疫学研究に関する倫理指針

平成14年6月17日

文部科学省
厚生労働省


目次

前文

第1 基本的考え方

 1  目的
 2  適用範囲目的
 3  研究者等が遵守すべき基本原則目的
 4  研究機関の長の責務等
第2 倫理審査委員会等
 5  倫理審査委員会目的
 6  疫学研究に係る報告
第3 インフォームド・コンセント等
 7  研究対象者からインフォームド・コンセントを受ける手続等目的
 8  代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける手続
第4 個人情報の保護等
 9  個人情報の保護に係る体制の整備目的
 10  資料の保存及び利用目的
 11  他の機関等の資料の利用目的
 12  研究結果を公表するときの措置
第5 用語の定義
 13 用語の定義
  (1) 疫学研究目的
  (2) 介入研究目的
  (3) 観察研究目的
  (4) 資料目的
  (5) 個人情報目的
  (6) 匿名化目的
  (7) 連結不可能匿名化目的
  (8) 研究者等目的
  (9) 研究責任者目的
  (10) 研究機関目的
  (11) 共同研究機関目的
  (12) 倫理審査委員会目的
  (13) インフォームド・コンセント目的
  (14) 既存資料等
第6 細則
 14 細則
第7 見直し
 15 見直し
第8 施行期日
 16 施行期日

前文

 疫学研究は、疾病のり患をはじめ健康に関する事象の頻度や分布を調査し、その要因を明らかにする科学研究である。疾病の成因を探り、疾病の予防法や治療法の有効性を検証し、又は環境や生活習慣と健康とのかかわりを明らかにするために、疫学研究は欠くことができず、医学の発展や国民の健康の保持増進に多大な役割を果たしている。
 疫学研究では、多数の研究対象者の心身の状態や周囲の環境、生活習慣等について具体的な情報を取り扱う。また、疫学研究は医師以外にも多くの関係者が研究に携わるという特色を有する。
 疫学研究については、従来から、研究対象者のプライバシーに配慮しながら研究が行われてきたところであるが、近年、研究対象者に説明し同意を得ることが重要と考えられるようになり、さらに、プライバシーの権利に関する意識の向上や、個人情報保護の社会的動向などの中で、疫学研究においてよるべき規範を明らかにすることが求められている。
 そこで、研究対象者の個人の尊厳と人権を守るとともに、研究者等がより円滑に研究を行うことができるよう、ここに倫理指針を定める。
 この指針は、世界医師会によるヘルシンキ宣言や、我が国の個人情報保護に係る論議等を踏まえ、疫学研究の実施に当たり、研究対象者に対して説明し、同意を得ることを原則とする。また、疫学研究に極めて多様な形態があることに配慮して、この指針においては基本的な原則を示すにとどめており、研究者等が研究計画を立案し、その適否について倫理審査委員会が判断するに当たっては、この原則を踏まえつつ、個々の研究計画の内容等に応じて適切に判断することが求められる。
 疫学研究が、社会の理解と信頼を得て、一層社会に貢献するために、すべての疫学研究の関係者が、この指針に従って研究に携わることが求められている。同時に、健康の保持増進のために必要な疫学研究の実施について、広く一般社会の理解が得られることを期待する。

第1 基本的考え方

 

   目的

 この指針は、国民の健康の保持増進を図る上での疫学研究の重要性と学問の自由を踏まえつつ、個人の尊厳及び人権の尊重その他の倫理的観点並びに科学的観点から、疫学研究に携わるすべての関係者が遵守すべき事項を定めることにより、社会の理解と協力を得て、疫学研究の適正な推進が図られることを目的とする。

 

   適用範囲

 この指針は、人の疾病の成因及び病態の解明並びに予防及び治療の方法の確立を目的とする疫学研究を対象とし、これに携わるすべての関係者に遵守を求めるものである。
 ただし、次のいずれかに該当する疫学研究は、この指針の対象としない。

 (1) 法律の規定に基づき実施される調査
 (2) 資料として既に連結不可能匿名化されている情報のみを用いる疫学研究
 (3) 手術、投薬等の医療行為を伴う介入研究

 <細則>

  1  本則ただし書(1)には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の規定に基づく感染症発生動向調査など、法律により具体的に調査権限が付与された調査が該当する。
  2  指針の適用範囲内と範囲外の事例について整理すると、次表のとおりである。
研究事例
指針の対象 指針の対象外
(診療と研究)
ある疾病の患者数等を検討するため、複数の医療機関に依頼し、当該疾病の患者の診療情報を収集・集計し、解析して新たな知見を得たり、治療法等を調べる行為。

