A Touch Of Mingus(00.10.22)

 

 先日はわたしのオーケストラのライブ(10/5、神田TUCにて)に大変多くの方にいらしていただき、ありがとうございました。お陰様で今回も盛況のうちにライブを終えることができました。
 

 このシリーズ、エリントン、モンクときて今回はミンガスを特集したわけですが、ミンガスは“耳馴染みの曲”が少ないというのが難しいところでした。
 ミンガスで有名な曲といえば、“Goodbye Porkpie Hat”,“直立猿人”あたりでしょうが、これらはたとえばエリントンの“Sophisticated Lady”や“Satin Doll”、モンクの“Straight, No Chaser”や“Round Midnight”などに比べれば、ぐっと演奏される機会が少ないのです。エリントンやモンクの音楽が数多くのプレイヤーによって、様々な解釈で演奏され、それなりの一般性というか、普遍性を獲得しているのに対して、ミンガス音楽にはあのミンガス独特の強力なノリのベースが不可分で、それなしでは雰囲気が出にくいのです。
 

 しかも、ミンガスの場合、人種差別などに対する、政治的、思想的主張が色濃く音楽に表れているわけですが、これはなかなか当事者以外には、表現しにくい。まあ、だからこそミンガスの音楽というのは、誰もがとりあげる楽曲として簡単にスタンダード化しないのだと思いますが。
 

 伝記等によれば、ミンガスは曲によっては譜面を書かず、メンバーひとりひとりに口伝えで“お前はこういうフレーズを吹け”と数週類のフレーズを伝えていったんだそうです。様々なフレーズがだんだんピラミッドのように積み重なって盛り上がって行く、ミンガスバンド独特のアンサンブルはこういうところから出来てきたのではないでしょうか。
 また、ミンガスバンドでは、一応テーマのアンサンブルは決まっているなずなのに、エリック・ドルフィーあたりがそこからはみ出して自分勝手なアドリブを吹いていたりするのですが、それがまたにミンガス独特の“曖昧さ”“いい加減さ”を醸し出していて、実に魅力的なのです。
 

 もちろん、わたしたちのようにリハーサルが1回しかできないビッグバンドでは、要領良く事を進めるために譜面という共通の言語に頼らざるを得ません。でも、あまりにきちんとした、譜面どおりのすっきりアンサンブルになってしまっては、“ミンガスのソウル”からは遠ざかってしまうのです。わたしたちが常にビッグバンドのお手本にしてきた“ベイシーサウンド”のようなサウンドとは全く異なるわけです。
 だから、今回は譜面に音符を書かず、“各自適当に好きなことを吹く”という部分を設けたり、“サックスが譜面通り吹いている横で、ブラスは思い付いたことを勝手に吹く”という風にしたり、とにかく“アンサンブルの中での猥雑さ”が表現できるように工夫したつもりです。
 プロのミュージシャンというのは、たとえ相当難しい譜面でも譜面どおりに吹く方が、“適当に吹いてくれ”と言われるより簡単なのです。“適当に吹く”というのは、その音楽に対する理解力とセンスを確実に問われることですから。でも、今回は素晴らしいプレイヤーぞろいだったので、メンバーのお陰でそれなりに意図したことができたのではなかったかと思っています。
 

 ミンガスの音楽というのは、思想的背景が濃く、フリーに近い面もあって、一見難解な印象がありますが、よく聴いてみると、相当ポップでキャッチーです。彼の作曲と演奏には、わたしたちが(狭い意味での)ジャズ的制約から抜け出るための、色々なヒントがたくさん詰まっていろような気がします。
 エリントンやモンクに比べて、今まで取りあげる機会が少なかったミンガスですが、今後更に追求していきたいと思っています。
 

(写真は三井寛昭さんが撮影して下さったもの。三井さんのHPジャズライブ徒然草に詳しいライブ報告と写真を載せて戴いています。また、この日行われたインタビューの模様が“マリ・クレール12月号”に掲載される予定です。)
 

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大統領選挙といえば(00.12.10)

 

 日本の政治もあんまりですが、アメリカの選挙も相当おかしなシステムで行われているようですね。一時はブッシュ氏に決定しかかっていたのが、最近またゴア氏に有利な判決が出たりして、状況は二転三転、全く大統領を決められない、という異例の事態になっています。
 

 わたしは92年の大統領選挙の時にNYに住んでいました。この時はブッシュ(父親の方)氏とクリントンが氏が候補で、今回ほどではないにしてもやはり相当な接戦でした。
 当時わたしが通っていたNYの音大でも、大統領選が休み時間の大きな話題になっていて、全生徒が“自分はこの候補に投票する。なぜなら・・・”と理由つきでどちらを応援するかを表明していました。日本では、大学で選挙のことが話題の中心になるなんてことはあまりないですよね。
 

 クリントン氏は選挙活動期間中に、MTVの若者向け音楽番組に突如生出演して、サックス演奏で音楽に理解があるところをアピールしていたくらいですから、音楽関係者は大抵クリントン側を応援していました。
 そのサックスはかなり下手なんですが、堂々と吹いていて、イメージアップには役立っていたようです。あの程度のサックスでも、平気でテレビで演奏する方もする方だし、それを“クリントンが大統領になればジャズマンの仕事が増える”なんて本気で言っているミュージシャンもミュージシャンで、アメリカ人というのはかなり単純な人種だな、と実感したのを覚えています。
 たとえてみれば、首相候補者が“スマップ”の音楽番組に出演して選挙アピールをするようなもので、日本では考えられないシチュエイションですよね。
 

