SW5

SWリプレイ小説Vol.5

海賊達の沈黙


             ソード・ワールドシナリオ
               「EBI作『海賊の攻略』」より

 ベルダインでは、毎年この時期になると芸術祭という名の祭が開かれていた。
無名の芸術家からベルダインで1、2を争うほどの芸術家までが、そろって大通りに店を構えるのだ。
この芸術祭でその才能を認められ世に出て行った芸術家も多いのだから、無名の芸術家にとっては数少ない好機といえよう。
もっともその好機を掴むのは、運と実力とを兼ね備えたほんのわずかな人間だけなのだが。

 フォウリー、ザン、ロッキッキー、エルフィーネ、リュウ、ルーズの6人は、前回の冒険から帰ってからの14日間をやる気無く過ごしていた。
先の事件はあまりにも後味の悪い事件であった。
どうにか報酬は貰ったものの、依頼人が死に、彼の過去と現在の悪事が露出し、そして多くの悲劇があり、あまりに悲しい幕切れであったからだ。
ただこのあいだに小さな変化があった。
リュウがソアラと名を変えたのである。
理由は一部では有名な、そういう名の冒険者に顔が似ているからと言うことらしい。
 しかし彼らは根っからのお祭好きというか、脳天気というか、要するに緊張感が続かぬ者達だった。
祭が2日目ともなると居ても立ってもいられなくなり、祭に行こうとエルフィーネが言い出したのだ。
 おおもめの末、エルフィーネとロッキッキーとルーズ、ソアラとザン、そしてフォウリーの3組に分かれる事となった。
もっとも、もめた原因はエルフィーネの憂順不断にあるのだが‥‥。
ともかくも彼らはそれぞれに祭へとくり出して行った。
宿の酒場で一人酒を飲むフォウリーを除いて、である。

 大通りの出店を一通りのぞき込みながら、エルフィーネ、ロッキッキー、ルーズの3人はそれぞれに祭を楽しんでいた。
楽しんでいたのはエルフィーネだけ、という感じがしないでもないが。
人間というものに幻滅していた彼女であるが、この様なときは見直すのだ。
こんな楽しい事を考えだした者達を。
「ねえ、ねえ。次いこ、次。」
 はしゃぎ回る彼女の横を、半分呆れたような表情の男二人がついていった。
 招かざる来訪者は突然訪れた。
道を行く彼らの目の前に、である 慌てていたのであろうか一人の少女がロッキッキーへとぶつかってきたのだ。
反射的にロッキッキーはその少女を両手で支えた。
はっとした表情をした後でその少女は、まるで哀願するように彼の顔を見上げた。
「お願いです、助けてください。海賊に追われてるんです。」
 ロッキッキーはその少女を見て思わず口走ってしまった。
「かわいい!」
 そのロッキッキーを、エルフィーネとルーズの二人は呆れたような目で見つめた。
そしてはっと我に帰ったエルフィーネがその場から退避しようとするよりも早く、彼らの目の前に荒くれた男が3人立ちはだかった。
「やいおまえら!おとなしくその娘を渡せ。そうすれば命だけは助けてやる。」
 男どもがお決まりの台詞を吐いた頃、良くできたものですでに回りの人々は彼らを遠回しに囲み、早くも見物に入っていた。
「200ガメルでどお?」
 そうルーズが男どもに言うのとほぼ同時に、ロッキッキーは彼を後ろから殴っていた。
「なに言ってんだよ!」
 彼はどうやら本気で怒っているようだ。
ルーズは、口の中でぶつぶつ言いながら後頭部をさすっていた。
「何ごちゃごちゃ言ってんだ、てめえら!渡すのか渡さないのかはっきりしろ!」
 男どもはいい加減しびれを切らしたようだ。
だがその女の子の方もなかなか良い性格のようで、ロッキッキーの後ろに隠れながら海賊どもに向かって舌を出していた。
エルフィーネも負けずにルーズの後ろから舌を出す。
「なめるな!やっちめえ!」
 その行為にさすがに怒ったのか、海賊どもはシミター片手に踊りかかってきた。
「しっかりやってよ。」
 エルフィーネは男二人を前面に押し出して、とりあえず女の子に経緯を聞き始めた。
「名前なんて言うの?」
 あまりに緊張感からかけ離れた質問に、女の子の方が戸惑ったようだ。
「えっ‥あの‥ミン=ミムアと言います。」
「そう。どうしてあいつらに追われてたの?」
 エルフィーネはそう言って、戦っているロッキッキー達の方を示した。
いまちょうどロッキッキーが海賊の一人を倒したところだ。
「捕まっていたのですけれど、逃げてきたのです。」
 ようやく戸惑いがとれたのか、ミンははっきりとした口調でそう言った。
 そのころ、相次いで海賊は倒され残りは一人になっていた。
その一人とロッキッキーが対峙している。
「でや!」
 かけ声と共に突きかかったロッキッキーのレイピアは、不運な海賊の心臓を突き抜け背中まで届いた。
海賊は断末魔の声もあげず絶命した。
 ロッキッキーは何事もなかったかのようにレイピアの血を払い、鞘へと戻した。
そして彼とルーズは彼らの後ろで手をつないで待っている、実際は逃げないように捕まえているのだが、エルフィーネと少女の所へと戻ってきた。
「怪我はない?」
 ロッキッキーは、柄にもなく優しい表情でそう少女へと聞いた。
「はい、平気です。」
 少女の方もそれに答える。
「何やってんだよ、それよりあいつらの身ぐるみ剥ぐ方が先だよ。」
 ルーズのその言葉に少女の顔にいっぺんに不安が広がった。
自分はなんて人たちに助けて貰ったのだろうと思った事だろう。
「貴方一人でやってなさい。それよりも、この娘からはあらかた話しは聞いたから、次はあの海賊から話しを聞くわよ。」
 彼らは気絶している海賊の一人を引きずって、裏路地へと入って行った。
そこでまずエルフィーネが、少女から聞いた話しの大方の所を簡潔にロッキッキーとルーズに伝える。
その後に海賊から話しを聞くと言う事になったが、当然気絶したままである。
とりあえず起こしたときに暴れられると困るので、彼らは海賊の両腕と足をしっかりとロ−プで縛り付けた。
「さあ、早く癒しの魔法をかけてよ。」
 エルフィーネはこの中で唯一の神聖魔法の使い手、ロッキッキーをそう急かした。
「こんな奴に”癒し”をかけるのか?いやだぜ、まったく。」
 ぶつぶつと文句を言いながらも、結局彼は神に祈り始めた。
彼の信ずる神、ラーダはどうやら祈りを聞き届けてくれたようだ。
海賊はどうにか意識を取り戻した。
そしてすぐに自分の置かれている立場を理解する。
それは当然であろう、ロ−プで縛られた上に4人の男女に取り囲まれているのだから。
「さ、とりあえず、なぜこの娘を追っていたのか聞かせてくれる?」
 エルフィーネは優しい声でそう言ったが、右手はしっかりとあまり使った事のないレイピアの柄に置かれていた。
「‥‥逃げたからだ。その小娘は大事な商品だからな。」
 言外の脅しに屈してか海賊はすぐにそんな事を言った。
その他いくつかの脅しに近い質問によって、大方の事は理解できた。
しかし、逃げた小娘一人を追わされるくらいで、しかもロッキッキーとルーズの2人に圧倒的にやられてしまうところからみて、どうやら三下らしく重要な事は何一つ知っていなかった。
「おい、お前達の首領の名は?」
 そこでロッキッキーが海賊に突然尋ねた。
が、その質問に関してはその男は一切語ろうとはしなかった。
剣をちらつかせたりしたがあまり効果はなかったようだ。
”首領の名をあかせば死”というような掟でもあるのだろうか。
いい加減うざったくなってきたようで、彼らは質問を諦めたようだ。
「なあ、そろそろ帰ろうぜ。仲間がくるとやばいからさ。」
 ルーズにそう急かされて他の二人も頷いた。
とりあえず海賊の後頭部を叩いて眠らし、さて帰ろうとしたがすでに遅かったようだ。
騒ぎを聞きつけたこの街の治安隊がちょうど駆けつけてきたところだった。
「ちょっと遅かったね。」
 エルフィーネはロッキッキーとルーズの顔を見ながらそう言った。
彼らも当然治安隊に呼び止められ、ひとしきりの事を聞かれた。
どうやらこちらの事情を分かってくれたようだ。
ミムアは治安部隊の方で保護するので3人は帰っても良いと言われたのだが、男二人はせっかく知り合った女の子とさよならするわけがなく治安部隊と一緒についていくと言い出した。
「わたし帰りたいんだけどなーーーー。」
 そう言ってだだをこねたエルフィーネだが二人とも一緒に帰ってはくれないので、彼女もしぶしぶ治安事務所までついていく事となった。
要するに一人で帰る勇気がなかったのである。