なお、既存資料等や既存資料等から抽出加工した資料の提供のみについては、指針11の規定が適用される。
(診療と研究)
特定の患者の疾病について治療方法を検討するため、当該疾病を有する患者の診療録等診療情報を調べる行為。これを踏まえ、当該患者の治療が行われる。
特定の患者の治療を前提とせずに、ある疾病の治療方法等を検討するため、研究者等が所属する医療機関内の当該疾病を有する患者の診療録等診療情報を収集・集計し、院内又は院外に結果を報告する行為。
(医薬品と食品)
被験者(患者又は健常者)を2群に分け、一方の群は特定の食品(健康食品、特定保健用食品等を含む)を摂取し、他方の群は通常の食事をすることにより、当該食品の健康に与える影響を調べる行為。
(医薬品と食品)
被験者(患者又は健常者)を2群に分け、一方の群は、特定の医薬品を投与し、他方の群には、偽薬(プラセボ)を投与することにより、当該医薬品の健康に与える影響を調べる行為。
  (連結不可能匿名化されている情報)
患者調査と国民栄養調査を組み合わせて、地域別の生活習慣病の受療率とエネルギー摂取量から、両者の関係を調べる行為。
(保健事業関係)
保健事業(脳卒中情報システム事業やいわゆるがん登録事業を含む。以下本表において同じ。)により得られた検診データ又は生体資料を用いて、特定の疾病の予防方法、疾病の地域特性等を調査する研究。(保健事業として行われるものを除く。)
(保健事業関係)
法令等に基づく保健事業。

 3  海外の研究機関との共同研究については、原則としてこの指針を遵守するとともに、当該海外の 研究機関の存する国における基準がこの指針よりも厳格な場合には、その厳格な基準を遵守しなければならない。

 3 研究者等が遵守すべき基本原則

 (1)疫学研究の科学的合理性及び倫理的妥当性の確保

  (1) 研究者等は、研究対象者の個人の尊厳及び人権を尊重して疫学研究を実施しなければならない。

  (2) 研究者等は、科学的合理性及び倫理的妥当性が認められない疫学研究を実施してはならず、疫学研究の実施に当たっては、この点を踏まえた明確かつ具体的な研究計画を立案しなければならない。

  (3) 研究者等は、疫学研究を実施しようとするときは、研究計画について、研究機関の長の許可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。

  <細則>
   研究機関の長とは、例えば、以下のとおりである。
   ・ 病院の場合は、病院長。
   ・ 保健所の場合は、保健所長。長。
   ・ 大学医学部の場合は、医学部長。長。
   ・ 企業等の研究所の場合は、研究所長。

  (4) 研究者等は、法令、この指針及び研究計画に従って適切に疫学研究を実施しなければならない。

  (5) 研究者等は、研究対象者を不合理又は不当な方法で選んではならない。

(2) 個人情報の保護
 研究者等は、研究対象者に係る情報を適切に取り扱い、その個人情報を保護しなければならない。

(3)インフォームド・コンセントの受領

  (1) 研究者等は、疫学研究を実施する場合には、事前に、研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則とする。

  (2) 研究者等は、研究対象者に対する説明の内容、同意の確認方法その他のインフォームド・コンセントの手続に関する事項を研究計画書に記載しなければならない。

(4) 研究成果の公表
 研究責任者は、研究対象者の個人情報の保護のために必要な措置を講じた上で、疫学研究の成果を公表しなければならない。

 4 研究機関の長の責務等

(1) 倫理的配慮の周知
 研究機関の長は、当該研究機関における疫学研究が、倫理的、法的又は社会的問題を引き起こすことがないよう、研究者等に対し、疫学研究の実施に当たり、研究対象者の個人の尊厳及び人権を尊重し、個人情報の保護のために必要な措置を講じなければならないことを周知徹底しなければならない。

(2) 倫理審査委員会の設置
 研究機関の長は、研究計画がこの指針に適合しているか否かその他疫学研究に関し必要な事項の審査を行わせるため、倫理審査委員会を設置しなければならない。ただし、研究機関が小規模であること等により当該研究機関内に倫理審査委員会を設置できない場合には、共同研究機関、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会に審査を依頼することをもってこれに代えることができる。

