規制改革の推進に関する第1次答申
(平成13年12月11日)

第1章 重点6分野について

5 環境

【問題意識】

(土壌環境保全対策)

 工場跡地等における土壌汚染の判明事例数については、環境省の実態調査によれば、昭和50年度から平成11年度末までの間に都道府県等が把握した事例のうち、土壌環境基準の溶出基準項目に適合していないことが判明した事例は累計で431件に上り、このうち11年度に判明したものは117件に及んでいる。しかも、これらは、決して我が国における市街地土壌汚染の実数を示しているものではなく、氷山の一角にすぎないことが指摘されている。

(地球温暖化問題)

<温室効果ガスの発生削減>

 人間活動の拡大に伴う温室効果ガスの排出量の増大によりその大気中の濃度が高まり、地表面の温度が上昇し、自然の生態系及び人類に悪影響を与えるおそれが生じている。

 このような温室効果ガスの排出を抑制するため、1992年に国連気候変動枠組条約が採択され、1994年に発効し、その実効性を高めるため、1997年に京都議定書が採択された。そこでは、二酸化炭素を含む6種類の温室効果ガスについて、削減の目標が定められ、我が国は6%の削減が義務付けられた。同議定書はまだ発効していないが、本年11月の気候変動枠組条約第7回締約国会合(COP7:  The 7th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)での運用細目に関する合意が達成されたことで2002年発効に向けて各国の議定書締結が進むことが見込まれる。

<ガスパイプラインの建設促進>

 石油、石炭に比して二酸化炭素排出量が相対的に少ない天然ガスの使用を促進することは、地球温暖化対策という観点から極めて有効な施策の一つである。かかる観点から、二酸化炭素の排出源である発電、産業部門にて消費されている化石燃料の比率を、石油、石炭中心から天然ガスに転換させるための条件整備を行うことは焦眉の現実的課題となっている。

(情報的手法を用いた企業の自主的取組の促進)

 地球温暖化や廃棄物の大量発生など今日の環境問題解決のためには、社会のあらゆる主体が自主的・積極的に環境保全に取り組むことが必要であり、特に、経済活動の主たる担い手である企業の環境保全に係る自主的取組を促進することが不可欠である。

 従来の公害対策においては、汚染物質が環境中へ排出される末端において負荷を低減しようとするエンド・オブ・パイプ的な対策が主として講じられてきたが、環境問題の複雑多様化に伴い、こうした従来型対策の限界が指摘されており、経済的手法や情報的手法等をも活用した総合的な政策を推進することが求められている。

(都市のヒートアイランド現象の解消)

 近年、都市に特有の環境問題として、ヒートアイランド現象がクローズアップされている。

 これは、都市化の進展に伴い、コンクリートやアスファルト等による地表面被覆の増加と緑地の減少とともに、空調機器や自動車からの排熱が増加することにより、都市部において、周辺部に比較して顕著な高温化の現象がみられるようになっているものである。

 これにより、夏期には、高温化による熱帯夜の増加、豪雨の増加、熱中症の増加等の生活環境の悪化、さらには、冷房需要の増加による消費電力の増加等が生じている。また、冬期においては、逆転層の形成による大気汚染の悪化等の問題を生じている。

(人と自然との共生)

 我が国は国土面積がそれほど広くはないにもかかわらず、豊かな生物相を誇り、固有種(日本列島だけに生息する種)の比率が高い。特に両生類やトンボ類など水辺と森林の両方を生息に必要とする動物の豊かさは比類なきものとも言える。

 ところが今日では、メダカやキキョウなど、日本人の生活域にかつては普通にみられた動植物までが絶滅が危惧される種としてリストアップされる事態となっている。それは、ここ数十年間の経済成長により生活水準の向上が実現された一方で、人の営みの場(里地・里山、沿岸、浅海域など)における開発(全く人工的な構造物のない自然海岸は平成5年には全国の海岸総延長の55%にまで減少、干潟は6年には昭和20年の60%程度の面積にまで減少(いずれも第4回自然環境保全基礎調査[環境庁]による。))や生産形態(不適切な農薬の投与など)、生活様式の変化(大量消費・大量廃棄社会など)が起こったことによるところが大きい。

