フィリピンの保健・衛生


フィリピン 人口7,027万人、面積300千平方km、高齢化率3.57%、合計特殊出生率3.58(3.28〜3.74)、1ペソ=3.1円
(*人口は1996年推計値、高齢化率は1995年国勢調査、合計特殊出生率は1995年推計値、為替相場は1998年9月現在)

  1. 人口動態

    1.  1995年の国勢調査によれば、人口は6,860万人、高齢化率は3.57%、年齢別人口構成は15歳未満37.6%、15歳から24歳19.9%、25歳以上42.5%である。また、1990年から1995年の年間平均人口増加率は2.32%である。
       保健省の統計によれば、男女比は106.6:100、平均寿命は男性65.13歳、女性は70.38歳、年間平均人口増加率は2.34%である。また、マニラ首都圏の人口は962万人、全人口の13.8%に達している。
       なお、保健省の統計では、1996年の人口は6,995万人であり、1995年の数値に比べて約32万人減少している。このようにフィリピンにおいては、人口動態に関する正確な統計は存在しない。

    2.  保健省の統計によれば、1996年における粗出生率(CBR)は人口1,000あたり28.9(前年比+2.0)、粗死亡率(CDR)は人口1,000あたり6.2(同-0.5)、合計特殊出生率(TFR)は3.68である。
       なお、1995年の乳児死亡率(IMR:生後1年未満の死亡)は出生1,000あたり48.93、小児死亡率(CMR:5歳未満の死亡)は人口1,000あたり18.78、妊産婦死亡率(MMR:妊産婦の死亡)は出生1,000あたり1.80である。(保健省)

    3.  保健省の統計によれば、1993年の主な死亡原因は、心臓疾患46千人、循環器疾患37千人、肺炎36千人、悪性新生物(がん等)25千人、結核25千人、事故14千人、慢性閉塞性肺疾患(喘息等)11千人、その他の呼吸器疾患7千人、下痢6千人、腎疾患6千人である。
       このうち乳児の主な死亡原因は、肺炎7,631人、胎児・新生児呼吸不全5,651人、先天性異常2,366人、下痢1,661人、敗血症1,252人、出生時損傷1,190人、栄養失調925人、麻疹765人、甲状腺異常661人、他の呼吸器疾患591人である。

  2. 保健医療行政

    1.  地方行政機関としては、全国を13地域に分け、各地域ごとに保健省が地域事務所を設置しているほか、全国79の各州には州保健局が設けられている。また、全国約1,500の各市・町には、それぞれ市・町保健事務所が設けられるとともに、医師、保健婦・看護婦、検査技師等が常勤する保健所(Rural Health Unit: RHU)が全国2,335ヵ所に設置されている。なお、ミンダナオ・ムスリム自治区(ARMM)については、同自治区政府の保健省が中央政府から独立して保健医療行政を行なっているが、中央政府保健省とARMM保健省との関係は良好である。
       全国約42,000のバランガイ(フィリピンの最小行政単位で、人口数千人程度。日本の字または区に相当するが、自治体としての機能を有し、バランガイの首長は公選制である。)のうち、主に地方農村部の11,646ヵ所に准看護婦兼産婆(midwife)が勤務するバランガイ・ヘルス・ステーション(Barangay Health Station: BHS)が設けられている。このBHSにおいては、分娩介助、家族計画教育、避妊薬・避妊具の配布、母子保健教育、乳幼児検診、予防接種、結核治療、栄養失調児へのビタミン剤支給等の簡単な治療や保健指導が行われている。

  3. 医薬品政策・血液事業

    1.  フィリピンでは医薬分業制をとっており、医師は原則として投薬をせず処方箋を交付して患者自身が薬局で薬を購入することになっている。政府はすべての国民が医薬品を安価に入手できるように「国家医薬品政策」を推進している。この政策の重要な柱は1988年9月に公布され1990年l月より全面施行されている「一般薬品名法」である。
       これは高価なブランド品ではなく安価な一般薬を消費者が選択できるようにするため、医師の処方箋や薬のラベルに一般薬品名の使用を義務づけたものである。
       また、1997年12月には、生薬等の伝統医薬品に関する法律が制定され、法制度面での整備が始められた。

    2.  フィリピンでは、フィリピン赤十字社が緊急時の輸血血液供給の責任を負っているが、通常の輸血用血液の多くは民間血液銀行からの供給に依存している。1994年3月にUSAIDが発表した調査結果によると、国内で必要と推定される約60万ユニットの輸血用血液のうち約33%が供給されず、供給される全体量の64%が売血に依存し、HIVを含む血液感染症に対するスクリーニングも55%と低い。なお、1996年の7月までに売血を排除することを目標とした法律が1994年8月に成立し、献血をベースとした血液事業の確立が進められているが、進展状況は思わしくない。

  4. 保健医療機関

    1.  フィリピンの保健医療機関は、国公立機関と民間機関に分けられ、さらに機能により一次から三次に分けられている。一次医療はRHUあるいは民間診療所が担っているが、これらの施設に入院機能はない。二次医療は、州立病院及び州立地区病院、あるいは民間病院が担っている。三次医療については、地域病院や専門病院などの各種国立病院が担っている。国立病院は、概ね各地域毎に設置されているほか、心臓病、精神病等の専門病院、特別病院が主にマニラ首都圏に設置されている。また、各州には州立病院と数カ所の州立地区病院が設置されている

