平成14年12月11日

臨床研究に関する倫理指針(案)

前文

 近年の科学技術の進展に伴い、臨床研究の重要性は一段と増している。臨床研究の主な目的は、医療における予防、診断及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上にあり、最善であると認められた予防、診断及び治療方法であっても、その有効性、効率性、利便性及び質に関する臨床研究を通じて、絶えず再検証されなければならない。医療の進歩は、最終的には、臨床研究に一部依存せざるを得ず、人間の尊厳及び人権を尊重し、社会の理解と協力を得て、適正に臨床研究を実施していくことが不可欠である。
 そのため、世界医師会によるヘルシンキ宣言等に示された倫理規範を踏まえ、被験者の福利に対する配慮が、科学的及び社会的利益よりも優先されなければならないことに加えて、この側面について、被験者及び社会に十分な説明を行い、その理解に基づいて臨床研究を実施することが求められている。
 そこで、被験者の個人の尊厳及び人権を守るとともに、臨床研究を実施しようとする研究者(以下「実施研究者等」という。)がより円滑に臨床研究を行うことができるよう、ここに倫理指針を定める。臨床研究が、社会の理解と信頼を得て、一層社会に貢献するために、すべての臨床研究の関係者が、この指針に従って臨床研究に携わることが求められている。
 この指針は、ヘルシンキ宣言や我が国の個人情報保護に係る議論等を踏まえ、臨床研究の実施に当たり、実施研究者等が遵守すべき事項等を定めたものであるが、臨床研究には極めて多様な形態があることに配慮して、この指針においては基本的な原則を示すにとどめており、実施研究者等は臨床研究計画を立案し、その適否について倫理審査委員会が判断するに当たっては、この原則を踏まえつつ、個々の臨床研究の内容等に応じて適切に行うことが求められる。

第1 基本的考え方

 目的

 この指針は、医学系研究の推進を図る上での臨床研究の重要性を踏まえつつ、個人の尊厳及び人権の尊重その他の倫理的観点並びに科学的観点から、臨床研究に携わるすべての関係者が遵守すべき事項を定めることにより、社会の理解と協力を得て、臨床研究の適正な推進が図られることを目的とする。

 適用範囲

 この指針は、予防、診断及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解の向上並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究であって、人を対象とするもの(個人を特定できる人由来の材料及び個人を特定できるデータに関する研究を含む。)を対象とし、これに携わるすべての関係者に遵守を求めるものである。
 ただし、次のいずれかに該当する医学系研究は、この指針の対象としない。
 (1) 患者本人の診断、治療のみを目的とした医療行為
 (2) 他の指針等の適用範囲に含まれる研究(他指針等との関係については、原則的に利用者の利便性等を考慮し調整することとし、詳細については今後検討。)

細則において医学系研究には、歯学、薬学、看護学、リハビリテーション学、予防医学、健康科学を含む旨を記載。

第2 実施研究者等の責務等

3 実施研究者等の責務等

(1) 実施研究者等は、臨床研究を実施する場合、被験者に対して当該臨床研究に関し必要な事項について十分説明しなければならない。

(2) 被験者の生命、健康、プライバシー及び尊厳を守ることは、臨床研究に携わる実施研究者等の責務である。

(3) 実施研究者等は、臨床研究を実施するにあたり、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献その他の科学に関連する情報源及び十分な実験に基づかなければならない。特に、環境に影響を及ぼすおそれのある臨床研究を実施する場合には、十分な配慮が必要である。また、当該実験及び臨床研究に使用される動物に対し、十分な配慮が必要である。

(4) 実施研究者等は、研究により期待される利益よりも起こりうる危険が高いと判断される場合、またはその臨床研究により十分な成果が得られた場合、臨床研究を中止又は終了しなければならない。

(5) 実施研究者等は、臨床研究に伴う危険が予測され、安全性を十分に確保できると判断できない場合、原則として、臨床研究を実施してはならない。

(6) 実施研究者等は、科学的な知識が十分にある者でなければならない。また、臨床経験が十分でない実施研究者等は、臨床経験が十分な医師の監督下で臨床研究を実施しなければならない。

