HG96:鉄管委


「竪穴式住居と水の都」
<夏>委員会センター・鉄道管理委員会フロアで、人気のない地下鉄管理局室の様子を窺う男子生徒の姿があった。
 彼の名は黒畑緑郎(くろはた・ろくろう)。計画の無期延期で人員が大幅削減された地下鉄管理局に残った、数少ない鉄道管理委員の一人である。
 そんな彼の姿を不審に思って声を掛けた人物に対し、緑郎は迂闊にも邪見に扱ってしまった。
「お前、誰に向かって物言うとんねん? ちょっとこっち来い!!」
 その人物に問答無用で連行される緑郎。
 連行された先は、施設管理局長室。
 実は、緑郎が邪見に扱った相手は、鉄道管理委員会施設管理局長の宇津井重信だったのである。
「さて、お前さんが何してたんか、改めて説明してもらおか」
「いや、あの……地下鉄をですね……」
「そんなもん、いらん!! お前、地下鉄作るのにどんだけ金が要るか、周りが迷惑か知らんやろ? これからこんこんと説明してやるわ」
 臨時講師でもある重信の個人講義を日が暮れるまで聞かされ、フラフラとした足どりで寮の自室へと帰って行った緑郎は、この講義で何か得るものがあったのだろうか?
<秋>緑郎は、地下鉄管理局唯一の所管施設である地下鉄試掘坑の警備当番で試掘坑管理事務所に詰めていた。坑口の番という安閑とした職務からあとわずかな時間で上がれるその時、上司である地下鉄管理局長・狩野時能(かのう・ときよし)が管理事務所に現れた。
「ちょっと気になって、設備のチェックをしたくてね」
 そう言って時能は、緑郎を伴って試掘坑へと足を踏み入れた。
 降りて行くに連れて、ネズミの鳴き声が聞こえてくる。それも、最初かすかだったのが、明瞭に聞こえてくる。
 そして二人が目にしたものは、ハムスターの絨毯が敷き詰められた試掘坑最底部の光景であった。
 あまりの光景に、緑郎は時能に意見を求めた。
「局長、こういう時は?」「帰って寝る!!」
 一見間抜けではあるが、騒動本番を前にして鋭気を養おうという意味の狩野の台詞に従い、緑郎は試掘坑を後にした。
<冬>委員会センター・鉄管委フロアーの地下鉄管理局室。緑郎は試掘坑の行く末に不安を抱き、局長の時能に詰め寄っていた。時能の言語明瞭意味不明な回答に緑郎が苛立っているところへ、1本の電話が入った。
「よし判った、すぐ行く」
 試掘坑の状態を確認するために委員会センターを飛び出した二人を管理事務所で出迎えたのは、留守番ともう一人、この忙しい時にわざわざ来なくてもいいようなお客だった。
 その客、宮丸桃源(みやまる・とうげん)は、自身の所属する錬金術研の部室から発掘されたという酒橋(さかはし)生徒会長時代に計画されたという学園地下鉄計画の地図を鉄管委に売りつけるべくやってきたのである。
 だが、二人に桃源の相手をしている余裕なぞなく、留守番から簡単に説明を受けた二人は、試掘坑の様子を見に走った。
「!!!!!」
 試掘坑は、水没していた。
 原因は不明だが、下水が流入してきていたのである。
「だめだ……地下鉄はもうだめだ……」
 緑郎は、うつろな目でうなされたように「だめだ」の台詞を繰り返した。一方時能は、見ようによっては肩の荷が下りたかのようにも見える放心した表情をしていた。

(宿霧:これが、HG96総集編では哀れにも割愛されてしまった、HG96・鉄管委ブランチの全貌である。上のあらすじで判る通り、夏〜秋はプレイヤー1名、冬になってようやく3名という、HG96最少プレイヤー数ブランチであった。プレイヤーがたった1人であるにも関わらず、小説の方との連携の都合で制限事項が多く、話の持って行き方に非常に苦労した事を憶えている。
 なお、学園内を騒然とさせたハム騒動の鉄管委における舞台が地下鉄試掘坑となったのは、唯一来ていたプレイヤーが地下鉄管理局所属であったというだけの理由であって、HG97の鉄管委初期情報リアを読んで頂ければ判るように、実際に鉄管委が受けた被害は甚大なものであったのである。
 また、試掘坑水没の原因は、地下経由で他所から送り込まれたハム掃討部隊が活躍した結果によるもの。リア中では明かされていないものの、他リアおよびNLの記事などで推測がついた方もおられた事だろう)