 また、外来種による影響も大きい。現在、多様で大量の外来種の輸入や利用、人と物資の移動に伴う非意図的な移動により、野生生物が本来の生息地の外で野生化し、生態系への悪影響のみならず、産業や人の健康・生命にも悪影響をもたらすようになってきている。

(廃棄物・リサイクル問題)

 廃棄物・リサイクル問題については、循環型社会の構築のため、リデュース・リユース・リサイクルの3Rを促進するとともに、廃棄物の適正処理を確保することが必要である。

(環境アセスメント)

 都市部における開発事業においては、地域冷暖房施設、中水道施設等の整備による省エネ・省資源が可能となり、緑化スペースも確保されることから、一定の環境の向上も見込まれる。しかし、地方条例によっては環境アセスメントの手続に長期間を要する等の問題がある場合があり、より効率的で適正な在り方が問われている。

【改革の方向】

(土壌環境保全対策)

 我が国には、農用地の土壌汚染については法制度が存在するが、市街地土壌汚染に関しては、ダイオキシン類を除き、現在法制度がなく、26項目の物質について環境基準が存在しているのみである。このため、各地で汚染地が発見されても、その浄化等の対策を進めるための法的制度が存在しない。このため、次のような問題が生じている。

 汚染された土壌そのものの摂取による健康リスクについての対策がとられていない。

 また、土地取引において土地が汚染されているかどうかについて十分に調査をしないで売買が行われるため、購入者が多額の浄化費用を負わされる事例があり、円滑な土地取引を阻害するおそれが生じている。

 さらに、土壌の汚染は地下水の汚染につながっている可能性が高く、土壌汚染を放置することは、将来的には地下水を飲用(源水)に供することが困難になるおそれがある。

 また、汚染地の調査・対策に関して、地方公共団体で条例や要綱を作るところが徐々に現れているが、各地で全く異なった制度が設けられれば、全国展開する事業者は個別の対応が求められ、大きな負担となる可能性がある。地方の実情に応じた対応も重要ではあるが、国がまず基準を示すことが肝要である。

 また、現在のように市街地土壌汚染の対策に関する制度のない状況では、自主的に対策を行う者がかえって非難の対象となるなど不公平感を呼んでいる。

 最後に、欧米の土壌汚染対策法制が1980年以降整備されたため、外国企業が我が国で土地を取得する場合や合併の際、自国の法制度と同程度の対策を求める場合が少なくなく、将来的には、我が国に土壌汚染対策の法制度がないことが、対日投資のディスインセンティブになるおそれもなしとはいえない。

(地球温暖化問題) 

<温室効果ガスの発生削減>

 我が国は、1990年レベルで先進国全体の二酸化炭素の8.5%、1998年には8.7%を排出しており、京都会議の議長国としても、温暖化防止に向けた応分の責任を果たすべきである。

 このため、我が国においては、本年4月に、衆・参両院において、「地球温暖化防止の国内制度を構築するとともに、京都議定書を早期に批准し、京都議定書の2002年発効を目指して、国際的なリーダーシップを発揮すべき」とする国会決議が全会一致で可決されている。さらに、COP7における最終合意後、地球温暖化対策推進本部において、京都議定書の2002年締結に向けた準備を本格的に開始することとし、(1)京都議定書の目標を達成するため、「地球温暖化対策推進大綱」を見直す、(2)次期通常国会に向けて、京都議定書締結の承認及び京都議定書の締結に必要な国内制度の整備・構築のための準備を本格化することが決定された。

 したがって、京都議定書の批准に備え、総合的な対策を樹立すべきである。我が国の1999年度の温室効果ガスは、京都議定書の基準年に比べて全体で6.8%増加している状況にある。このため温室効果ガスの低減に最も効果的かつ実効性のある原子力発電所の活用について、安全確保を大前提に国民の理解と協力を得る努力を続ける必要がある。

 同時に、省エネルギー対策の推進、天然ガスの利用拡大、風力や太陽光・バイオマス発電のような新エネルギーの推進、燃料転換等の対策等により、社会全体を環境低負荷型に変えていく政策を採る必要がある。その際、新エネルギーの普及、省エネルギーの促進について省庁横断的な取組をすることが検討されるべきであろう。