(7) 臨床研究の実施計画及び作業内容は、すべて臨床研究計画書の中に明示されていなければならない。

(8) 実施研究者等は、被験者に対する説明の内容、同意の確認方法、臨床研究に伴う補償の有無を含めたその内容その他のインフォームド・コンセントの手続に関する事項を臨床研究計画書に記載しなければならない。

(9) 実施研究者等は、臨床研究を実施又は継続するにあたり、臨床研究機関の長の許可を受けなければならない。

(10) 実施研究者等は臨床研究機関の長に対し、すべての重篤な有害事象その他の臨床研究の適正性及び信頼性を確保するための調査に必要な情報を報告しなければならない。なお、他の臨床研究機関と共同で臨床研究を実施している場合には、重篤な有害事象について、共同臨床研究機関の実施研究者等に報告しなければならない。

(11) 実施研究者等は、臨床研究の実施に当たり、個人情報の保護のために必要な措置を講じなければならない。

(12) 実施研究者等は、臨床研究の結果を公表する場合は、被験者を特定できないようにしなければならない。

(13) 実施研究者等は、臨床研究終了後、引き続き、被験者が当該臨床研究の結果により得られた最善の予防、診断又は治療を受けることができるよう配慮しなければならない。

4 臨床研究機関の長の責務等

(1)倫理的配慮の周知
 臨床研究機関の長は、当該臨床研究機関における臨床研究が、倫理的、法的又は社会的問題を引き起こすことがないよう、実施研究者等に対し、臨床研究の実施に当たり、被験者の個人の尊厳及び人権を尊重し、個人情報の保護のために必要な措置を講じなければならないことを周知徹底しなければならない。

(2)倫理審査委員会の設置
 臨床研究機関の長は、臨床研究計画がこの指針に適合しているか否かその他臨床研究に関し必要な事項の審査を行わせるため、倫理審査委員会を設置しなければならない。ただし、臨床研究機関が小規模であること等により当該臨床研究機関内に倫理審査委員を設置できない場合には、共同臨床研究機関、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会に審査を依頼することをもってこれに代えることができる。

(3)倫理審査委員会への付議
 臨床研究機関の長は、実施研究者等から臨床研究の適正性及び信頼性を確保するための調査に必要な情報が報告されたときは、倫理審査委員会に報告しなければならない。また、臨床研究計画について許可を求められたとき及び重篤な有害事象が報告されたときは、すみやかに倫理審査委員会の意見を聴かなければならない。

(4)臨床研究機関の長による許可
 臨床研究機関の長は、倫理審査委員会の意見を尊重し、臨床研究計画の許可又は不許可その他臨床研究に関し必要な事項を決定しなければならない。この場合において、臨床研究機関の長は、倫理審査委員会が不承認又は継続して行うことが適当でない旨の意見を述べた臨床研究については、その実施又は継続を許可してはならない。

(5)臨床研究計画等の公開
 臨床研究機関の長は、必要に応じ、許可された臨床研究計画又は研究成果を公開するよう努めるものとする。

臨床研究機関が小規模であること等のやむを得ない理由により実施研究者等と臨床研究機関の長が同一人物にならざるを得ない場合においては、例えば、共同臨床研究機関、公益法人、学会等に設置された倫理審査委員会に審査を依頼する等により、臨床研究における倫理性に十分に配慮しながら実施することができる旨、細則に記載。

第3 倫理審査委員会

5 倫理審査委員会の責務及び構成

(1) 倫理審査委員会は、臨床研究機関の長から臨床研究計画がこの指針に適合しているか否かその他臨床研究に関し必要な事項について意見を求められた場合、倫理的観点及び科学的観点から審査し、文書により意見を述べなければならない。