 治安事務所へとついた彼らは形ばかりの取調を受けた後、ミムアと一緒に待合い室へと連れて行かれた。
ここで治安部隊の幾人かと話し合ったので、この町の海賊の事やミムアの事については良く理解できた。
そして彼女の保護者と言うのが、彼女を迎えにくるという事も聞いた。
ミムアはどうやらこの町では数多い若い芸術家の一人で、師匠の元について一生懸命勉強しているのだと言う。
そしてその師匠と言うのが今からくる保護者だと言うのだ。
それを聞いたとき、3人はそれぞれにがっかりしたようだ。
3人が3人とも彼女の保護者代わりになって、連れて帰ろうとしていたのだ。
もっとも男二人の方は下心が見え見えだったが。
なごやかに話し合っている彼らへと一人の初老の男性が話しかける。
「ミン、無事であったか。」
「ネッド師匠!」
 その顔を見たミムアが立ち上がってひっしと抱きついた。
その男性をエルフィーネはすかさず鑑定するが、結果は良くなかったようだ。
すぐにつまらなそうな視線に変わる。
彼らはひとしきり感動の再会を味わった後、ようやく彼らの方を向いた。
「ミンが危ない所を助けていただいたそうで、まことにありがとうございます。」
 そう言って頭を下げるその男性に、あまりに無粋にロッキッキーが声をかける。
「おっさん、名前は?」
 そのロッキッキーに怒りもせず、その男性は口を開く。
「マリオン・ネッドと申します。売れない彫刻家をこの町でしております。」
 お礼をふんだくろうと考えていたのだろうが、”売れない”と言う単語を聞いてロッキッキーのその考えは急速に縮んだようだ。
「どうしてミンちゃんは船に乗っていたの?」
 いきなり親しげにエルフィーネはそう尋ねた。
「私がお使いを頼んだのです。
近いから安心していたのですが、まさか海賊に襲われるなどとは‥。」
 夢にも思っていなかったと言うような感じで、ネッドはそう言った。
「なんなら私たちがお供してあげましょうか?」
 珍しくエルフィーネが奉仕的な事を言った。
それほどまでにミンを気に入ったのだろうか。
「いえ、それほどの事でもありませんので。
それよりも近い内に海賊退治があるそうですよ。
そちらに参加なさっては?」
 彼はそう言って断ったが、おそらく報酬をとられると彼は思ったのだろう。
もちろんそんな余裕は彼には無かった。
「海賊退治か‥いいねえ、参加しようか。」
 ルーズはそんな事を言った。
もちろん報奨金を考えての事だ。
「そうだな。その話しはどっかで飯でも食いながら決めようぜ。」
 ロッキッキーはルーズの提案にそういった。
彼もけっこう乗り気である。
もちろん彼の理由は報奨金だけではないが‥‥。
「そうだ。みなさん今日は家に寄ってください。ミンを助けていただいたお礼に食事くらいはご馳走しますので。」
 彼らの会話を聞いて、ネッドはそう彼らを誘った。
態度はどうあれ本質的には悪い相手ではないと思ったのだろう。
それに海賊退治に行ってくれると言うのだから、なおさらだ。
「行きます。」
「あ、俺も。」
 男の方らは即座にネッドの招待を受けたが、エルフィーネの方はあまり乗り気では無いようだ。
「私は帰るね。あ、それから二人とも、男同士の禁断の世界へはいっちゃ駄目よ。」
 エルフィーネはそう二人をちゃかして即座に立ち上がると、治安隊の何人かを護衛につけて貰ってさっさと事務所から出て行ってしまった。
「我々も行きましょうか。」
 そう言ってネッド、ミン、ロッキッキー、ルーズの4人も事務所を出ていった。
 とりあえず冒険者の宿へと帰ってきたエルフィーネであるが、そこの酒場にはフォウリー、ザン、ソアラの姿はなかった。
男二人の方はまだどこかで遊んでいるのだろうが、フォウリーが居ないのには少し困ってしまった。
ボディーガード役の者が誰も居ないからである。
「ねえ、フォウリー見なかった?」
 宿屋の親父、デビアスの姿を見つけるとエルフィーネはそう尋ねた。
「さあなぁ。ここにはいねえから、ほかの酒場で飲んでんじゃねえのか?無類の酒好きだからな、あの娘は。」
 彼もかなりフォウリーの性格を掴んで来ているようだ。
それに対して彼より彼女との付き合いが短いエルフィーネはもちろん反論しなかった。
「そうだね、じゃ私フォウリー探しに行ってくるね。」
 エルフィーネはそう言って宿を後にし、近くの酒場を捜しまわった。
彼女がそれぞれの酒場で聞く事は簡単である。
「酒のみの筋肉娘の女戦士きてません?」と聞いて回ったのだ。
後で本人が聞いたら殺されそうな言葉であったが、適切でもまたあったようだ。
彼女がフォウリーを探し出したのは、それほど後の事ではなかった。