 国内対策の検討に当たっては、(1)国民一人一人が地球温暖化防止に向けて自らのライフスタイルを変革すること、(2)政府及び国民各層が一丸となって取り組んでいく必要があり、国民一人一人の理解と行動を求めていくこと、(3)経済への過度な負担を回避すること、(4)個々の主体が合理的に最適な措置を柔軟に選択することにより経済全体に最小の負担で最大の効果が得られる施策とすることが重要である。

<ガスパイプラインの建設促進>

 また、容易に輸送可能な石油、石炭とは異なり、天然ガスについては、その普及をめぐる問題点として、以下の点を明示的に考慮する必要がある。

 また、天然ガスそのものについても、石油、石炭と比して高価格である。

 このうち、高価格なガスコストについて、その理由の一つとして、ガス会社間の競争が不十分であるという問題を挙げることができるものと考える。この点については、我が国のガスパイプライン網は各会社の供給区域ごとに分断されているのが実情であり、ガス会社間の競争が生じにくいという側面も指摘できよう。

 また、我が国の場合、欧米とは異なり、私有地におけるガスパイプラインの埋設用地の確保が困難であるため、公道下における埋設が基本になっている。このため、導管埋設者による地元折衝及び関係行政機関への協議等に相当な期間を要するところとなり、ガスパイプラインの敷設に要する期間が長期化している状況にある。

 また、ガス管の埋設、修理工事等の際の施工方法に係る規制については、一般に我が国の場合、欧米と比して、より踏み込んだ内容となっているのが通常であり、その結果として、ガス管埋設や修理の単位コストが割高となっている可能性にも着目せねばならない。

 以上を踏まえると、現行の規制について、その合理性及びこれを今後も維持すべき必要性を綿密に評価するとともに、その結果、当該規制が創設された当初において想定されていた役割を既に終えているもの、昨今の技術革新の成果等にかんがみ一定の合理化が可能なもの等については、積極的にその見直しを進めるべきである。

(情報的手法を用いた企業の自主的取組の推進)

 近年、企業活動による環境負荷を効率的に低減させるための手法として、自社の環境に対する取組、環境負荷に関する情報等を公表するための有効な媒体である環境報告書や企業の事業活動における環境保全のためのコストとその効果を可能な限り定量的に把握、分析する手法である環境会計が注目されているところである。

 環境報告書及び環境会計については、それぞれガイドラインの策定、シンポジウムの開催等の普及策が講じられてきており、それらに取り組む企業数は年々増加しつつあるものの、企業全体に占める割合は依然として僅少にとどまっており、十分に普及が図られている状況にはなってない。

 環境報告書及び環境会計の一層の普及促進を図るとともに、「統一化が図られていない。適正な記載になっているか確認の方法がない。」といった各方面からの指摘を踏まえ、環境報告書及び環境会計に係る比較可能性や信頼性の確保の観点からの検討を進めていく必要がある。

(都市のヒートアイランド現象の解消)

 都市のヒートアイランド現象の解消には、欧州の都市生活にみられるように、夏期には長い休暇を取って都市を離れたり、企業等の活動水準を下げるといった対策も考えられるが、第一義的には高温化の原因となる排熱の削減、地表面被覆の改善等が必要であろう。

 これらに関しては、従来から、関係各省・地方公共団体等により、省エネ対策、屋上・壁面緑化の促進、人工被覆の改善、都市構造の改善等の対策がとられてきている。例えば、国土交通省においては、都市緑地保全法(昭和48年法律第72号)を改正し、緑化施設整備計画認定制度を創設したところであり、東京都においては、条例による緑化の義務付け等の取組が行われている。

(人と自然との共生)

 近年、我が国においては、多様な主体の参加による自然再生型の公共事業が計画されるなど「人と自然との共生」を目的とした政策が広く実施されるようにはなってきているが、急速に進行しつつある生物多様性の喪失、衰退のトレンドを止めるには至っていない。

 現行の生物多様性国家戦略は、生物多様性の保全に関する関心や理解を高め、官民挙げての多様な取組を促す上で一定の役割を果たしていると言えるが、各省庁の施策の統合や連携の点で十分でないこと等の問題点があり、掲げられている理念や目標などに関してその実効性を高めていく必要がある。現行の生物多様性国家戦略を「人と自然との共生」を図るためのトータルプランとして内容の充実を図るとともに、さらに、その実施を推進するため関係省庁からなる自然再生事業推進会議を設置するなど、関係省庁の連携体制の一層の強化を図る必要がある。

