[[AMBER]]

―後編―










いつもどおりの朝だった。

朝は目覚ましで起きて、

父さんも母さんも仕事でバタバタして

はるかとのんびり学校に登校して

勉強して

褒められたり

怒られたり・・・


毎日そんな感じだった。

そんな毎日を・・・ただなんとなく過ごしていた。






「ねえ、どうしたの?」

ただ立ち尽くすくうはに私は訊ねた。

「声・・声が聞こえる・・。」

そう言いながらくうはは、白銀の髪の女性の方へ歩き出した。

くうはを抱き寄せると、女性は口を開いた。

「この子は私たちの大切な子なんです・・。」

ずっと待っていたのよと、女性はくうはを優しく撫でた。



「なあ、あかね。あれ、オバケ?」

ちはるはあかねに訊ねた。

「あたしに聞くな!もうちょっと近くへ行ってみろ!」

「まァたオレだけェー?」

ちはるはかがんで音を立てないようにコソコソとくうは達に近づいていった。

しかしどんなに近づいても、おばけのようなものはただ光っているだけだった。

「全然わかんねェ。やっぱオバケかなァ?」

そう言うと、あかねもくうは達に近づこうとかがんで歩き出した。

が、あかねは落ちていた小石につまづき、転んでしまった。

するとあかねが背負っていた荷物はゴロゴロと音を立てて転がった。

その音を聞いて、くうはは我に返った。

「あっ、あかねだー。」

くうはが言って、私もそっちを見た。

はるかはオバケに驚いて気絶していて、それどころじゃない。

「なんで、あかねがいるの?ちょっと、はるか寝てるんじゃないわよ!」

私は倒れてるはるかをたたき起こした。

「わ、何すんだよっ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないのよ!」

そんなこと言ってる場合じゃない。

「いや、まあ、それはさ・・」

ちはるは頭をポリポリかきながら、腰を低くしてこっちへ歩いてきた。

でもあかねの事情なんか聞いてる場合じゃない。

「ねえ、くうは、くうはは、この人知ってるの?」

私はくうはに訊ねた。

「あァ、オレらの話はいいンだ。」

ちはるはへへっと笑って言った。

「僕は・・なんだろう・・・知らないけど・・安心・・する?」

くうはもよくわかっていないみたい。

くうはが言うと、女性はくうはの頭を優しく撫でた。

「コハク・・この子達は誰なの?」

女性は、くうはの事をコハクと呼んでいるみたいだ。

「私たちは、くうはの友達よ!ねえ、あなたは一体誰なの?」

私がそういうと、あかねとちはるは激しく首を振った。

女性は、私たちの顔をひとりずつ見て、口を開いた。

「私はスイ。

 そう、コハクのお友達・・人間の子なのね。

 でも、今ここでお別れよ。この子にはやらなくてはならない事があるの。

 あなた達とは将来、敵になる。だから今のうちに忘れた方がいいわ。」

スイは言った。

そして、くうはに話し掛けるように続けた。

「コハクの両親は人間に殺されたのよ。

 そしてその両親は私達にとっても、大事な方だった。

 だから私たちは人間に復讐するの。」

私にはまったく意味がわからなかったけど、

くうはは何かを思い出したのか、表情が変わった。

「オイオイ、どういうことだよォ、くうは。」

ちはるは頭をポリポリかきながら、くうはに訊ねた。

「くうは・・。」

私とはるかは、くうはの顔を覗き込んだ。

「ぼく・・覚えてる・・・緑色の血と・・父さん、母さん・・。」

くうはは震えていた。

「くうは、大丈夫・・?」

でも、くうはにはその声は聞こえてなかったようだった。

「ウァァァ!!」

くうはが叫んだ。

突然、くうはの青く澄んだ瞳が赤く光り、牙をむき、毛を逆立て、それはまるでアニメで見た怪物だった。

「フーッ!」

くうはが、私に襲いかかって来る!

「ふぶき!危ない!!」

とっさにはるかが私を抱えて何とか避けきったが、

はるかの腕にはは爪で引っ掻いた後がついていて、そこから細く血が流れていた。

「はるか、大丈夫!?」

「ああ、大丈夫・・。けど・・なんてこった・・。」

くうはが、本当に怪物になってしまった。

さっきまでにこにこしてたくうはが。

「おい、ちはる、あれ、本当にくうはなのか?」

「わかんねェよォ・・。」

あかねとちはるも、どうしていいかわからなくてパニックになっている。

はるかが何かを叫んだ。でも、それもくうはの耳には届いてなかった。

私の耳にも届かなかった。

あの優しい穏やかなくうはが、今この恐ろしい怪物になっている。

怖くて怖くて仕方なくて、ただその場に立ち竦んでいた。

「ふぶき!大丈夫かよォ?」

ちはるの声に、私は我に帰った。

「どうした、ふぶき!?はやく、くうはを元に戻す方法を考えないと・・。」

はるかが私の顔を覗き込んで言った。

「怖い・・怖いよう・・!」

私は恐怖のあまり、そこから逃げ出そうとした。

が、すぐにはるかに腕をつかまれ、引き戻された。

「ふぶき!」

もう涙も出ないくらい、怖くてたまらなかった。

「ねえ、もう、逃げよう?