 翌朝、帰ってきたロッキッキーとルーズを連れて、フォウリーら一行は治安事務所へと向かった。
昨日エルフィーネが聞いてきた海賊退治の事を、もっと詳しく聞くためである。
彼らを迎えてくれたのは治安部隊の事務長をしているという人であった。
これほどの肩書きの人物が出てくるという背景には、一人でも多く人手が欲しい事情があるのだろう。
「貴方達ですね、我々の海賊討伐に加わっていただけるという冒険者の方々は。」
 まず向こうはそう切り出した。
「まあ、とりあえず‥。顔を知られた者がいるので、このままでは大手を振って町を歩けませんからね。」
 フォウリーはエルフィーネ、ロッキッキー、ルーズの方をちらりと見た後そう言った。
 彼女の視線に3人は薄い苦笑を浮かべる。
「分かりました、こちらとしても貴方達のような冒険者の方々に手伝っていただければ心強いというものです。」
 とりあえず彼は早めに彼らの参加を決めたいようだ。
足早に説明を始める。
「今回の目的はベルダインの近辺に出没する海賊の一掃です。民間の融資機関である”ベルダイン防衛基金”より多額の融資をいただき、これまでにない規模で実施される予定です。出発は明後日を予定しており、それまでの宿、と言っても治安部隊の寮ですが、こちらで用意します。」
 とりあえず彼の話はそこで途切れた。
「報奨金の方はどうなってるんだ?」
 フォウリーの後ろからルーズがそう質問をした。
事務長は彼の方を見てもっともだというように頷いた後、口を開いた。
「報奨金の方といたしましては基本報酬は750ガメル、それとは別に特別報酬として船一隻捕獲または撃沈につき250ガメルづつ追加、あるかどうかは分かりませんが危険報酬250ガメルを予定しております。」
「悪くないね。」
ルーズはそう言ってロッキッキーの方を見た。
彼は黙って頷く。
「味方の状況はどうなっているのかしら?」
 ルーズよりも幾分ましな質問をフォウリーは尋ねた。
「はい、こちらは船一隻に治安部隊の一個中隊40名、貴方がた、そして貴方がたの他にパーティーを1組雇っております。」
「他のパーティー!?かなり強いの?」
 フォウリーはそう聞いた。
もしかなり強いパーティーが乗っているのなら、彼らは楽して報酬がもらえる事になる。
「いえ。そうですね、見たところ貴方がたよりほんの少し上‥と言うところです。」
 彼は言った。
「そう‥‥、まあいいわ。みんな他に聞きたい事ある?」
 フォウリーはそう言って仲間の顔を見回した。
が、誰も質問がありそうな表情をしている者はいなかった。
「それでは明後日忘れずに港の第一埠頭まできてください。それと宿をご希望の方は受付の方でそう申し出てくだされば、案内するように言ってありますので。」
 事務長は立ち上がりそう言った。
フォウリー達も立ち上がり、事務長に一礼しながら外へと出ていった。
もちろん宿を借りようという者など、彼らの中には一人も居なかった。

