HG97:桑富士

<初期情報>
 桑富士芳軒(くわふじ・ほうけん)が記憶喪失の治療に病院で診察を受けると、すでに遭う魔が時も過ぎ、深い青が世界を包み始めていた。そこで彼は地図上での最短距離、つまり笛野の森を突っ切ろうと考えたわけだが、土地勘のない彼はあっと言う間に現在地を見失った。最初は当人もそれほど事態を深刻には受けとめていなかったが、一晩過ごそうと腹を決めたところで、謎の妖しげな光に遭遇する。桑富士は霊能師の卵でもあり、そんな怪現象など普段は恐がるものではないが、その光は彼がいままでに感じたことのない、圧倒的な「悲しみ」を帯びていた。
 翌日桑富士の話を聞いた棟十紋菊太(とうじゅうもん・きくた)がその光―棟十紋はその光を阿松の巫女明成昭の恋人である治平和と読んだ―実際その通りだったのだが―を封印に向かうが、光の力は予想以上に強く、棟十紋は返り討ちに遭う。
 その様子を犬につけた隠しカメラで盗撮する女生徒もいるが、その正体はまだ明らかではない。
 一方明成昭(あけなり・あき)は東洋神秘学研に保護されていた。彼女にとって、まさに運命を決める事件が起こっていたが、それとは知らず、のんきに庭掃除をできる、一時の穏やかな日々。
 そして、再び事態は動き出す。いや、常に動いていたのだ。それが、見えるようになっただけだ。

(波島:初期断片でPCがいないから(雅さんは別)、描写とかに凝ってみたんだけど……いつもと変わらないか。まあそれはそれとして。
 いつも思うけれど、引きが下手だなぁ。ここで出した伏線、後でほとんど活かせてない。いつかあっと驚く伏線を張れるようになりたいのだけれど。謎の少女こと狩流沙織も、あんな素敵なイラストまでつけてもらっちゃって、もっと活躍っちゅうかシナリオの根幹に関わりたかったんだけど、泣かず飛ばずだぁね。
 

<春期>
 97年が明けてもなお、戦い疲れた桑富士芳軒は東洋神秘学研で眠り続けていたが、同部員の紫苑(スィー・アン)の看護により歩けるほどに回復した。
 それから数カ月して桑富士が街をぶらぶらしていたところ、天雷修羅(あまづち・しゅら)にぼこぼこにされるが、そこに居合わせた天祥寺にこりん(てんしょうじ・―)と夏目狐竜(なつめ・こりゅう)に引き取られていく。二人は桑富士に96年にあったことと現状を説明し、笛野の森に向かうが、謎の少女に桑富士を連れ去られる。
 「笛野の森に人切り幽霊」との噂が立ち―桑富士もそれに遭遇し―加藤美加保(かとう・みかほ)と秀真誠(ほつま・まこと)、それに明成昭の三人で笛野の森の探索を行った。おそらく幽霊の正体であろうものを見つけはしたが、それは『光』と呼ぶにはあまりにおぞましいゾンビであった。昭はそのゾンビを「和」と読んだ。かつての恋人の名を。ゾンビは昭を求めながらも、昭ではなく、誠が昭の姿を模して作った霊力増幅器を抱き抱え、そのまま崩れた。
 一方別口で笛野の森を探っていた緒上綸(おがみ・りん)と趙薇華(ちょう・まいか)は、桑富士と見たこともない少女―にこりんと狐竜から桑富士を連れ去った少女―狩流沙織(かりゅう・さおり)―が話しているのを発見する。ところが桑富士の口調は普段と異なっていた。さらに聞くと、桑富士はその少女により、治平和の霊を憑依させられていた。その和が言うには、美加保たちが出会ったゾンビは、和の『暗』の部分を具現化したものであるという。会話が終わり、桑富士から離れていく和を綸と薇華は追おうとしたが、それはかなわなかった。
 大勢の注意が笛野の森と桑富士に向かう中、アレクセイ都築(―・つづき)は羽知那村に向かう。地元の住人らしき娘に治平の生前を知る老婆を紹介される。アレクセイは老婆から五十年前の出来事―阿松岳の噴火を防ぐために行われた呪術。そのためによばれた陰陽術師。巫女という名の生け贄に選ばれた明成昭―を聞く。だが、この老婆を紹介した娘が、のちに重要な役を演ずることは、まだ誰も知らなかった。

