院外調理における衛生管理指針(ガイドライン)


第1 目的

 本指針は、入院患者等に対する病院内での食事の提供を院外調理方式により行う場合において、調理加工施設を設置又は運営もしくは管理する者が、衛生管理に関して自主的に遵守すべき事項を定め、食中毒等の発生を予防し、入院患者等に提供する食品の安全性を確保することを目的とするものである。

第2 用語の定義

 本指針における用語の定義は、以下のとおりとする。
(1)院外調理:
病院の入院患者等(産婦、妊婦、じょく婦、外来透析患者、デイケア利用者等を含む。)に対して、当該病院外の施設において調理加工された食品を病院内において提供することをいう。ただし、一般消費者向けに販売、製造され、一般市場に流通している食品(パン、牛乳、アイスクリーム等)を提供する場合を除く。
(2)食品:
入院患者等に対して食事として提供されるすべての食品(加工食品のみならず、食材、素材、半加工食品を含む。)をいう。
(3)製造者:
当該病院外の施設において、入院患者等に提供する食品の調理加工を行う事業者をいう。
(4)調理加工施設:
入院患者等に提供する食品専用の施設に限らず、入院患者等に提供する食品の調理加工を行うすべての施設をいう。
(5)HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point):
食品製造における衛生管理手法の一つであり、原材料から製品に至るまでの一連の工程において、起こり得るすべての微生物危害を分析し、その危害の重要度を評価した上で、特に重点的に管理する必要のある箇所を集中的かつ常時管理し、その管理内容をすべて記録することにより製品の安全確保を図ることをいう。
(6)危害:
食品の安全性に影響を及ぼし、人の健康を害するおそれのあるすべてのものをいう。危害の原因物質としては、微生物(ウイルス、細菌、寄生虫等)、化学物質、毒素、代謝産物、異物等があげられる。また、危害の要因としては、汚染、生存、増殖、産生、混入、残存等があげられる。

第3 院外調理における衛生管理

1.院外調理を行う調理加工施設は、食品衛生法(昭和22年法律第233号)及び医療法(昭和23年法律第205号)に定める衛生に関する基準を満たしていなければならないこと。

2.本指針は、第4「調理加工施設の一般規定」に記された構造設備及び衛生管理に関する規定を満たしている調理加工施設において、HACCPを用いた自主衛生管理が実施されることを前提として作成されたものであること。

第4 調理加工施設の一般規定

1.構造設備
(1)構造設備の一般規定
ア.作業区域は、適切な衛生状態のもとで作業を行うための十分な広さを有すること。

イ.作業区域の構造及びレイアウトは、食品の汚染を防ぎ、建物の清潔な部分と汚染した部分を明確に分離したものであること。

(2)食品の取扱、処理、加工及び製造区域の構造設備の個別規定
ア.床は洗浄消毒が容易で、防水性材料で作られ、排水を良好にするように傾斜がつけられたもの又は傾斜のついていない床にあっては水を容易に除去できる構造であること。

イ.内壁は耐久性のある不浸透性材料で作られ、表面が平滑で、清掃が容易な構造であること。

ウ.天井は清掃が容易で、塵埃が溜まりにくい構造であること。

エ.ドアは耐久性のある材料で作られ、清掃が容易な構造であること。また、手動で開閉することにより食品を汚染するおそれのあるドア(冷凍・冷蔵設備のドアを除く。)については、自動開閉ができること。