<細則>
 本則ただし書に規定する倫理審査委員会には、複数の共同研究機関の長が共同して設置する倫理審査委員会が含まれる。

(3) 倫理審査委員会への付議
 研究機関の長は、研究者等から3(1)(3)の規定により許可を求められたときは、倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。

<細則>

 1 研究機関に所属しない研究者については、本則3(1)(3)、7、8、10(2)並びに11(1)並びに(2)(2)及び(3)の規定による研究機関の長の許可は不要である。
 2 研究機関に所属しない研究者については、研究分野に応じ、共同して疫学研究を行う研究者が所属する機関、大学、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会の意見を自ら聴くことが求められる。

(4) 研究機関の長による許可
 研究機関の長は、倫理審査委員会の意見を尊重し、研究計画の許可又は不許可その他疫学研究に関し必要な事項を決定しなければならない。
 この場合において、研究機関の長は、倫理審査委員会が不承認の意見を述べた疫学研究については、その実施を許可してはならない。

<細則>
 研究機関の長は、公衆衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため緊急に研究を実施する必要があると判断する場合には、倫理審査委員会の意見を聴く前に許可を決定することができる。この場合において、研究機関の長は、許可後遅滞なく倫理審査委員会の意見を聴くものとし、倫理審査委員会が研究の変更又は中止の意見を述べた場合には、これを踏まえ、研究責任者に対し研究の変更又は中止を指示しなければならない。

第2 倫理審査委員会等

 5 倫理審査委員会

 (1)倫理審査委員会の責務及び構成

  (1) 倫理審査委員会は、研究機関の長から研究計画がこの指針に適合しているか否かその他疫学研究に関し必要な事項について意見を求められた場合には、倫理的観点及び科学的観点から審査し、文書により意見を述べなければならない。

  (2) 倫理審査委員会は、学際的かつ多元的な視点から、様々な立場からの委員によって、公正かつ中立的な審査を行えるよう、適切に構成されなければならない。

<細則>
 倫理審査委員会は、医学・医療の専門家、法律学の専門家等人文・社会科学の有識者及び一般の立場を代表する者から構成され、外部委員を含まなければならない。
 また、男女両性で構成されなければならない。

  (3) 倫理審査委員会の委員は、職務上知り得た情報を正当な理由なく漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。

 (2)倫理審査委員会の運営

  (1) 審査対象となる研究計画に関係する委員は、当該研究計画の審査に関与してはならない。ただし、倫理審査委員会の求めに応じて、その会議に出席し、説明することを妨げない。

  (2) 倫理審査委員会の運営に関する規則、委員の氏名、委員の構成及び議事要旨は公開されなければならない。ただし、議事要旨のうち研究対象者の人権、研究の独創性又は知的財産権の保護のため非公開とすることが必要な部分については、この限りでない。

  (3) 倫理審査委員会は、研究機関の長が学会等に設置された他の倫理審査委員会に研究計画がこの指針に適合しているか否かその他疫学研究に関し必要な事項について付議することができる旨を定めることができる。

<細則>
 「学会等に設置された他の倫理審査委員会」には、複数の共同研究機関の長が共同して設置する倫理審査委員会が含まれる。

  (4) 倫理審査委員会は、軽易な事項の審査について、委員長が指名する委員による迅速審査に付すことその他必要な事項を定めることができる。迅速審査の結果については、その審査を行った委員以外のすべての委員に報告されなければならない。

<細則>
 迅速審査手続による審査に委ねることができる事項は、一般的に以下のとおりである。

 (1) 研究計画の軽微な変更の審査
 (2) 共同研究であって、既に主たる研究機関において倫理審査委員会の承認を受けた研究計画を他の分担研究機関が実施しようとする場合の研究計画の審査
 (3) 研究対象者に対して最小限の危険(日常生活や日常的な医学的検査で被る身体的、心理的、社会的危害の可能性の限度を超えない危険であって、社会的に許容される種類のものをいう。以下同じ。)を超える危険を含まない研究計画の審査

 6 疫学研究に係る報告

  (1) 研究責任者は、研究期間が数年にわたる場合には、研究計画書の定めるところにより、研究機関の長を通じ研究実施状況報告書を倫理審査委員会に提出しなければならない。