 2日後の朝、3本の帆を持つ帆船、”ホワイト・ゴッデス”号はフォウリーら一向と他のパーティー、それに治安1中隊をその腹に飲み込んで、ベルダインの港を出航した。
 ホワイト・ゴッデス号は治安事務所が今回のために借りた豪華客船で、バリスタが積んである他は手を加えられなかったので、ぱっと見には偽装客船とは分からないだろう。
他のパーティーの方は人間の男が1人女が2人、エルフ、ハーフ・エルフ、ドワーフ各1人の、彼らと同じ6人構成であった。
船に乗る前に彼らのリーダーであろう人間の男の戦士が、趣味がいいのか悪いのか頭にリボンを結んでいた、フォウリー達に話しかけてきた。
「君達が僕たちと共に戦ってくれるパーティーだね?」
 その男の容姿、特に頭のリボンにフォウリーは圧倒されたようだ。
「え‥ええ。」
 彼女はそれくらいしかとっさに返せなかった。
しかし彼はそんな彼女の事などおかまいなしで、さらに口を開く。
「言いにくい事なんだけど、僕たちは以前船の上で大変な戦いをしているんだ。だから、船上の戦略は君達に任せるから。じゃあ、よろしくね!」
 その戦士はそれだけを言うと、とっとと仲間の所へと戻って行った。
「なんなのよーー、あれは?」
 いなくなった後にエルフィーネはそうたまらず呟いた。
「さあ?」
 フォウリーにも、彼らが自分達より上のパーティーとは思えなかった。
ともかくも彼らにとって船での戦略を任せられた事はありがたい事でもあったし、また面倒な事でもあった‥‥。
 港を出航してから2日はさしたる事はなかった。
ただし女性陣2人、フォウリーとエルフィーネが船酔未満の気分の悪さに苦しめられたのを除いて、である。
 三日目の昼過ぎに突然今までの平和が破られた。
「海賊船発見!1時と11時!」
 見張りの男の怒声が船中に響きわたる。
船室で休んでいたフォウリーとソアラ、ザンはその声にあわてて甲板へと飛び出した。
フォウリーにいたっては鎧もつけず、武器のみを持ってくるという有り様であった。
エルフィーネはとりあえず階段の所に身を潜め、外の様子を伺っていた。
「どちらに船を向けますかーーー?」
 船橋の辺りからフォウリーに対して、指示を請う声が飛ぶ。
「11時の方に回して!」
 鋭くフォウリーは叫ぶ。
「了解。取り舵いっぱーーーーーーい。」
 船長は船首を左の方へと向けた。
この間にもぱらぱらと治安部隊の兵士達が甲板へと出ていこうとするが、フォウリー達はそれを制していた。
偽装客船である事がばれてしまうからである。
兵士や頭にリボンをつけた戦士らのパーティーが思い思いに物陰に隠れている中、海賊船との距離は見る見る間に縮まっていった。
「命が欲しくば積み荷を置いて行けーーーー。」
 海賊船の船首あたりに立つ男が大声でそう叫んだ。
− 積み荷ってこの治安部隊の事かな?  エルフィーネは階段の陰からのぞき込みながら、そんな事を考えていた。
そんな物で良かったら彼女は喜んで海賊に渡したであろう。
 速度を落とそうとしないホワイト・ゴッデスに対し、脅しの意味を込めてか海賊船から矢が放たれた。
ほとんどが届かないか甲板に突き刺さったものの、それでも幾本かがソアラを襲った。
が、彼のレザーアーマーですら貫通できなかった。
「貧弱貧弱ーーーー。」
 ソアラは思わずそんな事を口走っていた。
その彼の隣では訳の分からぬ不思議な踊りをフォウリーが舞っていた。
そのころ船室ではあまりの退屈さにロッキッキーが爆睡を始めたところであった。
 そろそろ海賊船とホワイト・ゴッデス号との距離も近づいてきた。
何気なく海賊船を見ていたザンであったが、海賊の一人にむかついた顔をした奴が居た。
彼自身覚えていない幼児体験からか、何故か無性に腹が立った彼は、その男めがけて魔法を放つべく詠唱を始めた。
『エネルギー・ボルトーーーーー!』
 寸分の狂いもなく、エネルギーの塊はその男へとヒットした。
その男はたまらず甲板上をころげ回る。
「やりましたね。」
 思わずそう口にしたザンであった。
だが海賊船自体の動きを止めるには至らなかった。
海賊船の片われがホワイト・ゴッデスの片腹に衝角を突き刺したのである。
その衝撃によって船は激しく揺れる。
それによってロッキッキーも起きだし、戦闘が始まった事を悟るとルーズと共に甲板へと走りだした。
もう一隻の方も時をほぼ同じくしてホワイト・ゴッデスの右舷に接舷し、こちらは木製の梯子板を架けてきたようだ。
「そっちは頼むわ!」
 フォウリーは頭にリボンを巻いた戦士にそう言うと、なんと単身敵船の甲板へと乗り込んだのであった。
 その後をソアラ、遅れてきたロッキッキー、ルーズと続く。
彼らの前には、所詮海賊達など雑魚に過ぎなかった。
エルフィーネ、ザンも当初は魔法による援護をしていたが、すぐに日和見に態度を変えたぐらいである。
エルフィーネの方は、弓を持って甲板の敵を射るのに切り替えたのだが。
弓を持たないザンは完全にやる事がなく、となりのパーティーの様子を見に行ったほどであった。
 その後エルフィーネはフォウリーの要請に応じて途中で戦闘を抜け出し、彼女の鎧を取りに行ったが、エルフの彼女一人ではなかなか運べる物ではなかったようだ。
船室で「動けなーーーい。」と鎧にしがみついて叫ぶ彼女の姿は、用意に想像できるであろう。
 彼女がようやく船室から重い鎧を持って甲板へと出たときには、すでに敵船及び自船上の敵はほぼ一掃されていた。
「後を頼むわ。」
 フォウリーはそう治安部隊の長へと叫んだ。
エルフィーネを加えた6人は慎重に敵船内への階段を降りていく。
船内は階段を降りたところからまっすぐに廊下が延びていて、左右に扉が2つずつあり、さらに正面にも扉があった。
「どうするのですか?」
 ザンがフォウリーへと尋ねた。
「決まってるでしょ、こういう時は正面の扉に大ボスがいるものよ。」
 彼女はそう言ってずんずんと廊下を歩き始めた。
不意打ちの事など歯牙にかけていないようだ。
その後をあわてて5人が追う。
「ザン、私の精神力をあげるから補助魔法をお願い。」
 扉の前でフォウリーはそう言った。
「ロッキッキー、私にも頂戴。」
 エルフィーネもまるで物を貰うかのように無造作に言った。
「しょうがねえな、分かったよ。」
 フォウリーとロッキッキーは、それぞれザンとエルフィーネに精神力を渡す。
そしてザンは一応の補助魔法をパーティーへとかけた。
「それじゃ、行くわよ。」
 フォウリーがそう言って6人が正面の扉を開けて入ろうとしたとき、後ろから誰かが声をかけた。
剣を構えて振り向いた彼らの目に映ったのは、向こうのパーティーのハーフ・エルフの女性であった。
「あのさ、向こうのボスは毒を飲んで自殺しちまったんだ。
だからこっちのは何とか生け捕りにしてくれよ。」
   そう言った彼女にルーズが話しかける。
「手伝ってくれないのか?」
 その言葉に彼女は首を振る。
「こっちも結構傷を受けたんだ。だからそっちはそっちでがんばってよ。じゃ、私は帰るからさ。」
 彼女はそう言ってまた戻っていってしまった。
いささか拍子抜けした彼らであったが、気を取り直して正面の扉内へと飛び込んでいった。
中には船長風の男、司祭風の男、そして親衛隊であろう海賊が何人かいた。
当然中にいた連中は彼らの事に気付いていた。
そして誰がいちばん強いかも知っていたようだ。
『ブラインド』
 司祭風の男は迷いもせずフォウリーへと魔法を唱えた。
「うっ!」
 決して弱いはずの彼女ではなかったが、いともあっさりと魔法にかかってしまった。
「やったなーーー。これでも喰らいなさい!」
 それを見たエルフィーネは、すかさず司祭へと魔法を放つ。
『闇の精霊よ、我の召還に従え!』
   彼女の渾身のこの魔法は、珍しく敵に大ダメージを与えたようだ。
司祭風の男の苦しみ具合でエルフィーネにはそれが分かった。
 敵の唯一の魔法使いを潰したまでは良かったものの、その後彼らはかなりの苦戦を強いられてしまった。
 フォウリーはブラインドを食らっているのでほとんど攻撃は当たらないし、ザンのファイアウェポンは1度バックファイアを起こすし、頼みの綱の片われであるロッキッキーの攻撃は敵にかすり傷しか負わせないし、エルフィーネはソアラに矢を当てるし、エルフィーネとザンは壁に弓矢で攻撃するし、ルーズは深追いして瀕死に陥るし‥‥。
 ともかくも雑魚を倒し、何とか当初の目的である船長風の男、司祭風の男を生け捕りにする事が出来たのでこれはよしとされるだろう。
 もっとも船長風の男については、危うくソアラが殺しそうになったが。
 海賊達を縛り上げた彼らは、船内を探索するために船長室の外へと出た。
部屋を出てとりあえす身近な扉へとフォウリーを先頭にして入っていく。
その部屋は人間の物らしき汚物等で汚れていた。
壁には定間隔で穴があり、それに少しずれる形で椅子らしき物があった。
そう、つまり櫓漕ぎ部屋だったのである。
その向かいの部屋も同じだった。
その部屋より少し階段方向にある2つの部屋は、これまた小汚い盗賊達の寝室であった。
 早々とこのフロアの探索を諦めた6人は、とりあえず階段の手前で止まった。
「どうするの、降りるの?」
 フォウリーに対し、エルフィーネはそう問いかけた。
「当然でしょ、さあ行くわよ。」
 そう言って彼女はどんどんと階段を降りて行った。
他の5人もそれに続く。
 階段の下は細い通路になっていて、すぐ前に扉によって遮断されていた。
「こんな扉開けてやるわ。」
 フォウリーは罠の事など本当に歯牙にもかけず、取っ手を持って扉を開けようとした。
彼女の読み通り罠はなかったものの、どうやら鍵がかかっているらしく扉は彼女に逆らって開こうとしなかった。
彼女は振り向いてザンに話しかける。
「ねえ、扉を開けてよ。」
「分かりました。」
 ザンはフォウリーの前へと出ると、ツールを使って器用に鍵を開ける。
再びフォウリーが先頭に立って扉を開けた。
 扉の向こうには、ただがらんとした巨大な部屋が広がっているだけであった。
例えるなら、”どんな優秀なシーフをもってしても銅貨一枚見つけられない”と言うような、本当に何もない巨大さだけが取り柄の部屋である。
「なに?この部屋は?」
 思わず呟いたフォウリーに対してエルフィーネが答える。
「奪った獲物を入れとくところなんじゃないの?」
「と言う事は、この船はまだどの船も襲ってなかったってことか?」
 エルフィーネの言葉を聞いて、ロッキッキーが当然の事をきわめて意外そうに言った。
「おしい!襲ったあとなら金目の物が手に入ったのに。」
 それを受けてルーズが舌打ちしながらそう言った。
「馬鹿な事言ってないの。そんな事したら一発でお尋ね者よ。しょうがないからとりあえず戻りましょうか。」
 フォウリーの言葉に6人はすぐに部屋を出、階段を上り始めた。
階段を上ったところで、彼らは降りてきた治安部隊の隊長と以下数名に出会った。
彼はフォウリー達の姿を見ると背筋をのばして敬意を示した。
「残敵の掃討、完了いたしました。」
 フォウリーは彼の軍隊じみた行動に内心少し戸惑ったが、とりあえず戦果の報告をするのも忘れなかった。
「ご要望通り船長を生け捕りにしたわ。ついでに闇司祭さんもね。引き渡すから連れて行ってちょうだい。」
さらっと言ってのけたフォウリーであるが、その隊長の方は驚いたようだ。
「はっ、かしこまりました。すぐに尋問をしてアジトの正確な位置を調べます。」
彼はそう言うと部下に船長らを連れ出すように命じる。
フォウリーらはそれが終わるまでずっと見ていた。
「それでは失礼いたします。」
 隊長はもう一度彼らに敬意を見せると甲板へと出て行った。
おそらく向こうの海賊船が本船になるのだろう。
「とりあえず疲れたから、船長室ででも休みましょうか?」
 フォウリーはそう言って仲間の顔を見る。
が、今度は猛然とそれに反対する者がいた。
エルフィーネである。
「あんな血生臭いところで休むなんて冗談じゃないわ。」
 他の5人も戦闘の後の光景を思い出したようだ。
相づちを打つようにソアラが呟く。
「船内の寝室も当然不許可だ。」
 当然寝室以上に汚い櫓漕ぎ部屋も却下であろう、とすれば残るのは1部屋しかなかった。
「最下段のあの部屋で休みましょうか。」
 今度は誰も抗議の声をあげなかった。
 彼らは何もない部屋でホワイトゴッデス号から持ってきた毛布にくるまって、しばしの安息の時間を楽しんだ。

