“守屋クインテット東北ツアー報告完結編” 11/9青森の巻(98.12.15)

 

 この日、緑川、松島両ホーンプレイヤーは夜東京で仕事が入っていたため、午前10時代の電車で帰っていきました。
 そして、残ったトリオ3人は11時から地元の幼稚園で演奏をしました。これは、“せっかくの機会だから、幼稚園児たちにこそ、本物の生のジャズを聴かせてあげたい。”ということで企画されたもの。わたしたちのジャズが本物かどうかはともかく、生であることは確か。自分を振り返っても幼稚園の頃の記憶って結構鮮明に残っているものだから、これは責任重大です。
 

 会場に行ってみると、まず園児の数が多いのにびっくり。たとえば健ちゃんが通う新宿区の保育園には(このHPのアイドル、健ちゃんに関してはエトセトラ第6項を参照)同じ歳の子供が他に2、3人しかいないらしいのですが、こういった少子化現象も、野辺地ではあまり関係ないようです。確かにこんなに広々として、食べ物もおいしいところだったら子育てもしやすいでしょうね。かなりの数のご父兄の方も聴きにいらして下さっていました。
 

 わたしたちは、中学生・高校生のためのジャズコンサート(俗に“音教”といいます)に参加することがよくあります。でも、さすがに3歳からの幼稚園児は初体験です。こんな小さい子供たちがじっと座ってジャズを聴いてくれるのでしょうか。
 この心配は全くの杞憂に終わりました。退屈して騒ぎ出すどころか、こどもたちはまるで吸い込まれるようにじいっと演奏に聴き入っていました。ベースの安か川、ドラムの小山両氏も、こどもたちにも理解できるようなわかりやすい言葉で、それぞれの楽器の役割について説明してくれました。
 

 そして、最後に、こどもたちが現在練習しているということでリクエストされた曲“錨を上げて”をジャズ風に演奏していた時です。先生に言われたわけでもなく、父兄に言われたわけでもなく、自然発生的に、こどもたちがわたしたちのトリオに合わせてメロディーを歌い出したのです。最後は本当に“大合唱”という雰囲気になって、感動的でした。
 知っているメロディーが出てきたから、ごく自然に歌い出したくなったのでしょうね。こどものうちは誰でも、こういう“本能的に音楽を楽しむ心”を持っているものなのかもしれません。野辺地のこどもたちにはこういう感覚をいつまでも忘れないでいてほしいです。
 

 さて、わたしは青森に友人がいて、夕方からはその友人と青森で飲む約束をしていました。
 他のメンバーには“あれだけさんざん宴会をしてもらっておいて、まだ飲み会だけのために青森まで行くか?”と呆れられましたが、そんなこと言う子は誘ってあげないよー、わたしひとりで行っちゃうもんね。というわけで、ふたりは午後2時頃の電車に乗って帰京したのですが、わたしはひとり、チケットを乗車変更して青森に向かいました。
 そして午後5時から、青森で飲んだ後、青森午後9時発の寝台特急に乗り込みました。
 “初体験”で始まった旅でしたが、この寝台列車というのも実は初めて乗りました。行きは飛行機でたった1時間強で北海道に着いてしまって“旅情が感じられない”とか言っていましたが、帰りの寝台はいきなり石川さゆりの世界。翌朝6時半に上野に着くまで、イヤというほど旅情を味わって帰ることになりました。
 

 こうしてわたしの4泊4日、演奏4本、宴会4本つきの東北ツアーは終わりました。こうやって振り返ってみると、ジャズの楽旅も、サラリーマンの出張も本質的にはあまり違わないですね・・・なんて言ったら石が飛んで来るかな。

  (写真は園児たちに楽器の説明をしているところ。園児たち手作りの“JAZZコンサートinびわのようちえん”の掛け看板が泣かせる)
 

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今年の抱負(98.1.13)

 

 話題の本、Helen Fielding著“Bridget Jones's Diary”を読みました。翻訳版が日本でもベストセラーになったそうですが、確かに面白い本です。
 

 この本は、Bridget Jonesというイギリス人の30代の(正確にいくつなのかは最後まで書かれていない)独身女性の1年間の日記という形式をとっていて、フィクションですが、やたらリアルな内容なのです。
 日記は、冒頭“年始の抱負”から始まっています。それは、禁煙したい、お酒を控えたい、ダイエットに成功したい、スポーツクラブに通いたい、節約を心がけたい、家族とけんかしないようにしたい、時間を有効に使えるようになりたい、転職してキャリアアップしたい、理解ある大人のボーイフレンドがほしい、などなど、なかなか欲張りな内容になっています。
 あれ、でもこれってわたしが普段考えていることとまるで一緒ではないですか。(わたしはたばこを吸わないので、禁煙は関係ないが。)欧米のキャリアウーマンといえば、自信に満ちあふれていて、些末な悩みなど全くなさそうなイメージがありますが、結局女性が抱えている悩みって世界共通なのね。
 