(波島:前年の続きということもあって、わりと各人がまとまって、かつ自由に動いていた。
 全部で四回しかないのだから、沙織の正体とかとっととあかさなきゃなーと思っていたのに、やっぱりさっぱりわからない。キャラにもっと愛をもたなきゃな、と反省。
 それにしても羽知那村の少女はまさかあんなことになるとは思ってもいなかった。端役NPCは多い方がいいことを実感。
 

<夏期>
 緒上綸は前を歩いていた少女の落とし物を拾い上げる。天野○孝タッチのそれは、前年彼女たちをさんざん悩ませたタロットカード『塔』であった。そこで少女を呼び止め、話を聞くことにすると、この少女―狩流沙織がまた喋る喋る。が、その中で有益な情報といえば、そのカードがなくしてもすぐに彼女の元へ帰ってくるということだけで、あとはひたすら世間話だけを続けていた。少女はそのあとも加藤美加保とぶつかって変身を誘発し(美加保はなんと魔法少女『プリティーミカ』に変身できるのだ!)、火太刀・A・乾(ひたち・アルバート・すすむ)のナンパをかわしたりする。ナンパに失敗したものの、沙織も『塔』も諦めきれない火太刀は後日沙織を尾行するが、抜け道のまったくない袋小路で見失う。
 沙織は「超常心理学研」の減らされた予算レベルを元に戻そうと企む男のために働いていた。男は沙織をただの諜報員として使役しているというよりは、彼自身がそれを実行できず、さらに他に頼むべき相手もいないことから、やむなく沙織に依頼しているような雰囲気でもあった。プリティーミカとピクシィーニコ(天祥寺にこりんの変身後の名前)の決闘に出くわしてしまい、追い回されたことを聞き、沙織に無理はしないように言う。しかし沙織は自分の意志でこの一件から手を引かないと宣言する。
 桑富士は紫苑との会話の中で阿松岳の封印について語る。阿松を封印し、沈めることができるのは明成昭か、あるいは昭に良く似た精神を持つ者だけ、と。実際それを裏付けるように、秀真誠たちの『阿松ダイビングチーム(仮称)』が阿松の火口に潜り、阿松の地霊と対話をするが、そこで牧野雅が聞いた言葉は、表現方法こそ多少の相異があったが、まさしく桑富士の言葉と一致していた。
 天雷修羅は棟十紋に状況を聞くが、棟十紋はかたくなに協力を拒む。
 アレクセイ都築は羽知那村の謎の娘と対話し、娘が「何者でもない意思」であることを知る。
 明成昭は精神的に立ち直っているように見える。実際はいかなるものか計り知れないが。
 事態は平行線に、しかしある一つの方向へ進んでいた。

(波島:いろいろと元ネタを多用した回だった。雅さんを助けに来たときの保奈美の「はろはろー」は「EVE-Burst Error」のまりなだし、昭ちゃんのレレレのお姉さんは「サディスティック・19」だし。わかったところでなんと言うこともないけれど、やっぱりあとで見ると結構むず痒いものだ。
 昭の生まれ変わりが桑富士で、治平の生まれ変わりが棟十紋だという設定があったのだけれど、前者はそれなりに役立っても、後者は全然役に立たなかったね。まあこんなもんかなぁと一つ大人になる。
 ちなみになぜ天野○孝が出てくるかというと、当時FCで資料用に購入したタロットカードのイラストが天野さんだったからである。かっちょええですよ。
 

<秋期>
 昭が牧野雅やアレクセイ都築と街に出たり、桑富士が紫苑とデートしたりなど、一見穏やかに過ぎる日々が、ある時を境に一変する。
 明成昭が五十年前の記憶、治平和との約束を思い出す。それに呼応するかのように、桑富士も本来の記憶、昭の生まれ変わりとしての自分を取り戻す。複雑に絡み合う感情が桑富士を暴挙とも思える行動に出させる。桑富士はにこりんからかつて彼が彼女に与えた手袋を盗み出し、その力を使いミニオペラ座を破壊する。ミニオペラ座が抑えていた地脈の分流から現在阿松に潜んでいる悪の昭を抜き出し、代わりに同じ精神を持つ彼が阿松に沈むというのだ。昭と治平を成仏させて。
 そして狩流沙織に憑いた『塔』も焦りを見せる。沙織を操り、ミニオペラ座を守ろうとさせる。しかし間に合わず、崩れゆく中、火太刀が沙織を救う。火太刀はそのまま沙織の主であり恋人である男の元へ向かい、沙織を危険な目に遭わせたことについて糾弾するが、その男はかつて錬金術研での召喚実験に失敗し、脚を失っていた。その後彼を拾い救ってくれた超常心理学研にせめてもの恩返しをすることが彼の望みであった。その男は自分が余命幾ばくこともないことを告げ、火太刀に沙織を託す。
 だが生徒たちは諦めない。昭と治平を一緒に阿松に沈めることで、その孤独をなくす計画を立てる。あるいは、羽知那村で出会った『何者でないもの』を利用することもできるかもしれない。これらはあながち分の悪い賭ではないことを聞いた昭は桑富士を止めるために学園中を探し回るが、見つからない。お互いがお互いを想うばかりに、歯車は空回りしていく。
 物語の終焉は、すぐそこまで来ていた。

