フィリピンの社会保険制度


フィリピン 人口7,027万人、面積300千平方km、高齢化率3.57%、合計特殊出生率3.58(3.28〜3.74)、1ペソ=3.2円
(*人口は1996年推計値、高齢化率は1995年国勢調査、合計特殊出生率は1995年推計値、為替相場は1998年3月現在)

  1. 社会保険制度

     フィリピンの社会保険制度は、公務員を対象とするGSIS(Government Service Insurance System: 公務員保険基金)と一般国民を対象とするSSS(Social Security System: 社会保障基金)とに分けられるが、事業内容はほぼ同じである。
     SSSは、傷病手当、障害年金、遺族年金、退職年金、出産休暇手当等の支給を行なう社会保険基金(Social Security Program: SS)、労働者及びその家族に対して医療費の給付を行なう医療保険基金(Medicare Program: MCR)、業務上疾病に関する医療費、労働災害に伴う傷病手当、障害年金、遺族年金等の支給を行なう労災補償基金(Employees' Compensation Program: EC)の3基金から構成される。
     また、SSSは生活資金、教育資金、住宅取得資金、株式投資資金の貸し付けも行っている。GSISも公務員を対象として、SSSと同様の事業を実施している。

    1. 強制及び任意加入者

       SSSへの加入は、使用者、60才以下のすべての労働者、一定額(1,000ペソ/月)以上の収入を得ている家庭内の使用人(メイド、コック、ドライバー、庭師、子守り、門衛等)、自営農・漁民、一定額(1,000ペソ/月)以上の収入を得ている自営業者(俳優、プロ・スポーツ選手、専門職等)については、法律により義務とされている。それ以外の者、例えば、一定額(2750ペソ/月)以上の収入を得ている海外建設労働者、退職者、SSS加入者の配偶者、在比大使館等外国政府機関に勤務する労働者等については任意で加入できるようになっている。
       SSSに加入すると、労使双方にSS番号が付与され、SS-IDカードが交付される。このSS番号は生涯有効であり、SSSに関するすべての手続きにおいて必要とされる。  なお、1997年5月には、すべての自営農・漁民にもSSSへの加入を義務づける新法が制定された。(従前は一定額(1500ペソ/月)以上の収入を得ている自営農・漁民のみにSSS加入が義務づけられていた。)
       1995年におけるSSSの加入者は労働者15,879,173名、使用者480,780名である。また、GSISの加入者は約130万人(強制加入対象者の約8割)である。なお、SSS及びGSISによる医療保険基金がカバーしている人口は、加入者及びその家族を含めて約2,400万人である。

    2. 財源

       SSSは、社会保険制度であり、その費用は労働者及び使用者が負担する各保険料により、まかなわれている。GSISの場合には、中央政府及び各地方自治体が使用者として、応分の負担をしている。各保険料は、毎月使用者が労働者から徴収し、使用者負担分と共にSSSに支払うこととされ、通常、労働者の給料から控除されている。
       保険料は各基金ごとに、労働者の標準報酬月額によって、次のように定められている。なお、標準報酬月額は、労働者が一月に受け取る給与及びすべての手当(残業手当、通勤手当、扶養手当、食費補助等)を合算した金額を元に、125ペソから10,000ペソまで、50ないし500ペソ毎に27段階に分けて定められている。
       社会保障基金(SS)については、標準報酬月額の平均8.4%(使用者5.04%、労働者3.36%)、ただし標準報酬月額10,000ペソ以上(漸次12,000ペソ以上に引き上げ予定)は定額840ペソ(使用者506.7ペソ、労働者333.3ペソ。漸次定額1,008ペソに引き上げ予定。)である。医療保険基金(MCR)については、労使均等折半で、標準報酬月額の平均2.5%、ただし標準報酬月額3,000ペソ以上は定額75ペソである。労災補償基金(EC)については、全額使用者負担で、標準報酬月額の平均1%、ただし標準報酬月額1,000ペソ以上は定額10ペソである。
       なお、フィリピンにおいては、全国民の約49%が21歳未満の未成年であるという人口構成と、医療保険基金により支給される医療費について、疾病毎の定額制を採用していることから、現時点では保険財源には大いに余裕がある。

    3. 医療保険基金(MCR)

       医療保険基金は、フィリピン健康保険組合(Philippine Health Insurance Corporation: PHIC)により運営されている。GSISとSSS、それに海外労働者を対象者としたOWWA(Overseas Worker's Welfare Administration: 海外労働者福祉庁)は、各加入者から保険料を徴収するとともに、医療費の支払いを行なっている。
       加入者本人及びその扶養家族(配偶者、21歳未満の子、60歳以上の両親、21歳以上の障害を持つ子)がフィリピン医療委員会(Philippine Medical Care Commission: PMCC)から認定された病院または手術施設において、外科手術、化学療法、放射線治療、人工透析等の入院医療を受けた時に、医療費(室料、食費、薬剤費を含む)の給付を行っている。ただし、白内障については、外来通院による外科手術についても、医療費を給付する。
       医療費は、傷病の種類と医療施設の規模及びレベルに基づいて定められた一定額が医師または病院に医療保険基金から直接支払われ、それを超える分については患者の自己負担となる。
       また、医療保険基金からの医療費給付の対象となる入院期間は、加入者本人については1年に最大45日まで、扶養家族については併せて最大45日までに制限されている。なお、美容整形、視力矯正、精神疾患、一般健康診断、正常分娩については、給付の対象から除かれている。
       なお、労働災害による傷病の場合には、労災補償委員会(Employee's Compensation Commission: ECC)に認定された病院で、認定された医師が治療する場合について、労災補償基金から医療費が給付される。支給限度額は、労災補償委員会が定め、入院だけでなく、外来治療も給付の対象としている。

