HG97:銃士隊

<春期>
「聖剣一郎、銃士隊隊長辞職を決意!?」
 とまあ、そんなニュースが学園に流れた。情報の出所は定かではないが、聖その人が引退を考えていたことは確かだ。その際に隊長職を継ぐのは現副隊長の星剣だろうと、考えていなかったこともない。が、銃士隊員の中には、それを望まない者が数多くいた。聖剣一郎以外について行く気はない、と。
 例えば「黒薔薇の銃士」ブラックフォア・ローゼス(通称『黒ロゼ』)のメンバーたち。えみ=グーテ=ラオネは引退を思い止めるよう、演技さえもまじえて進言した。もっとも、それはただの照れ隠しだったのかも知れない。とはいいつつも、その一方で星剣をけしかけてもいる。近之墨絵留は聖の恋人である渡部のなみにあれこれと吹き込もうとしたが、同じく黒ロゼ隊員のシルヴィ=ラヴィエンローズに追い払われた。シルヴィは黒ロゼの隊員であるが、黒ロゼの考え方よりも、聖の考え方に従うつもりだった。
 そんな折、学園に突如として現れた「神聖ベントラ公国」(&「ベントラ帝国」)への対処に、銃士隊は他の治安団体と共に追われていくのである。

(波島:96年に引き続き聖剣一郎関連。が、内容は一風変わって戦闘&因縁話、と思ったらやっぱり恋愛モノでした。
 すでに設定のあるところを使うのは僕にとっては珍しいことで、いつもは勝手にあれこれでっち上げていたのに、ここではそれができずに、結構辛かったりなんかしたり。でも、聖隊長にはそれなりに愛着もあったし、ベントラのあたりは高橋マスターがだいたい設定作ってくれていたので、楽ではありましたね。これがまた。
 

<夏〜秋期>
 ベントラ公国側が提示してきた戦闘方法は、まるで何かのアトラクションのごときものだった。挑戦者が次々と脱落していく中、最後に残ったのはシルヴィと、変装していた聖剣一郎であった。最後の勝負方法は、甲冑騎士アーサー・M・ロインとの一騎打ちであった。その戦闘の最中、ロインと聖の過去が明らかになる。結局勝負は引き分け、聖とシルヴィは城から退いた。
 秋には、突如ベントラ城が崩壊した。もっともそれは外見的なもので、いまだ三日月ヶ丘には数多くの貧窮生徒(とお祭り好きな生徒)が残っていたし、着々と再生していた。
 今度の勝負は単純明快、砦を越えればよいというものであった。それを少々イレギュラーな方法で一番に通り抜けた黒ロゼのメンバーたちはロインに問うた。が、ロインは、ベントラ公爵夫人はアンネリ嬢ではないし、自分は困窮生徒たちを扇動した覚えもない、と答えるだけだった。そこに聖が現れるも、一言二言かわすのみで、すぐに帰ってしまった。
 その間にも次々と聖とロインの確執が明らかにされていく。

(波島:このブランチはかなりNPC主導のシナリオになっている。「聖剣一郎」というキャラが強すぎるし、何よりプレイヤーさん達もそれを望んでいるだろうと勝手な思いこみだったけれど、実際はどんなもんだろ?
 聖の過去はここで初めて明かされている、はずです。だって高橋マスターが次々作ってくれたんですもの。それに僕の実体験を交えた脚色が加わって……まあこんな風になっているのですよ。
 

<冬期>
 ベントラ城にて行われたトーナメント大会。それを勝ち抜いた響奈留との決闘で、ロインは喉を突かれ絶命した、と、報じられた。信じたくない、とはいいつつも、度重なる報道と、何よりその場に居合わせた者の証言で、いつしかそれは真実となりつつあった。
 そんなある日の夜、土砂降りの中、近之墨絵留が銃士隊の詰め所で番をしていると、ずぶぬれの女性が駆け込んできた。女性は銀髪……ベントラ公爵夫人であった。絵留は夫人をシルヴィの部屋で介抱した。夫人が気がついたところで、絵留が言うところの「運命の鎖」が反応する。三人は三日月ヶ丘へ急いだ。
 今度こそ本当の瓦礫の山となった三日月ヶ丘で、聖とロインの最後の決闘が行われた。かつて二人の間にいた女性も、ベントラも、学園も全て二人の視界から消えた。聖は甲冑騎士のソードを構え、ロインは夫人に手渡されたソードを、銃士のレイピア風に構える。十キロを超える重量のソードを片手で持って突き合う。およそ正気の沙汰とは思えないが、二人がそれをする分には、まったく遜色のない戦いぶりだった。最後は勝負を賭けた聖の牙突で、ロインの右腕が切り飛ばされた。ロインはそのままよろよろと後じさり、大雨で増水したベントラ城の堀に、夫人と共に落ちていった。全ては、終わったのだ。
 その場に駆けつけた香田忍率いる公安委員に聖は逮捕されたが、数日後、極秘裏に釈放された。聖はそれについて何も語ろうとはしなかったし、しばらくは自室にこもりきりであった。だが、銃士隊のクリスマスパーティーに登場し、その健在ぶりをアピールした。この男いる限り、銃士隊もまた存在し続けるだろう。

(波島:結構難産だった今回。96から数えて唯一遅刻してしまいました、ごめんなさい。
 NPC主導ってことで、設定やら描写やらにかなりこだわってみました。PC数も少なかったし、書いていてすごく楽しかったです。そんなこって、この原稿も、ほとんど聖の行動しかまとめていません。
 聖と「初恋の君」との話はたぶんに実体験が混ざっておりまして、うききーと身悶えしながら書いてました。恋愛譚はこれくらいしか持ってないんですけどね。