C市のある小学校におけるコンピュータ教育の現状について
はじめに
この文書はある特定の小学校におけるコンピュータ教育の現状について、そこに勤務する教員にインタビューした内容をまとめたものです。この小学校は米国カリフォルニア州、サンディエゴ郡南部に属するC市に実在します。インタビューは1997年1月に行ないました。
注意
- 概要
- 教科としてのコンピュータ教育、というものは存在しないため、各学校、教員ごとに方針や教育内容は千差万別です。ただ学年に応じておおまかな目標はあります。たとえば低学年ではコンピュータに親しむことが主な目的になります。また中学年でキーボードを使って文章を作りはじめ、小学校を終えたところで、文書をコンピュータ上で作成したり、インターネットを使って調べものをしたりすることができるようになる、といったところです。保護者/教員/生徒ともコンピュータ教育自体については好意的に受け止めているといえます。コンピュータの教育を始めて何年にもなりますが、やはりコンピュータになじめない教員や生徒もいます。
- 設備すべて アップルコンピュータ社のマッキントッシュで構成してある。
- コンピュータの授業のためコンピュータ室が1室。35台のマッキントッシュ、プリンタ、パソコンの画面を表示できる大型テレビが1台
- コンピュータ室専任の管理者(教員ではない)がいる。 ハードウェア、ソフトウェアの管理作業は日常この管理者が行なう。管理者の技量を超えるような
サポートが必要な場合は、学区からエンジニアが派遣されてくる。
- 各教室には生徒のために2台の マッキントッシュ がある。
- 予算
- 市の予算としては、管理者の給与、学区からのエンジニア派遣のための費用が計上されている。
- その他 ハードウェア、ソフトウェア、消耗品、コンピュータ室の設置/管理費、などほとんどの予算は、Grant
と呼ばれるある特定の目的のために給付される助成金を集めることによりまかなわれる。
- 各小学校は独自にこの Grant を得るため、いろいろな団体/企業/財団/市/州に請願を出している。
- 校長が積極的に Grant を集める学校はより充実したコンピュータ教育を行なうことができる。
- Grant を得るためには Grant毎に設定された条件を満たさなければならない。たとえばきめられたコンピュータ基礎技術の教育コースをその学校の教員全員が受講すること、など。
- 教育方針
- 学校としてまたはカリキュラムとしての指針や目標はなく、教員個人が独自に設定する。
たとえば学校でコンピュータ教育をが全くやらなくてもよい。
- 低学年ではとにかくコンピュータに親しむことが目的になる。マウスを使って音を出したり絵を動かしたりする。決まった文章をキーボードをつかって入力する練習も行なう。
- 中学年でワープロを使いはじめる。また作図ソフトも使用し、文章や図を作成する。
- 高学年でインターネットを使いはじめ、調べ物などができるようになる。
- 生徒個人の E-mail アドレスは与えられていない。
- 授業におけるコンピュータの使い方
- コンピュータ室を使った授業は週に1回。
- 1年生の場合: コンピュータの電源は既に入っている状態で入室する。 (電源の
On/Off は管理者が担当)。その日に使用する機能、ソフトウェアについて 大型テレビを使って授業の最初に説明する。次にそのソフトウェアを使って自由に遊ばせる。インタビューした時点では、マウスを使ったお絵書きソフトウェアを使っているとのこと。授業の最後にその日の作品を全員プリントすることがある。
- 生徒が作成したファイルなどは、ハードディスクにはセーブできない ようにシステムを設定してある。このため管理者がいつの間にか生徒が知らずにセーブしたファイルの掃除に追われる、ということはない。
- 教室にあるコンピュータは、2、3人の組が1日30分触れるように 交替して使う。マルチメディア絵本を読むことにより、コンピュータの基本操作方法になじむことがおもな目的となる。
- それぞれの反応
- 教員の反応
- コンピュータ室ができて3年経過したが、コンピュータ自体に馴染めない教員もいる。
