今後の公的病院等の在り方について

平成14年11月20日
自由民主党医療基本問題調査会
公的病院等のあり方に関する小委員会

 

1.医療提供体制における公的病院等の在り方

(1)公的病院等の現状

 公的病院等には、社会保険病院、国立病院・療養所、労災病院、自治体病院、大学病院などがあるが、これらの公的病院等は、それぞれの歴史的な経緯の下に整備が行われてきた。即ち、社会保険病院は健康保険法に基づく保健福祉事業の一環として、国立病院一療養所は旧陸海軍病院等の移管を受け、その後、国の医療政策として担うべき医療を行うことを目的として、労災病院は労働者災害補償保険法に基づく労働福祉事業の一環として、自治体病院は地域の実情に応じ、不採算地区の医療、救急医療を含む地域の医療水準の向上を目的として、大学病院は大学に附属する教育研究施設として整備されてきたものである。

 その結果、公的病院等は、それぞれの設置目的に即した機能・役割を担うとともに、地域ごとの状況・役割は多様であるが、地域における医療の確保等についても重要な役割を果たしてきたところであり、全国的な状況で見ると、病院数では約2割、病床数では約3割、医療機関別の医療費では約3割を占めるに至っている。

 しかしながら、近年、医療を取り巻く環境が変化し、医療の質の向上や効率化を図るため、医療提供体制を見直すことが課題となる中で、「親方日の丸」的な運営がなされている公的病院等については、その機能・役割を明確化し、見直しを行うことが課題となっており、また、経営責任の所在が不明確で、人件費などのコストが民間に比べて高いといった問題も生じている。

(2)公私の役割分担の在り方

 今後の医療提供体制の見直しに当たっては、諸外国に比べ人口当たりの病床数が多い、病床当たりの医療従事者が少ない等の我が国の医療の現状を是正し、患者の病態に応じ、例えば急性期には、重点的・効率的な医療サービスを提供できるよう、人員・病床の在り方を含め体制整備を行っていくことが必要である。これを通じて、医療の質の向上と医療制度・医業経営の安定化を図るべきである。

 こうした中で、公私の病院の役割分担の在り方について、構造改革の原則のひとつである「民間でできることは、民間に」という考え方を基本に、それぞれの機能・役割を明確化しつつ、また、地域医療の実情に十分考慮して見直していくことが必要である。

 その際、地域における公的病院等の状況、役割は多様であることから、各公的病院等の役割、在り方については、それぞれの設立目的を念頭に置きつつ、地域の問題として、地域の医療関係者の間で十分な協議、検討を行うことを基本とすべきである。

 また、高コスト体質の公的病院等は、それぞれの病院を独立採算的な考え方の下に運営することとし、建設コストの是正、業務のアウトソーシングの推進等を含め、経営効率化、見直しを図ることが必要である。更に、公的病院等ごとの機能・役割を踏まえた再編成、経営形態の変更等の見直しを行うとともに、病床規制の在り方についても今後見直しを行っていくべきである。

(3)地域における医療機関の機能分担と連携の確保方策

 公的病院等を含めた医療機関の機能分担と連携の確保は、地域における医療関係者による協議一検討が基本であるが、厚生労働省においても、例えば、医療計画の記載事項として、地域における公私の役割分担を明確化するとともに、関係省庁とも連携の上、「公的医療機関運営協議会」等の協議の場の設置・活用を促すなど、地域における取組を支援していく必要がある。

 この場合、国が設置している公的病院等については、地域における取組だけでは、実効が上がらない場合があることから、中央において、所管省庁が適切な対応を行うことも必要である。特に、地域において近接して国が公的病院等を設置している場合には、省庁の枠組みを超えた連携・調整の下に適切な運営が行われることが必要である。

(4)臨床研修等のあり方

 医療提供体制の当面する重要課題である医師・歯科医師の臨床研修の必修化に際し、将来の我が国の医療を担う人材を育成するシステムをトータルで確立するという観点に立って、臨床研修を行う病院の在り方、研修医の処遇の確保と費用負担の在り方の見直し、卒前の医学教育改革の推進と臨床研修の一貫性の確保等の課題について、公私の病院を通じて、関係省庁が連携して適切に対応することが重要である。

 

2.会計基準の在り方と経営の効率化の推進

 公的病院等において、コスト低減を図り、経営を効率化していく上では、病院の経営成績や財政状態を的確に把握するとともに、他の病院、特に民間の病院との経営比較を可能とすることが不可欠である。このため、公的病院等においても、医療法人立等の病院において導入されている「病院会計準則」と同様に、「企業会計原則」を基本とした会計基準の導入を推進すべきである。

