めるところである。これを一つの、最も現実的な身近の手本として、高齢者の医療に関する「ナショナルセンター」が新たに我が国に設置され、賢明に運営されるならば、高齢者の疾病や障害をできるだけ軽減し、日常生活での自立を促進して健やかに生活できる「長寿社会」の目標実現に向けて、大きな役割を果たすことは明らかである。
このような「長寿医療に関するナショナルセンター」には、自然科学並びに社会科学を幅広く覆う分野について、総合的、学際的に研究を推進するに十分な研究組織とともに、最新の研究成果に基づく、優れた医療技術を開発し、医療現場での実践に向けた高齢者の適切な医療を確立するための優れた病院併設が是非とも必要である。ここでいう長寿、すなわち健康で長生きすることは総ての国民に共通する最優先の願いであり、我が国の急速な高齢化社会への移行を考える時、「長寿医療に関するナショナルセンター」の設置はまさに国民的課題であり、国を挙げて取り組むべきものと考える。
なお、「長寿医療に関するナショナルセンター」としては、過去の経緯から「あいち健康の森」に隣接する国立療養所中部病院を基盤とし、必要にして十分な改変、補強を加えることが最も現実的であると考えられる。
(3)「長寿医療に関するナショナルセンター」の機能
ここに考えられる「長寿医療に関するナショナルセンター」には、以下の機能を備えることが必要である。
A.研究機能
究極的には高齢者の疾病や、その他自立のための障害を予防あるいは克服することを目的とした医療の発展、社会組織の充実、ならびに機能回復・福祉関連技術の開発について、基礎的、応用的並びに臨床的研究を行う。
研究部門で得られた成果は、全国の国立病院・療養所をはじめ大学・地方自治体等研究機関との積極的な連携のもと、診療部門(後述)において臨床の現場に応用することを試み、それにより得られた結果は研究部門に還元するとともに、さらに十分な検討を経た上で、一般の医療機関や福祉機関にも及ぼす。また、普及・啓発部門(後述)との連携により、得られた研究成果はもちろん、世界の知見を収集してデータベース化を図るとともに、これらの分析・評価を試みる一方、積極的な情報発信を行う。また、可能な範囲で研究材料の蓄積に寄与することを心がける。
この研究部門は特に、本領域における日本の中心として我が国はもとより世界の中でも有数な学問拠点の一つとなり、今後、諸外国も含めた長寿医療の発展に大きく貢献することが期待される。
このような研究機能を具現化するためには、以下の部門を備えることが必要である。
(1) 老年医学・医療全般に関わる基礎的研究部門
世界の研究動向を睨み、我が国の得意な研究分野に重点を置きながら、アルツハイマー病や血管性痴呆症など、高齢者に苦痛や障害をもたらす疾病の原因や病態を、分子レベル、遺伝子レベル、タンパク質レベル等それぞれの段階で解明するとともに、最終的には失われた機能の回復・再生を目指した基礎的な研究を行う。
(2) 医療技術に関する応用研究部門
高齢者の疾病に関する診断法や治療法について、分子生物学、再生医学等、近年著しく進歩した最新の手法や画像解析技術を幅広く駆使して、医療技術開発を中心とした応用研究を行う。その中には当然、基礎的な研究により得られた成果を臨床に応用するための研究も含まれ、それら最先端技術の確立に努める。
(3) 社会医学、機能回復・福祉関連技術に関する研究部門
高齢者が、疾病や障害に陥る過程にあっては、医科学的領域ばかりでなく社会医学関連の問題をはじめとする、その他様々な要素が関与する。そのために、医師、歯科医師、薬剤師、看護師及びソーシャルワーカー等の医療従事者ばかりでなく社会学者や工学者までも含めた幅広い分野の関係者が互いに協力し合いながら、社会医学や機能回復・福祉関連技術に関する研究を行う。