オ.適切な換気装置及び必要に応じて強制排気装置を有すること。

カ.自然光又は人工光により十分な照度が得られていること。また、照明装置は、電球又は蛍光灯の破損時に破片が食品の上に落下しない構造となっていること。

キ.適切な数の手指の洗浄消毒設備が設けられていること。

ク.作業区域及び水洗トイレには、手洗い設備が設けられていること。

ケ.施設、装置、設備及び機械・器具の清掃設備を有すること。

(3)冷凍・冷蔵設備の構造設備規定
ア.(2)のア〜エ及びカの要件に適合していること。

イ.必要に応じ、適切な温度を保つことができるよう十分な冷凍・冷蔵設備が設けられていること。

ウ.食材、原材料等を保管する冷凍・冷蔵設備と、調理加工後の食品を保管する冷凍・冷蔵設備とは明確に分離されていること。

(4)昆虫、鼠族、鳥等の有害な小動物の侵入を防ぐ適切な設備を設けること。
(5)まな板、容器、コンベアベルト等の機械・器具は耐腐食性に優れた材質で作られ、洗浄消毒が容易なものであること。
(6)ナイフ、包丁等は洗浄消毒が容易なものであること。
(7)食品廃棄物を専用に収容するため、耐腐食性かつ不浸透性の材質で作られ、清掃が容易で運搬しやすい構造の容器を必要数備えること。また、1日の作業が終了した時点で、当該容器が空になっていない場合には、これらの容器を保管する廃棄物保管場所が設けられていること。この廃棄物保管場所は、低温に保つことができ、食品の汚染や臭気の拡散を防ぐことができる構造とすること。
(8)給水設備は、圧力のかけられた十分な量の飲用適の水を適切に供給できるものであること。ただし、例外として、食品を汚染させる危険性がない場合に限り、飲用適の水の配管と明確に区別された専用の配管により、消火、冷凍・冷蔵設備の冷却用等として、飲用に適しない水を供給することが認められること。この場合、飲用に適しない水の配管を他の目的で使用してはならないこと。
(9)適切な能力を有する衛生的な排水処理設備を有すること。
(10)水洗トイレ及び更衣室は平滑で防水性があり、洗浄可能な内壁及び床を備えていること。また、水洗トイレの開口部は作業区域に直接つながっていてはならないこと。
(11)手洗い設備は、自動式又は足踏み式等の蛇口を手で操作しない方式であること。また、手洗い設備には、手指の洗浄剤、手指消毒器及び使捨てのタオル又は温風手指乾燥機等が備えられていること。
(12)定期的又は恒常的な検査が必要な場合には、専用に使用する適切な器具を備えた施錠できる検査室を有すること。
(13)洗浄剤、消毒剤、殺鼠剤、殺虫剤その他食品を汚染させるおそれのある薬剤を保管するための施錠可能な場所(薬品庫又は棚)を有すること。
(14)運搬車両等を洗浄消毒するための設備を有すること。
(15)施設内において甲殻類、魚類等を蓄養する場合には、有害な微生物、有毒物質等が動物に移行することのない水質の水を供給し、最良の生存条件を確保するための適切な装置が設けられていること。
2.衛生管理規範
(1)施設設備に適用される衛生に関する一般規範
ア.食品の処理に使用される床、内壁、間仕切り、天井及び機械・器具は、食品の汚染源とならないよう清潔で良好な状態が保たれていること。

イ.施設又は機械・器具から鼠族、昆虫類及びその他の害虫を計画的に根絶しなければならないこと。洗浄剤、消毒剤、殺鼠剤、殺虫剤その他食品を汚染させるおそれのある薬剤は食品と明確に分離して保管すること。また、これらの薬剤を使用する場合にあっては、食品を汚染させることのないよう十分配慮すること。

ウ.食品取扱区域、設備された機械・器具等は食品の処理、加工等に専用に使用すること。

エ.飲用適の水をすべての用途に使用しなければならないこと。ただし、食品を汚染させる危険性がない場合に限り、消火、冷凍・冷蔵設備の冷却用等として、飲用に適しない水を用いることができること。

オ.洗浄剤、消毒剤及びこれらの類似物質は、機械・器具及び食品に悪影響を与えないように使用すること。

(2)従事者に適用される衛生に関する一般規範
ア.従事者の衛生管理については、特に次の事項を配慮し、最良の状態を保つよう努めること。
(ア)食品取扱区域では、従事者は適切で清潔な作業着と髪の毛を完全に覆う帽子を着用すること。