(2) 倫理審査委員会は、学際的かつ多元的な視点から、様々な立場からの委員によって、公正かつ中立的な審査を行えるよう、適切に構成されなければならない。

(3) 倫理審査委員会の委員は、職務上知り得た情報を正当な理由なく漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。

(4) 倫理審査委員会は、進行中又は終了後の臨床研究について、その適正性及び信頼性を確保するために調査を行うことができる。

第4 インフォームド・コンセント等

6 被験者からインフォームド・コンセントを受ける手続

(1) 実施研究者等は、臨床研究を実施する際、被験者に対して、目的、方法、資金源、起こり得る利害の衝突、実施研究者等の関連組織との関わり、研究に参加することにより期待される利益及び起こり得る危険、必然的に伴う不快な状態、臨床研究終了後の対応並びに補償の有無を含めたその内容その他のインフォームド・コンセントの手続について十分説明しなければならない。

臨床研究に伴う被験者に対する補償については、臨床研究の内容、研究費用の調達方法等により多様な形態が考えられることから、一律に補償について定めることは困難であることに鑑み、臨床研究を実施するにあたり、補償がない場合には補償がないこと、補償がある場合にはその内容及び範囲について明確にし、被験者に対し明示することが重要である旨、細則に記載。

(2) 実施研究者等は、被験者がこの情報を理解したことを確認した上で、被験者の自由意思によるインフォームド・コンセントを、原則として文書で受けなければならない。なお、実施研究者等は、被験者が経済上又は医学上の理由等に基づき不利な立場にある場合、当該被験者の自由意思の確保に配慮しなければならない。

(3) 実施研究者等は、被験者に対し、いつでも不利益を受けることなく、臨床研究への参加を取りやめ、または参加の同意を撤回する権利を有することを説明しなければならない。

7 代諾者等からインフォームド・コンセントを受ける手続

(1) 被験者からインフォームド・コンセントを受けることが困難な場合には、当該被験者について臨床研究を実施することが必要不可欠であることについて、倫理審査委員会の承認を得て、臨床研究機関の長の許可を受けたときに限り、代諾者等(当該被験者の法定代理人等被験者の意思及び利益を代弁できると考えられる者をいう。)からインフォームド・コンセントを受けることができる。

(2) 実施研究者等は、未成年者等行為能力がないとみられる被験者が、臨床研究への参加についての決定を理解できる場合、代諾者等からの同意のほかさらに当該被験者の理解を得なければならない。

第5 用語の定義

8 用語の定義

(1) 臨床研究
 予防、診断及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解の向上並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究であって、人を対象とするもの(個人を特定できる人由来の材料及び個人を特定できるデータに関する研究を含む。)をいう。

(2) 被験者
 臨床研究を実施される者若しくは臨床研究を実施されることを求められた者又は臨床研究に用いようとする血液、組織、細胞、体液、排泄物及びこれらから抽出したDNA等の人の体の一部並びに臨床研究を実施される者の診断及び治療を通じて得られた疾病名、投薬名、検査結果等の情報(以下「試料等」という。)を提供する者をいう。

(3) 個人情報
 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。

(4) 臨床研究機関
 臨床研究を実施する機関をいう。

(5) 共同臨床研究機関
 臨床研究計画書に記載された臨床研究を共同して行う臨床研究機関をいう。

(6) 倫理審査委員会
 臨床研究の実施又は継続の適否その他臨床研究に関し必要な事項について、被験者の個人の尊厳及び人権の尊重その他の倫理的観点及び科学的観点から調査審議するため、臨床研究機関の長の諮問機関として置かれた合議制の機関をいう。

(7) インフォームド・コンセント
 被験者が、実施研究者等から事前に臨床研究に関する十分な説明を受け、その説明を理解し、自由意思に基づいて与える、被験者となること及び試料等の取扱いに関する同意をいう。

(8) 未成年者
 婚姻をしていない満20歳未満の者をいう。

(9) 行為能力
 単独で完全な法律行為をするために必要な能力をいう。

第6 細則

第7 見直し

第8 施行期日


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2003年02月28日