高齢者に対する社会科学的な研究を行う機関は世界的にみても比較的少なく、今後、我が国が高齢者医療に関する国際的な主導力を発揮するためにも、いま社会医学や機能回復・福祉関連技術に関する研究部門を設置することには、重要な意義がある。
B.診療機能
高齢者の疾病や自立障害を克服するための医学・医療をあらゆる角度から検討し、社会医学及び機能回復・福祉関連技術についても配慮の行き届いた実践を行う。
そのために当面、病院組織を高度先駆的医療、機能回復のための医療、その他一般の包括的並びに全人的医療に区分し、それぞれのモデル医療を担う。
因みに包括的医療とは、患者の来院から退院に至るまでの一連の医療を末梢的な区分に捉われることなく、保健・福祉面も考慮し総合的に提供する医療であり、全人的医療とは、個々の臓器を対象とすることなく、患者のQOLを最終的に考え、身体的及び生活環境にも配慮しながら行われる、診療科に捉われない総合的な医療をいう。
研究部門において得られた成果は臨床の場に応用されるばかりでなく、研究部門にも還元しながら適切な医療を確立する。またこれらの成果を実践して普及させるとともに、個々人に適切な医療を提供することができる包括的並びに全人的医療の確立を目指す。
また、高齢者医療においては、特にチーム医療が重要であるため、職種の枠を越えた、理想的なチーム医療の実践を積極的に行っていく。
さらに、高齢者の最適な薬物療法の確立のために積極的に治験にも取り組み、可能であれば患者の人権に十分に配慮した上での研究的医療への協力を求める。
診療の場の問題点を研究課題とし、他方、後述する普及・啓発関係の部門とも密接な連携を取りながら教育・研修を行うなど、他機能との連携を密にするよう心がける。
このような診療機能を具現化するためには、以下の部門を備えることが必要である。
(1) 高度先駆的医療に関する診療部門
アルツハイマー病や血管性痴呆症を始めとする高齢者に特有な疾病について、諸研究部門と密接な協力のもとに、高度先駆的手法を駆使して診療を行う。
新たに開発された医療技術や薬剤を臨床の場に応用した学際的研究や、稀少な高齢者の疾患に関する研究的な医療も視野に入れる。
例) | ○アルツハイマー病の神経細胞再生治療 ○骨粗しょう症の遺伝子治療 ○早老症の原因究明や病勢進行阻止のための研究的医療 ○人工内耳等の移植医療 ○歯の再生医療 |
(2) 機能回復のための診療部門
あらゆる医療技術を活用して、地域社会への復帰あるいは福祉の場への移行を目指す。従来の整形外科的リハビリテーションに止まらない、精神的・身体的機能をも包括した機能回復を図る。
例) | ○アルツハイマー病の神経細胞再生治療後の精神的機能回復訓練 ○脳血管性痴呆の精神的、身体的訓練 ○人工内耳の移植医療後の聴覚機能回復訓練 ○重度の口腔内疾患に対する摂食機能回復訓練 ○失語症に対する言語機能回復訓練 |
(3) その他一般の包括的並びに全人的医療の確立のための診療部門
確立された長寿医療に係る医療技術を、積極的かつ総合的に診療の場で実践することにより、質の高い医療を行う。すなわち、高齢者に特有な疾病治療や多臓器、多系統にわたる疾病の治療及び医学的な問題点のみならず、生活機能の問題を同じレベルで取り上げてチーム医療を行う手法である高齢者総合機能評価を活用した医療、さらに高齢者の終末医療についても、包括的並びに全人的な医療システムを確立し、モデル的に実施することにより、全国の医療施設の範とする。
その際、適切な医療の実践に努め、後述する普及・啓発機能とも密接な連携を図りながら、その浸透を図る。若手医療従事者に対する臨床教育も積極的に行い、その面でも全国の中心的な役割を果たす。
