[[AMBER]]
―前編―
―そのとき彼の目の前に映っていたのは
薄暗く、緑色に染まった部屋と、倒れている2匹の怪物。
そして1人の人間だけだった―
*
*
いつもどおりの朝が始まる。
朝は兄ちゃんに起こしてもらって
兄ちゃんの作った朝ご飯を食べて
ひとりでのろのろ学校に登校して
勉強して
馬鹿にされたり
笑ったり・・・
毎日そんな感じ。
そんな毎日が僕は好きだった。
僕は他の子と違うって先生は言うけれど、
何がどう違うのか、全然わからない。
皆他の子と同じように接してくれてる。
ああ、あかねとちはるは別。
悪い意味でね。
それから、ふぶきとはるかも別。
こっちは良い意味で。
そんなふぶきとはるかが僕は好き。
「おはようっ、くうは!」
いつも明るいふぶき。
「よう、元気か?脳みそはまだ平気か?」
いつも僕の脳みそを心配するはるか。
つまり僕はバカってことか?
「おはよう、ふぶき、はるか。」
まあ、そんな毎日が僕は好き。
で、ある日のあかねの一言から物語は始まるのだ。
*
「昨日の29話、見た?」
ふぶきが僕ら2人に訊ねる。
「うん、見たよー。」
「ああ、怪物になっちゃう奴だろ?」
「そうそう、びっくりだったよねー。まさか怪物になっちゃうなんて!」
木曜日には僕らの大好きなアニメが放送されるので毎週金曜日はアニメの話だった。
次回で最終回だから、再来週からはこの話も出来なくなっちゃうけど。
「もしも俺らが怪物になったら、お前どうする?」
「あたしは、もし2人が怪物になっても、友達よ!!」
ふぶきは両手を腰に当てて当たり前のように言った。
「えー、僕は、ヤダなぁ。」
僕は言った。これは本音。嘘はつくなって、兄ちゃんに言われてるから。
「ひどーい、なんでよう。」
ふぶきは口を尖らせた。
「でも、今のままの2人は大好きだよ。」
僕はにこっと笑って、2人に言った。
「おい、くうは。」
いつもどおりに休み時間で僕達3人が話していると、あかねとちはるがやってきた。
女の子なのになんで男みたいな喋り方かは永遠の謎だ。
「なあに?」
僕はにこにこしながら返事をした。
「この間、海岸で洞窟を見つけたんだ。」
「もォあからさまにお宝が隠してあるっぽい洞窟だぜェ。」
あかねとちはるは自慢気に言う。
「へえ〜っ。」
僕達3人は感嘆の声をあげた。
「そこに、お前行って見ろ。」
「えっ。僕が?」
まあ、あかねが僕を危険な場所に行かせようとするのは良くあることだった。
で、僕はいつも引き受けていた。頼まれ事は快く引き受けろって、兄ちゃんに言われてるから。
もちろん今回も引き受けた。
「うん、行ってみるー。明日は学校休みだし、皆で行こう!」
「・・・。」
まあこれも、いつものこと。
*
次の日、僕らは約束どおり海岸へ行った。
「洞窟って、どこー?」
弾んだ声でふぶきは訊ねた。
「んー、わかんない。」
僕が言うと、はるかはかくっと何かにつまづいた。
「わかんねえのかよ!それじゃ行けねえじゃんかよ!」
「うーー。」
はるかは怒りっぽい。最近はもう慣れてきたけど。
困ったもんだ。
「まあ、適当に歩いてれば見つかるでしょっ!!」
「そーだね!」
「おいおい、そんなんでいいのかよ・・。」
とりあえず適当に歩いてみることに。
こそこそと、僕らの跡をつけているあかねとちはるには全く気付かずに。。
*
「おい、洞窟の場所教えてなかったじゃないか!」
あかねが小声でちはるに言う。
「教え忘れたんはあかねじゃンかー。」
ちはるは口を尖らせた。
「そんなの関係無い!ちはる、看板でも立てて来い!!」