 また、外来種問題に係る仕組みとしては、現在、外国からの生物の輸入や国内での移動に関するものが幾つか存在するが、その目的は「農業生産の安全及び助長を図る」等であり、生態系、生物多様性、人の健康や産業など広範な人間活動に影響を与える外来生物のリスク管理全体を幅広くカバーするものではない。内閣府大臣官房政府広報室「自然の保護と利用に関する世論調査」平成13年5月によれば約9割の国民が外来生物に対する持込み制限などの規制を望んでいることにこたえるべく、「人と自然との共生」を図る観点から外来種問題に係る仕組みを整備する必要がある。

(廃棄物・リサイクル問題)

 排出事業者や製造事業者の責任及び排出者としての国民の責務を徹底し、民間活力を活用することにより、廃棄物処理及びリサイクルを効率的に推進していくことが必要である。

(環境アセスメント)

 我が国の都市を、より良いものとし、そこで暮らす人々が健全な環境の中で生活していることを実感できるような都市にするためには、十分に環境の視点を取り入れながら、都市全体の中長期な構想、すなわち都市のグランドデザインを策定し、迅速かつ効率的に進めていく必要がある。

【具体的施策】

(1) 土壌環境保全対策【平成13年度中に措置〔7)を除く。〕】

 下記の視点に留意しつつ、市街地の土壌汚染の調査・浄化等に関する対策を樹立し、次期通常国会での法案提出を含め検討し結論を出すべきである。

  1.  土壌汚染の調査については、人の健康等への影響、新たな汚染の拡大の防止、土地取引の円滑化等の観点から、有害物質の取扱事業場等について一定の場合に調査を行うことや、土地の開発前等に調査を行うことを検討するべきである。

  2.  近隣住民に対する情報開示のため、また、将来の購入者がリスク管理地をつかまされて多額の浄化費用を負担せざるを得ない状況に陥るのを防止するため、汚染地の登録・情報提供の体制を整備するべきである。

  3.  土壌汚染の浄化等に関しては、費用負担については汚染者負担の原則を踏まえることとしつつ、一定の場合に原因者、土地所有者等に対策を義務付けることとする。

  4.  対策の発動基準と対策の内容のバランスをとり、土地所有者等に過度に負担とならないよう柔軟に対応できるようにすべきである。

  5.  原因者が不明、資力不足等の場合に、対策の全費用を土地所有者等に負担させるのは困難な場合があることから、汚染者負担を原則としつつ、支援措置について、基金の設立や税制等も含めて検討すべきである。

  6.  国の制度を制定するに際しては、地方公共団体の条例等について地方分権の趣旨を尊重した上で、国の制度との整合性を確保するように努める。

  7.  土地の利用や取引の促進にも資するよう、民事上の損害賠償等の紛争を円滑に解決し、土壌汚染に係る調査や対策の実効性の確保にも資する手段について、既存の制度の活用も含め検討する。

(2) 地球温暖化問題

ア 温室効果ガスの発生削減【京都議定書の発効に向けて必要な対策については平成13年度中に措置。その他については逐次実施】

 下記により、総合的な対策を実施すべきである。

  1.  温暖化防止が社会・経済全体にかかわる問題であり、温室効果ガス(特に二酸化炭素)が国民の生活も含め、あらゆる発生源から生じていることにかんがみると、費用効果性の高い手法を用いることが肝要である。また、地球温暖化は、事業者に対して新事業のフロンティアをもたらすこともあることを念頭に置いて取組を進める必要がある。

  2.  温室効果ガスの削減技術の導入に当たっては、投資回収に長期間を要する等の理由から進んでいないのが事実であり、導入促進の実効性を高めるため、施策の裏打ちを行っていくことが必要である。公共交通機関、共同輸送、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)、食品廃棄物リサイクル等の他の政策目的から実施するいわゆる「ノンリグレット対策」について有効な場合はその導入を促進すべきである。