 選挙当日、わたしは友人たちと学生が集まるクラブにいました。普段NBAや大リーグの試合を流している大きなスクリーンにクリントン勝利の結果が写し出されると、満員の客は大騒ぎで乾杯などしています。まるで、スポーツで自分のひいきのチームが勝った時のような盛り上がりぶりなのですが、それだけ政治が身近なものなんでしょうね。
 

 当時は、ネガティブ・キャンペーンの凄まじさにも驚きました。とにかく、CMで演説で、対立候補の弱点をつつき捲る。“自分が大統領になったらこんな良いことがある”というのと同じくらいの比率で“相手が大統領になったらこんなひどいことが起きる”ということを力説するのです。日本でも最近はけっこうネガティブ・キャンペーンが盛んになってきていますが、あちらに比べればまだまだ大人しいもんです。
 

 そのくせ、クリントンは勝利が決まった瞬間、“今までアメリカが良い方向に進んできたのは、ブッシュ氏の政策が素晴らしかったお陰だ”と絶賛し、ブッシュ氏も“クリントンのような素晴らしい人物が大統領になって、アメリカの未来は明るい”などと返している。まさに“あの悪口合戦は何だったの?”と思わせる手の平のひっくり返しぶりなのですが、聴いている国民の側もそういう大袈裟なお芝居にとても満足し、酔いしれているようで、本当にアメリカ人は単純なところがあるな、と改めて思いました。
 

 今回の選挙戦をめぐるドタバタぶりでは、アメリカ人の実は結構大ざっぱで良い加減なところが露呈されています。機械集計と手作業の結果が誤差だらけ、なんて日本ではまず考えられないと思います。
 それでも、日本の選挙制度の方がより良いとは絶対に言えないでしょう。それは、現在の日本の首相が誰かを考えれば、一目瞭然です。日本でも自分たちの代表くらいは自分たちで直接選択できるようにしたいものです。
 

  (写真は本文とは全く関係ない、チック・コリアとの2ショット。先日“ジャズ・ライフ”でのインタビュ−時に無理を言って撮っていただいたもので、長年のチック・ファンのわたしとしては自慢せずにはいられない1枚です。良いでしょ。)
 

アウトレットに行っちゃった(00.12.16)

 

 今年の流行語にもなったアウトレット。特につい最近オープンした御殿場のアウトレットは本場アメリカのアウトレット・モールがはじめて日本に上陸したものらしい。ここは、都市型アウトレットとは違って、首都圏の商圏から遠く離れたところにあるために、思いきった割引きがし易く、思わぬ高級ブランドも出店しているんだそうな。
 

 こういった情報がやたらテレビや雑誌で流れています。もちろん、マスコミの取材に対しては、うんとおいしいところだけを見せているのでしょうが、そういう情報操作に簡単に踊らされる人って、結構いるものです。そしてわたしは典型的にそのタイプ。開店当初から“アウトレットに行きたい!”と騒いでいました。
 そして、先日ついに行ってきたのです、御殿場アウトレット。週末だったので、相当混んでいましたが、屋外で、全体にとても広々したつくりになっているので、デパートなどと違って開放感があり、気持ち良く買い物できるようになっています。
 

 店は、有名ブランドを中心に、かなりたくさんありますが、7割は洋服関連です。その他に靴、バッグ、アクセサリー、スポーツ用品などのお店もあります。
 値段は多分安いのだと思いますが、わたしには普段ブランド・ショップを見る習慣がないので、どの程度お買い得なのか、いまひとつピンとこない。普段ブランド品に興味がない人はアウトレットに行く前に、予習しておいた方が良いでしょう。(っていうかそういう奴はアウトレットに行くな?)
 それから、洋服や靴は、ちょっと良いな、というものがあっても、ごく一般的なサイズの人には(わたしもそうなんですが)サイズがきれていることが多いです。平均より大きいか小さいサイズの人の方が、掘り出し物を見つけられる可能性が高いのではないでしょうか。
 できれば、食器、文房具、本、化粧品など、サイズと関係ない物の店が出店して欲しいですね。個人的には山野楽器あたりが“CDと楽器のアウトレット店”なんか出してくれると良いと思うんですけど。
 

 ひととおり見てまわるのに、3時間くらいかかりましたが、結局何も買えていない。そうすると、これがアウトレットの最も怖いところなんですが、“わざわざ時間と交通費をかけて来たんだから、何か買わなきゃ。”と焦ってしまうのです。わたしも、最終的に、無理矢理靴を1足買って“これでひと安心”という気になってしまいました。冷静に考えてみればあまり必要でない物だったんですけど。
 

 確かにアウトレットは興味深いところでしたけど、感想を一言で言うと、“一度行けば満足、もう一度行こうとは思わない”といったところでしょうか。
 

  (先回の文章に関して、サックスに詳しいW氏から情報メイルをいただきました。それによると、何と、クリントンはサックスのCDまで出していて、W氏はそれを持っているそうです。内容はといえば、“買って損したという記憶と共にCDの棚の隅に眠っています。”だそうです。)
 

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