へき地医療


 へき地における医療の確保及び保健の向上を図るため、無医地区の調査結果に基づき、昭和31年度から7次にわたる年次計画が策定されている。
 第1次計画から第3次計画(昭和31年度〜昭和48年度)までは、無医地区に診療所の設置を進め、巡回診療車(艇)、患者輸送車等の機動力の充実、へき地診療所への医師派遣助成等の基本的なへき地医療対策を行った。第4次計画(昭和49〜54年度)では、へき地中核病院の整備、糠医地区の巡回診療、へき地保健指導所の設置、第5次計画(昭和55〜60年度)では、医療情報システムの導入、医師のへき地への就職斡旋、第6次計画(昭和61〜平成2年度)では、医師の研修機能の強化、初期診断機器の整備、静止画像伝送システムの導入、第7次計画では、無医地区に準じる地区の医療向上、へき地医療対策の地域医療計画への位置づけ、協力病院からへき地診療所へのローテーンョンによる医師の確保等の施策が講じられている。
 第七次計画は平成七年度末で終了するため、平成七年に「へき地保健医療対策検討委員会」が開催され、「今後のへき地保健医療対策のあり方について」と題する報告が取りまとめられた。
 この報告は、無医地区及び無歯科医地区の数が減少しつつある現状を踏まえた上で、へき地における医療、特に医師・歯科医師の確保が困難であることを指摘し、医師・歯科医師の確保が最も重要な対策であるとしている。また、へき地の人口の高齢化に伴い、保健・医療・福祉の連携が重要になっていること、近年進歩の著しい情報通信技術をへき地医療においても活用すべきこととしている。
 報告では、具体的な施策として、へき地医療支援病院の指定、ローテーション事業の拡充、卒後臨床研修での取り組み、歯科保健医療の拡充、情報通信技術の活用、救急医療の充実等があげられており、第八次計画の策定にあたっては、これらの施策のいくつかが盛り込まれる予定である。

・へき地保健医療計画

 へき地における医療供給体制の整備が他の地域に比較して遅れている実情を改善するため、へき地の住民が疾病の治療から、健康の増進、疾病の予防、リハビリテーションまでを一体とした適切な医療を受けることができるよう厚生省では年次計画を策定し、この計画に則って、へき地保健医療対策を推進している。
 これまで、へき地における医療水準の向上を図ることを目的として、昭和31年度から7次にわたる年次計画が策定され、それぞれの地区の実情に合わせた各種の施策が講じられている。

・第7次へき地保健医療計画

 平成元年に開催された「へき地保健医療対策検討委員会」の報告をもとに、平成3年度から平成7年度までの5か年を計画期間とした第7次計画が策定された。この計画では、無医地区に加えて新たに無医地区に準じる地区についても医療の確保とその充実を図るとともに、幡広い視点からへき地における医師確保を図ることとなっている。
 第7次計画のホイントは、へき地医療対策が量的にはかなり整備が進んだことを踏まえ、@へき地中核病院及びへき地診療所の整備・充実、Aへき地勤務医師の確保、B巡回診療体制の整備・充実等である。具体的には、地械の特性や必要性に応じて、へき地診療所を設けるとともに、へき地中核病院を指定し、大学付属病院等から一定期間、医師等をへき地診療所に派簿するへき地勤務医師等確保事業(ローテイト計画)の導入、巡回診療において成人病の予防等保健活動を重視するほか、眼科、耳鼻いんこう科など特定診療科の充実を図ることとしている.
 なお、第7次計画は平成7年度末で終了するため、厚生省では改めて「へき地保健医療対策検討委員会」を開催し、21世紀に向けた総合的なへき地保健医療対策についての検討を行い、平成7年4月28日、結果が報告されている。この報告を踏まえ、平成8年度政府予算の確定を待って、平成8年度から5か年にわたる第8次へき地保健医療計画が策定されることとなっている。

・へき地

 へき地保健医療計画においては、へき地とは、交通条件及び自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち、医療の確保が困難である地域をいう。
 無医地区、無医地区に準じる地区、へき地診療所が開設されている地区等が含まれる。

・無医地区・無歯科医地区

 無医地区とは、医療機関のない地域で、当該地域の中心的な場所を起点として概ね半径四キロメートルの区域内に人口五〇人以上(昭和四〇年以前は人口三〇〇人以上)が居住している地域であって、かつ、容易に医療機関を利用できない地区のことをいう。無歯科医地区は同様に歯科医療機関がない地域のことである。
 昭和三一年度から開始されたへき地保健医療計画に基づく種々の対策により、無医地区数、無医地区人口は、昭和四一年の二、九二〇カ所、一一九万一、三一二人から平成六年には九九七カ所、二三万六、一九三人へと大幅に減少している。北海道、広島県、高知県、大分県、長野県などに多い。

・無医地区に準じる地区

 既に診療所が開設されているか、または人口が五〇人未満であるために、無医地区には該当しないが、無医地区に準じた医療の確保が必要な地区であると都道府県知事が判断した地区のことをいう。
 平成三年度からの第七次計画において、無医地区と同様の対策が講じられている。診療所が既に開設されている場合に、無医地区に準ずる地区とされるのは、診療所の診療日数が少ないこと(概ね週三日以下)または診療時間が短いこと(概ね一日四時間以下)等の条件のいずれかを満たす場合である。