  3.  分野別には、交通体系のグリーン化、脱温暖化社会の構築に向けた都市・地域基盤社会整備、ライフスタイルの脱温暖化、非エネルギー起源の二酸化炭素、その他の温室効果ガスの排出削減対策を含む環境保全のための枠組みを推進すべきである。

  4.  温室効果ガスの効率的・効果的な削減のために、従来の規制の方式以外に、税・課徴金や、市場メカニズムを通じた効率的な排出権取引などの経済的手法、自主的取組を組み合わせていくことが重要であり、これらの手法の具体的な在り方について検討することが必要である。この場合、対策を実施した結果について評価の上、必要に応じ、対策の追加を図っていくことが必要である。
     なお、検討に当たっては、現下の厳しい経済情勢にかんがみ、経済界の創意工夫をいかし、我が国の経済活性化につながるものとするよう配慮すべきである。

  5.  また、新エネルギーについては、例えば新エネルギーの導入基準制度(RPS:Renewables Portfolio Standard)等電力分野における新たな市場拡大措置の導入に向けて具体的な検討が進められているが、このような措置も含め各種新エネルギー対策を強力に推進すべきである。

  6.  クリーンエネルギー自動車を含む低公害車、低燃費車について、普及を推進するとともに、低コスト化、性能面の向上に向けた技術開発等を推進する。

  7.  ただし、経済的負担を課す措置については、その有効性についての国民の理解の進展、措置を講じた場合の環境保全上の効果、国民経済に与える影響等についての調査研究結果、諸外国における取組の現状等、措置を取り巻く状況の進展も踏まえ、幅広い観点から検討すべきである。

  8.  また、民間における自主的取組に関し、経団連などの自主行動計画については、一層の信頼性を確保しつつ中長期的に自主行動計画の枠組みの中で産業界の取組を続けるために、民間による第三者評価を視野に入れたスキームとして国内登録機関の設置が検討されることが望ましい。

  9.  技術開発は、それによるブレークスルーによって大幅なエネルギー効率の改善が図られる可能性の高い対策であることから、引き続き推進していくことが重要。その際、産学官が適切な役割分担を図りながら、有機的・体系的に技術開発に取り組むことが重要。

  10.  なお、二酸化炭素の吸収源として大きな役割を果たす森林については、地球温暖化の防止や生態系の保全など森林の有する多面的機能が持続的に発揮されるよう、適切な森林整備・保全を進める必要がある。

イ ガスパイプラインの建設促進

 ガス管敷設に係る規制の在り方等については、安全の確保等を大前提とし、欧米の状況等も念頭に置きつつ、検討すべきである。具体の検討事項については以下のとおりである。

 埋設深度について、2MPa以上の高圧で市街地の道路下に埋設する場合であっても、当該道路の舗装厚や他の埋設物との離隔距離等に係る一定の基準に照らし支障なき場合には、1.8mではなく1.2mで足りることとする。【平成14年度中に措置(検討)、平成15年度中に措置(結論)】

 また、将来的にはガスパイプラインが海底に敷設されるケースも想定し、海底敷設に係るガス管に係る材質、設計荷重、許容応力等、技術基準の在り方についても、欧米の状況等も念頭に置きつつ、安全の確保を前提として検討する必要がある。【平成14年度中に措置(検討開始)】

 さらに、公益特権を持つパイプライン事業者によるガスパイプライン海底敷設に係る公益特権の行使が想定され民間主体相互の交渉では漁業権等に係る調整ができない場合には、客観性・透明性が十分に確保されるように当該調整の在り方について検討を行うべきである。【実際上の必要が生じた場合に検討】

(3) 情報的手法を用いた企業の自主的取組の推進

ア 環境報告書及び環境会計の普及促進の方策

 大企業のみならず中小企業への環境報告書及び環境会計の普及を図るべく、環境報告書及び環境会計に係るデータベースを構築し情報提供を行うなど、普及促進のための行政支援策を講じるべきである。【平成14年度中に措置】

 また、環境報告書及び環境会計がもたらす環境保全上の利益にかんがみ、これらに取り組む企業への何らかのインセンティブ付与の方策やこれら企業が社会から適正な評価が得られ、結果として企業の競争力の向上につながるような方策など、普及促進のための新たな枠組みや普及定着に向けた政府目標の設定について検討し結論を出すべきである。【平成14年度中に措置】