(イ)食品の処理及び調整を担当する従事者は、少なくとも作業を再開するときは必ず手指の洗浄を行うこと。なお、手に傷がある従事者は、製造部門の責任者に届け、その許可の下、耐水性の指サック又は手袋を着用すること。

(ウ)食品取扱区域(保管区域を含む。)においては、喫煙、飲食を行わないこと。

イ.製造者は、従事者が食品を汚染させる恐れなしに作業ができることが証明されるまで、食品を汚染する可能性のある者を食品取扱業務から排除するために必要なあらゆる措置を講じなければならないこと。ただし、この規定は食品を汚染する可能性のある者の解雇を認めたものと解釈してはならないこと。

ウ.製造者は法令に基づき、従事者に対して定期的に健康診断を実施すること。また、製造者は、従事者が赤痢菌、サルモネラ菌、腸チフス菌、パラチフス菌、コレラ菌、病原大腸菌、カンピロバクタ−,A型肝炎ウイルス、小形球形ウイルス等の食品を汚染し、食中毒等の原因となる微生物に感染することがないよう健康教育を実施し、従事者の健康管理に努めること。

第5 HACCPの実施

1.HACCPは、次の原則に従って実施すること。
(1)製造者は、食品の製造のあらゆる段階で本指針の規定が遵守されるよう、各食品毎又は適切にグループ分けされた食品群毎に、次の事項に従って自主衛生管理を実施すること。
ア.施設における処理、加工等の工程をもとに、重要管理点を確定すること。

イ.各重要管理点におけるモニタリング及び確認の方法を設定し、これを実施すること。

ウ.施設の洗浄消毒方法が適切かどうか確認すること。その他、本指針に定められた規範に適合していることを確認するための検査を実施すること。

エ.時間、温度等について、消去できない方法で記載された手書きの記録又は自動記録機による記録を当該食品の消費期限又は品質保持期限の満了後、少なくとも1か月間保管し、提示を求められた場合には、直ちに提示することができるように整理しておくこと。

(2)製造者の実施する検査において衛生上の危害又はその疑いが判明した場合は、直ちに適切に対応すること。
2.1の(1)に規定する「自主衛生管理」とは、食品が製造者自らが定めた管理基準を満足するものであることを保証し、実証することを目的とするすべての対策のことをいう。
(1)これらの対策はその調理加工施設における規範に準拠したものでなくてはならず、それぞれの製造部門に対する責任者又は責任者の監督のもとに開発され、実施されるものでなくてはならないこと。

(2)施設の責任者は、自主衛生管理制度に携わるすべての担当者がその責務を効果的に果たせるように、十分に訓練を受けなくてはならないこと。

3.1の(1)に規定する「重要管理点」とは、製造者が管理することができて、もって食品の安全性に対する危害の発生を防止し、排除し、又は許容範囲に収めることのできるすべての管理項目、1ステップ又は工程のことをいう。従って、管理基準に適合していることを保証するために役立つすべての重要管理点を確定しておかなくてはならないこと。
(1)これらの重要管理点を確定する場合には、第6の1「一般原則」に基づいて確定すること。

(2)重要管理点は、使用する原材料を始め、製造工程、施設及び設備、最終食品、保管及び運搬の方法等によって確定されるものであるので、各々の施設に対して固有のものであること。

4.1の(1)に掲げる「各重要管理点におけるモニタリング及び確認の方法」には、個々の重要管理点が正常な管理状態にあることを保証するために必要なすべての肉眼的観察及び計測の方法が含まれていること。モニタリング及び確認の方法を設定し、実施する場合には、第6の10「重要管理点のモニタリング及び確認の方法の設定並びにその実施」に基づいて実施すること。
5.1の(1)に規定する検査とは、自主管理制度が、上記2、3及び4の規定に関して効果的に機能していることを確認するためのものである。
(1)施設の責任者が製造バッチ毎に体系的に試験を行うこととは別に、以下の要件に基づき、検証のための計画を定めなければならないこと。
ア.自主管理制度を最初に設定した時に、検証すること。

