神話・伝承

神話・伝承

創世記

 この虚無の世界に浮かぶ一つの世界は”無”から生まれた。
遙かな、遙かな遠い過去に、神も生ける者も大地も海も空もない世界から。
 いや、世界と言えるのだろうか。
そこは光も闇も空間も時すらもない真の”無”であった。
”無”は、今までも現在も、そしてこれからも”無”であるはずだった。
だが、いつの間にかどういった訳か”無”に歪みが生じた。はじめはほんの砂粒ほどの、そう太平の海の中に一滴の紅を落としたほどのそんな小さな”歪み”であった。だが”歪み”は生まれるやいなや増殖を繰り返す卵細胞のように急激に成長し、やがて”無”は「光」「闇」そして「時空」の3つに分かれた。
こうして世界の礎となる3人の神々が生まれた。

 時空の女神は生まれでると、無秩序なこの世界に法則を与えるべく二人の女神を生んだ。
一人の女神は時を支配する女神であった。
時の女神は自らの役割を果たすために3つ子の女神を生み、それぞれに過去と現在と未来を託した。時の女神は3つ子の紡ぐ時の糸を織りなしていった。
一人の女神は空間を支配する女神であった。
空間の女神は自らの役割を果たすために双子の女神を生み、それぞれに広がりと方向を託した。空間の女神は双子の女神が正確なる距離と方角を指し示すように常に目を光らせた。

 光と闇の神は無秩序な世界に一つの法則を与えるべく、彼らを取り巻く力を分けていった。
世界の根元をなす「火」「水」「地」「風」の四つの力を四つの世界とし、そこに世界を統べる一人の王と無数の僕をおいた。僕は精霊と呼ばれ、統べる王は精霊王と呼ばれ、その世界は精霊界と呼ばれた。
それ以外にも力の種類だけ精霊界が創造された。
こうして無秩序な世界は、幾多の世界が並列でそして交わって存在する世界へとなった。

 光と闇の神は自らの統べる世界として、時空の女神の統べる世界に一つの世界を創造した。
光の世界は全てを映し出す、光り輝く太陽の神を生み、世界を光に包む昼を作り、闇の神はすべてを覆い尽くす暗黒の衣をまとった夜の女神を生み、世界を闇に包む夜を作った。
一つの世界の主が二人の神のために、昼と夜は交互に一つの世界に訪れることとなった。
だが光の神は闇に包まれる夜の世界を嫌った。闇の世界は光に包まれる昼の世界を嫌った。
光と闇の神は約定を交わし、光の神は毎夜の闇をわずかに振り払う月と幾千の星を夜に散りばめ、闇の神は日の光を食らいつくす暗黒の昼を万の日に一日だけ手に入れた。

 光と闇の神は一つの世界を大地と海と空とに分けた。
光の神は大地を統べる女神を生み、闇の神は海を統べる神を生んだ。
空に地を潤す雲を浮かべ、雨を海へを返す河を刻み、海は昼の光を受けて雲を吐き出した。
 光と闇の神は大地に、海に、空に多くの神々、知性ある生き物、動物、植物を創造した。
幾多の神々も、偉大な竜たちも、遙かなる巨人も、地を駆るもの達も、空を舞う達たちも、水の中を泳ぐもの達も、地に生える草花たちも、このときに創造された。

 光と闇の神は一つの世界の上で分離した精霊たちの世界を重ねさせた。礎なる力をこの世界に使うためにそれらの精霊を管理をさせるべく妖精を創造した。
金の髪と白い肌ととがった耳を持つ森妖精、黒いのひげと褐色の肌と寸胴の岩妖精、銀と暗闇を好む卑しき妖魔達を。
こうして幾多の精霊界の力が一つの世界に満たされることになった。

 空間の女神の統べる世界は閉じられていた。故に光と闇の神々が創造した一つの世界も完全なる世界として閉じられるはずであった。だが世界は閉じられなかった。至高なるはずの神が対なる光と闇の神と二人居たからこそであった。対なる光と闇の神ならばこそ一つの世界は生まれ、対なる光と闇の神ならばこそ一つの世界は完璧たりえなかった。
 光と闇の神は一つの世界を永遠の楽園と定め、無限の創造を続け、そして最後にはいっぺんの歪みのない世界として永遠に存在させることとしていた。一つの世界の全ての生き物がそう望み、そうなるはずであると考えていた。
 だがそうはならなかった。

 闇の神はふと心の奥底から聞こえる声に耳を傾けた。
声は束縛なき自由を叫んでいた。世界に秩序は必要ないと叫んでいた。
そして、統べる神は一人でいいと叫んでいた。
光と闇の神が目指す一つの世界、光の神が目指す一つの世界、闇の神が目指す一つの世界は同じであった。完全なる閉じられた世界。いっぺんの歪みもない世界。
ならば、と誰かが闇の神の中で叫んでいた。
統べる神は一人でいいと、我でいいと。