    2.  保健省所管の国立病院は、48施設20,930床である。その内訳は、国立腎臓移植研究所などの専門病院(Specialty Hospital)4施設-985床、サン・ラザロ病院などの特別病院(Special Hospital)6施設-6,775床、研究病院(Research Hospital)2施設-75床、地域拠点病院(Medical Center)16施設-5,400床、地域病院9施設-3,025床、地区病院3施設-250床、療養所(Sanitaria)8施設-4,420床である。このうちの41.7%、20施設-11,735床は、マニラ首都圏に設置されている。
       その他は、自治体病院が504施設19,495床、保健省以外の政府関連機関病院が39施設6,686床、民間病院が1,111施設37,571床である。全国1,702施設、84,482床の病院のうち、約3分の1がマニラ首都圏に設置されている。

  5. 保健医療従事者

    1.  保健医療従事者に関する正確な統計は存在しないが、専門職規制委員会(Profession Regulation Commission)によれば、1998年2月現在の各保健医療関係免許の累計登録者数は、医師89,083人、歯科医師38,999人、看護婦317,751人、検査技師35,788人、薬剤師39,675人、栄養士9,790人、准看護婦兼産婆122,873人、理学療法士5,752人、放射線技師2,661人、獣医4,875人である。また、1990年以降毎年平均、医師約2,500人、看護婦約18,600人が新たに登録されている。
       なお、高等教育委員会(Commission on Higher Education)によれば、フィリピンには28の医科大学があり、毎年1,500人の卒業生を送り出している。

    2.  これら医療技能者の多くは、英語が堪能であることから、フィリピン国内よりも高い収入の得られる米国、中東を中心に海外で就労しており、4万人以上のフィリピン人医師、12万人以上のフィリピン人看護婦が海外で就労していると言われている。
       また、国内で活動している医療従事者の多くがマニラを中心とする大都市圏に集中しているため、地方の医療従事者不足は深刻である。

  6. エイズ(HIV感染症)等の感染症の現状

    1.  1993年の主な疾病は、下痢1,172千人、気管支炎814千人、インフルエンザ512千人、肺炎500千人、結核146千人、事故137千人、心臓疾患105千人、マラリア90千人、水疱瘡63千人、麻疹78千人である。周辺諸国に比べて、特に結核の感染率が高く、人口10万人当りの患者数は272人(1994年WHO)と、第2位のカンボジア(10万人当り148人)を大きく引き離して、アジア地域では最も結核患者の多い国となっている。

    2.  フィリピンにおける最初のエイズ患者は1984年にセブ市で報告された。以後、保健省に報告されたHIV感染者数は爆発的ではないものの確実に増加し、1997年10月末現在、HIV感染者968名(1984年からの累計)、うちAIDS患者318名、患者のうち死亡者169名である。また、保健省への届け出によると、主な感染経路は異性間性交渉(約53%)であり、ついで同性間性交渉(約16%)である。輸血、血液製剤、IDU(血管内薬物使用者)、母子間感染は相対的に少ない。
       フィリピン内における感染者数が比較的少なく、また、その増加が緩やかである理由は定かでない。しかし、一つの理由として、HIV感染者が爆発的に増加する契機となりやすいIDUがセブ市以外のフィリピン内では比較的少なく、多くの薬物濫用者は、通常、吸飲により薬物を使用していることが考えられている。

    3.  世界保健機構(WHO)は、1994年当時、既にフィリピン国内に約5万人のHIV感染者が存在すると推定し、15歳以上の成人10,000人当りの感染者数を約5人と見積もっていた。しかし、その後、WHOは推定値を下方修正し、フィリピン国内のHIV感染者数を1996年時点で17,500人、15歳以上の成人10,000人当りの約4人と推定している。

    4.  また、保健省はエイズ・サーベイランスとして、HIV感染の可能性が高いグループ(風俗産業従事者等)を対象に、マニラ市、パサイ市、ケソン市、セブ市、ダバオ市、イロイロ市、アンヘレス市、バギオ市、カガヤン・デ・オロ市、ジェネラル・サントス市、サンボアンガ市等の主要都市において、HIV及び梅毒の検査を行っている。このサーベイランスにおいては、HIVの感染率は約0.1%、梅毒の感染率は5ないし20%である。

  7. 公衆衛生の今後の課題

     1991年から進められている中央官庁から地方自治体への権限委譲に伴い、主に財政上の理由により、保健医療分野の公的サービスに地域格差が生じている。また、財政に余裕のある都市部の自治体は、同時に富裕な住民が数多く居住している地域でもあり、民間保健医療サービスも充実する傾向がある。このため、都市部の貧困地区とともに、地方農村部の保健医療サービスの充実が今後の課題である。しかし、このような地域は同時に社会インフラが未整備であり、保健医療分野に限らず、道路建設、学校建築、水道整備等の推進、さらには産業育成、雇用創造も含む総合的な経済・社会開発が求められている。


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    SEP. 28, 1998