イ.食品又は製造工程に何らかの変更があった時に、必要に応じて、自主管理制度の有効性について確認すること。

ウ.一定の期間ごとに、すべての計画が有効なものであり、かつ、適正に運用されていることを検証すること。

エ.自主管理制度については、第6の11「自主管理制度の検証」に従って検証を行うこと。

6.1の(1)に掲げる「消去できない方法で記載された手書きの記録又は自動記録機による記録」を取るため、施設の責任者は自主管理制度の実施及びその確認に関するすべての情報を文書化しなくてはならないこと。また、この文書は、次の(1)及び(2)の要件を満たし、求めに応じて提出することができるものでなくてはならないこと。
(1)詳細かつ分かりやすい文書であって、次の項目を含んでいること。
ア.食品についての記述

イ.製造工程及びその重要管理点についての記述

ウ.標準作業手順書

エ.個々の重要管理点についての確定された危害、危険度の評価及び防止措置

オ.すべての重要管理点におけるモニタリング及び確認の方法並びにそれぞれの重要管理点における管理基準の設定

カ.管理基準から逸脱が認められた際にとられる改善措置

キ.現行の自主管理制度自体の検証と見直しの方法

(2)3に掲げる肉眼的観察及び計測の記録、4に掲げる検証作業の結果並びに改善措置を行った場合の報告及び経過の記録文書をとり、適切な文書管理規定を設けて、特に問題が発生したそれぞれの製造バッチに関係するすべての文書を容易に取り出せるようにしておかなくてはならないこと。

第6 HACCPの具体的実施方法

1.一般原則
 自主管理制度の策定においては、次に示す基本原則に基づく理論的なモデルに従わなくてはならないこと。なお、このようなモデル又は根拠となる諸原則については、個別の状況に応じて、柔軟性をもって運用しなくてはならないこと。

(1)危害を確定し、危険度を分析するとともに、それらを管理するための方法を設定すること。

(2)重要管理点を確定すること。

(3)すべての重要管理点に対する管理基準を設定すること。

(4)モニタリング及び計測の方法を設定すること。

(5)必要に応じて採るべき改善措置を設定すること。

(6)検証及び見直しの方法を設定すること。

(7)すべての手順ならびに記録に関する文書規定を作成すること。

2.重要管理点の確定
 重要管理点の確定に当たっては、次の作業を順番に従って進めること。

(1)専門家チームの編成

ア.構成は対象となる食品に関連するすべての部門が参加すること。

イ.チームにおいては、検討すべき食品並びにその製造、加工、保管、運搬及び喫食に関連する潜在的危害に関して十分かつ広範囲な専門的知識及び技術を有することが必要であること。また、このチームは、重要管理点の評価及び管理に関して、チーム内では困難な間題を解決するために、必要に応じて外部から専門家の援助を得なくてはならないこと。

ウ.このチームは、次のスタッフで構成すること。

(ア)担当する食品群に関する生物学的、化学的又は物理的危害要因について理解している品質管理の専門技術者

(イ)対象となる食品の製造における技術的な側面に対して責任があるか、又は密接に関与している製造の専門技術者

(ウ)施設及び設備に関する衛生並び操作について、実際的な知識を有する技術者

(エ)その他、微生物学、食品衛生学及び食品工学に関する専門的知識を有する技術者に関連するすべての情報がそのチームに提供され、実施中の自主管理制度が信頼性のあるものであることを保証するため、活用できる場合には、一人の担当者が上記のうちの複数の役割を兼ねることが可能であること。施設内に、関連する問題に対する経験がない場合にあっては、外部の機関(コンサルタント等)から助言を得なければならないこと。