例) | ○高齢者の多臓器不全症候群等に対する救急医療の実践 ○終末期医療を含む包括的並びに全人的医療の確立及び実践 ○東洋医学的手法も含めた包括的医療の開発及び確立 ○地域の医療向上のための医療従事者の生涯教育実地研修の実施 ○看護師を中心とした心理・行動等ケアプランのモデル的実践 |
C.普及・啓発機能(教育・研修、情報発信、地域社会復帰支援等)
長寿医療全般について、当事者並びに医学・医療界、さらには社会一般に対する普及・啓発を担う。そのためには、教育・研修、情報発信をはじめ、地域とともに広く国内外との連携、協調を目指すとともに、それらの基盤ともなる総合的なデータベース構築を図る。さらにこれらの活動をもとに我が国の長寿医療のあるべき姿、未来像を提言していく。
このような普及・啓発機能を具現化するためには、以下の部門を有することが必要である。
(1) 教育・研修部門
高齢者医療に携わる医療従事者等に対する研修を企画し、リサーチレジデント等に対して実地訓練形式で実践する。
将来、長寿医療に携わることを志す若手医師・看護師等の医療スタッフに対しても、在宅医療や他の教育機関への派遣・受入等も含め、モデル的な医療を実践する部門との連携を図りつつ教育を行う。
例) | ○高齢者特有の疾患に対する根拠に基づいた医療教育の実施 ○高齢者総合医療に関する医療従事者のための臨床研修モデルプログラムの開発及び実践 ○プライマリケア医を対象とした長寿医療研修の企画及び実施 ○若手医師を対象とした在宅医療研修プログラムの企画及び実施 ○老年看護専攻大学院生を対象とした臨床実地研修の企画及び調整 |
(2) 情報発信・データベース部門
国立病院・療養所はもとより、全国の大学及び地方自治体の医療・研究機関、並びに官民を問わず高齢者医療・公衆衛生・福祉施設とのネットワークを構築する。
さらには、全世界の長寿医療に関する情報を収集し評価するとともに、「ナショナルセンター」において得られた最新の知見を種々の手段を用い、外に向けての情報発信を行う。
広く長寿医療に関するデータベースを構築することにより、症例データ等を登録することは勿論、統計学的な研究あるいは根拠に基づく医療のための支援を行う。
例) | ○「ナショナルセンター」における成果をホームページへ掲載 ○インターネットの活用による全世界の長寿関連ウェブサイトとのリンク ○ホームページを活用した長寿医療講座や長寿医療Q&Aの作成 ○長寿医療に関する学術誌への編集協力と積極的な情報提供 ○長寿医療ネットワーク診療支援システムの開発及び運用 ○過去の蓄積された病理組織等の知見のデータベース化と情報発信 ○長寿医療に関する看護ケアネットワークシステムの開発及び運用 |
(3) 地域社会への復帰のための支援部門
高齢者では、必要な医療を終えた後の地域社会への復帰、在宅医療への移行、他の医療機関への転院、福祉の場への移行等が重要な課題となる。そのため、地域の医療・福祉あるいは関連行政部門との連携が必須で、ソーシャルワーカー、保健師等、種々の医療従事者を介しての医療機関間、医療・行政間、または医療・福祉間それぞれのモデル的な連携システムを構築し、実践する。
また同時に社会的あるいは心理的な地域社会復帰支援機能も備えて、モデル的な在宅医療プランや技術の実践も併せ行う。
例) | ○老人医療・保健行政に対する政策提言機能 ○理想的訪問看護プログラムの作成 ○高齢者の地域社会復帰のためのこころのケア技術開発 |
(4) 国際交流・協力部門
米国国立老化研究所をはじめとする諸外国の高齢者医療・研究機関との交流や共同研究に関する総合調整の役割を担う。
また、「ナショナルセンター」において開発した高度な医療技術やシステムを実践、発展させるべく欧米諸国あるいはアジア諸国等との技術協力、教育・研修活動を行う。
例) | ○米国国立老化研究所との共同研究に関する企画及び調整 ○アジア諸国の看護師・保健師に対する出張教育に関する企画及び調整 ○我が国で開発された老年歯科技術に関する諸外国に向けた技術移転 |