- コンピュータ室ができた当時は、コンピュータに詳しい教員が他の教員に基本操作の講習会などを行なった。
- 教員の会合なので他の学校との情報交換をはかり、どういった教育をおこなっているかを探っている。
- ソフトウェアを安く入手するため、共同購入も行なっている。
- 生徒の反応
- ほとんどの生徒はコンピュータに触れる時間を楽しみにしている。
- 操作方法などを全く理解しない生徒もいる。
- 親の反応
- 居住する学区を選択する重要な条件の一つとして、コンピュータ教育が充実しているかどうか、があげられている。
- 小学校にコンピュータ室があるかどうかの問い合わせが多い。
- 地域社会との連携
- 市のなかで一校だけ、ケーブルテレビ会社と提携し、他の小学校と比較してかなり大規模な施設を導入した学校がある。設備としては:
- 各教室に5台のコンピュータ
- 5年生以上の生徒一人一人に ノートブックパソコンを貸与
- インターネットを通じ、他校との通信デモを行なう授業を公開
- スーパーマーケットとコンピュータ会社との提携
- 買いものをしたときの領収書を集め、その合計金額によってコンピュータを寄付する、といったキャンペーンを実施することがある。
日本でいうベルマーク的な制度に似ている。
- 社会的背景
- 教員免許の制度
- コンピュータ教育に直接関係する項目として、カリフォルニア州では次の2点があげられる。
- 1. 免許取得のため州が定めるコンピュータ基礎知識コースの履修が必須。
- 2. 教員免許は永久ではなく、5年ごとに更新する必要がある。
- このため2.施行以前に教員免許を取得した教員は、免許更新の際全員コンピュータ基礎知識のコースを取得することが義務づけらている。
- 貧富の差
- 一般に貧富の差が非常に激しいため、コンピュータに触れる機会は生徒の家庭環境によりおおきくことなる。例えば取材対象の小学校ではその80%の生徒が
給食代の全学免除/部分免除を受けており、家庭にコンピュータがある生徒は全体の3%。
- 逆に比較的生活に余裕のある生徒が多い学区では家庭にコンピュータがある生徒の割合が多く、それだけコンピュータに馴染む機会も多くなり、結果として学校におけるコンピュータの使い方にも違いが出てくる。
- 余裕のある家庭は、より教育水準の高い、所得水準の高い家庭の生徒が集まる学区を求めて引っ越す。このためますます学区間の差が大きくなる。
- 全校生徒数約750人, 1、2、3年生は1クラス最高20人、4、5、6年性は1クラス最高31人。
- ヒスパニック 80%, 白人/黒人/アジア系 それぞれ 7%
- 著作権に関する扱いコンピュータに限らず、生徒の作品を公共性の高い媒体に掲載する時には必ず文書による保護者の承諾を得ている。
一例としては、たとえば学校へテレビ局の取材があるような場合、インタビューを受けることができるのは、事前に親の書面による同意があった生徒のみである。
- その他1982年当時、米国の高校で、選択科目としてパソコンの プログラミングの授業が既に行なわれていた。
- Grant : 助成金。 一般にいろいろな団体が学校に助成金を出すことがさかんに行なわれています。これはコンピュータに限らずありとあらゆる学校教育活動に及んでいます。税制上の優遇策もあるため各種企業や団体は積極的にGrantに応募する学校をつのります。
学校側は自由にこれに応募し寄付する側は独自に定めた基準をもとに学校を選定します。州や市が仲介して助成金を配分することもあります。この助成金は小学校における教育活動の充実度におおきな影響をあたえています。
- 注意: 米国の教育事情は地域により、学校により、また教員個人によりかなり大きな違いがあります。ここにあげたことが米国の他の学校にあてはまるとは限りません。あくまでもある特定の小学校のある一例について述べたものです。本書の一部または全部の複製、引用は非営利目的に限りいかなる形式の媒体においても自由ですが、かならず『ある特定の小学校における一例』であることを明記してください。
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