これからのスポーツ医学に期待するもの
[THPを推進する立場から]

1.スポーツの目的
 すべての労働者が健康で充実した生活を営むとともに、社会の一員としての役割を担い、その活力を維持向上させていくためには、あらゆる世代において、スポーツを通じての健康づくりを進めていくこととともに、いつでも、誰でも、自分の好む形式でスポーツが行えることが重要となっています。
2.遊びのスポーツ
 機械化、自動化などの技術革新により、生産性を向上させつつ、労働時間を短縮することが可能となっています。わが国においても、労働者個人が自由に使える余暇は、欧米先進諸国にはまだ及ばないものの、着実に増大しており、今後とも増え続けるものと思われます。
 労働者がこうして増大した余暇を利用して、スポーツ活動などを行うための施設として、労働省では、全国各地にハイツ、いこいの村などの名称で親しまれている勤労者総合福祉センターおよび中小企業レクリエーションセンターを設置しています。こうした施設は、スポーツの中でも遊びに近いもの、すなわち、ゆとりと寛(くつろ)ぎを得て、心身のリフレッシュを図ることを目的とした、いわゆる遊びのスポーツを行うためのものです。
3.健康のスポーツ
 一方、労働省では、こうした遊びのスポーツとは別に、いわゆる健康のスポーツを労働衝生の一環として位置づけ、トータル・ヘルス・プロモーション・プラン(THP)の名の下に、労働者の総合的な健康づくりを推進しています。THPは、単にスポーツなどの運動を行うだけでなく、日常生活すべての面における生活習慣の改善によって、心身両面にわたる総合的な健康づくりを行うものですが、その中でもスポーツは大きな比重を占めています。
 THPにおけるスポーツは、全身性、有酸素性、持久性、柔軟性を重視し、健康の保持増進を目的として、労働者自身が自分の健康を自己管理するために、自発的に行う運動です。従って、上司や同僚から強制されて行うものではありませんし、健康のためには運動しなければならないという思い、いわゆる強迫観念に囚われて行うものでもありません。ごく自然に、気軽に行うことが大切です。
 このため、ジョギング、水泳、サイクリングなど、毎日規則的に行えて、1回当たりの所要時間が10分から1時間程度で済み、職場あるいは職場近くの場所で行えるものが適しています。
4.THPを推進する立場からの期待
a.事故防止のための研究
 ジョギング中の突然死など、健康のために行っているはずのスポーツによって、不幸な結果を招いてしまうことがありますが、このようなことが起こらないように、各人の健康状況に応じた適切なスポーツを選択する必要があります。このため、健康な人に対するスポーツの影響だけでなく、健康に関して不安要因を抱える人に対する各種スポーツの影響などについて、今後、なおいっそうの解明が進むことが期待されます。
b.傷害の治療
 不十分あるいは誤った知識による事故に限らず、不可抗力による怪我など、スポーツによる傷害は避け難いものです。しかし、事故直後の適切な救急処置によって、こうした傷害も最小限にとどめることができます。また、専門医による適切な治療を受けることによって、傷害から速やかに回復し、再びスポーツが行えるようになるでしょう。今後とも、こうしたスポーツによる傷害の治療の分野における医学の進歩が期待されます。
c.新たなスポーツ種目の開発
 現在のTHPは、労働者を対象としていることもあって、40歳代の男性を中心としたものとなっています。しかし、今後、労働者の高齢化と女性の職場進出が進展すれば、高齢者や女性を対象としたスポーツが必要となってきます。とくに、女性特有の機能に起因する、スポーツの女性への影響について、運動生理学的な立場から、なお一層の解明が期待されるとともに、さらに、その成果を基にして、新たなスポーツ種目が開発されることが期待されます。

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JAN. 2, 1997