 海賊から奪った2隻の船は、一路海賊の本拠地であるグン=キ=イーバ島へと向かった。
 海賊船のとらえられた船長の方は、服毒自殺したもう一人よりもはるかに忠義心に欠ける男だった。
彼は自分を取りまく状況を把握すると、すぐに取引を求めた。
自分の知る事をすべて話すかわりに、身の自由を求めたのである。
治安部隊の隊長の方も悩んだ様だが、結局”大悪を滅ぼすためには小悪と手を結ぶ事もまた正義”という古人の言葉を実行した。
つまり取引に応じたのである。
海賊船の船長は身の安全を確保するととたんに態度が横柄になったが、少し脅されるとすぐにぺらぺらと聞かぬ事までしゃべり始めた。
その結果、海賊のアジトがグン=キ=イーバ島であること、これは予測が確定になっただけだが、また島内の様子、アジトの様子等をかなり知る事が出来た。
その中でいちばん重要な情報は、やはり島中央の山の上にある見張り小屋の存在の事であろう。
この小屋をどうするか、が問題になったが結局当初の予定通り双手に分かれ、片方が船で派手に陽動し、そのあいだに裏手からアジトを強襲、陽動隊も頃合を見て突入という作戦のままになった。
ただ、強襲隊の行動に見張り小屋撃滅が加わっただけである。
もちろんこの強襲隊はフォウリーらにまかされる事になっているのだ。
フォウリーはどうやら島の裏側が崖になっているので、ここを登るのが嫌らしくさんざん不満を言っていたが。
 船はとりあえず一旦島の裏側で彼らを下ろした後、一路アジトに向かって再び走り出していった。
残された彼らの前に広がる物、それは話とは大違いの断崖絶壁であった。
「私、向こうのグループに行っても良い?」
 その崖を見上げつつフォウリーはそんな事を言った。
確かに彼女の装備でこの崖を上ろうというのは至難の技であろう。
しかし彼女にいなくなられては戦闘面で明らかにこちらが不利になるし、何よりも人の不幸を愛しているような人たちだ。
彼女のぼやきの真意を見抜くと、すぐにエルフィーネらは抗議の声をあげた。
「そんな事は許さないわ。」
 やけに威勢良くエルフィーネはそういった。
もちろん彼女は、自分の事を棚上げてそういっているのである。
「そうですよ、貴方がいなくなったら誰が戦うのですか?」
 もう一人の戦士、もちろんエルフィーネやルーズの事ではない、の前であえてザンはそう言った。
 かなりの抗議を受けて、フォウリーは向こう側の隊に加わる事を諦めざるをえなかった。
もちろん船はもういないので、どちらにしろ彼女は一緒に行くしかないのだが。
「分かったわよ。崖でも壁でもなんでも登ってあげようじゃないの!」
 そう叫んだ彼女だが、自分が登りやすくするための行動も忘れなかった。
「ロッキッキー、ロ−プかけてよ。」
 指名を受けたロッキッキーは、あからさまにいやな表情を見せた。
「なんで俺よ?」
 そうぼやいて彼はザンの方を見た。
シーフは俺だけじゃないと言いたかったのであろう。
「うるさい、とっとと登りなさい。」
 だが彼の抵抗もむなしく、フォウリーの怒声一つで登る者は決まった。
彼は渋々ロ−プを荷物から取りだすと、他の物をルーズへと託した。
彼は一度崖を見上げるとさっさと登り始めた。
「あらよっと。」
 5人の見守る中、ロッキッキーはまるで坂を上るかのようにすいすいと断崖絶壁の崖を登っていてしまった。
「うそ‥。」
 エルフィーネのその一言は、彼が滑り落ちる事を期待していたのに、という思いが込められていた。
「ほらよ。」
 やがて上まで登りきった彼は下へとロ−プを垂らした。
それを登って5人は次々に崖を登っていった。

