<春期>
メンバー集めに奔走する聡美。
吹奏楽部からトロンボーン奏者の谷 啓一(たに・けいいち)、九蓮みら(くれん・−)の2人、クラシック音楽研からピアニストの桜井万里(さくらい・ばんり)、屋根の上のドラマー(?)天城真面目(あまぎ・まじめ)の4人をゲットした。
<夏期>
HBCよりTV出演の依頼が来た。晴れ舞台にふさわしいネタは何か? と頭を悩ませる一同。誰かが口にした「破壊活動」という台詞から、万里が演奏するピアノを破壊するというネタが決まった。
どんなに音程が狂おうが最後の最後まで演奏し続けるというこのネタ、実際のオンエアを見たメンバーの目には単なる前衛作品で失敗作と映ったが、その前衛度が好評を博し、ついにスポンサーも付いて念願の映画制作へと乗り出して行く事となった。
<秋期>
ロケの舞台は、誰の趣味で選んだか知らないが、香港から始まった。中国返還前後の騒然たる風景の中での撮影が終わると学園に戻り、砂漠を舞台にしてのロケを経て、場面は悪徳大路を封鎖してのミュージカルシーンのロケへと移る。
「心配はいらん。何人たりとも我々の進撃を妨げる事は許されておらんのだ」
真面目が口にした、発言の根拠は不明ながらも何となく安心できる台詞を頼りに、ロケは無事終了した。が、その後に続く映画音楽のレコーディングは撮影以上に厳しく、かつ過酷なものであった。
(宿霧:「芸能ものをやってみたい」という何気ない発想から始めたこのブランチ、実はかなりの難産であった。夏期は仕事の疲れから来た眼精疲労を、秋期はとある事情で喰らった強度の精神的ダメージを、執筆に集中すべき時期に喰らってしまい、納期の問題もあって体裁だけを取り繕った非常に不本意な出来のリアを世に出さねばならなかったのである。あと、ステージ描写に対する、自身の文章力不足も思い知らされた。不本意ながらも、ここはそんな悔恨の念が残るブランチなのである)
冬「恋のナックルボール」
97年ミス&ミスター&ミセス蓬莱コンテスト発表会のアトラクションとして舞台に登場したクレイジーの面々。
「スティックであらゆるものを叩き、千切れたピアノの弦をはじき、トランペットを踏みつける。ストリートミュージック一歩手前、芸術の一触即発アクロバティックです!」
好評のうちにステージは終了した。
「では以上をもちまして『クレイジーブランチ終了祝賀会』の会場からお別れさせていただきます」
「あれ? ミスコンじゃなかったんですか?」
「えーと、でも、看板はそう書いてありますが……」
「『クレイジーブランチ、終了おめでとう!!』……?」
ステージ上の看板は、なぜか入れ替わっていた。
次にクレイジーの面々は、曲直部 転(まなべ・うたた)とストーム・榊(−・さかき)が企画したクリスマスパーティーに出演した。プロデューサとしてクレイジーをサポートしていた一之江多岐緒(いちのえ・たきお)をサポートメンバーに加えて、古今東西のクリスマスソングのオンパレードのソロステージと、カラオケ大会の生伴奏という大舞台である。
不来庵弓彦率いる吹奏楽部バンドと入れ代わりにステージに立ったクレイジーは、淡々とステージを努める。
「本日のスペシャルゲスト!! 葵ティリル!!」
サンタクロースの赤い衣装で登場した葵ティリル(あおい・−)をゲストボーカルに迎える頃、ステージは最高潮に達する。
そして絶頂を迎えると同時に、観衆は漠然とした不安を抱き始めた。
「絶対、何かオチがあるに違いない」
だが、そのオチはすぐやってきた
「大滝詠一!! 『クリスマス音頭』!!」
多岐緒が今日のオチを宣言し歌い始めると、日本人なら遺伝子レベルで刷り込まれている音頭のリズムに合わせて、観衆の一部も踊りだす。
『クリスマス音頭』が終わりしばしの休憩の後、カラオケ大会が始まる。
パーティーの主催者の一人、転が歌う『輪舞〜レボリューション』で始まったカラオケ大会は、津幡 昭(つばた・あきら)が歌う『わかれうた』を経て、マイクは学防海軍少将・葉月 淳(はづき・じゅん)の所へ回ってきた。
「学園警察局の宇佐美局長よりリクエストが届いておりまっす。『……葉月少将の『朝刊』を生で聞きたい』という事ですので、グレープの名曲『朝刊』を、葉月閣下直々にお願いしまっす!!」
テロとも思えるリクエストも初代さだ研代表だけあって軽くいなした後、マイクは下水道管理委員長・南雲恵子(なぐも・けいこ)へと渡り、『私がオバサンになっても』を歌いだした。アルコールがたっぷり回っているのに森高千里の振りを再現しようと激しく動いたせいで悪酔いしてワンコーラスで退場したが、次に夫の勝京之進が『関白失脚』を歌い出すとものすごい勢いで舞台裏から飛び出してきて、夫を羽交い締めにして強制退場させた。
「私を放ったらかしにして『関白失脚』だってぇ? い〜い度胸じゃない。文句があるなら、はっきり言いなさいよぉ」
続いて、葉月閣下が報復措置でリクエストした、公安委員会学園警察局長・宇佐美潤(うさみ・じゅん)の『あんたが大将』は、
「葉月が少将!! あやめが校長!!」
と学園有名人を織り込んで歌っていたが、ついうっかり
「香田が局長!!」
で曲を〆てしまった。
場内は水を打ったように静まり返った気まずい空気の中、最後の曲が紹介される
「えっと……残念ながら次が本日最後の曲でっす。香田公安委員長秘書の皆さんで、『結婚するって本当ですか?』でっす」
今日2度目の登場の転と成沢透子(なるさわ・とうこ)、恋ライプニッツ(れん・−)の3人で、この日のステージは締め括られた。
後日。
「……支払い出来ないってどういう事!?」
アイドル研オフィスに、聡美の怒声が轟いた。
クリスマスパーティーのギャラが所定の期日に振り込まれていないため、聡美が転に直接会って話をしたところ、各団体からの見積もりおよび請求書の提出先はもう一人の主催者・ストーム榊の所で止まっていたのである。
聡美が間に立って整理した結果、転が負債を背負い込む形で事は収まった。
「アイドル声優でデビューしてもらう事になったわ。クリスマスパーティーの時の歌を聴いたでしょ? あの娘、結構歌唱力あったでしょ? 磨けばいいタマになると思うのよ。目指せ、蓬莱の林原!! 岩男潤子!! ってね。まぁ、いくら稼いでも借金の返済に消えて行くっていうのがかわいそうだけど……」
こうして、転のいばらの道は始まったのであった。
(宿霧:まず最初に言っておきますが、サブタイトルの意味はリア本文を読んで頂ければ判ります、とだけ申し上げておきましょう。さて、このリア、最初で最後の他流試合でした。ミスコン部分の大半は、今回の総集編作成の相方でもある波島マスターの筆によるものです。特にステージ描写は、その前の秋期リアで挫折した部分でもあるので、波島マスターの才気に感謝する次第です。後半のクリスマスパーティに関しては、私が本リアを完成させた後で草野 薫マスターがリアに組み込んだのですが、後で草野マスターの方で追加したコメントが傑作でした。あと、HG97終了後のイベントで説明しましたが、曲直部 転ちゃんが負債を背負い込む方向で話を決めたのは草野マスターです。つまるところ、草野は悪人だったのです)