<細則>
 研究実施状況報告書の提出時期については、研究計画書に記載して倫理審査委員会が承認する。この時期については、例えば3年ごとを一つの目安とすべきである。

  (2) 研究責任者は、研究対象者に危険又は不利益が生じたときは、直ちに研究機関の長を通じ倫理審査委員会に報告しなければならない。

  (3) 倫理審査委員会は、研究責任者から(1)又は(2)の規定により研究実施状況報告書の提出又は報告を受けたときは、研究機関の長に対し、当該研究計画の変更、中止その他疫学研究に関し必要な意見を述べることができる。

  (4) 研究機関の長は、倫理審査委員会の意見を尊重し、当該研究計画の変更、中止その他疫学研究に関し必要な事項を決めなければならない。

  (5) 研究責任者は、研究機関の長が(4)の規定により当該研究計画の変更、中止その他疫学研究に関し必要な事項を決定したときは、その決定に従わなければならない。

  (6) 研究責任者は、疫学研究の終了後遅滞なく、研究機関の長を通じ倫理審査委員会に研究結果の概要を報告しなければならない。

<細則>
 研究機関に所属しない研究者は、研究計画に対する意見を求めた倫理審査委員会に本則(1)、(2)及び(6)の報告を自ら行うことが求められる。

第3 インフォームド・コンセント等

 

   研究対象者からインフォームド・コンセントを受ける手続等

 研究対象者からインフォームド・コンセントを受ける手続等は、原則として次に定めるところによる。
 ただし、疫学研究の方法及び内容、研究対象者の事情その他の理由により、これによることができない場合には、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けたときに限り、必要な範囲で、研究対象者からインフォームド・コンセントを受ける手続を簡略化すること若しくは免除すること又は他の適切なインフォームド・コンセント等の方法を選択することができる。

<細則>
 倫理審査委員会は、インフォームド・コンセント等の方法について、簡略化若しくは免除を行い、又は原則と異なる方法によることを認めるときは、当該疫学研究が次のすべての要件を満たすよう留意すること。

 (1) 当該疫学研究が、研究対象者に対して最小限の危険を超える危険を含まないこと。
 (2) 当該方法によることが、研究対象者の不利益とならないこと。
 (3) 当該方法によらなければ、実際上、当該疫学研究を実施できず、又は当該疫学研究の価値を著しく損ねること。
 (4) 適切な場合には、常に、次のいずれかの措置が講じられること。
研究対象者が含まれる集団に対し、資料の収集・利用の内容を、その方法も含めて広報すること。
できるだけ早い時期に、研究対象者に事後的説明(集団に対するものも可)を与えること。
長期間にわたって継続的に資料が収集又は利用される場合には、社会に、その実情を、資料の収集又は利用の方法も含めて広報し、社会へ周知される努力を払うこと。
 (5) 当該疫学研究が社会的に重要性が高いと認められるものであること。

 (1)介入研究を行う場合

  (1) 人体から採取された試料を用いる場合

   ア 試料の採取が侵襲性を有する場合(採血の場合等をいう。以下同じ。)
 文書により説明し文書により同意を受ける方法により、研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。

   イ 試料の採取が侵襲性を有しない場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。この場合において、文書により説明し文書により同意を受ける必要はないが、研究者等は、説明の内容及び受けた同意に関する記録を作成しなければならない。

  (2) 人体から採取された試料を用いない場合

   ア 個人単位で行う介入研究の場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。この場合において、文書により説明し文書により同意を受ける必要はないが、研究者等は、説明の内容及び受けた同意に関する記録を作成しなければならない。

   イ 集団単位で行う介入研究の場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない。この場合において、研究者等は、当該研究の実施についての情報を公開し、及び研究対象者となる者が研究対象者となることを拒否できるようにしなければならない。

<細則>

 1 研究対象者となることを拒否した者については、個人情報は収集しないが、集計に当たっての母集団に加えることができるものである。
 2 この場合の情報公開は、特に研究対象者が情報を得やすい形で行われることが必要である。

 (2)観察研究を行う場合

  (1) 人体から採取された試料を用いる場合

   ア 試料の採取が侵襲性を有する場合
 文書により説明し文書により同意を受ける方法により、研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。

   イ 試料の採取が侵襲性を有しない場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを原則として必要とする。この場合において、文書により説明し文書により同意を受ける必要はないが、研究者等は、説明の内容及び受けた同意に関する記録を作成しなければならない。