 断崖絶壁を何事もなく登ったフォウリーら一行は、森の中を一路見張り小屋目指して進んで行った。
森は船から見たよりは思いのほか険しく、木々は鬱蒼と茂り、根に足を取られながらも進む彼らの姿を巧みに覆い隠した。
やがて突然に森の中に開けた空間が現れ、そこに粗末な小屋が立っていた。
「あれが見張り小屋ね。」
 茂みから様子を伺いつつ、フォウリーはそう誰に言うわけでもなく呟いた。
「そうね。」
 隣で覗いているエルフィーネがいかにも適当に相づちを打つ。
「誰かに中を見てきて貰ってはどうです?」
 控えめにザンがそう発言した。
彼は明言はしなかったものの、行くべき者はすでに決まっていた。
「そうね。」
 エルフィーネと同じ事を言ったフォウリーであるが、視線はすでにロッキッキーの方へと向いていた。
 ロッキッキーとフォウリーを除く4人の視線も、そちらへと向いていた。
「分かったよ!まったく、危険な目に会うのはいつも俺だもんな。」
 10個の視線に屈したのか、彼はまたもぶつぶつ言いながら忍び足で小屋へと近付いて行った。
どうやら彼は見つからずに小屋へと近付けたようだ。
ロッキッキーは手近な窓の一つから、そっと中の様子を伺った。
− 1‥2‥3‥4‥‥5人か‥。
 とりあえず人数だけを見た彼は、すばやく仲間のもとへと戻った。
「どう、中の様子は?」
 彼が戻ってくるなり、フォウリーはそう尋ねた。
「5人だな。4人はカードやってて、残りの一人が見張りしてらあ。」
 彼は手早く説明した。
「5人か‥。」
 彼女はそう言って、ソアラとロッキッキーの方を見る。
「気付かれたらまずいからさ、私後から行くよ。5人なら2人でも平気でしょ?」
 フォウリーは軽くそう言った。
あからさまに他の5人は嫌な顔をするが、彼女の言う事にも一理あった。
彼女の装備はプレートメイルであり、隠密行動には向いていなかった。
ここに来るまでもかなりうるさかったのだが、気付いていないのならよっぽどの間抜けな見張りである。
 もっとも彼女の真意は、面倒くさい事は他人に任すという所なのだが。
「分かりました、行きましょう。」
 このままでは埒があかないと思ったのか、ザンはそう言った。
「仕様がない。俺とロッキッキーが飛び込むから、後の3人は援護を頼む。」
 ソアラは自分とロッキッキーを示してそう言った。
ロッキッキーの方も今度は異存がないようだ。
「分かったわ。」
 一番頼りにならない人物が一番力強く頷いた事に一抹の不安を感じながらも、ソアラとロッキッキーは武器を構えて見張り小屋へと突入した。
「うらーーーーーー。」
 突然の乱入に中にいた5人の海賊は驚いたようだ。
彼らが何事かと惚けたその隙を彼らは見逃さなかった。
ソアラとロッキッキーの二人は手近にいた海賊へと切りかかった。
「始まった様ね。そろそろ行こうかしら。」
 フォウリーはそう言って立ち上がりゆっくりと小屋へと向かった。
 ソアラが海賊の一人を血の海に沈めたとき、開かれたドアから遅れてザン、エルフィーネ、ルーズが飛び込んできた。
ソーサラーであるザンは、同時に呪文の詠唱を始める。
『偉大なるマナよ、その力をもちて彼の者を眠りへと誘え。スリープ・クラウド』
 灰色の呪文の霧は、たちどころに海賊の残り4人を眠りの世界へと誘った。
が、ここでちょっとした手違いが起こった。
なんとソアラまで魔法にかかり、一瞬動きを止めたかと思うと床に倒れ込み、高いびきをかきはじめたのだ。
「まったく根性がないんだから。」
 エルフィーネは幸せそうに眠るソアラを呆れたような表情で見ていた。
「起こしてあげたらどうです?」
 自分の魔法で彼が寝た事にはこれっぽちも自責することもなく、ザンはそうエルフィーネに言った。
「私にまーかせて!」
 エルフィーネは元気にそう言うと、ソアラの胸の上へとまたがった。
眠っている者を起こすのは、彼女と決まっているのだ。
そしてやり方も決まっていた。
彼女は右手の平に息を吹きかけると、高々と掲げた。
「起きなさーーーーーい!」
 振り降ろされた彼女の右手は、確実にソアラの左頬をヒットした。
心地よい音と共に、ソアラは跳び起きた。
「いってーーーー。」
「いたーい。」
 彼が突然跳び起きたためにエルフィーネは振り落とされ、したたかに尻餅をついた。
そのエルフィーネの脇で、頬を押さえてソアラがうずくまっていた。
「何するのよ!せっかく起こしてあげたのに!」
 エルフィーネは涙を目に浮かべながらそうソアラへと抗議した。
「それはこっちの台詞だ!手加減という物を知らないのか!歯が折れたぞ!」
 ソアラはそうまくしたてると、口の中から折れた歯を見せた。
エルフィーネとザン、それにいつの間に来たのかフォウリーがそれを覗き込む。
「良い音しましたからね。」
「歯にも根性が無いのね、あれくらいで折れるなんて。」
 エルフィーネは悪びれたふうもなくそう言ってのけた。
「なんだと!?」
 ソアラとエルフィーネの喜劇、もしくは漫才はそれからしばらく続いた。
一方、ロッキッキーとルーズの方はソアラ達の漫才を後目に、やるべき事をやっていた。
とりあえず眠っている海賊のとどめをさした2人は、次に小屋の家捜しを始めたのだ。
「何かあるかな?」
 期待に胸を膨らませつつ、ルーズはそうロッキッキーへと聞いた。
「さあ、調べてみなきゃなんとも言えないね。」
「じゃあ、調べようぜ。」
 彼ら二人は小屋の中の少ない荷物を調べ始めた。
が、結果は彼らの期待を完全に裏切るものだった。
何も見つける事が出来なかったのである。
「ちくしょー、骨折り損かよ。」
 2人はこみ上げる怒りを押さえて、ようやく喜劇が終わりを告げたエルフィーネらの所へと戻った。
「何もなかったようね。」
 彼らの雰囲気から察したフォウリーがそう言った。
「ああ、銅貨一枚もね。」
 彼はすでに平静さを取り戻していた。
すぐ去った事にぐだぐだとしていては、次の仕事に差し支えるのを知っているのである。
「さあ、行きましょうか。時間も余りないわよ。」
 6人は見張り小屋を後にし、一路海賊達のアジトめがけ山を駆け降りて行った。

