“守屋クインテット東北ツアー報告1日目” 11/6函館の巻(98.11.24)

 

 この歳になると、そう滅多に“初体験”はないものですが、わたしは、この日1日で少なくともふたつの初体験をしました。
 

 ひとつは国内線初搭乗。わたしは親戚が全て都内にいるため、正月やお盆の帰省という経験がありません。また、ミュージシャンにツアーは付き物と思われるかもしれませんが、少しでも経費を削減したい、しかも機材が多い楽旅は大抵車か、列車利用なのです。
 ただ、最近“早割”という制度で飛行機も安くなったので、この頃は結構飛行機も使われるようになってきたようです。この日も“早割”利用で、わたしははじめて、日本の中を空中移動したのです。
 ふたつめは北海道初体験。今までわたしの日本再北端経験は“青森”でした。まあ、函館も北海道の中では本州寄りですが。でも、飛行機で行くと、東京ー函館って1時間ちょっとなのですね。あっという間についてしまって、“やったー!ついに北海道初上陸”という感慨は全然ありませんでした。都内の仕事でも1時間以上かかるところはざらにありますから。国内線って便利だけど、旅情とは無縁ですね。
 

 函館では“あうん堂”という小ホールで演奏しました。このお店はとてもシンプルな作りで昔の新宿ピットインに似ている、といえばジャズファンの方には雰囲気が伝わるでしょうか。
 約20年間ジャズ喫茶だったという歴史からか、店内にはジャズの雰囲気とたばこの匂いがしみついています。もともとは白かったピアノも、たばこの煙で薫製されて微妙なアイボリーになっており、TPのM氏が“このピアノって象牙でできてるんですか?”と質問してしまったくらいです。お店の方は“面白いジョークを言う人だなー”という感じで流していましたが、わたしは知っています!彼は本気で聞いていたのです。
 

 今回のツアーで、ここだけは、誰の紹介も何のツテもなく、“飛び込み”で演奏を決めたところでした。“あうん堂”側はわたしのCDを聴いただけで、快く演奏の機会を作って下さったのです。
 とはいうものの、わたしのCDは日本で録音したものでもなければ、クインテット編成でもないので、今回のライブはCDとは全く違ったレパートリーです。“CDでは良いと思ったけど、ライブはイマイチだねー”なんて言われてしまう可能性も十分にあるわけです。
 だから、ファーストセットが終わった時点で、お店のマスターが“いやー、今日は本当に楽しいね。素晴しい演奏をありがとう。”と握手を求めて下さった時には、本当にほっとしました。プレイヤーというのは、たとえお世辞だろうと何だろうとこういう一言で肩の荷が降りた気持ちになるものです。
 ここではお客様もとても気持ちよく雰囲気を盛り上げて下さる方ばかりで、セカンドセットは更にリラックスして良い演奏ができたのではないかと思っています。
 

 演奏は8時から11時の間に行われ、その後、お店で打ち上げをやっていただきました。新鮮な魚介類とおいしいお酒で2時頃までお店のスタッフやお客様と盛り上がり、その後、4時頃までメンバー間の反省会(実態はただの2次回)が行われたのでした・・・。
 

 函館は、街並み自体がとても美しく、夜景や温泉でも有名です。今回のように演奏だけのために行くと、街を楽しむ時間がないのは残念なことです。この次はもっと日程に余裕をもって行きたい所です。

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“守屋クインテット東北ツアー報告2日目”11/7大畑の巻(98.12.1)

 

 この日の朝、わたしたちは、フェリーで函館から青森県大間に向かいました。考えてみればわたしはフェリーも初体験。それにしても、フェリーは揺れましたね。あまり気持ち良くはなかったです。乗船時間2時間弱で本州に戻ってきました。
 大間から大畑町までは車で40分くらい。大畑町では、毎年秋頃に、有志のジャズサークルが、東京からミュージシャンを呼んでコンサートを開催しています。今年は記念すべき20回目にあたるそうです。
 

 ここでのコンサートはきちんとしたステージのある公民館で行われました。観客数は120人くらいで、人口約1万人という町の規模からすると、かなりたくさん集まって下さったのだと思います。演奏は6時から9時の間に行われました。
 こういうコンサート会場は、先日のようなライブハウスとは違って、お客様は必ずしもジャズファンとは限りません。普段ジャズを聴きつけている方ばかりではないので、ファーストセットでは、お客様の反応もやや静かというか控えめに感じました。
 しかし、セカンドセットでは、プレイヤー側も含めてお互いに雰囲気に慣れてきたせいか、かなりテンションが上がってきました。この日はコンサートが進むにつれ、会場全体じわじわと盛り上がってきた感じで、結局アンコールの段階ではかなり予定時間をオーバーしていました。
 最初から最後までずっと盛り上がっている、というのがコンサートの理想なのかもしれませんが、この日のように、少しずつコミュニケーションの度合が高まっていくような感じもなかなか良いのではないでしょうか。
 