「えェー、仕方ないなー。」
*
「あっ、くうは!はるか!看板があるよー。」
「おおっ!さすがふぶきー。その看板の通り行けばいいんだねっ。」
「信じていいのかー?そんな怪しい看板・・・。」
言いながらも看板の通り僕らは行った。
「ほらっ、着いた!」
ふぶきは洞窟の大きな入り口を見上げて言った。
「お宝あるのかなぁ〜。」
僕は言いながら、証拠の写真を1枚パシャッと撮った。
写真を撮って置かないと、あかねは信じてくれない。
この間、カメラを無くしてしまって2回行くはめになって、正直疲れた。
それ以来カメラはひもで腰にくくってある。
*
「そいえば、なんで今回は後付けてんの?いつもは付けんのに。」
ちはるはあかねに訊ねた。いつも、くうはがちゃんと証拠写真を撮ってくるので、付ける必要はないのだ。
「あの洞窟、出るらしいんだ。」
「出るゥ?」
ちはるはすっとんきょうな声をあげた。
「幽霊だよ、幽霊!それを見て驚いて逃げてくる様をこっちは写真に撮るのさ。」
あかねは自慢顔で言った。ちはるは、「性格悪ゥ〜」と言わんばかりの表情であかねを見上げていた。
*
「じゃ、行こうか!」
僕が言うとふぶきはスキップしながら洞窟の中に入っていった。
僕らもその後についていった。
洞窟の中には明かりは1つもなく、奥へ進んで外の光が入らなくなると、ほとんど何も見えない状態だった。
「暗いね・・。」
「懐中電灯ないのか?」
はるかに言われ僕はカバンの中に手を突っ込んだ。
「ああ、忘れちゃった。」
「忘れちゃったじゃないだろ?こんなに暗いんじゃ歩けねーじゃんかよ!」
「うー。あ、クッキー食べる?」
「いらないよ!」
また怒らせてしまった。
こんなに怒らなくってもいいのに。寿命が縮んじゃうよ。
「マッチならあるよ、はるか。」
僕らよりちょっと奥に行っていたふぶきがマッチに火をつけて言った。
これで少しは明るくなった。
でも、この微妙な薄暗さで、不気味さが増していった。
「なんか、不気味。おばけとか出そうっ。」
ふぶきがぽつりと言うと、はるかはビクっと反応した。
「あれ?なんか向こう明るくない?」
僕は言いながら、また写真を1枚撮った。
「おばけかなあっ?」
ふぶきはどんどん走っていってしまった。
マッチを持って、だ。
「は、はやくいこうぜ??くうは・・。」
はるかの声は震えていた。
カッコいいくせに、おばけは恐いらしい。
「うん、そうだねー。」
僕はそう言ってはるかについていった。
*
「おい、おい、あかね。ホントにおばけでたっぽいよォ〜。」
「そーみたいだな。」
言いながら、あかねはカメラを構えた。
「だけどさァ、くうはとふぶきは全然平気っぽいよ?
ビビッてンのははるかだけだよ??」
「ま、本物がでりゃあ誰だって驚くさ。」
「あかね、おばけ信じてるンだ?」
「べ、べつにそーゆーわけじゃねえよ!」
どもってやンの、と、ちはるは心の中で思った。
*
「ふぶき!何かあった?」
明るいほうへかけつけると、ふぶきはただ立っていた。
「この人、おばけかなあ?」
前には、長い白銀の髪の美しい女性が立っていた。
「おばけだ!おばけが出たー!!」
はるかは腰を抜かしてしまった。
僕はその場に立ち竦んでしまった。
何故か、その女性が恐くてたまらなかったのだ。
でも、どこか安心できる、不思議な気分だった。
―あなたのことをずっと・・・待っていました―
声は、くうはの頭にのみ響いた―…。
後編に続く。
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