 また、環境会計に期待される内部機能にもより一層着目し、原価計算、マテリアルフローコスト会計、業績評価への環境項目の導入など環境管理会計手法について検討をし結論を出すべきである。【平成13年度中に措置】

イ 環境報告書及び環境会計の比較可能性の確保【平成14年度中に措置】

 環境報告書の記載内容となる環境会計及び環境対策の評価結果(環境パフォーマンス情報)の更なる改良を行うことが必要である。具体的には、環境会計ルールの明確化のため環境保全対策に係る効果の体系付け等の理論的課題に対して検討を加えるとともに、環境パフォーマンス情報の集計方法を体系化する等により、実務上の利便性を向上させたガイドラインの改訂を行うべきである。そのため、業種間の比較がより一層的確かつ容易なものとなるよう項目の共通化を図りつつ、業種別の比較可能性の観点からも深堀すべきであると考える。

ウ 環境報告書及び環境会計の信頼性の確保【平成14年度中に措置】

 誤った情報による誤解を未然に防止する必要性から、EUでは「環境管理・監査制度(EMAS:Eco-Management and Audit Scheme)」による検証制度が構築されている。

 国際的な動向を踏まえ、我が国においても第三者機関による監査制度の在り方も含めた環境報告書及び環境会計の内容の信頼性確保を図るための枠組みについて検討し結論を出すべきである。

 その際、以下の点に留意の上、検討を行う必要がある。

  1. 監査実施者の専門家資格の創設あるいは公認がなされるようにするとともに、その養成や環境変化に伴う不断の資質向上について策を講じるべきである。なお、専門家資格を創設する場合には、資格に期限を設定すべきであるとともに、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)同様に民間の認証機関とするべきであり、公認の資格の場合は現在監査を実施している公認会計士なども可能とすべきである。

  2. 可能な限り、監査手法や監査範囲、監査基準について標準的なものを明らかにすることが必要である。

  3. 第三者監査に当たっては、当該報告書を作成する者にとって、多大なコスト負担とならないことに留意すべきである。

  4. 企業に不利な、いわゆるネガティブ情報は消費者・投資機関・地域住民等にとって重要な情報となり得ることから、これらについても環境報告書及び環境会計に盛り込むべきである。

  5. 記載内容が虚偽であった場合の行政の対応についても検討すべきである。

(4) 都市のヒートアイランド現象の解消【平成14年度中に措置】

 都市のヒートアイランド現象の実情にかんがみ、下記のような対策を構ずべきである。

  1.  現在、各種の対策が関係各省、地方公共団体等において実施されているが、これをより効果的なものとしていくためには、従来のように、対策実施主体が個々別々に対応するのではなく、各種の対策が相互に連携し、体系立って実施される必要がある。
     このため、環境省、国土交通省、経済産業省等関係省庁からなる総合対策会議を設置するなど、総合的な推進体制を構築するとともに、ヒートアイランド現象の解消対策に係る大綱の策定の検討をし結論を出すべきである。

  2.  また、ヒートアイランド現象については、地域により、排熱の原因別の寄与度や原因の相互関連性、地形等の差異があると考えられるため、対策の更なる推進のためには、更に各原因間の関連性、寄与度等複雑なメカニズムを更に解明していく必要があり、そのための調査・分析を進めるべきである。

  3.  一方、ヒートアイランド対策を考える上で、都市の形態も重要となると考えられる。例えば、都市内の一定地域においては高層化を図りつつ一方では中層・低層地域を別途確保することにより海や周辺地域からの風が都市内を通るようにする「風の道」を確保することや、高層化によりビルディングの建築面積を小さくする代わりに緑地帯を増やすこと、中心地域の高層化により都市の平面的な広がりを小さくして移動・物流に係るエネルギーコストや配電ロスを節約し排熱を減少させることなどにより、ヒートアイランドの緩和が図られることも考えられる。このようなことから、b.で述べたようにヒートアイランド現象のメカニズムを解明していく必要があるが、国土交通省においては都市政策の観点からもヒートアイランド対策について検討していくべきである。