 あわせて、現在行われている「病院会計準則」の見直しと平行して、公的病院等において、公私の間の施設整備費や税制などの相違について所要の補正を行い、民間の病院と比較可能とした財務分析・情報提供を推進する必要がある

 その際、他の業務とあわせ行っている独立行政法人等の場合は、他の業務と切り離した病院の財務分析・情報提供を推進するとともに、複数の病院を運営している独立行政法人等は、病院ごとの財務分析・情報提供を推進する必要がある。

 また、こうした財務分析・情報を活用しつつ、マネージメント機能を強化し、公的病院等の経営の効率化策を講じていくべきである。

 

3.各設置主体別の論点

(1)社会保険病院

 社会保険病院については、厳しい政府管掌健康保険の財政状況を踏まえ、抜本的な在り方の見直しが求められている。

 そもそも施設整備については、今後、基本的には、保険料財源の投入を行わず、病院事業収入により実施すべきである。

 また、この抜本的改革を着実に実施するため、各病院に「経営改善計画」の策定を求め、その実施状況を踏まえた具体的な整理合理化計画を策定する必要がある。

 いずれにしても、現行の運営委託方式は委託先も含めて見直し、民間病院と同様の自立した健全な経営が行われるような効率的なものとするとともに、新しい経営形態への移行等が適切と認められる病院については、迅速に対処すべきである。

(2)国立病院・療養所

 国立病院・療養所については、「独立行政法人国立病院機構法案について」(平成14年3月15日、自民党政調厚生労働部会・公的病院等のあり方に関する小委員会)において指摘した次の事項について、確実な推進を図る必要がある。

@ 再編成の着実な実施等
A 医療計画との整合性の確保、病診・病病連携の推進
B 各施設の運営について可能な限り施設長の権限と責任の幅を拡大する等の各施設の経営改善へのインセンティブの付与
C 運営貴交付金の交付基準の速やかな策定
D 各施設の業績評価が適正に行われるような評価基準の明確化と評価体制の確立
E 機構の経営改善を図るための総人件費の抑制

(3)労災病院

 労災病院については、「特殊法人等整理合理化計画」(平成13年12月閣議決定)の趣旨を踏まえ、勤労者医療を効果的・効率的に推進するため、じん肺、産業中毒、振動障害、メンタルヘルスなどの各労災疾病について、高度な医療の提供及び研究を行う「中核病院」と専門的な医療の提供を行う「専門病院」への再編による全国的なネットワーク構築を推進することとし、再編の対象外となる労災病院については廃止」民間一地方への移管を推進すべきである。

 また、独立行政法人化(平成16年4月予定)に向けて、本報告書の趣旨を踏まえ、適切に対応することが必要である。

(4)自治体病院

 自治体病院については、民間の病院と比較可能な財務分析・情報提供を推進するとともに、地域の実情に応じ、病院の機能・役割等を見直し、経営の効率化を図ることが重要である。

 その際、地方公営企業法の全部適用、民営化や独立行政法人化等の経営形態の変更により、経営の自主性を拡大し、高コスト体質を是正し、経営効率化を推進するとともに、交通手段の発達等の社会環境の変化に対応し、広域的な再編による効率的な医療供給体制の整備を促進することが必要である。

 このため、関係省庁は、自治体病院の経営形態の変更や再編に当たって、取組事例の紹介などの情報を提供するとともに、実効性のある財政措置などにより、各地方公共団体を支援していくべきである。

(5)大学病院

 大学病院については、国立大学の再編・統合、国立大学法人への早期移行などを含む大学の構造改革を推進する中で、将来の地域医療を担う人材養成を含め、大学病院の有する教育}研究機能、高度医療の提供という役割を果たしつつ、病院の財務分析・情報提供を推進するとともに、経営の効率化を図ることが重要である。

 また、地方の大学を卒業した医師の地元への定着を促進するための措置を、地方公共団体等と十分連携して積極的に講じるべきである。

(6)その他

 この他、公的病院には、日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会、厚生農業協同組合連合会が開設した病院等があるが、これらの公的病院においても、必要に応じ、上記に準じた取組を行うことが適当である。

 

4.関係省庁一体となった課題への対応

 上記の諸課題について、関係省庁がそれぞれ対応するとともに、公的病院等の関係省庁連絡会議を設置し、相互に十分に連携・調整しつつ、具体的な取組みを推進すべきである。

 また、当委員会としては、関係省庁の取組の進捗状況について、定期的に説明を受け、その適切な実施を監督するものとする。


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2002年12月05日