(波島:96から考えても、ようやく話にまとまりが出てきた。抱えてきた秘密もほとんど放出した。
 沙織の元恋人の設定もかなり辛いかなーとか思いつつも、このように決定した。何かを恨む気持ちといった『負』の感情をえがくのってむずかしいっす。
 

<冬期>
 東洋神秘学研部長、加藤保奈美はミスコン会場で、会場に集まった人間たちの精神力を使って、『夢の世界』への通り道を作る、という計画を立てる。アレクセイ都築、秀真誠の力で、緒上綸、趙薇華、有馬記念が『夢の世界』へ飛ぶ。そこで緒上たちは花火のようなものを打ち上げる人影を見る。その人たちの後を追おうとしたところで、明成昭が現れ、三人を別の場所へ導く。そこにはイフリートのごとき炎の化身が待ち受けていたが、昭はそれを『もう一人の自分』という。悲しいほどに憎しみを放出するそれを断ち切ると、三人の記憶は一時途切れた。
 たそペンが乱入して半パニック状態の会場から狩流沙織が飛び出し、桑富士がそれに続く。続いて紫苑、獅電武が結城一のエーテルカーで二人を追って阿松へ向かう。だが紫苑と獅電と、途中合流した火太刀がが阿松の洞窟にたどり着いたときには、すでに桑富士と天雷修羅の死闘が繰り広げられていた。紫苑が桑富士をかばおうとするが、『塔』に取り憑かれた沙織が現れ、桑富士が沙織よりも先に火口へ向かおうとすると、今度は桑富士の前に立ちふさがる。
「忘れちまえば、楽になるんだよぉ!」
 桑富士は叫んだ。約束や記憶に縛られて苦しむくらいなら、全て忘れてしまえ、と。しかし、ようやく桑富士を捜し当てた昭は、それを否定する。にもかかわらず、桑富士は自分の意志を曲げない。立ちふさがる紫苑と火太刀をはじき飛ばし、洞窟へ入っていった沙織に式を打つ。式が沙織を食い止めている間に、桑富士はさらに奥へ―火口へ向かう。昭はその沙織を抱きしめ、『塔』を支配していた怨念を解放する。一方桑富士は、火口へ向かう途中、牧野雅の武術で気絶させられる。その隙に棟十紋菊太が『なんでもないもの』を使って阿松を封印する。
 桑富士と火太刀と紫苑はなかなか意識が戻らず、そのまま入院する。だが桑富士はその晩、紫苑の記憶を消し、姿をくらませる。紫苑も翌日には回復し、桑富士に関する記憶がないだけで、あとは全て今まで通りの生活に戻った。
 数週間ののちも桑富士は依然行方知れず。棟十紋は修行と称して本土へ帰った。昭はそのまま東洋神秘学研に居着き『看板幽霊』として評判である。治平和はのんびりと笛野の森を護っている。かくして二年越しの戦いは幕を下ろした。
(波島:いくらかつじつまの合わない点はあるにしても、少なくとも自分ではかなり納得の行く終わり方ができた。初めて夢ブランチともまともにリンクしたし。
 96の聖ブランチもそうだけど、かなり僕の恋愛観むき出しで、恥ずかしいと言うより、考え方を押しつけて申し訳ない感じ。
 何はともあれとにかくおしまい。桑富士君は学園祭にちょびっと出てくるけれど、それもそれだけ。今ジュピトリスの話を構想中なのだけれど、あるいはそれに出てくるかも知れない、程度。どっとはらい。