  (2) 人体から採取された試料を用いない場合

   ア 既存資料等以外の情報に係る資料を用いる観察研究の場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない。この場合において、研究者等は、当該研究の実施についての情報を公開し、及び研究対象者となる者が研究対象者となることを拒否できるようにしなければならない。

   イ 既存資料等のみを用いる観察研究の場合
 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない。この場合において、研究者等は、当該研究の実施についての情報を公開しなければならない。

 

   代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける手続

 研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることが困難な場合には、当該研究対象者について疫学研究を実施することが必要不可欠であることについて、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けたときに限り、代諾者等(当該研究対象者の法定代理人等研究対象者の意思及び利益を代弁できると考えられる者をいう。)からインフォームド・コンセントを受けることができる。

<細則>
 研究対象者本人からインフォームド・コンセントを受けることが困難であり、代諾者等からのインフォームド・コンセントによることができる場合及びその取扱いは、次のとおりとする。

 (1) 研究対象者が痴呆等により有効なインフォームド・コンセントを与えることができないと客観的に判断される場合
 (2) 研究対象者が未成年者の場合。ただし、この場合においても、研究責任者は、研究対象者本人にわかりやすい言葉で十分な説明を行い、理解が得られるよう努めなければならない。また、研究対象者が16歳以上の場合には、代諾者とともに、研究対象者本人からのインフォームド・コンセントも受けなければならない。
 (3) 研究対象者が死者であって、その生前における明示的な意思に反していない場合

第4 個人情報の保護等

 

   個人情報の保護に係る体制の整備

 研究責任者は、疫学研究の実施に当たり個人情報の保護に必要な体制を整備しなければならない。

 10 資料の保存及び利用

 (1) 資料の保存
 研究責任者は、疫学研究に関する資料を保存する場合には、研究計画書にその方法等を記載するとともに、個人情報の漏えい、混交、盗難、紛失等が起こらないよう適切に、かつ、研究結果の確認に資するよう整然と管理しなければならない。

 (2) 人体から採取された試料の利用
 研究者等は、研究開始前に人体から採取された試料を利用する場合には、研究開始時までに研究対象者から試料の利用に係る同意を受け、及び当該同意に関する記録を作成することを原則とする。ただし、当該同意を受けることができない場合には、次のいずれかに該当することについて、倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けたときに限り、当該試料を利用することができる。
(1) 当該試料が匿名化されていること。
(2) 当該試料が匿名化されていない場合において、次のア及びイの要件を満たしていること。
当該疫学研究の実施についての情報を公開していること。
研究対象者となる者が研究対象者となることを拒否できるようにすること。

 11 他の機関等の資料の利用

 (1) 研究実施に当たっての措置
 研究責任者は、所属機関外の者から既存資料等の提供を受けて研究を実施しようとするときは、提供を受ける資料の内容及び提供を受ける必要性を研究計画書に記載して倫理審査委員会の承認を得て、研究機関の長の許可を受けなければならない。

 (2) 既存資料等の提供に当たっての措置
 既存資料等の提供を行う者は、所属機関外の者に研究に用いるための資料を提供する場合には、資料提供時までに研究対象者から資料の提供に係る同意を受け、及び当該同意に関する記録を作成することを原則とする。ただし、当該同意を受けることができない場合には、次のいずれかに該当するときに限り、資料を所属機関外の者に提供することができる。
(1) 当該資料が匿名化されていること。
(2) 当該資料が匿名化されていない場合において、次のア及びイの要件を満たしていることについて倫理審査委員会の承認を得て、所属機関の長の許可を受けていること。
当該疫学研究の実施及び資料の提供についての情報を公開していること。
研究対象者となる者が研究対象者となることを拒否できるようにすること。
(3) 社会的に重要性の高い疫学研究に用いるために人の健康に関わる情報が提供される場合において、当該疫学研究の方法及び内容、当該情報の内容その他の理由により(1)及び(2)によることができないときには、必要な範囲で他の適切な措置を講じることについて、倫理審査委員会の承認を得て、所属機関の長の許可を受けていること。

<細則>

 1 既存資料等の提供を行う者の所属する機関に倫理審査委員会が設置されていない場合において、(2)又は(3)の倫理審査委員会の承認を得ようとするときは、他の機関、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会に審査を依頼することができる。
 2 倫理審査委員会は、(3)により、他の適切な措置を講じて資料を提供することを認めるときは、当該疫学研究及び資料の提供が、7柱書の細則の(1)から(5)までのすべての要件を満たすよう留意すること。