 くうはは、い、いなかったことに、しよう?」

私はなんとかこれだけの言葉を、本音を吐いた。

「そうよ・・それがあなたたちの唯一の選択肢なのよ・・。」

スイは微笑んだ。

――もしも俺らが怪物になったら、お前どうする?――

私は、あの時の会話を思い出した。

――あたしは、もし2人が怪物になっても、友達よ!!――

「なあ、ふぶき、もしも俺らが怪物になったとしても友達だって言ってくれただろ!?」

はるかは私に怒鳴った。

私は、怪物になってしまったくうはを恐る恐る見た。

「ウウゥ・・。」

くうはがうなる。自然と私の目からは涙がこぼれた。

「う・・だって・・だって、あんなの、くうはじゃないよ!」

「ふぶき・・・。」

――えー、僕は、ヤダなぁ――

くうは・・・くうはは・・。

――ひどーい、なんでよう――



――でも――


「ふん・・怖くて帰りたいならもう帰ればいいだろ!ムカツク奴だな。」

あかねが怒鳴った。

「まあまあ、あかねさァん、難しいところなンだよ。」

と、ちはるがなだめる。

「くうは・・・。」

――今のままの2人は大好きだよ――

今のくうはは、怖いけど、そうだ、今までのくうはは、

いつもにこにこしてて、天然で、優しい子だった。

そんなくうはが大好きだったんだ・・。

「ごめんね、ごめんね、くうは!!」

私は、くうはに力いっぱい抱きついた。

涙をぼろぼろこぼしながら。

すると、くうはの目からも涙がこぼれ、元の姿に戻った。

「ぐえ・・ふぶき、力入れすぎだよ・・。」

ゲホゲホとくうははせきをした。

「く・・くうは・・。」

ふぅ〜と、くうはは溜め息をついて、スイの方へ向かっていった。

「コハク・・。」

スイはくうはの顔に手を伸ばした。

「・・・僕はここには居られないみたいだね。」

くうはは、私たちのほうを向いて、悲しげな笑顔を見せた。

多分、私とはるかは、ただ悲しい顔をしていたと思う。

何で?これからも一緒にいようよ、って言いたかったけど、

くうはにとってどっちのほうがためになるかといったら、きっと・・・。

ちはるは、きょろきょろと私たちの顔を見ている。

「何で?これからも一緒にいたいンだろ?」

私が考えていた事とまるでおんなじことを、ちはるは言った。

でも、くうはが同じことを考えていたかはわからない。

だから、私は、多分はるかも、口に出せなかったのだ。

「お前ら、最後になるかもしれないと思ったら、

 本当の気持ちをちゃんと伝えなきゃダメじゃンかァ。

 なァ!はるか、ふぶき。」

ちはるはトンと、私たちの肩を叩いた。

なんで、ちはるなんかが私たちの気持ちがわかって、

私はくうはの気持ちをわかってあげられないんだろう。

「くうは・・あたし、くうはに戻ってきて欲しい・・。・・でも、無理だよね・・。」

精一杯素直な気持ちを言った。

涙が頬をゆっくりと伝っていくのが感じられた。

「くうはは絶対嘘はつかない奴だと思ってたんだけどな。」

あかねは、溜め息をついて言った。

「コハク・・行きましょう・・。」

スイはくうはの背中に手をあて、奥に歩き出そうとした。

しかし、くうははそれに逆らった。

「あのう、スイ、ごめん、人間の仲間入りしてもいいかなあ・・。」

くうはは、頭をポリポリかきながら、苦笑いして言った。

「・・・やっぱり・・・。」

スイは、優しく母のように微笑んだ。

そして、黙ってくうはの背中を、私たちのほうへ押した。

「ありがとう。」

くうははそう言って、私たちのほうへ駆け寄って来た。

「くうは!」

私たち3人はギュッと抱き合った。

「はぁー・・なんなんだよこいつら・・。」

いいながら、あかねは少し微笑んだ。

「コハク・・いや、くうはさん。」

スイが言って、私たちはいっせいにスイの方を向いた。

「私たちとはいずれ、敵になってしまうかもしれない。

 それでも、いいのね・・?」

スイがそう言うと、ちはるがとっさに前に出てきた。

「へっへ、まあそンときゃなるようになるさ☆」

ちはるはとびきりの笑顔でそう言った。

なぜか、私は彼女が敵になるなんてことがありえないと思った。

多分、ちはるも、皆もそう思ってたんだと思う。

だから、ちはるのその言葉に皆うなずいた。

「そうね・・・敵になるかもしれないけれど、皆さん、お幸せに。」

スイは微笑んで言った。きっと、スイ自身も敵になる事はないと思ったんだろう。

「さよなら。」

私たちはスイに別れを告げ、洞窟を後にした。

もうすっかり夜になっていた。

波の音を聞きながら、私たちはそれぞれ自分の家に帰った。


――・・それから、一週間が経った・・――


「昨日の最終回、見た?」

ふぶきが僕ら4人に訊ねる。

「うん、見た見た!」

僕らは頭を上下に振った。


今日も僕らは、朝からアニメの話で盛り上がっていた。

あの日から、僕ら5人は朝から家に帰るまで、

つまらない事から楽しい事までずっとおしゃべりをしてる。

はるかは相変わらず怒りっぽいし、

ふぶきは明るくて元気いっぱいなままだし、

ちはるはやっぱり変な子だし、

あかねはいまだに男の子みたいだし、

僕もまだ脳みそが皆より足りないけど、

そんな皆が、そんな毎日が、僕は大好きだ。


おしまい。




[[後書き]]
あーもう、しらねえよっ!(お
勢いです、全部。とりあえず、初の完結ーー。ということでね。(前編後編で終わっちゃう短い物だけど)でホントに完結したことなかったもんね。すいません。
ちはるがふぶきに惚れてるってことを表現しきれなかったのが心残り。ていうか誰も気付きませんよねぇ・・。
最後に、スイに向かって「あンたも綺麗だけどふぶきにゃァ勝てないね。」って言わせたかったんだけど、だけど・・!!
うーん難しいね。(何)文もまだまだ下手くそだし、話も薄いし、短いし・・でもまあ頑張ったんですよーー。
ていうかキャラの名前をひらがなにしたのは失敗でしたね。読み難いですよね・・(滝汗

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