(4)「長寿医療に関するナショナルセンター」の規模
前述した長寿医療に関する研究機能、診療機能及び普及・啓発機能それぞれが十分に発揮されるためには、「長寿医療に関するナショナルセンター」として、以下の組織及び規模が最低限必要不可欠であると考える。
A.研究機能(研究所)の規模
前項で掲げた機能を踏まえると、以下の研究部門が必要である。
(1) 老年医学・医療全般に関わる基礎的研究部門
(具体的部門)
(2) 医療技術に関する応用研究部門
(具体的部門)
(3) 社会医学、機能回復・福祉関連技術に関する研究部門
(具体的部門)
B.診療機能(病院)の規模
「(3)長寿医療に関するナショナルセンター」の項で示された様に、研究機能ばかりではなく、機能回復のための診療機能や地域社会復帰のための支援機能の実践の場など総合的な機構を想定すると、以下の部門が必要であり、また概ね以下の様な診療規模(合計で300−400床)が基本的に想定される。
(1) 高度先駆的医療に関する診療部門(概ね150−180床程度)
○痴呆に関する高度先駆的医療技術の臨床応用病床群
○骨粗しょう症・骨折に関する高度先駆的医療技術の臨床応用病床群
○稀少老化疾患及び高齢者難病に関する研究的医療病床群
○術後及び重症高齢患者に対する高度医学管理病床群
○感覚器(視覚、聴覚)に関する高度先駆的医療病床群
○口腔歯科に関する高度先駆的医療病床群
(2) 機能回復のための診療部門(概ね100−120床程度)
○脳・神経系の再生再建医療・機能回復病床群
○運動器の再生再建医療・機能回復病床群
○感覚器の再生再建医療・機能回復病床群
○口腔疾患、摂食及び排泄障害の再生再建医療・機能回復病床群
(3) その他一般の包括的並びに全人的医療を確立するための診療部門(概ね50−100床程度)
○包括的並びに全人的医療の包括医療技術モデル医療病床群
○包括的並びに全人的医療の社会医学等関連技術モデル医療病床群
なお、これらの病床群にあっては、標準化されたモデル医療のノウハウに関する教育や研修、情報発信、地域社会復帰支援等の普及・啓発部門との連携を密接に行う。
C.普及・啓発機能(教育・研修、情報発信、地域社会復帰支援等)の規模
前述の研究機能並びに診療機能関連部門以外にも、普及・啓発機能に応じた以下の部門を設置する必要がある。
(1) 教育・研修部門
(2) 情報発信・データベース部門
(3) 地域社会復帰支援部門
(4) 国際交流・協力部門
(5)「長寿医療に関するナショナルセンター」設置に伴う社会的効果
以上、述べてきたような機能及び規模を有する長寿医療に関する国家的中核施設が新たに設置されることに伴い、長寿医療関連分野の医療資源の有機的連係がより効果的に推進されるとともに、高度先駆的医療技術の開発が一層促進され、その結果として世界の先進諸国にとって共通の大きな課題である加齢による健康障害対策に生活の質(クオリティーオブライフ)の向上も含め、大きく寄与することが期待される。
即ち、「長寿医療に関するナショナルセンター」の設置により、アルツハイマー病をはじめとした高齢者に比較的特異な疾患群の研究、診療及び普及・啓発を推進していくこと自体、長寿、すなわち健康で長生きするという総ての国民に共通する最優先の願いを実現するための強力な方策となり得る。
一方、こうしたことの一環として、疾病を有する高齢者の介護を行う家族や周囲の人々の負担を大幅に軽減し、豊かで活力のある高齢社会の確立に大きく貢献するという結果も期待され、さらにこれらの疾病に関する医療の経済的側面に対しても少なからず良き効果を及ぼすこととなるであろう。