 演奏後、10時頃から宿泊先の旅館で打ち上げがあり、またまた新鮮な魚介類とおいしいお酒でスタッフの方たちと盛り上がりました。
 ところで、大畑町はいかの特産地として有名で、ここでは様々ないかのお料理が出ました。
 いかといえば、東京で売っているものは、噛むと“むにゅ”もしくは“ぐにゃ”としていて、でもけっこう中は筋があって固いという感じがあります。
 ところが、ここのいかは歯応えは“ぷりっ”または“こりっ”としかっりしているのに、中は本当にやわらかいのです。また、いかの刺身といえば“白”というイメージがありますが、本当に新鮮ないかって透明なんですね。
 とはいっても、地元ではいかは朝とれたてを食べるものだそうで、夜のいかは既に新鮮ではないそうです。これ以上新鮮ないかって、わたしには想像できないんですけど・・・。
 いかはとてもデリケートで、本来住んでいる場所から移すと30分以内にストレスで死んでしまうので、鮮度を保つのがとても難しいそうです。そういえば、水族館でも料理屋の生けすでも“飼われている”いかって見たことがないです。本当においしいいかが食べたければ産地に来るしかないのですね。とにかくここに来ていかに対する見方が変わりました。
 

 1時半頃“まだまだ話しは尽きないですが、皆さん今日の演奏でお疲れでしょうし、あしたも早くから移動なので、この辺でお開きにしましょう。”ということになりました。こういった主催者側のお心遣いを全く無駄にして、ミュージシャンの、反省会という名の2次回は4時過ぎまで続いたのでした。
 

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“守屋クインテット東北ツアー報告3日目” 11/8野辺地の巻(98.12.5)

 

 大畑町から野辺地は車で1時間半くらいです。
 野辺地では、“ジャズで町おこしを”という活動を地道に続けています。毎年3月に定例のジャズコンサートを行う他、今回のように、定例以外にもコンサートを開催しています。わたしたちも以前に訪問させていただき、大変お世話になりました。
 

 その活動は本当にユニークです。
 野辺地駅では毎日ジャズのCDが流れています。(切符販売機のところに、ちゃんと“Now Playing”のCDジャケットの表示まであるのです。)また、毎回来るミュージシャンに“野辺地音頭”という地元のテーマソングをそれぞれのアレンジで演奏してもらっているのですが、最近それらを集めてシングルCDとして発売しています。また、“スイングする味、アドリブの効いたおいしさ”というコピーの“ジャステラ”(ジャズ+カステラから命名)なるお菓子を開発して、地元の名産品として販売もしています。
 これらの活動は自治体が行っているのではなく、メセナ活動として町の有志がお金を出しあって行っており、スタッフの方々はミュージシャンの立場をとても尊重してくれます。わたしたちにすれば、全国にこういう町が増えてくれたら、と思ってしまうような場所なのです。
 

 今回の会場は“柴崎観光牧場 拓心館”といって、いわゆるキャンプ地のようなところにあるバンガロー風の建物です。ライブハウスの臨場感と、野外ステージの自然に囲まれた雰囲気の、両方が味わえる素晴しい場所でした。もともと演奏のために作られた建物ではないのに、全体が木でできているためか、音響効果も良かったです。
 演奏は4時から7時頃まで。“野辺地はジャズの町”というイメージを定着させるために、広報活動も積極的に行われているせいか、野辺地だけでなく、青森や弘前など、遠方からもたくさんの方がいらしてくださいました。定期的にジャズコンサートを開いているため、リピーターの固定ファンもかなりいるようで、町が聴衆を育てている、という感じがあります。暖かくリラックスした雰囲気の中で、本当に気持ち良く演奏させていただきました。
 

 演奏が終わり、9時頃から打ち上げになりました。ここの帆立と地酒はいつも絶品です。
 ところで、お気づきでしょうか。この旅では日を追うごとに演奏開始時間が早くなり、打ち上げの時間が長くなっていることを。
 地元のジャズファンの方々は演奏はもちろんですが、その後でミュージシャンと一緒に飲むことをとても楽しみにして下さっています。だから、宴会の支度には、コンサート会場の準備と同様の時間と情熱を傾けて下さっているようなのです。
 時にはコンサートの具体的なことがまだ何も決まっていないうちから、宴会のメニューはだけは決まっていることさえあります。そこまで楽しみにしていただいているのに、ミュージシャン側が“今日の演奏で疲れているし、あしたのライブにも備えなくてはいけない。”からといって、先に失礼することなどできるでしょうか。ましてや、今回わたしはリーダーですし、うーん、リーダーはつらいよ。
 

 ・・・というのは大嘘で、もしそうなら、誰が1時半頃公式の宴会がお開きになったあとに、野辺地で唯一朝4時までやっている焼肉屋へ行くでしょうか。この駅前の焼肉屋は野辺地に行ったら必ず立ち寄るべき店として、既に仲間うちでは名所となりつつあります。
 4時近くなって、お店のご主人が“閉店だよ、閉店”と言いながら、お店ののれんを片付け始めました。さすがに帰れという合図か?と思いきや、ご主人は“さあこれからは俺も飲むぞ。”とマイグラスを取り出して飲み会に加わり始めたのでした・・・。

(写真は打ち上げ会場。宴会のためだけに、メンバー全員の名前を記した“打上げ・歓迎会”の大垂れ幕が作られ、掲げられているところに、スタッフの宴会にかける熱意が現れている。)
 

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