3.食品の記述
 最終食品に関しては、次の項目について記述し、これを記録として保管すること。また、この記録は必要に応じて開示できるものとすること。なお、栄養成分の表示に際しては、栄養改善法(昭和27年法律第248号)に基づく栄養表示基準制度に留意すると共に、病者用等の特別の用途を表示する際には、同法に基づく特別用途表示の許可制度に留意すること。

(1)名称(メニュー)及び組成(例えば、原材料、各種副原材料及び添加物)

(2)性状及び物理学的特性(例えば、固体、液体、ゲル又は乳状液)

(3)栄養成分

(4)加工工程(例えば、加熱、凍結、乾燥及びこれらの程度)

(5)包装(例えば、密封式、真空式及びガス置換式)

(6)保管及び運搬の条件

(7)消費期限又は品質保持期限

(8)使用方法

(9)適用し得るすべての微生物学的又は化学的指標(例えば、細菌数、水分活性又はpH)

4.意図される使用方法の確定
 専門家チームは、各食品について、通常の使用方法及びその食品の性状及び成分に基づく対象者又は対象とする疾病もしくは病態を定義しなくてはならないこと。
5.工程一覧表の作成(製造工程の記述)
 工程中のすべてのステップ(各ステップ又は各ステップ間の食品の滞留時間を含む)を網羅し、原材料の受入れから最終食品の病院への提供までの間を、前処理、加工、包装、保管及び運搬のステップに分けて順番に検討し、十分な技術データに基づく詳細なー覧表を作成しなくてはならないこと。データの種類には、例えば次のようなものがある。

(1)作業場及び付随する施設の見取り図

(2)機械・設備の配置及び性能

(3)すべての一連の製造工程(原材料、各種材料及び添加物の受け入れ並びに各ステップにおける又は各ステップの間の食品の滞留時間を含むこと。)

(4)各工程に対する技術的なパラメ−タ−(特に時間及び温度の条件、また滞留する場合は、その時間を含むこと。)

(5)食品、人、空気の流れ(通常想定される食品、人、空気の流れのみならず、潜在的な交叉汚染を想定した食品、人、空気の流れを含むこと。)

(6)清潔な区域と汚染された区域との分離(又は危険度の高低による区分)

(7)床、壁、ドアなどの施設、設備、機械・器具等の洗浄及び殺菌の方法

(8)施設の管理基準

(9)作業場における作業員の行動範囲及び衛生規範

(10)食品の保管及び運搬の管理基準

6.実際の操業中における、工程一覧表の確認
 工程一覧表が完成した後、専門家チームは実際に操業中の作業現場において、工程一覧表の確認を行い、当初机上で作成した工程一覧表がより正確なものになるように、明らかになったすべての不十分な点についての修正を行わなくてはならないこと。
7.危害及び管理方法のリストの作成
 確認できた工程一覧表に基づいて、専門家チームは次の作業を実施すること。

(1)個々の製造加工ステップ(原材料及び各種材料の受け入れ及び保管並びに工程中の食品の滞留を含む。)において、合理的な根拠のもとに発生することが想定されるすベての潜在的な生物学的、化学的又は物理学的危害のリストを作成すること。ここでいう危害とは、人の健康を害するおそれがあるすべてのものをいう。具体的には、次の場合のいずれかをいう。

ア.原材料、中間品又は最終食品に対する、許容できない生物学的(ウイルス、細菌、寄生虫等)、化学的若しくは物理学的性質の汚染又はこれらの2次汚染

イ.中間品、最終食品の製造工程又は製造ラインの周囲において、病原微生物の生存又は増殖する許容できないレベル及び許容できない化学物質の存在

ウ.毒素あるいは微生物の代謝によるその他の好ましからざる物質が許容できないレベルにまで産生されたり、残存したりすること。これらについては、除去し、又は許容できるレベルにまで減少させるため、安全な食品を製造する上で必須であるような性質の危害のみを、リストに入れるものとする。