こうして初めの光と闇の戦いが始まった。

 戦いは7年と7ヶ月と7日続いた。
光と闇の神は、偉大なる竜を駆り、遙かなる巨人を導き、静かなる精霊王を支配し、あまたの神々を率いた。地は裂けてその胎内に生ける者を飲み込み、海は荒れその頭上をいく不遜なる者を引きずり込み、風は全ての者を引き裂かんと吹き荒れ、炎は全ての者を焼き尽くさんと燃え広がった。
 一つの世界の全てが戦火に燃え尽きんとした。全ての創造物が無に帰さんとした。 激しい戦いであった。
 そして闇の神は破れ、一つの世界を追われた。自らの内に閉じたる世界を創造し、自らの率いしものを全て飲み込みこんだ。
 しかし勝者たる光の神もまた、この世界を追われることとなった。
対なる神が対でなくなったとき、光の神もまた統べる者ではなくなってしまったのだ。
光の神もまた一つの閉じたる世界を創造し、自らの率いし者とともにこの世界を後にした。

 だが一つの世界の生ける者全てが光と闇の神に従ってこの世界を離れたわけではなかった。不完全なるが故に残された者、光と闇の神を裏切りし者、光と闇の神を主と仰がぬ者、多くの生きし者が残されていた。
 その中でもっとも多く残されたのは、光りと闇の神に創造され、神より多くの智と情と善と悪とをその体に刻み込まれし者、つまり神々の最高にして最悪の、至高にして駄作の創造物、「人間」が多く残されていた。

こうして神々の時代は終わりを告げ、人間の時代がはじまった。

ルヴェアリオウスの悲劇

 ルヴェアリオウスは光の神に属する軍神の一人です。無双の槍の使い手で、槍に限れば光の神の軍神アミスにですら引けを取らぬ、と言われてます。彼の使う槍は鋼鉄製で、普通の人間なら10人でやっと持ち上げられるという重さがありましたが、彼はこれを右手一本で軽々と使いこなしました。
 その彼は光の軍神の長アミスの命を受け、第12界”ルガイア”へと侵攻していた司死神ディースの目論見を阻止すべく、彼もまたルガイアに転移したのです。
ルガイアはかつて大地母神ガイアが完全なる閉じた世界となることを目指して創造したのですが闇の侵攻に侵され光の神の秩序が失われてしまったのです。
 ルガイアではすでにディースは戦乱の時代と呼ばれる世界規模の動乱に乗じ、かなりの人々を自分の信者へと変えていました。ディースは自らの転移の方法として”召喚”と言う方法を選びました。
召喚とはこの世界にいるものが異世界の住人を呼び出す、と言うものです。
ただディースは闇の神、シグムントの息子なだけあって暗黒界でもトップクラスの力を持つ邪神です。その彼を”呼び出す”には、多くの、本当に多くの人間の純粋な呼びかけと聖なる生け贄が必要でした。
そのためにまず彼は元々いたこの世界の少ない自らの信者の祈りに応じて、自らのほんの、本当にほんの一部だけを召還させました。召還された”ディースの一部”は目覚ましい力を見せ、次々と自分の信者を増やし、順次自らの体を召還させました。
もともと戦乱の時期は闇の神の方の信仰が強いので、ディースの持つ力は日に日に強大なものとなっていったのです。
彼は大地母神ガイアに変わり、このままこの世界を自らの支配下に置こうと考えていたようです。
 一方のルヴェアリオウスですが、彼は自らの転移の方法として、”転生”を選びました。
転生とはある女性に宿った子に自らを同化させて、その世界に生まれいでる方法です。
転生は転移したい世界に確実に転移をする事が出来ますが、生まれたての頃は当然親の助力を必要とするか弱き存在でしかないのです。
つまり自らの生まれ変わりとなるその子が成人するまでのおよそ20年ほどは神の力を使うことが出来ず、また神としての記憶が戻るとは限らないと言う危険も補うのです。
だが彼の場合はどうやらディースや他の闇に見付かることなく、成人し、やがて自らの使命を思い出し、神の力をも取り返すのでした。
そしてすでに勢力を増していたディースをうちやぶらんとする戦いを始め、何年にも渡って戦いを繰り広げ、多くの仲間とそして最後には自らのこの世界での命と引き替えに、ディースの転移体を打ち破ることに成功したのです。
 だが悲劇はそこから始まりました。
敗北はしたもののディースはこの世界から消滅する間際、最後の力で”ルヴェアリオウス”をル=ゥ、ヴェ、ア=ル、イオ、アスの5つの意識体に分裂してしまったのです。
このうちの”ア=ル”が全て失われるはずだった記憶の中で僅かに残ったディースの知識によりし自らを邪悪なる神と勘違いしてしまったのです。
邪神”ア=ル”となった彼は失った4つの自分を集めるために、人間、亜人を問わず非常に多くの犠牲を払いました。
やがて完全体となった”ア=ル”はその瞬間ルヴェアリオウスに戻り、自らの犯した過ちに気付きました。
そして自らの行動を嘆き、そして自らの力によって自らを浄化し、存在を消滅させてしまったのです。
『王記紙』より抜粋

幻想協奏曲に戻る カウンターに戻る