    4. 社会保険基金(SS)

       傷病手当、障害年金、遺族年金、退職年金、出産休暇手当などの支給を行なっている。また、傷病手当、障害年金、遺族年金については、労災補償基金との重複支給が認められている。

      1. 傷病手当

         傷病のため就労できず、最低4日間病床にあり、直前12ヶ月間に最低3ヶ月間保険料を支払っており、有給病気休暇を使い切っている場合には平均標準報酬日額の90%相当額(最低10ペソ、最高125ペソ)が傷病手当として支給される。
         支給期間は、年間120日を限度とし、同一傷病については240日を限度とする。
         労働災害による傷病の場合には、通常の傷病給付に加えて、平均標準報酬日額の90%相当額(最低10ペソ、最高90ペソ)が傷病手当として労災補償基金から支給される。支給期間は原則として120日間であるが、240日まで延長することも可能である。

      2. 障害年金

         保険料を36ヶ月以上支払っているSSSまたはGSIS加入者が完全または部分的に労働能力を永久的に失う障害者となった場合には、障害年金が支給される。支払期間が36ヶ月未満の者が障害者となった場合には、年金の代わりに一時金(最低1,000ペソ)が支給される。
         年金額または一時金の額は、加入期間と平均報酬月額により決定されるが、最低支給額(月800ペソ。ただし120ヶ月以上保険料を支払っていた場合は、月1,000ペソ)が定められている。加入期間が20年の場合、平均標準報酬月額の半額程度になる。さらに、完全障害者の場合には、これに加えて、月500ペソが加算されて支給される。
         完全障害者については、受給期間は終身であるが、部分障害者について、障害の程度により、受給期間が定められている。
         完全障害者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ未満)を扶養している場合には、被扶養者年金として、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月150ペソ)が支給される。
         労働災害による障害の場合には、通常の障害年金に加えて、障害の程度に応じて最長5年間、障害年金月額と同額の所得補償給付が労災補償基金から支給される。さらに、労働災害による完全障害者の子供については、通常の被扶養者年金に加えて、5年間、被扶養者年金月額と同額の所得補償給付が支給される。

      3. 遺族年金

         保険料を36ヶ月以上支払っているSSSまたはGSIS加入者が死亡した場合には、扶養していた配偶者及び子供に対して、遺族年金が支給される。支払期間が36ヶ月未満の者が死亡した場合及び両親、非嫡出子、直系子孫が受取人となる場合には、一時金が支給される。さらに、10,000ペソの葬祭金が給付される。
         年金額の額は、加入期間と平均報酬月額により決定され、完全障害者に支給される障害年金と同額である。一時金は、受給者が配偶者及び子供の場合、年金月額の35倍、両親、非嫡出子、直系子孫の場合には、年金月額の20倍である。
         死亡した加入者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ未満)を扶養していた場合には、完全障害者の場合と同様に、被扶養者年金として、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月10ペソ)が支給される。
         労働災害による死亡の場合には、通常の遺族年金に加えて、5年間、遺族年金月額と同額の所得補償給付が労災補償基金から遺族に支給される。さらに、労働災害による完全障害者の子供については、通常の被扶養者年金に加えて、5年間、被扶養者年金月額と同額の所得補償給付が支給される。

      4. 退職年金

         退職年金は、120ヶ月以上保険料を支払った60歳以上の退職者(就労中であっても低所得(月収300ペソ以下)の者も含む。)及び65歳以上の高齢者(就労者も含む。)に対して支給される。
         年金額は、加入期間と平均報酬月額により決定されるが、最低支給額(月1000ペソ。ただし240ヶ月以上保険料を支払っていた場合は、月1,200ペソ)が定められている。退職年金は、完全障害者に支給される障害年金と同額である。
         なお、保険料の支払い期間が120ヶ月に満たない者に対しては、支払った保険料とその利息に相当する金額が一時金(最低1,000ペソ)として支給される。
         退職年金受給者が21歳未満の未婚の子供(月収300ペソ未満)を扶養している場合には、完全障害者の場合と同様に、被扶養者年金として、5人までを限度とし、1人当り月額年金額の10%(最低月150ペソ)が支給される。

      5. 出産休暇手当

         SSSまたはGSIS加入者に対して、出産に伴う休暇中の所得補償として、SSSまたはGSISにより、出産休暇手当が給付される。
         出産または流産した直前の3ヶ月間に保険料を納入すべき対象となっていた女性については、第4子までの出産に対して、標準報酬日額に等しい額が出産休暇手当として60日間支給される。なお、帝王切開による出産の場合には、78日間支給される。ただし、自営業者、SSSの任意加入者は対象とはならない。
         また、出産による休暇中に、その女性を解雇することは労働法により、禁止されている。


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MAR. 18, 1998