(2)個々の危害に対して適用し得る管理方法について検討し、文書化すること。
ア.管理方法とは、危害を防止するため、除去するため、又はその影響若しくは発生頻度を許容できるレベルにまで低下させるための方法及び一連の作業をいう。

イ.工程管理において、一つの危害を管理するためには複数の管理方法が必要となることがあり得る一方、一つの管理方法で複数の危害を管理できることもある。例えば、低温殺菌又は所定の加熱処理を行うことによって、サルモネラとリステリアとの両方の菌数のレベルを十分に低下させることが可能である。

ウ.管理が効果的に行われていることを保証するためには、作業手順について、詳細に記述した標準作業手順書を作成する必要がある。この標準作業手順書には、例えば、詳細な清掃の計画及び方法、個々の加熱調理器具での適切な加熱処理の手順、添加物に関する関連の規則等に適合するように定めた最大添加物濃度等について記述しなくてはならないこと。

8.重要管理点の確定方法
 危害を管理するための重要管理点の確定に当たっては、論理的な取組みが必要であって、この取り組みには判断図を利用すると分かりやすいこと。ただし、チームの知識と技術力の程度によっては、他の方式を採用しても差し支えないこと。

(1)判断図を利用する場合には、工程一覧表において確定された各工程のステップを順番に検討しなければならないこと。
 すなわち判断図は、各工程のステップごとに、合理的な根拠のもとに危害が発生することが判明しているか、あるいは将来において原因となることが想定される、すべての危害及びそれらに対する管理方法について検討を加えなくてはならないこと。

(2)判断図を利用する場合には、不必要な重要管理点を設けたりしないようにするために、製造の過程全般について広く検討するとともに、柔軟かつ常識的な配慮をもって対処すべきであること。

9.重要管理点の確定に続いて行うべき作業
 重要管理点の確定に続いて、専門家チームは次の2つの作業を行わなくてはならないこと。

(1)すべてのステップにおいて、適正かつ効果的な管理方法が設けられ、実施されていることを保証しなくてはならないこと。特に、ある製造のステップについて、危害のあることが確定されており、食品の安全性確保のために何らかの管理が必要となっていながら、当該ステップにおいて(あるいはその他のステップも含め)適正な管理方法が設定できない場合にあっては、食品そのものを変更するか又はその製造工程を当該ステップ若しくはその前後のステップで変更することにより、適正な管理方法が設定できるようにするとともに、併せて適正な管理方法を確立しておかなくてはならないこと。

(2)すべて重要管理点について、モニタリング及び計測の方法を設定し、管理を実施すること。

10.重要管理点のモニタリング及び確認の方法の設定並びにその実施
 すべての重要管理点が効果的に管理されていることを保証するためには、適正なモニタリング(monitoring)及び確認(checking)の方法を設定することが必須である。これらの方法を開発するためには、次の作業を進めること。
(1)すべての重要管理点についての管理基準の設定
 すべての重要管理点についての管理基準を設定しておかなくてはならないこと。管理基準とは、食品の安全性を確保するために許容できる限界値のことであり、許容できる範囲とそうでない範囲とを区分するためのものである。管理基準については、肉眼的な観察によって、又は機器による計測によって判定できるようなパラメーターに基づくべきであって、重要管理点が管理されていることを即座に検証できるものでなくてはならないこと。すなわち、計測することによって得られた測定値については、その管理点についての管理の結果を直接的に反映したものであることが必要である。これらのパラメーターの例としては、温度、時間、pH、水分含量、添加物・保存料・塩分の濃度、外観あるいは肉質などの官能による指標、その他がある。場合によっては工程がばらつくことによって、いきなり管理基準を超えてしまう危険性があり、そのことを低減するために、より高いレベル(例えば、目標レベル)を設定し、その場合であっても本来のレベルが維持できるように保証する必要がある。管理基準は種々の根拠のもとに設定することができる。
(2)すべての重要管理点に対するモニタリング及び確認の方法の設定
 すべての管理基準が守られていることを保証するため、個々の重要管理点において行うべき肉眼的観察及び計測の計画を設定することが、自主管理制度における必須の部分となっている。従って、この計画においては、その手順、観察及び計測の頻度並びに記録の方法について文書化しておかなくてはならないこと。
 モニタリング及び確認の方法は、重要管理点において管理基準を逸脱していることを検出できるものであって、さらに改善措置をとるための情報をリアルタイムで得られるものでなくてはならないこと。
 モニタリング及び確認は連続的又は断続的のどちらでもかまわないが、モニタリング及び確認が連続的でない場合であっても、十分に信頼性のある情報を得ることができるような頻度で作業を行う必要がある。モニタリング及び確認においては、すべての重要管理点に対して、次の事項について適正な管理基準を設定しておかなくてはならないこと。