(5) 人と自然との共生

ア 「人と自然との共生」を図るための国家戦略の策定【平成13年度中に措置】

 生物多様性国家戦略を「人と自然との共生」を図るためのトータルプランとするため、次のような要素を取り込んだものに改訂すべきである。

  1.  奥山的自然地域を広くカバーしている自然公園を国土における生物多様性保全の屋台骨として積極的に活用する。

  2.  我が国の国土面積の7割近くを占め、国土の保全・水源のかん養・自然生態系の維持といった公益的な役割を果たしている森林の機能の持続的発揮を図る観点から、機能に応じた適正な整備・保全を行うことが必要である。

  3.  都市と奥山の中間地域としての里地・里山の生物多様性保全上の位置付けを明確にする。その上で、NPOの活動の支援、事業配慮の徹底など、多様な手法を有機的に組み合わせて目的を達成する有効な方策を講じる。

  4.  海岸・浅海域等の水系域や都市域など既に自然の消失、劣化が進んだ地域では自然の再生や修復が重要な課題である。自然の再生、修復の有力な手法の一つに、地域住民、NPO等多様な主体の参画による自然再生事業があり、各省間の連携・役割分担の調整や関係省庁による共同事業実施など、省庁の枠を超えて自然再生を効果的・効率的に推進するための条件整備が必要である。このため、関係省庁からなる自然再生事業推進会議を設置するなど、関係省庁の連携体制の一層の強化を図る必要がある。また、自然再生事業の推進に当たって、調査計画段階から事業実施、完了後の維持管理に至るまで専門家の参画や地域住民、NPO等の参画を得るためには、多様な仕組みを活用することが重要であり、例えば、維持・管理業務についてアドプトプログラム(ボランティア活動を行う企業や市民団体などが担当エリアを決め河川等の清掃・美化等を行う制度)の活用やNPOへの委託等により、きめ細かな市民ニーズへの対応を図る必要がある。また、再生事業や修復事業を行うに当たっては科学的検討を基にした具体的な目標を掲げるとともに、自然環境の復元状態をモニタリングしながら、その評価を事業にフィードバックするなど科学的な計画・手法に基づき実施することが必要である。

  5.  身近な自然の理解、保全のための学習の機会を広げる(自然再生事業や小中学校の学校教育等に取り入れる。)。

  6.  自然環境の保全に係る基礎調査の充実(国設のモニタリング拠点の整備、浅海域の生物・生態系情報のデータ整備、アジア地域の自然環境の基礎的データの充実など)を図る。

  7.  絶滅のおそれのある種の保全については、現状においてもアセスメントや各種施策の中で予防的な対策を講じているところであるが、自然再生事業の中に位置付けたり、里山・里地での生物多様性指標として取り上げて回復計画を実行するなど、現状の緊急避難的対策から予防的対策へとより一層重点を移すことが必要である。

  8.  外来種による生物多様性の侵食、生態系、人の健康・生命や産業への悪影響を回避するため、「人と自然との共生」を図る観点から外来種問題に係る仕組みを整備する。

※備考 「人と自然との共生」に係る施策については、次のような分野で特に大きな雇用創出が見込まれる。(1)調査・計画立案、(2)自然再生型公共事業(自然を再生させるには鉄やコンクリートではなく間伐材や粗朶など地域の自然資源を活用するため、労働集約的な作業が多く、事業費に占める人件費の割合が大きい)、(3)「人と自然との共生」に係る学習指導

イ 「人と自然との共生」を図るための国家戦略の実現のための措置

(ア)フォローアップ及び評価【逐次実施】

 「人と自然との共生」を図るための国家戦略の実現を担保するため、「生物多様性国家戦略」を定期的にフォローアップし、評価を行うべきである。

(イ)自然公園法改正法案の提出【次期通常国会で措置】

 自然公園を生物多様性保全の屋台骨として積極的に活用するために、従来の風景保護に加え、生態系の保全と野生生物保護の機能を自然公園法(昭和32年法律第161号)に位置付けるべきである。