 見張り小屋から海賊のアジトがある海岸線まで、6人はまるで岩が転がり落ちるように走って行った。
もっとも一人危うく転がっていきそうになったが。
山肌のため見晴らしが良く、遠く海の方まで見渡せた。
海では彼らがもたついている間に、すでに陽動が始まっていた。
治安部隊を乗せた船2隻は、海賊の船2隻と大乱戦を行っているのが彼らにも見えたのである。
だが気ほどに歩みは進まなかった。
 一度転がりかけた事によって一歩リードしていたフォウリーであったが、その鎧が災いして瞬く間に、エルフィーネ、ロッキッキー、ザンに抜かれていった。
やがてその彼女をソアラまでが抜いていったとき、彼女のプライドが許さなかったのであろうか、それとも単に思いついただけなのか、彼女は突然ソアラへと体当たりをしかけたのである。
「てぃっ!」
 だが、いち早く殺気を感じたソアラは寸での所でそれを避ける。
「おわっ?」
「きゃあああーーー?」
 ソアラに避けられたフォウリーはそのまま山肌を滑っていった。
 フォウリーを抜いていった3人は、とりあえずアジトが見えるほどの距離の所で立ち止まって思案をしていた。
どうやってアジトに入り込めばいいか、をである。
「きゃあーー。
止めて、止めてーーー。」
 その3人の脇を叫び声をあげながら、フォウリーがアジトめがけて一直線に滑り落ちていった。
「フォウリー?!」
 一瞬惚けたものの、顔を見合わせると3人はあわてて彼女の後を追った。
その後をソアラ、ルーズが必死についていった。
フォウリーは3人が追いつくよりも早く、実際追いついてもどうとなるものではないが、運良くアジトの正面玄関へと突っ込んでいった。
幸い扉は木で出来ており、大音響と共に彼女は扉を破壊し、部屋の中に文字どおり転がり込んだのだ。
「あたたたた。」
 体の所々をさすりながらフォウリーはどうにか立ち上がった。
そのころに他の5人もようやくアジトの中へと入ってきた。
「大丈夫?」
 一番はじめに駆け込んだエルフィーネがすぐに彼女の脇へといく。
「なんとかね。」
 顔をしかめながらフォウリーはそう答えた。
「隠密なんてあったもんじゃないな。」
 後ろの方でルーズがぼそっともらす。
  確かに今の音はそれこそアジト中に響きわたったであろう。
「良いじゃないですか。どちらにしろ敵方に知られるのが少し速いか遅いかだけの違いなのですから。」
 ザンはそう言ったが、きっと彼らには遅いという事は無いだろう。
「所詮私たちに隠密行動なんて無理なのよ。」
 エルフィーネはそうため息混じりに呟いた。
もちろん彼女の騒がしさもその原因の一つである事を忘れてはならない。
「とにかく行くわよ。」
 そう言ってフォウリーは武器を構えた。
「とりあえず、どうするんだ。」
 今は亡きレティシアの後を継いでいるマッパー、ソアラはようやくその技術が発揮できるとうれしそうにそう言った。
彼らが飛び込んだ所は奥行きおよそ50m、幅およそ30mのホールであった。
扉は正面に1つ、左右に1つずつの計3つあった。
ここでの決定権は当然リーダーであるフォウリーが握っている。
「左の扉に行くわよ。」
彼女は言うが早いかそちらへと移動をし始めていた。
他の5人もそれに続く。
 扉の前に立ったフォウリーは鍵がかかっていないのを見るとソアラと目配せし、扉を蹴りあけると同時に飛び込んでいった。
中には5人の海賊がいた。
フォウリーとソアラはすぐさま近くの敵に切りかかり、一歩遅れたロッキッキー、エルフィーネ、ザンがそれに続く。
海賊の手下が1人倒れた頃、最近こっているのかザンが再び呪文の詠唱を始めた。
『スリープ・クラウド』
 眠りへと誘う魔法の雲は海賊の手下を2人眠らせたが、またも仲間を一人、今度はロッキッキーをも眠らせてしまった。
「まったく世話が焼ける。」
 眠りこけたロッキッキーの近くにいたエルフィーネは、すぐに彼を部屋の安全な方に引っ張ってきた。
 海賊の方もまだ2人残っていたが、フォウリーとザンの二人に阻まれ、エルフィーネ達の方へは進んでこれなかった。
それを見たエルフィーネは、先のソアラと同じように彼の上にまたがり平手打ちをくらわした。
「起きなさーーい!」
 が、どうやらロッキッキーの面の皮は、エルフィーネの想像以上に厚かったようだ。
どうにか彼は起きたものの、エルフィーネがどくと何事もなかったかのように起きあがったのだ。
「まったく面の皮が厚いんだから。」
 訳の分からない事で、エルフィーネは膨れてしまった。
「別に好きで厚いわけじゃねえよ。」
 そう1つ悪態をつくと彼は再び剣を構え、参戦しようとした。
が、戦いは、すでにフォウリーとソアラの活躍によって終わっていたのである。
「ふー、次行くわよ。」
 フォウリーは一つ息をつくと海賊の死体には目もくれず、さっさとホールへと戻って行った。
「タフだなー。」
 後ろで見ていたルーズは一言そう呟いた。
 彼らが次に入ったのは、今の部屋の真正面にある部屋であった。
今と同じようにフォウリーとソアラが飛び込んだが、ここには敵の姿はなかった。
「なんだ、武器庫か。」
 フォウリーは拍子抜けしたように呟いた。
この部屋はどうやら海賊達の武器庫らしく、ショート・ソードやショート・ボウ、スピアやシミターなどが無造作に投げ込まれていた。
「ろくな物無いわね。」
 そう呟いて出ようとした彼女らをルーズが押し止める。
「ちょっと、待ってくれよ。弓矢が欲しいんだよな。」
 そう言って彼は部屋の中を漁り始めた。
「あっ、私も欲しいです。」
 そう言ってザンもルーズの脇にいって、武器を漁り始めた。
「早くしろよ。」
 ルーズとザンの後ろから半分呆れたような顔でソアラが声をかけた。
「分かってるって。」
「分かってますよ。」
 彼らは手も止めずに同時にそう言った。
武器の大半は使い物にならないような物ばかりだったが、それでもやがてルーズらは幾らかましな弓を見つけることができた。
「これでいいや。」
 彼の見つけた弓はその部屋の中でもかなりましな部類にはいるだろうが、それでも一般の市販品よりはかなり落ちるだろう。
「矢ならそこの壁にかかっているわよ。」
 エルフィーネはそう言って左側の壁を示した。
確かに矢がなければ、どんな優れた弓を持っていても荷物以外の何物ではない。
「いくつ持って行こうかな。」
「そうですねえ。」
 しばらく悩んでいた彼ら二人であったが、やがてかかっていた矢筒のすべてを持っていく事にしたようだ。
  「あきれた、そんなに矢筒を持っていくの?」
 エルフィーネは本当に呆れた顔で彼を見た。
始めから弓を持っている彼女でさえ矢筒は3つ、つまり36本しか矢を持ってこないのだ。
「いいでしょ。」
 ルーズは器用に矢を3つの筒に押し込むと、弓ごと肩にかけた。
「そうですよ、いつ必要になるか分かりませんからね。」
 ザンも矢筒を少なくするために、かなり一つの筒に詰め込んだようだ。
「ほかに武器を探す人はいないわね?なら、行くわよ。」
 6人は武器庫を後にした。

 ホール中央の扉をフォウリーの一撃で破壊し、彼らは扉をくぐって先へと進んで行った。
扉の先は細長い通路となっており、彼らは2列に並び慎重に廊下を道なりに進んで行った。
廊下はやがて突き当たり右手へと折れていた。
そして左手には先のホールの扉より少し豪華で頑丈そうな扉があった。
「見るからに怪しいな。」
 先頭を進む片割れのソアラは扉を示しつつ、そうフォウリーへと言った。
それはもちろん彼女も同感である。
「そうね。」
 そう言って取っ手へと手を伸ばすが、扉にはどうやら鍵がかかっているようだ。
いつもの彼女ならハルバードの一閃で扉ごと鍵を開けるのだが、今回の扉はその方法は少し無理のようである。
「ロッキッキー、鍵お願い。」
 彼女は最後尾のロッキッキーへとそう声をかけた。
「ほいきた。」
 彼はすいすいとエルフィーネらの脇を抜け扉の前へとくると、ツール片手に何やら扉をいじり始めた。
始めは鼻歌混じりだった彼の表情は時間が立つごとに険しくなってきた。
その内にぼそぼそと文句をもらすようになり、やがて扉から手を離して上にあげた。
「だめだ、開けられねぇ。」
 彼はばつの悪そうにそう言った。
「まっ、気にしないことよ、ロッキッキー。猿も木から落ちるっていうことだし‥。もっとも、貴方と比べたら猿がかわいそうだけれど。」
 フォローしているのかけなしているのか分からないそれは、エルフィーネの言葉である。
− この娘といい前のレティシアといい、エルフってのはどうしてこうなんだ?
 どうやらロッキッキーの心の中では、エルフの女性の一般概念というのが形成されつつあるようだ。
当然それはあまり好ましい姿ではないだろうが。
「どいてください、ロッキッキー。私がやりますから。」
 すぐ後ろで待機していたザンがそう言って前へと出てきた。
「まかせたぜ。」
 ロッキッキーは、未練がましくこだわったりせずあっさりとザンと交代した。
何度やっても無駄な物は無駄であるという事を知っていたからである。
「ええと、ここをこうやって‥。」
 久しぶりだからかザンの手際にはたどたどしい物があったが、どうにか彼はその扉を開ける事が出来た。
「開きましたよ。」
 彼はそう言ってすぐさま後ろへと下がった。
部屋へと突入するのは別の者の仕事だからである。
「よーし、行くわよーー。」
 威勢良く扉を蹴り開け中に飛び込もうとしたフォウリーであったが、どうやら扉は引いて開ける奴だったようだ。
「おっ‥‥。」
 蹴りの威力は、そのままフォウリーの足へと返ってきたようだ。
あまりの痛さにうずくまるフォウリーに、唖然とした5人の視線が集まる。
あまりの間抜けさに、誰もがいたわりの言葉をかける事でさえ忘れていた。
しばらくして、何とか痛みから立ち直ったフォウリーは、何事もなかったかのように取っ手に手をかけた。
「‥‥行くわよ。」
 そう言って扉を開けると同時に、彼女は部屋の中に飛び込んだ。
一歩遅れてソアラ、ロッキッキーが続く。
安全を確認したところでエルフィーネ、ザン、ルーズがそれに続くのだ。
しかし部屋の中には誰もいなかった。
彼らは幾分拍子抜けしたものの、罠かと思いあちこちに視線を向けるが本当に誰もいないようであった。
「おかしいわね、雰囲気的には海賊の頭領が居てもいいのに。」
 フォウリーの呟き通り確かにこの部屋は、他の部屋とは違っていた。
かなりすり減っているがそれでも高級なものである事がしのばれる絨毯、南国産の観葉植物が植えられた鉢、海賊船に立てるのだろうかどくろマークが描かれた大きな旗が2旗、旗の間にこれまた貴族の書斎にでもあった方が似合いそうな年代ものの机が1つ、そして部屋の隅には大きな棚があった。
「でも、誰も居ないな。」
 ソアラも本能的にここには敵が居ない事を察知し、剣を降ろしていた。
「何もなさそうだし、もっと奥に行こうよ。」
 エルフィーネはその部屋のすべての物に興味を示さずにそう言った。
「そうだよ。」
 それにルーズが相づちを打つ。
「そうね、先に進みましょうか。」
 こうして彼らはこの部屋をあまり探索する事無しに、屋敷の奥の方へと進んでいったのであった。