ア.誰がモニタリング及び確認を担当するのか。

イ.いつモニタリング及び確認を行うのか。

ウ.どの様な方法でモニタリング及び確認を実施するのか。

(3)改善措置の設定
 モニタリング及び確認を行った結果について、次の措置を行うこと。

ア.モニタリングの結果、設定された管理基準から逸脱しつつあり、管理状態を失う傾向にあることが明らかになったときには、危害が発生する前に、管理状態を維持するために適正な改善措置がとられなければならないこと。

イ.モニタリングの結果、設定された管理基準から逸脱しており、管理状態にないことが明らかとなったときには、もとの管理状態に復帰させるために適正な改善措置を講じなくてはならないこと。

ウ.改善措置は、前もって専門家チームが各々の重要管理点に対して設定しておき、逸脱が検出されたときには、すみやかに対処できるようにしておかなくてはならないこと。

エ.改善措置には以下の要件を含めること。

(ア)改善措置を実施させるために適切な責任者を指名すること。

(イ)検出された逸脱を修正するために必要な方法及び措置を文書化しておくこと。

(ウ)製造工程が管理状態になかつた期間に製造された食品に対して採るべき措置を決めておくこと。

(エ)実施したすべての措置の内容を文書に記録すること。

11.自主管理制度の検証
 自主管理制度が効果的に機能していることを保証するためには、自主管理制度に対する検証(verification)を行うことが必要である。そのために、専門家チームはその方法を定めておかなくてはならないこと。

(1)サンプリングに基づく最終食品の試験、特定の重要管理点における重点的な分析又は検査、中間品及び最終食品についての特定の項目に関する分析、保管又は運搬の時点における実態調査、並びに食品の実際的な使われ方に関する調査等がある。

(2)検証の手順には、製造工程の点検、管理基準の確認、管理基準からの逸脱時の改善措置及び食品に対して行った措置の評価、自主管理制度及びその記録に対する査察が含まれていなければならないこと。

(3)検証の方法については、設定されている自主管理制度が適切なものであることを確認することができるものであるとともに、定められている管理基準が適正に運用されていることを、十分な頻度のもとに保証するものでなくてはならないこと。さらに、検証そのものについても検討を行い、自主管理制度において何らかの変更のあった場合にあっても、効果的に機能していること(将来的にも機能し得ること)を保証する必要がある。

(4)自主管理制度を変更しなければならない事例としては、次のようなものが考えられる。

ア.原材料及び食品の変更、加工条件の変更(施設の配置及び周辺環境、加工設備、洗浄及び殺菌の方法など)

イ.包装、保管又は運搬条件の変更

ウ.消費者による使用方法の変更

エ.食品に関連する新たな危害に関する情報を入手した場合

 これらの検討結果をもとにして、必要に応じて、定められている管理基準を修正しなくてはならないこと。

(5)自主管理制度に関するすべての変更事項は、委細漏らさず文書化し、正確かつ最新の情報が得られるように、記録及び保管の方法にも反映させること。管理基準が設定されている場合にあっては、これらの管理基準を検証手順において使用しなくてはならないこと。


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NOV. 14, 1996