 

 12  研究結果を公表するときの措置

 研究者等は、研究の結果を公表するときは、個々の研究対象者を特定できないようにしなければならない。

第5 用語の定義

 13 用語の定義

   (1)疫学研究
 明確に特定された人間集団の中で出現する健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を明らかにする科学研究をいう。

<細則>

 1 医師等が、主に、自らの又はその属する病院若しくは診療所の今後の診療に反映させるため、所属する機関が保有する、診療記録など人の健康に関する情報を縦覧し知見を得る行為は、この指針でいう疫学研究には該当しない。
 2 市町村、都道府県、保健所等が地域において行う保健事業や、産業保健又は学校保健の分野において産業医又は学校医が法令に基づくその業務の範囲内で行う調査、脳卒中情報システム事業やいわゆるがん登録事業等は、この指針でいう疫学研究には該当しない。

 (2) 介入研究
 疫学研究のうち、研究者等が研究対象者の集団を原則として2群以上のグループに分け、それぞれに異なる治療方法、予防方法その他の健康に影響を与えると考えられる要因に関する作為又は不作為の割付けを行って、結果を比較する手法によるものをいう。

 (3) 観察研究
 疫学研究のうち、介入研究以外のものをいう。

 (4) 資料
 疫学研究に用いようとする血液、組織、細胞、体液、排泄物及びこれらから抽出したDNA等の人の体の一部の試料並びに診断及び治療を通じて得られた疾病名、投薬名、検査結果等の人の健康に関する情報その他の研究に用いられる情報(死者に係るものを含む。)をいう。

 (5) 個人情報
 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

 (6) 匿名化
 個人情報から個人を識別することができる情報の全部又は一部を取り除き、代わりにその人と関わりのない符号又は番号を付すことをいう。資料に付随する情報のうち、ある情報だけでは特定の人を識別できない情報であっても、各種の名簿等の他で入手できる情報と組み合わせることにより、その人を識別できる場合には、組合せに必要な情報の全部又は一部を取り除いて、その人が識別できないようにすることをいう。

 (7) 連結不可能匿名化
 個人を識別できないように、その人と新たに付された符号又は番号の対応表を残さない方法による匿名化をいう。

 (8) 研究者等
 研究責任者、研究機関の長その他の疫学研究に携わる関係者(研究者等に対し既存資料等の提供を行う者であって、当該提供以外に疫学研究に関与しないものを除く。)をいう。

 (9) 研究責任者
 個々の研究機関において、疫学研究を遂行するとともに、その疫学研究に係る業務を統括する者をいう。

 (10) 研究機関
 疫学研究を実施する機関(研究者等に対し既存資料等の提供を行う者であって、当該提供以外に疫学研究に関与しないものの所属する機関を除く。)をいう。

 (11) 共同研究機関
 研究計画書に記載された疫学研究を共同して行う研究機関をいう。

 (12) 倫理審査委員会
 疫学研究の実施の適否その他疫学研究に関し必要な事項について、研究対象者の個人の尊厳及び人権の尊重その他の倫理的観点及び科学的観点から調査審議するため、研究機関の長の諮問機関として置かれた合議制の機関をいう。

 (13) インフォームド・コンセント
 研究対象者となることを求められた人が、研究者等から事前に疫学研究に関する十分な説明を受け、その疫学研究の意義、目的、方法、予測される結果や不利益等を理解し、自由意思に基づいて与える、研究対象者となること及び資料の取扱いに関する同意をいう。

 (14) 既存資料等
 次のいずれかに該当する資料をいう。
 (1) 疫学研究の研究計画書の立案時までに既に存在する資料
 (2) 疫学研究の研究計画書の立案時以降に収集した資料であって収集の時点においては当該疫学研究に用いることを目的としていなかったもの

第6 細則

 

 14  細則

 この指針に定めるもののほか、この指針の施行に関し必要な事項は、別に定める。

第7 見直し

 

 15  見直し

 この指針は、必要に応じ、又は施行後5年を目途としてその全般に関して検討を加えた上で、見直しを行うものとする。

第8 施行期日

 

 16  施行期日

 この指針は、平成14年7月1日から施行する。

<細則>
 指針施行前に着手された疫学研究に対してはこの指針は適用しないが、可能な限り、この指針に沿って適正に実施することが望まれる。


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2003年02月28日