 彼女の1年の中には色々なことが起こり、調子の良い時は禁煙もダイエットも仕事もうまく行き、男性にもモテるのですが、調子が悪いと、途端に全てがうまくいかなくなる。主人公が、小説のヒロインにありがちな強い目的意識と意志をもった女性ではなく、周囲に流されがちで、気分にムラがあるへこたれやすい女性であることにも、とても親近感が湧きます。
 この小説は、女性ならば必ず思い当たるはずのことが書かれていて、お勧めです。自分と同じような悩みを抱えている女性が海の向こうにもたくさんいるのだと思うと、なかなか勇気づけられます。
 あまりに本音が語られ過ぎていて、男性は、読んでもよくわからないかもしれません。ただ、自分が関わっている30代女性--それが妻、恋人、親子、兄弟、友人、その他どんな関係でも--との関係がいまひとつうまくいっていない男性にとっては、ヒントになることが書かれているかもしれませんよ。
 

 小説の最後は“今年の総括”で締めくくられていて、彼女は、たくさん書いた抱負の中で、結局たったひとつのことしか守れなかったことに気付きます。しかも、彼女はとにかくひとつの約束は実現できたことに、おおいに満足しているのです。
 年を追うごとに、1年はどんどん短く感じられるようになってきます。確かに、毎日が発見と進歩の連続という、子供時代とは違って、ある程度の年齢からは、1年でひとつ、確かな進歩があれば、もうそれで十分良しとしなければならないのかもしれません。
 今年の大晦日に1年を振り返って“とにかくこれだけはやりました”と自信をもって言えることを、ひとつやりとげたい、というのが99年のわたしの抱負です。
 

(写真はピアノの前でポーズをとる甥っ子健ちゃん---さすがにまだ弾けないけど。この位の年齢の頃には1年の間に本当に色々なことが出来るようになりますよね。)
 

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不思議なことが(98.2.3)

 

 締切りがなくても作品は仕上がるのでしょうか。よく、作家や作曲家にされる質問です。
 わたしの場合、締切がなかったら永遠に1曲も仕上がらないような気がします。
 何人かのアレンジャーの方にも質問してみましたが、大体皆さん、“締切りギリギリにならないと出来ない”とおっしゃています。作家や脚本家、漫画家等のインタビューを読んでも、常に締切りとの戦いを繰り返している方が多いようです。
 

 わたしは、多管編成での活動が多いので、ライブの前に作曲やアレンジを仕上げて、パート譜に起こしていかなければならないことがしょっちゅうあります。いつライブがあるのかはわかっているのだから、計画的に少しづつやっておけば、直前になって慌てる必要など全くないわけです。
 ところが、結局ライブから逆算してギリギリ仕上がる日付にならないと、なぜか取りかかる気がしないのです。“もう絶対にやらないと間に合わない”という状況になると、突然色々アイディアが出てくるのは何故なのでしょう。
 そして、大体直前の3、4日はほとんど徹夜状態になります。そしてライブの日の朝にやっと仕上がる・・・のならばまだ良い方で、ライブ会場に向かう電車の中でも、まだパート譜を広げて書き込みをしていたりする(かなりみっともない光景ですが)のはしょっちゅうのことです。
 こういうとき、ライブに譜面はとりあえず間に合うのですが、譜面が仕上がったことで、何か既に一山超えてしまい、睡眠不足も重なっていて、万全の状態で演奏に臨んでいるとは、いまひとつ言い難いものがあるような気がします。(とはいっても演奏中は緊張しているので、そんなことは感じていないのですが)
 

 最近も、1/29の神田“TUC”のコンサートのために、新曲ばかり7曲ほど4管編成にアレンジをしました。(多数ご来場いただき、本当にありがとうございました)
 例によって、コンサート4日前から徹夜状態で詰めてやりました。ところが、今回とても不思議なことが起きたのです。コンサートの前日にふと我に帰ってみると、前日の朝の段階で譜面が 揃っているではありませんか!それは、普段から物事を計画的に進めている方には当り前のことですが、わたしにとっては本当に驚きの現象です。
 

 そこでわたしは、近くのデパートに明日着る洋服を探しに行きました。考えてみれば最近服も買っていない。普段だったら、ライブ前に洋服について考えている暇など、全くないのですが・・・。  今は冬物を半額で叩き売っている時期ですが、心に余裕のあるときというのは、思考が前向きになるもので、新着の春物の方に目がいきます。結局いかにも春先といった感じの服と、ついでにそれに合わせてアクセサリーまで買ってしましました。
 そして、その夜は譜面を全部もう一度点検して、読みやすいように赤入れをしたり、自分のパートの練習をしたりして、ぐっすり睡眠をとりました。
 

 それで、当日のライブなんですが、やはり前日から洋服まで用意してある心の余裕というのは、演奏にも相当影響するようです。譜面もちゃんと見返してあるし、自分のパートについても練習してあるので、メンバーからの質問などにも的確に答えられ、リハーサルからやたらスムーズにいくんですね。
 いつもライブは楽しいものですが、当日はいつも以上に楽しかったです。もちろん、だからといってわたしが普段より良い演奏をしていたかというと、ジャズはそんなに甘いものじゃないと思います。でも、とにかく本人が最大限楽しんで演奏する、というのは、大切な基本ですから。
 

 どうして今回に限って1日の余裕ができたのかはわかりません。でもやはり余裕をもつって大事なことですね。もしかして、99年からわたしは体質が変わった?(なんて、楽天的な体質は相変わらず。)
 

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