・へき地診療所

 へき地医療を確保するため、人口一〇〇〇人以上で、最寄りの医療機関まで通常の交通機関を利用して三〇分以上要する無医地区に設置された診療所のことをいう。平成六年度末現在、全国に八八六か所設置されている。
 昭和三一年度から設置が開始されているが、近年は既に設置されているへき地診療所の診療機能の向上を図るため、X線撮影装置等の初期診療機器の整備が推進されるとともに、勤務医師に対する研修が実施されている。
 しかし、たとえ、へき地診療所を設置しても、その診療所に勤務する医師の確保が困難な場合も多いことから、昭和三八年度以降は、へき地診療所を設置することに代えて、患者輸送軍(艇)や巡回診療車(船)を整備することにより、患者の搬送体制を強化する方策が図られている。
 平成三年度以降は都道府県にへき地勤務医師等確保協議会が設置され、協力病院からへき地に定期的に医師を派遣する事業が新たに導入される等、へき地診療所の医師確保のための施策が強化されている。

・へき地中核病院

 へき地医療の確保を図るため、無医地区および無医地区に準じる地区を有するニ次医療圏単位に指定された病院のことをいう。平成六年度末現在、一四一病院が指定されている。
 昭和五〇年度から整備が開始され、主要な診療科を有し、二〇〇床程度の一般病床を持つ病院が指定されている。へき地中核病院は、へき地医療担当指導医を指定し、へき地医療活動計画の策定、指導を行うこととなっている。また、へき地中核病院は、その圏域内の無医地区に対する巡回診療、へき地診療所への医師派遣を行うとともに、昭和六一年度以後は、へき地診療所の後方支援病院として、へき地勤務医師に対する研修機能の強化が図られている。

・へき地保健指導所

 保健婦を配置し、保健医療の機会に恵まれない住民に対する保健指導の強化を図る目的で設置されたものである。平成六年度末現在、二八か所設置されている。
 昭和五〇年度から、無医地区のうち人口がニ〇〇人以上で、最寄りの医療機関まで通常の交通機関を利用して三〇分以上を要する地域を対象に整備が開始された。へき地保健指導所には、原則として保健婦が駐在し、地区の保健衛生状態を十分把握し、保健所および最寄りの医療機関との連絡の下に活動を行う。

・へき地医療情報システム

 へき地における診療・治療活動、保健活動の支援のために設けられた情報システムのことである。
 昭和五五年度から、隔絶性の高い離島や積雪のため交通が途絶する豪雪地帯にあるへき地保健指導所と最寄りの医療機関との間およびへき地診療所とへき地中核病院の間にファクシミリが導入された。また、昭和六一年度からは、へき地診療所に静止画像伝送システムが導入された。
 これらのへき地医療情報システムにより送った医学的諸情報や画像をへき地中核病院の医師が判断し、へき地診療所の医師に対し適切な指導・助言を行う診療支援体制の整備が、特に離島において進められている。

へき地保健医療計画

第1次計画(昭和31年度〜昭和37年度)
1.診療所の設置
・へき地診療所の整備[人口が多く、かつ、交通の不便な無医地区に設置]
第2次計画(昭和38年度〜昭和42年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
・患者輸送車、巡回診療車等の整備[運営と医師確保の問題から]
第3次計画(昭和43年度〜昭和49年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
3.医師派遣の協力助成
・へき地担当病院医師派遺事業(昭和45年度から昭和60年度)
4.へき地医療地域連携対策(昭和46年度から昭和54年度)
・へき地医療地域連携対策事業[地域内の保健所、医療機関、市町村等の有機的連携]
5.医師の確保
・へき地勤務医師等確保修学資金(昭和49年度から平成2年度)
第4次計画(昭和50年度〜昭和54年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
3.医師派遣の協力助成
4.へき地医療地域連携対策
5.医師の確保
6.へき地中核病院の整備・運営[無医地区を有する広域市町村圏単位(昭和50年度〜)]
7.へき地保健指導所の整備・運営[保健婦による保健指導(昭和50年度〜)]
第5次計画(昭和55年度〜昭和60年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
3.医師派遣の協力助成
4.医師の確保
・へき地勤務医師等確保修学資金
・へき地勤務医師確保事業[へき地医療振興事業助成費に統合(昭和57年度〜)]
・修学資金貸与者ワ−クショップ実施経費[へき地医療振興事業助成費に統合(昭和57年度〜)]
5.へき地中核病院の整備・運営
6.へき地保健指導所の整備・運営
7.医療情報システムの導入
・へき地診療所診療支援システム[へき地中核病院とへき地診療所との連携(ファクシミリ)]
・特定地域保健医療システム[へき地保健指導所と医療機関との連携(ファクシミリ)]
第6次計画(昭和61年度〜平成2年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
3.医師の確保
4.へき地中核病院の整備・運営
5.へき地保健指導所の整備・運営
6.医療情報システムの導入
・静止画像伝送システム(昭和61年度〜)
7.研修機能の強化
・へき地診療所の医師等の医療技術の向上
・へき地診療所の医師等とへき地中核病院との連携強化
・代診医の派遣
8.へき地診療所の設備整備
・初期診断機器
第7次計画(平成3年度〜平成7年度)
1.診療所の設置
2.機動力の利用
3.医師の確保
・へき地勤医師等確保事業(ロ−テイト計画)
4.へき地中核病院の整備・運営
・へき地医療担当指導医
5.へき地保健指導所の整備・運営
6.医療情報システムの導入
7.研修機能の強化
8.へき地診療所の設備整備

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NOV. 14, 1996