フィリピン(パラワン、Sulu州およびTawiTawi州)におけるマラリアの現状

 

  1. 比国政府のマラリア対策

 比国保健省(DOH)は、2015年までにマラリアを根絶することを目標として掲げており、マラリア患者へのクロロキン(抗マラリア剤)の配布、殺虫剤をしみ込ませた蚊帳の配布など、長年にわたってマラリア対策を行ってきた。その結果、フィリピンにおけるマラリア流行度は確実に低下してきている。
 また、活動の継続性を考慮し、積極的に住民の参加を求め、ボランティアのヘルスワーカーを村落部におけるマラリア対策の中核と位置づけるとともに、可能な限りNGOとも協調を図って対策を行っている。
 しかし、今のところ安価なクロロキンが多くの症例で効果を現しているものの、世界的にはクロロキン耐性マラリアが増加している。フィリピンにおいても今後はクロロキン耐性マラリアが趨勢を占めると予想されており、今後とも継続して流行度を低下せしめるためには、さらなるマラリア対策の強化が求められている。

  1. マラリアの子供の健康への影響

 フィリピンにおけるマラリアの存在は、子供の健康に多大な影響を与えており、貧困に起因する栄養状態の悪さとも相まって、幼少時から繰り返しマラリアに感染することが慢性的な貧血の原因となっている。
 特にマラリアは一度感染しても免疫が成立せず、一生のうちに何度でも感染することから、マラリア常在地では幼少時にマラリアに耐えられた者だけが生き残っていると言っても過言ではない。
 また、パラワン島やミンダナオ島などにおいて、既にマラリアが根絶されているビサヤ地方(フィリピン中部)から、新たに入植した人々が開いた村落においては、診療所、保健所等の保健インフラが未整備であることに加え、日常の生活の中で容易にマラリアに感染することから、抵抗力の弱い子供と妊婦が特に危険な状態に曝されている。

  1. パラワンにおけるマラリアの現状

 パラワンのマラリア流行度は比国内で最も高く、1995年の統計では8,193名の確定患者が記録されている(罹患率1,280/10万人)。また、このうち、治療が遅れれば、致死的経過をたどる熱帯熱マラリアの比率も70%を越えている。
 首都マニラを含むルソン島においては都市部では既にマラリアが根絶されているが、パラワンにおいては州都プエルト・プリンセサ市(人口約13万人)においても、毎年約3,000人のマラリア確定患者が報告されており(罹患率2,300/10万人)、上気道感染症に次いで疾病順位の2位にランクされている。また、マラリアによる死亡もパラワンでは10位にランクされている。
 ちなみに、比国全体では、マラリアの患者数は46,614人(1992年)、罹患率は71.3/10万人、疾病順位は10位、死亡順位は11位以下である。

  1. Sulu州およびTawiTawi州のマラリアの現状

  1. Sulu州およびTawiTawi州のマラリア流行状況の変遷

 Sulu州(人口約54万人)の1995年のマラリア患者数は5,439症例であり、フィリピン全体で確認された患者数(59,015症例)の9.2%を占める。また、TawiTawi州(人口約25万人)の1995年のマラリア患者数は2,750症例であり、フィリピン全体の4.7%を占めている。
 Sulu、TawiTawi両州において、顕微鏡検査によって確認されたマラリア患者数の推移は次のとおりである。

Sulu州 Tawi Tawi州
1991 4,646人 6,544人
1992 2,720人 6,307人
1993 2,449人 4,103人
1994 4,231人 3,285人
1995 5,439人 2,750人
5年平均 3,915人 4,598 人

 Sulu州においては、93年に患者数2400人まで低下したが、その後増加し、95年の統計では5,400人の患者を記録している。
 TawiTawi州においては、この5年間、患者数は低下の一途をたどっており、95年の患者数は2,700人まで低下してきている。
 しかし、これらの統計数字はあくまでも顕微鏡検査による陽性数であり、スライドグラスの数と検査可能な施設の存在に大きく依存している。よって、実際の患者数は、これよりも、かなりに多いと推定される。

  1. 近年のマラリア流行状況

(イ) Sulu州

 マラリア流行地居住人口は535,840人である。血液塗沫のスライド検査数は42,775例であった。このうち、マラリア原虫陽性が3,573例で、重症化すると致死的経過をたどり得る熱帯熱マラリアは2,706例、3日熱マラリアが857例、混合感染10例であった。この地域も、パラワン州と同様に熱帯熱マラリアが約80%と優占している。マラリア統計の国際的な指標であるAPI(人口1,000人あたりの年間スライド陽性数)は6.67であった。

(ロ) TawiTawi州

 マラリア流行地居住人口は252,194人である。スライド検査数は22,296例で、3,757例が陽性であった。熱帯熱2,349例に対し、3日熱は1,408例と、この州も熱帯熱マラリアが優占している。APIは16.85であった。

  1. マラリア対策活動(蚊帳の配布と再含浸)

 比国保健省(DOH)がこれまでに配布した蚊帳の累計総数は、詳らかではないが、昨年1年間にSuluでは8,066帳、TawiTawiでは10,028帳の蚊帳に殺虫剤の含浸が行われた。また、殺虫剤の家屋内残留噴霧はSuluでは14,321世帯、TawiTawiでは7,597世帯を対象に行われた。その他、媒介蚊の発生源対策である河川の整備(草刈りなど)も部分的に行われている。
 今後DOHでは費用のかかる残留噴霧から、殺虫剤含浸蚊帳へと戦術転換していく予定とのことである。また、家屋内残留噴霧の達成度を見ると、Sulu 168%、TawiTawi 84%と非常に高い達成度を示している。これは、両州におけるマラリア対策組織が意欲的に活動していることを示している。


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2001年05月09日