 廊下はしばらく行くと再び右へと折れていった。
6人は2列のままで道なりに廊下を進んで入った。
他に行く方向がないので、しかたなく進んでいるのであるが。
廊下を折れてしばらく行ったところで、急にフォウリーの体を悪寒が襲った。
彼女はその悪寒に何かしらの危険を感じて、ふっと立ち止まった。
「待って。」
 止まるときに彼女は右手を挙げてそう言ったので、他の5人も前の者にぶつかる事無く立ち止まった。
「どうしたんだ?」
 隣のソアラがいぶかしげにそう尋ねた。
「なにか罠があるような気がするの。ロッキッキー、お願い。」
 フォウリーは、とりあえずいつものようにロッキッキーを指名した。
「あいよ。」
 ロッキッキーはフォウリーらの前にくると、とりあえず少し彼らを下げさせじっくりとあたりを調べだした。
罠は、どうやらフォウリーの感は正しかったようだ、ほどなく見つかった。
「危なかったな、落とし穴だぜ。」
 ロッキッキーは罠を解除しつつそう呟いた。
「やっぱりね、あまりにも何も無さすぎて、変だと思っていたのよ。」
 フォウリーは得意顔である。
とりあえず彼女のおかげで危機を回避できたので、誰も文句は言わなかった。
「さあ、先に進みましょう。」
 6人は再び変哲もない廊下を進み始めた。
 それからもう一度廊下は右に折れ、そのとたんに行き止まりになった。
そして右手にすぐ扉があった。
どうやら防御を考えて作られているらしかった。
このように道を複雑化しておく事によって、進入者が目指すところになかなかたどり着けないようにしているのだ。
「いくわよ。」
 フォウリーは扉へと手を伸ばした。
今度は鍵がかかっていなかったらしく、扉はすぐに開いた。
その先にはまだ通路が続いていた。
40mほどいくと不意に左手が開けた。
どうやら広い部屋になっているらしい。
6人はここでようやく首領のおでましか、と意気込んだが部屋のなかに入って彼らは落胆したようだ。
この部屋にはそれこそ何もなかったのだ。
ただがらんとした部屋だけが無情にも広がっていたのだ。
「扉があるぞ。」
 ソアラの声に他の5人は一斉にそちらを向いた。
確かに左手の方に扉があった、それも他の扉よりも少し大きめの扉が。
とりあえず6人は扉の所へ移動し、扉に対して半包囲網を作るように動いた。
他の者が所定の位置についた事を確認すると、フォウリーはばっと扉を開けて中へと飛び込もうとした。
が、扉が開いた瞬間中から二人の人間が飛び出し、逃走が無理だと見るやいきなり攻撃を仕掛けてきた。
その二人のうち、片方はとてつもなく動きが素早かった。
なんと、エルフィーネと同じくらいの身の軽さなのだ。
もっとも彼女が戦闘に加わる事はほとんど無いので、実質そいつがいちばん素早いという事になるのだ。
「なに、こいつ素早い!」
 フォウリーは武器を構えつつそう呟いた。
現にそいつはすでに襲いかかってきているのだ。
こうして、死闘が始まった。
 戦いは熾烈を極めた、まさに死闘と呼ぶにふさわしかったろう。
肉弾ではフォウリー、ソアラ、ロッキッキーが武器を振るい、後ろでエルフィーネ、ザン、ルーズが魔法による援護をかける。
ソアラの懇親の一撃を耐えられた事は彼らに取って衝撃であったが、深手を負わせた事には間違いなく、戦いは彼らの勝利で終わった。
「ようやく終わったわね。」
 動かない二つの肉隗を見て、フォウリーは肩で息をしながらそう呟いた。
「そうだな。」
 ソアラもある程度息が上がっていたものの、プレートメイルを着込んで動き回っていたフォウリーよりは幾分増しだろう。
「あとは町へと帰って報酬を貰うだけだな。」
 レイピアに着いた血を払いつつ、ロッキッキーはそう呟いた。
彼の頭の中からは、きっとミン=ミムアという少女のことなどきれいさっぱり消去されている事だろう。
「そうだね、基本が750で、船2隻で500だろ、そいで危険報酬もつけば1500も貰えるぜ。」
 ルーズも金の計算をしてうれしそうだ。
と、その時遅ればせながらと治安部隊の連中が、部屋の中へと入ってきた。
「もう戦いは終わられたのですね?」
 隊長らしき男が敬礼をしつつ、フォウリーへとそう聞いた。
「ええ、そっちは?」
「は、1隻小破しましたけれど海賊船2隻を撃沈、港も占拠しました。」
 その男はえらく畏まってそう言った。
「そう、そこに転がっているのが海賊のボスよ。確かめといて。」
 フォウリーは疲れたような口調でそう言った。
「は!」
 男は治安部隊の何人かに小声で命令を下した。
命令を受けた者は、すぐに海賊の頭領らの死体を8人で運び出していった。
おそらく捕虜に見せて本物かどうかを確認するのだろう。
「私たち、疲れたから船で休むわ。後はよろしくね。」
 フォウリーはあくびをしながらそう言った。
「はっ、畏まりました。」
 6人は治安部隊の敬意に見送られてその部屋を後にした。
そして船に転がり込むと、船底のあのだだっぴろい部屋で思い思いに休みを取っていったのである。

 2隻の船は次の日の朝、多くの押収品、何人かの捕虜を連れて出航した。
もちろんそこにあった爆薬で、海賊の館を爆破した後でだが。
出航するさい彼らにちょっとしたうれしい事件が起こった。
今回の討伐隊の長が、彼の独断で押収した海賊の金銭から彼らの手当を払ってくれたのだ。
本来ならこんな事は許されるわけはないのだが、たまたま今回基金の監査員がついてきていたので、彼の許可を得、特例として認めて貰ったのだ。
船の上で使い道がないとはいえ、やはり財布が重いという事はうれしい事である。
 船は多くの人間を乗せたまま、静かな海の上をベルダインへと向けてただひたすらに走っていた。
この後彼らに何が待ち受けているのか、それは誰も知らない‥‥。

              STORY WRITTEN BY
                     Gimlet 1992
                            1993 加筆修正

                PRESENTED BY
                   group WERE BUNNY

FIN

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