(ウ)「人と自然との共生」を図る観点からの外来種対策の在り方に係る検討【平成14年度中に措置】

 早急な対応が望まれる外来種問題については、既存の制度では不十分であり、「人と自然との共生」を図る観点からの制度の構築が必要であり、実効ある制度の構築に向け法制化も視野に入れて早急に検討を開始し結論を出すべきである。なお、上記検討に当たっては、外来種による生物多様性の侵食等の影響を回避するために必要と考えられる以下のような対策、制度の実効性の確保に不可欠であるリスク評価や水際対策等に必要な体制整備の観点も含めて議論し結論を得る必要がある。

  1.  外来種導入に関するリスク評価及びこれに基づく制限

    危険性が高いと思われる種について、野生化の可能性や野生化した場合の生態系、野生生物種、産業、人の健康等への影響を科学的に評価を行う。その上で、危険性が高いと評価されたものに対しては、輸入、利用等に関し一定の制限を課す。

  2.  外来種の管理を適正に行うための対策

    リスク評価の結果、適正な管理が必要と評価された種について、当該外来種を所有、利用、管理する者に対し、遺棄・放逐の禁止、逸出の防止、登録義務等を課す。

  3.  外来種の駆除や制御に関する対策

     問題外来種の駆除事業を実施している自治体、NGOなどに財政的支援を行う仕組みが必要であり、問題外来種の野生化をもたらした責任を有する者等に対し、駆除と制御(増殖・蔓延・影響の抑制)に係る一定の役割を課す(定着した問題外来種の駆除、在来種の利用促進事業に係る基金への出資など。)

  4. 在来種の産業利用の促進

    在来種の産業利用に係る研究・開発を促進し、外来種利用産業における在来種利用を促進する。

(6) 廃棄物・リサイクル問題【平成14年度中に措置(※)】

(※) 廃棄物の定義・区分の見直しについては14年3月までに中間とりまとめを行う。また、拡大生産者責任の対象の拡大等、リサイクル市場の形成支援及びリサイクル施設の建設促進についても14年3月までに検討し、廃棄物・リサイクル体制の再構築を図る。

 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(以下「廃棄物処理法」という。)を始めとする諸制度について、以下の検討をし結論を出すべきである。

  1. 廃棄物の定義・区分、廃棄物処理に係る業、施設許可の見直し等

     廃棄物の定義、一般廃棄物・産業廃棄物の区分の見直しについて、その処理責任の在り方と併せて検討を行うとともに、併せてリサイクルに係る廃棄物処理法上の業及び施設の許可や手続の簡素化に関し早急に見直しを行うべきである。また、廃棄物処理法及び建築基準法(昭和25年法律第201号)の施設許可の運用における住民同意に関する調査を行った上で、必要な運用の適正化を図るべきである。

     

  2. 拡大生産者責任、デポジット制の導入等

     廃棄物の発生の抑制、リサイクルしやすい製品の生産等に係る拡大生産者責任につき、従来導入されていなかった分野について導入を図るとともに、既に導入されている分野については、その強化を図ることを検討する。また、デポジット制の導入及び3Rの促進に関する規格や基準(環境JIS、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年法律第100号)の情報提供措置等)の早急な拡大についても検討する。

     

  3. 不法投棄跡地等の修復対策の強化

     不法投棄跡地等の修復対策に関し、費用負担、責任分担を明確化し、技術開発の促進や環境修復ビジネスの促進のための措置等を講ずるべきである。

 以上においては、廃棄物処理法を始めとする諸制度について、国、地方公共団体、排出事業者、製造業者及び排出者の適正な役割分担に十分留意すべきである。

(7) 環境アセスメント

 環境に配慮した都市づくりの推進のため、当会議として地方公共団体に下記のとおり要請する。

  1.  都市の将来像に関するグランドデザインを策定し、その中で中長期的な環境配慮型の都市づくりを迅速かつ効率的に更に進めていくことを目指すこと。

  2.  環境アセスメント条例の施行については、事業の内容や場所に応じた柔軟で効果的なアセスメントの推進に努めるとともに、課題が顕在化している一部の地方公共団体にあっては施行の実態を踏まえつつ、必要に応じ、次のような手続の合理化を計り、期間の短縮につながるよう努めること。

    1. 公示、説明会の周知方法の多様化

    2. 事業者と行政の協議、関係審議会の審議期間等についての迅速な標準事務処理期間の設定

    3. 説明会対象地域の設定に係る運用の合理化

    4. 類似の既存データの活用による効率化


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2003年02月28日