なお、経済的側面への効果に関しては、我が国においては、個々の疾患に対する予防医学の発達あるいは治療法の確立等に伴う経済的効果に関する研究論文の数が極めて少ないが、欧米においては、米国の国立老化研究所、国立骨粗鬆症財団や関連大学をはじめ、英国等のヨーロッパ各国において、長寿医療分野における個々の疾病毎の医療費や経済的効果について算出し、研究論文等として広く公表しているところである(「参考資料5」参照)。
3.まとめ |
(1)我が国における長寿医療
いわゆる高齢社会において、高齢者の抱く疾病や障害をできるだけ軽減し、自立を促進して、健やかに生活できるよう仕組まれた「長寿社会」を実現することが究極の目標である。そのためには老年医学の研究、臨床応用とともに新しい長寿医療関連技術の開発や高齢者に特有な疾病に対する適切な医療の実践を含め長寿医療の確立が必要不可欠であり、急務とされる。
(2)「長寿医療に関する中心的機関(ナショナルセンター)」の必要性
「長寿社会」を目指した関連科学研究の振興、長寿医療の実践には、国内に散在する種々の長寿医療関連研究・医療機関の中心となり、中核的機能を担う施設の存在が必要不可欠である。このような「長寿医療に関するナショナルセンター」としては、過去の経緯から、「あいち健康の森」に隣接する国立療養所中部病院に必要にして十分な改変・補強を加え、利用することが最も現実的、かつ効率的であると考えられる。
(3)「長寿医療に関するナショナルセンター」の機能
国内と共に広く世界の動向を展望し、「長寿医療に関するナショナルセンター」には、(1)医療技術に関する基礎研究、臨床研究はもとより社会医学、機能回復・福祉関連技術に関する研究をも可能ならしめる研究機能、(2)高度先駆的医療、機能回復のための医療、その他一般の包括的並びに全人的医療を確立するための診療を広く行いうる病院機能、また(3)教育・研修や情報の発信、さらに地域社会復帰支援までを視野に入れた普及・啓発機能、のそれぞれを付与することが必要不可欠である。
(4)「長寿医療に関するナショナルセンター」の規模
上記の機能を果たすために、研究所には老年学・医療全般に関わる基礎的研究の他、現代の医療技術の動向を踏まえた高度に先駆的な医療技術に関する応用研究並びに社会医学、機能回復・福祉に関する研究それぞれを担う3部門の強化が必要不可欠である。
また病院には、高度先駆的医療に関する診療部門、機能回復のための診療部門の他、その他一般の包括的並びに全人的医療を確立するための医療を実践・普及する診療部門(合計で概ね300-400床)を設置することが必要不可欠である。
さらに、「ナショナルセンター」には医療従事者等への教育・研修部門や長寿医療に関する情報の収集、評価、発信部門の設置が必要不可欠である。
それらの総合として、「長寿医療に関するナショナルセンター」には、質的に少なくとも現在の国立療養所中部病院に倍するものが求められる。
参考資料
1. | 長寿医療に関する基本計画検討会メンバー | ・・・ | 参考1 |
2. | 長寿医療に係る経緯 | ・・・ | 参考2 |
3. | 長寿医療の現状 | ||
(1)先進諸国の高齢化率の推移 | ・・・ | 参考3(1) | |
(2)米国長寿関連施設視察状況 | ・・・ | 参考3(2) | |
(3)国内の現状 | |||
A.厚生科学研究費の概要 | ・・・ | 参考3(3)A | |
B.長寿医療関連医療施設 | ・・・ | 参考3(3)B | |
4. | 既存ナショナルセンターの機能、規模等 | ・・・ | 参考4 |
5. | 長寿医療に関する研究・開発の促進に伴う社会的 効果を考察するに当たっての参考文献 |
・・・ | 参考5 |
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2002年09月27日